11.後悔

「？」

　気がつくと祥子はバスタオルをかけられソファーに横たわっていた。
　上半身は裸だが、スカートははいたままだ。
　絨毯に滴り落ちていたはずの液体はきれいに拭き取られ、テーブルも元の位置にもどっている。
　ソファーにはバスタオルが何枚か重ねて引いてあり、祥子の中から流れ出たものが染みを作っている。
　何事もなかったような部屋に違和感を感じていると、キッチンからすっかり服を着た亮介が、水の入ったコップを持って現われた。

「どうぞ。」

　さしだされた水を受け取ると、一口飲んだ。

　まだ少しボーっとした頭で、なにがあったのかを思い出した。
　さっきまでここで亮介とセックスしていたのだ。
　亮介に貫かれ、強烈な快感になんどとなく達した。
（セックスがあんなに凄いものだったなんて、、、）

「シャワーへどうぞ。」

　と、亮介に促されるままにふらふらと立ち上がり、バスタオルでその豊満な胸を隠し浴室に向かう。更衣室には脱がされたものがまとめて置いてあった。
　浴室に入ると足がふらついてしゃがんでしまった。

（凄かった、、、あそこにまだ何か入っているような感じがするわ、、、）

　確めようと指でさわってみる。
　先ほどまで巨大なものを飲み込んでいた部分からトロッっと亮介の残したものが流れ出る。

（こんなにたくさん、、、）

　ともすれば感じそうになりながら、シャワーを使い洗い流す。

　立ち上がり、体に熱めのシャワーをかけていると、だんだん意識がしっかりしてきた。
　それとともに、罪悪感を感じ始める。

（私ったらなんてことをしてしまったのかしら、、、夫のいる身で、、、自宅の居間で、、、しかも２階には祐二も寝ているというのに、あんなに感じて、、。）

（夫にばれるわけにはいかない、もちろん祐二にだって、、、そうよ先生だってばれたらまずいはず、、、出来ればなかったことに、、、それが無理ならたった一度の過ちということで、納得してもらうしかない、、、）

　家庭教師を辞めてもらうことも考えたが、祐二がなついているし、気分を害して夫にでも告げ口されても困る。やはりこのままで、なかったことにするのが一番いい様に思える。

　浴室を出ると、濡れてしまった下着以外の脱いだものを着て居間に戻っていく。

　亮介がソファーから立とうとするのを手で静止しながら、対面にすわった祥子は視線をあわせずに話しはじめた。

「あのね、、、先生、やっぱりこんなこといけないと思うの、、、私は結婚しているんだし、、、先生だってこんなおばさんより同じ年代の人とつきあったほうが、、、だから今夜のことは、、、」

「、、、、、」亮介はだまって聞いている。

「今夜のことは、忘れて欲しいの、、、これからも祐二のいい先生でいて欲しいし、、、。」

「、、、、、」

「わかってくれるわよね？」

「、、、わかりました。」

　しばしの沈黙の後、亮介はソファーを立つと玄関にむかう。

　一緒に玄関まできた祥子は念を押すように、

「忘れてくださいね、今日のことは、、、」と、繰り返す。

　ドアに手をかけた亮介がふりむき、

「わかってます。」と神妙な顔でそう言うと、（あなたが忘れられるならね。）とつぶやき出ていった。

「え？」

　最後のつぶやきが聞き取れず聞き返すが、そこにはもう亮介の姿はなかった。

12.記憶

　次の火曜日、亮介は以前とまったく変わらない態度で祥子達に接してくれた。
　あの夜抱かれたのが、夢をみていたのではないかと思うほどだ。
　戸惑うくらい明るい、いつもの亮介だった。

「じゃあ、今日はこれで失礼します。」
　いつものように挨拶して帰っていく亮介を見送る。

（これでいいんだ、、、やっぱりあのときの判断はまちがっていなかったんだ。私も忘れよう、、、。）

　夜になり祐二が寝て、家事も一段落すると、ドラマを見るために居間にいく。
　ソファーに座りテレビをつけるが内容は頭にはいらず、ガラステーブル越しに見える絨毯をみつめる。
　どうしてもあの夜の出来事を思い出してしまう。

（この絨毯の上で抱かれたんだわ、、、あんな恥ずかしいかっこで、電気をつけたまま、、、私ったら何度も達して、、、）

　あのときの快感が思い出されていく、、、。
　祥子は初めて連続して達した。たいてい夫が先にはてるか、よくて同時それで終わりだった。
　達した直後の敏感な体のまま、さらに続けられるとあんなにいいとは知らなかった。
　そもそも、一回のセックスで何回もイクとか、気を失うほどの快感を得られるなんてことは、まったく別の世界のことだと思っていた。

（亮介さんの凄かった、、、あんなに大きいものが私の中にはいったなんて、、、）

　上をむいて反り返ったものを思い出しただけで、下腹部の亀裂から愛液が溢れてくる。
　自然と指が溢れてくるものを迎えに行き、自分で慰めた。

　あの夜から毎日だった、一人になるとどうしても思い出してしまう。

　一度ついてしまった火はなかなか簡単には消せなかった。
　押さえ込もうとすればするほど、激しく燃え上がる。
　これなら何も知らない方がましだった。
　身体に刻み込まれた快感の記憶は、祥子を容赦なく責める。
　切なくておかしくなりそうになった、、、。

　金曜日が来た。

　完全に以前の亮介だった。
　自分で言ったことながら、まるであんなことがなかった様にふるまう亮介を、逆に恨めしく感じてくる。
　いつものように夕食を終えると、祐二が風呂場にはいっていった。
　気まずい思いをかくしながら、祥子は当たり障りのない話題をはなした。
　亮介もそれに答える。
　普段どうりのたわいない会話の切りのいいところで、亮介が立ち上がり、

「では、そろそろ、、、」と、言いながら玄関にむかう。

「来週もよろしくお願いします。」、といって見送ったあと、祥子はなにか虚しさをかんじた。

　祐二が寝ると、居間でまた慰める、もう一週間も同じことをくりかえしていた。

（あんなこと言わなければよかった、、、）

　欲望は理性をくるわせる。
　今日も何度抱いて欲しいといいそうになったことか。
　祐二がいることでなんとか無事にすんでいた。

　居間で電話が鳴った。

「はい、川島でございます。」

「遅くにすいません、小室です。」

「あ、あら、どうしたの？」

「来週の金曜日なんですけど、大学の関係で行けなくなりそうなので、すいませんが他の日に移してもらえませんか？」

「はい、ちょっとお待ちくださいね。」すぐそばのカレンダーを見る。

（来週は、、、あっ）

　カレンダーに書いてある文字に視線が止まる。自分の字で、月曜日のところに「出張」と書いてあった。

「じゃ、じゃあ月曜日はいかがですか？」

　とっさにそう言ってしまった。

「わかりました。では月曜日に。」

　電話をおいた祥子は座り込んでしまった。

（夫がいない日にお願いするなんて、、、なにを期待しているの？、、、）

　悪魔がささやいたとしか思えなかった、、、。
　もしかしたらという思いが捨てきれない自分を恥じた。しかし、変更の電話はかけなかった、、、。