２　Ｓｅｘ・ボラに手を染めていく

　僕は、市立図書館の読み聞かせボランティアをやめるつもりで、ボランティア活動を斡旋しているＮＰＯ法人に、ボランティアの登録を申請していた。
　美佐子さんとこれ以上親しくなることが、僕にはつらかったのだ。
　僕は、美佐子さんを避けていた。
　遠くに美佐子さんの姿を見かけると、僕は今自分が歩いている方向を変えたり、物陰に身を隠していた。
　美佐子さんは、視力が弱いのだ。そういう僕の挙動には気がつかなかったはずだ。
　でも、そういう変な挙動をしていれば、いつかは周りの人たちに気がつかれるにちがいない。
　僕は、早く図書館のボランティアを辞めたかった。しかし、ＮＰＯ法人から、ボランティアの紹介がなかったのだ。
　僕は、あせっていた。
　それで、僕は、あつかましいとは思いながら、ＮＰＯの水城亜矢さんにメールを打って、督促してみた。

『前略。橋本慎一です。このあいだはせっかく提案をしてくださったのに、おことわりしてすみません。ところで、ボランティア活動をしたくて、申込み書を郵送しておりますが、登録手続きは完了したのでしょうか。登録完了後、平均的に言えば、どのくらいの期間を置いて、ボランティアが紹介してもらえるものなのでしょうか？』

　僕がメールを打つと、あくる日には、水城亜矢さんから返信があった。
『すみません。インターネットによる電子申請ですと、すぐに登録手続きができますが、紙文書で申請されたものは、こちらで入力をするものですから少し時間がかかります。
　でも実は、わたしは橋本さんの申し込み書を机の引き出しにしまいこんだままにしているのです。ＮＰＯ法人のボランティアとしてではなく、わたし個人のやっているセックス・ボランティアとして登録させてもらえないかと、まだ未練がましく思っているものですから。もう一度お会いできませんか。橋本さんに是非ご協力をお願いしたいのです』

　僕は水城さんからの返信に、腹を立てた。実際、入力をして早く登録してもらわないことには、ボランティア活動ができないのだ。
　入り口のところで、こんなにも、もたもたしているなんて！
　僕は、イライラして、また、水城さんにメール返信をしていたのだった。
『僕としては、できるだけ早くボランティアがやりたいのです。しかし、ともかく登録をしていただかないことには、ボランティアを希望されている方からのオファーがかかりません。どうか、急いで登録の入力作業をお願いします』

　僕の気のせいかもしれない。
　市立図書館で美佐子さんとたまたま会うことになっても、何かしら、美佐子さんの僕に対する態度が冷たいように、僕には思えた。
　実際、このところ、僕自身も美佐子さんとは、ほとんど口を利かなかったのだから、仕方がないといえば、しかたがないことだった。
　そうは思っても、やはり、僕はさびしかったし、ひどく心が傷ついていた。

　僕は、水城さんの勤めているＮＰＯ法人のＨＰにアクセスしてみた。そして、分野別のボランティア登録名簿をひとつひとつ確認してみた。僕は、どの分野にも登録されていなかった。
　あくる日、僕は、ＮＰＯ法人の近くまで出かけ、そしてケータイで事務所に電話を入れた。
　そして、水城さんにつないでもらった。
「はい、お待たせいたしました、水城でございます」
「あのぉ、僕は橋本慎一といいます。おたくの法人にボランティアとして登録をお願いしている者です」
「あらっ、ごめんなさい」
「えっと、紙で申請しましたけど、登録してもらえたでしょうか？」
「今ね、来客があって、あとで、ケータイにかけますわ」
「実は今、僕は、おたくのビルの近くまで来ているんですが？」
「では、このあいだの喫茶店で待っていただけません？」
「……」
　でも、僕は結局、水城亜矢さんの申し出をことわれなかった。
　ボランティアがやりたかったのだ。確かに、水城さんのところではない他のＮＰＯ法人を当たればいいのかもしれない。しかし、僕は免許を持っていても車は持っていなかった。できればアパートの近くのＮＰＯ法人に出入りをして、色々なボランティア活動を紹介してもらいたかったのだ。
　僕は、ＮＰＯ法人の入っているビルの隣りにある茶店で１時間あまりも待っていた。
　水城亜矢さんが、あわてたように茶店に入って来た。
「ごめんなさい、待たせちゃって。ともかく、ここは出ましょう」
　
　僕は、茶店を連れ出されていた。ケータイを見ると、１７：００を過ぎていた。そして、僕は居酒屋風の飲み屋さんに誘われていた。
　僕は、カウンターに座っていて、水城さんにビールをついでもらっていた。
「ごめんなさい、機械処理していなくて」
　水城さんがあやまっている。
「どうしてですか？、僕は早く登録してもらって活動がしたいのに」
「でも登録すると、もう橋本さんはＮＰＯ法人のボランティアになってしまうもの」
「ウン？」
「わたし、まだ未練があるんだわ。橋本さんには、わたしの個人のボランティアとして活躍して欲しいから」
「しかし…」
「ねぇ、１回か、２回、わたしのボランティア、手伝ってみない？」
「そんな。だって、水城さんのボランティアって、セックス・ボラでしょ？」
「まぁ、それはそうだけど。結局、セ・ボラでも、ボランティアはボランティアだけどね」
「でも、ボランティアって、自己犠牲の上に成り立つものでしょ。でも、セ・ボラって、やっている本人すら楽しむことになるんじゃないですか？」
「まぁっ、橋本さんって、結構古臭い考え方、してるんだね」
　水城さんは、少し赤い顔をしていた。お酒はさほど強くないのかもしれないと僕は思った。
「橋本さん、ボランティアって、確かに、個人の犠牲的精神に基づく崇高な慈善行為だわ。でもね、自己犠牲だけでは、なかなか続かないと思うわ、わたしは。相手の人が喜んでくれる、だから無報酬でもやれるんじゃないかしら」
「それは、そうですが。セ・ボラの場合は、ちょっと違うような…」
「どこが、どうちがうのかしら？」
「例えばですね、手が不自由な方がおられて、僕が髪を洗う介助をしてあげるとします。それは相手の障害者の方も気持ちがよくなって、僕に感謝をされるでしょう。そして僕もその方が喜んでくれて、精神的な満足感が得られる。でも、セ・ボラの場合はどうなんでしょうか。僕が手の不自由な青年のために、オナニーの介助をしてあげる。彼は満足するかもしれない。しかし、僕はこんなことしていいのだろうかという鬱積したものが残ります。それに福祉ボランティアなどとちがって、世間からは、好奇と蔑みの目で見られてしまいますよ」
「ああ、やはりあなたも、世間の目というのが気になるのね」
「すみません」
「いいの、いいの」
　ちらりと横に座っている水城さんの方を見ると、水城さんはビールを飲みながら、目を潤ませているように僕には見えた。
　僕は、水城さんの方を見ないで言った。
「どうなんですか。水城さんは、実際に、そういうセ・ボラをやられたことは？。そういうことをやられて、心が痛まなかったですか？」
「そうね、まったく痛まなかったとは言えないけれど…。確かに、同性の場合、オナニーの介助はあまり抵抗がなかったの。異性の場合は、最初も今も抵抗はあるわね…」
　僕は、ちょっとしんみりした。他人にこれだけ勧める人なのだ、水城さんにはやはりセックス介助の経験があったのか、と思った。
　異性のセックス介助にまで踏み切られた水城さんの心が、なぜか僕に同情心を芽生えさせていた。
「そうなんですか、やはり。それでもあなたがおやりになるというのは、よほどあなたに勇気があり、また、障害者の方の要求があるんでしょうね」
「ともかく、障害者にも、健常者と同じように性欲がある、ということは事実だと思うわ。ただ…」
「……」
「ただ、その方法ということになると、やっかいなことがあるわよね。わたしが同性のオナニーを介助するというのは多少理解をしてもらえても、わたしが異性のオナニーを介助したら、エロ・ババァと言われてしまう…。わたしは幸い、今独身だからいいものの、配偶者がいたら、そんなセ・ボラなんかするな、と怒られそうだわ」
「そうですね。ともかく、セックス・ボランティアって、周りからは絶対理解されないと思いますよ。それにボランティアをする人間自体にも問題があります。例えば、僕なんかの場合、同性への介助よりは、異性への介助の方に関心がありますから」
「やっぱり、あなたも、そうなのね」
「そうです、聖人君子じゃないですから。それに年齢のいった女性への介助をするくらいなら、やはり若い女性の介助の方がやりたいですからね」
「まぁっ、橋本さんったら、正直なのね」
「すみません」
「あやまることないわよ。でも、わたし、橋本さんになら、セックス・ボランティアをしてもらいたいな」
「えっ！？」
「じょうだん、冗談、マイケル・ジョーダン！」
　僕は、別れ際に、水城さんによくよく頼んでおいた。ボランティアの登録のことを。

　僕は、あくる日、市立図書館に行き、司書さんに会った。そして、僕の都合で読み聞かせボランティアを辞めさせてもらいますと告げたのだ。
　すると、司書さんに、事務室の応接のところに案内されてしまった。
　司書さんは、僕が辞めるということに猛反対をした。しかし、僕はどうしても、読み聞かせボランティアを辞めたいと言った。
　僕は、司書さんと話をしているうちに、仕事が忙しくなったとか、恋人ができてボランティアをする時間がなくなったとか、そんな具体的な理由を言わないと、なかなか納得してもらえそうにないことがわかった。
　僕は、早く解放されたかったのだ。
　それで、僕は言った。
「はい、あなたが言われるとおり、仕事も忙しくなり、好きな人もできたんです」
　僕は、ソファから立ち上がっていた。
　そして、あっけにとられている司書さんを置いて、帰ろうとした。
「あっ！」
　と僕は、声を上げそうになった。
　事務室に、美佐子さんがいたのだ。
　僕は、いつ美佐子さんがそこにいたのか、全く気が付かなかったのに。
　応接のところから近い、事務デスクに座っていた。司書さんを待っていたのだろうか。
　どうも、美佐子さんに、僕の話を聞かれたらしい。
　美佐子さんの表情が、暗く、こわばっているように僕には見えた。
　美佐子さんは、僕が読み聞かせボランティアを辞めるということがショックだったのだろうか。
　僕に恋人ができて、ボランティア活動を辞めてしまうことが残念だったのだろうか。
　僕は、何も言わず、何のあいさつもなく、美佐子さんのそばを通り抜け、事務室を後にした。
　僕の目に、美佐子さんの固い表情をした顔が焼き付いていた。

　それから、僕はアパートに帰り、パソコンを開いて、水城さんの勤めているＮＰＯ法人のＨＰにアクセスしていた。
　登録を確認する。しかし、僕の名前はどこの分野にも登録されていなかった。僕はため息をついていた。
　自炊の夕食を簡単にすませていた。
　僕は美佐子さんのことを考えていた。
　僕は変人なのかもしれない。別に美佐子さんとは個人的な交際をしたわけでもない。それなのに、もう美佐子さんとのことは終わったのだと思った。
　そのとき、ケータイが鳴った。
「橋本さん？」
「はい、そうですが」
「お願い、たすけて！」
「えっ？！」
「わたし、わたしよ、水城です」
「わかっています、声でわかりましたから」
「だったら、助けてください。わたしね、先方の女の子に、セ・ボラをやってもいい人が見つかった、って、もう言っちゃったの。引き返せないわ。だから、一回だけ、協力して！」
「でも、それは、あなたがそんな約束をしただけで、僕の責任では…」
「だから、わたしを助けると思って。むろん、わたしもその場には付き合いますから」
　僕は、ちょっと心が動いた。美佐子さんとの別れがつらく、何かをして、そのつらい気持ちを紛らわせたかったかもしれない。
　僕ひとりでは、とてもセックス・ボランティアなんかやれそうにもなかった。しかし、水城さんがそばに付いていてくれたら、何かやれそうな気がしたのだ。
「水城さん、ほんとうに僕だけでセ・ボラをするんじゃないですよね。あなたがちゃんとそばに付き添ってくれるんですよね」
「ええ、もちろん、そうだわ」
　僕は、結局、ケータイまで掛けてきた水城さんの熱意に負けてしまった。
　僕は、これまで水城さんに会ったＮＰＯ法人の近くの茶店の前に、午後８時に立っていることになった。
　僕の目の前に、水城さんの車が止まった。僕は、その車で、水城さんのマンションに連れて行かれることになった。
　車の中で、水城さんが僕に言った。
「彼女ね、身体障害者なの。手足が不自由で。パソコンは、口に棒を咥えて。その棒でキーを叩いて。それでわたしとメール交換をするようになったのよ」
　水城さんは、器用に車を駐車場に入れた。そして、僕は水城さんの部屋の前に立っていた。
　玄関先に、僕は車イスを見た。
　もう、ボランティアを受けたい女の子は、水城さんのところに来ているんだと思った。
　すると、水城さんが言った。
「ごめんなさい、彼女、自分のからだ、見られたくないらしいの。あなた、ここで目隠しをしてもいい？」
「ああ」
　僕には、反対する理由もなかった。
　なぜか、もう、水城さんを信用し、水城さんに任せるしかないと思った。
　水城さんにこうして恩を売っておけば、絶対、次には、僕にふさわしいボランティアを水城さんが探してくれるだろうと思った。
　玄関を入ると、僕は、何か運動会で使うような鉢巻で、目隠しをされていた。まったく前が見えなかった。しかし、水城さんが、僕の手を取ってくれていた。
「さぁ、その靴をぬいで！」
　僕は、水城さん手を引かれ、部屋の中に入って行った。
「麗奈ちゃん、待たせたわね。ボランティアの人に来てもらったわよ」
「あ・・ぅ・・っ・・」
　僕は、部屋の中で、水城さん以外の人間の声を聞いた。
　そして、その声音から、僕は、ボランティアをする相手の女の子が、身体だけでなく、言語にも障害を持っているような気がした。
　僕は、水城さんの手によって、絨毯の上に座らされていた。
　水城さんが僕のそばから離れていく。
　僕は、目の前で何が行われているのか、想像がつかなかった。正座をしたまま、じっと待っていた。
「さぁ、ここに横になって」
　そんな水城さんの声がした。
　そして、なにやら、若い女の子の匂いがした。
　それは、市立図書館の自習室の順番を取ろうと、自習室に向かうロビーに立ち並んでいる女子高校生たちのそばを通ったときに嗅いだ匂いと、そっくりだった。
　すると、耳元で、水城さんの声がした。
「さぁ、慎一さん、あなたの手を貸して」
　僕は、右の手首を水城さんに取られたみたいだった。
　僕の手が前の方に引っ張られる。正座していた僕は、少し、足から腰を浮かせていた。そして、もっと腰を上げたとき、指先が相手の女の子の胸に触れていた。
　どうも、僕は、仰向けになって寝ている女の子の横にいるみたいだった。
　僕は、手を動かしていた。さわっているのは、やわらかなおっぱいだった。指先がおっぱいの上を這っている。決して小さくはないおっぱいであった。と、指先が乳首に触れた。
　そのとき、水城さんの手が、僕の手首から離れていった。
　僕の手は自由になった。
　そして、その手の指先は動き、僕の親指と人差し指は、その乳首をつまんでいた。親指と人差し指で乳首を擦ると、なにやら、それは硬さを帯びてきた。
　僕の股間のモノも、硬くなったようだ。
　僕が、おっぱいを揉んでいるうちに、そのおっぱいがやわらかくなり、僕自身が興奮してきたようだった。股間のモノが膨れ、それがジーンズの中で窮屈感を訴えていた。僕は、正座していたが、腰を浮かし、ベルトを緩めようとした。
「あっ、だめよ！」
　僕のベルトに掛けた手に、水城さんの手がかかる。
「入れないで、そんなことはしないで」
　また、水城さんの声がした。
「そんなことはしません。でも、股のところが痛くて、少し、ジーンズを下げさせてください、お願いします」
「ああ、それなら、仕方ないわね、でも、途中までよ」
　僕は、ジッパーを一番下まで下げ、ジーンズを太ももの当たりまで下げた。
　下半身が少し楽になった。

　僕は、すわったままの姿勢からお尻を上げ、上体を前かがみにしていた。そして、手を広げ、おっぱいに手を当てると、そのおっぱいを手のひらで揉んでいた。
　おっぱいが、なにやら汗ばんでくる。
　僕は、お尻を浮かし、足指を折り、足のかかとの上にもう一度お尻を乗っける。前かがみになり、おっぱいをにぎる手に力を込め始めていた。
　その前かがみの姿勢にも慣れ、上半身が多少自由に動かせるようになったので、僕は、からだを支えていた左手を絨毯の上から、ボランティアを受けている女の子の胸に置いた。そして、右手の方は、胸からおなかの方へと移動させていた。右手が、草叢に辿り着く。僕は、草叢を撫でていた。そして、指を、女の子の亀裂に這わせる。まるで、琴を弾いているかのように、指を亀裂の上で左右に動かす。
　やがて、人差し指が、亀裂の上にある、クリトリスに当たる。僕は、亀裂を這わせている中指をちょっと折り曲げていた。中指が亀裂の深いところを探る。中指を奥に入れ込んでみた。そこは、しっとりと濡れていた。亀裂の奥を中指でえぐる。中指の先が濡れる。その濡れた中指の腹で、僕は、女の子のクリトリスを撫でさすっていた。
　僕は、女の子の亀裂の中から漏れ出る粘液をすくい取りながら、その粘液でクリトリスを濡らし、揉むというルーチン（定型的）な作業を、根気よく繰り返していた。
　すると、女の子が身をよじりはじめた。
　気持ちがよくなったのかもしれない。
　僕は、女の子の気持ちを、さらによくしてあげようと、一生懸命、彼女の膣口とクリトリスを指で愛撫していた。
　そのとき、僕は、女の子の匂い以外の、生臭い大人の女の匂いを感じた。
「クンニをしてあげて」
　耳元で囁くような声がした。
　水城さんの声だった。
　僕は、女の子のからだを愛撫することに夢中になっていたらしい。そばにいる水城さんの存在を忘れるくらいに。
　僕は、自分の中のいやらしさに、頬を赤らめていた。
　僕は、水城さんに導かれて、少しからだを移動していた。が、水城さんからストップがかかった。
「足を踏まないように気をつけて」
　僕は、女の子の足を踏まないように、おそるおそるからだの位置を変えていた。
　目隠しをしている僕だが、何か、水城さんが苦労しているような雰囲気を感じていた。たぶん、女の子の足が不自由で、足を広げることがむずかしいのかもしれない。
　僕は、右の手を引っ張られていた。そして、僕は、どうやら、女の子の足のあいだに僕の体を滑り込ませることができたらしい。
　そばに、桃の熟したような匂いがあった。それは、僕の体を導いてくれた水城亜矢さんの体臭なのだろう。
　僕が、上体を前かがみにすると、とても刺激的な匂いがした。
　それは、まだ青い、熟していないイチジクの匂いだった。
　たぶん、それは、若い女の子の股間から立ちのぼる雌の匂いなのだろう。
　僕は、木の枝からもぎ取ったばかりのイチジクが湧き出す白い汁の匂いに誘われるように、女の子のクレバスに自分の唇を近づけていった。
　若草のような匂いのする恥毛が僕の鼻先を刺激する。しかし、鼻腔は、クレバスの谷間から発する、ムンムンとするような若い雌の匂いでいっぱいになる。
　僕のくちびるは、彼女のクレバスに到達する。クレバスにぬめりはなかった。しかし、クレバスの底から発せられる青臭い匂いが、僕の脳を巡る、淫蕩な血を刺激していた。
　僕は小陰唇をくちびるでなぞりながら、舌を出して、膣前庭を舐めていた。そして舌先がクレバスの中心部の洞穴を捉えていた。その洞穴に舌先を少し入れ込む。すると、鼻腔にはさらに強い、雌の匂いが入ってきた。
　僕の舌先が濡れている。
　それは、僕の唾液ではなかった。若いイチジクの蜜汁だった。
　僕は、その洞穴にあるイチジクの汁を吸おうと、唇を細め、かつまた、舌先を丸めて、洞穴の中をまさぐっていた。
「ハ・・・ァ・・・グ・・・ゥ・・・ゥ・・・」
　耳慣れない声が、僕の頭の上でした。
　そして、僕の体の横では、「ごくり」と唾を飲み込む音がし、桃の熟した匂いがしてきた。
　僕は、股間のモノがビクンビクンと脈打っているのを感じている。ジーンズは膝のところにかかっていて、うっとうしい。
　ブリーフの中のものは、いきり立っていて、それは、ブリーフの上から頭を出しそうなくらいに行き場を求めて、うねっていた。しかし、それを収めることはできないだろう。
　僕は、そんな苛立ちを打ち消すかのように、舌先で、洞穴をいたぶっていた。
　と僕は、ボランティアを受けている女の子の下半身が震えているのが、自分の頬でわかった。
　僕は、両手で、女の子の腰を優しく抱えていた。

　僕は、女の子の股間に顔を埋め、腰を抱いたまま、じっとしていた。そのとき、桃の熟したような匂いに気づいた。水城さんの声が耳元でした。
「ねぇ、今度は、指を入れて感じさせてあげて」
　僕は、水城さんの手が肩にかけられるのを感じた。僕は、水城さんの手で上半身を起こさせられていた。

　僕は、右手を伸ばした。その手を下に這わせながら、女の子の草叢へ。
　僕は、目が見えないながらも、からだのバランスの取り方に慣れてきた。下半身をしっかりと固定しながら、左手を伸ばして、女の子の胸に置いた。
　僕は、左手で、乳房を揉んだ。そして、右手で草叢の若草や土手の肉襞を撫で擦った。
　土手は、少し濡れそぼっていた。
　指をクレバス（裂け目）に這わせると、指先が濡れる。
　僕は、人指し指で、クリッとしたクリトリスを掻きながら、薬指を、クレバスの奥深くに差し入れた。そして、差し入れた薬指を折り曲げつつ、祠（ほこら）の中で動かした。
「ハ・・ァ・、フ・・ゥ・ン・」
　女の子が腰をよじっているのが、僕にはわかった。
　僕は、僕の淫乱な心を満たすために、そして、女の子を満足させるために、手首を折り曲げ、中指を、洞穴の中に突っ込んだ。
「ア・・ッ・・、グ・・ゥ・・ッ・・・」
　僕は、いらだたしげに、洞穴を指でいじくっていた。
　好きな人がいるのに、告白できない自分。それがいらだたしかったのだろうか。いや、そんなことではないような気がした。僕は、ボランティアなのにもかかわらず、股間のモノを怒張させていたのだ。しかも、それをどこかに納めたかったのだ。しかし、それを納める場所がなかったのだ。
　洞穴の中がひどく濡れてきた。
　僕は、左手で、乳首を揉みながら、右の中指をグニャグニャと洞穴の中で卑猥に動かしていた。
　そして、何となく、女の子の腰が跳ねたような気がした。

「もういいの、もういいわ」
　僕は、ハッとなった、自分を取り戻した。水城さんの声が耳元でしたからだ。
　僕は、がっくりと肩を落としていた。はちきれそうだった股間のモノが、鎮まりつつあるのがわかった。
　僕は、かがめていた上半身を起こした。そして、手も、自分の足膝のところに戻し、きちんと座りなおした。
　なにやら衣擦れの音がした。水城さんの手によって、女の子の身づくろいがされているようだった。それで僕も、腰を上げてジーンズを上げ、ジッパーを上げてベルトを締め直した。
　そのとき、僕は、べっとりとブリーフがぬれているのがわかった。たぶん僕の亀頭の鈴口から透明なカウバー氏液が出ていたのだろう。

「わたしね、この子をうちまで送ってくるわ。あなたはしばらくここで休んでいて。カギはかけないから、わたしが帰ってくるまで待っていてね」
　水城さんの声がした。
　そして、ふたりが部屋を出て行ったような。
　部屋がとても静かで、人の体温が消え、部屋が無臭になったような気がした。
　僕は、自分で目隠しを取った。
　紫色の火花が何本も目の前で飛んだ。目を開けているのに、目の前の風景は真っ暗で、思わずクラクラッとめまいがして、僕は、絨毯の上に、うつ伏せになって倒れこんでしまった。
　僕は、倒れこみ、絨毯に頬をくっつけながら、目から熱いものが滲み出るのを感じた。
　美佐子さんを裏切ったような気がした。
　ボランティアとはいえ、こんなふしだらなことをしていいのかと思った。
　こんなことをして、自分の性欲を紛らわせようとした自分が、情けなかった。
　せめても、これで美佐子さんのことは、きっぱりとあきらめられると思った。

　３０分も経っただろうか。
　僕は、肩を叩かれていた。
　目を開けた。景色は暗くなく、部屋の中は奇妙なほど明るく見えた。寝返りを打ちながら、振り向くと、水城さんがいた。
「寝ていたの？。コーヒーでも入れるわね」
　僕たちは、絨毯の上に座り込みながら、お盆の上に置かれたコーヒーカップを取り上げていた。
「慎一さん、ごくろうさまでした」
「いや、そんな」
「でも、彼女、喜んでいたわよ」
「……」
「それにしても、上手よね」
「えっ？」
「だって、あなたは独身で付き合っている人もいないんでしょ」
「……」
　僕は、黙っていた。
　僕がさっきやったクンニのことを、水城さんは言っているのだろうか？。
　僕は、確かに付き合っている女の人はいない。しかし、官能小説は読んでいるのだ。やり方くらいはわかる。それに、性の実体験はなくても、男なら、そんなことくらいは本能的な行動として、誰でもやれるだろう。

「今度は、わたしがあなたのために、ボランティアをしてあげるわ」
「えっ！」
「だって、わたし、ブリーフの上からだけど、あなたのものを見ちゃって。はちきれそうなくらい大きくなっちゃって、かわいそうに見えたの」
　僕は、びっくりしている。そして、ブリーフの膨らみを見られていたのかと、恥ずかしくて顔を赤らめていた。あるいはブリーフが濡れているのも見られたかもしれない。
　しかし、ちらりと水城さんの顔を見ると、さらりとした表情だけれど、まるっきり冗談を言っている風にも見えなかった。
「わたしね、結婚の経験があるの。それに結婚前は看護師もしていたから、アレも上手よ」
　僕は、冗談だと思った。
　それで、僕は、冷静になろうと努めた。
「確かに、あの子は僕からボランティアを受けた。そして、今度は僕が水城さんからボランティアを受ける。でも、そうしたら、水城さんは誰からボランティアを受けるんですか。そういう人がいないでしょ。それでは不公平ですよ」
　僕は、笑いながらそう言った、しかし、頬は引きつっていた。
「まぁ、慎一さんって、思慮深いのね。わたしは、ただ、あなたが欲求不満を解消してくれて、喜んでくれたら、それでいいわ」
「でも、そんなボランティアを受けたら、僕は、またこんなボランティアを続けなくてはならなくなりますよ」
「まぁっ、こんなだ、なんて」
「ごめんなさい」
「こんなだなんて、言わないで。障害者の人にとっては、とても深刻で、とっても恥ずかしい思いをしながらのことですからね」
「ああ、すみません」
「でもね、セックス・ボランティアって、そんな微妙なボランティアだから、わたしのパートナーになってくれる人、なかなかいなくて。でも、慎一さんならいいと、わたしは思ったんだけれど」
「そんな…」
「慎一さんは、真面目そうだし、秘密は絶対に守ってくれそうだから」
「そんなに僕を買い被らないでください。僕だって普通の男ですよ。いや、ひょっとしたら、人一倍、性については関心があるかもしれない…」
「まぁっ、正直ね。もっとも、性の欲望を罪悪視するような、まったくの堅物の人なら、こんなこと、お願いしなかったわよ」
「えっ！」
「わたしね、こう見えても人を見る目はあると思うの。はじめてあなたに喫茶店で会ったとき、あなたの薄くて、女の子のような紅色をしたくちびるを見て、ああ、この人はアレが好きな人なんだと直感的に思ったの」
「そんな！」
「ごめんなさい」
　水城亜矢さんは、恥ずかしそうに顔を俯け、少し、身をよじっていた。それが少女っぽくて、僕の胸が騒いだ。
　僕は、胸のざわめきを押し殺すようにして、しゃべっていた。
「一応、これで、水城さんの要望にお応えしたわけだし、次は、本当の意味でのボランティアを紹介してくださいね。僕は、高齢者介護のボランティアだって、やってみたいのですから」
「だめだわ、それは」
　水城さんの目が釣り上がっている。そして、口をとがらせながら、言いつづけていた。
「だって、今日の女の子はひとり身だけど、あと、車イスの生活をしているカップルの人たちに頼まれていることがあって。彼らの望みを叶えてあげたいの。でないと、いつまでも、わたしの胸の中に、モヤモヤとしたものが残って…」
「でも…、僕には、そんなことは…」
「カップル同士のセックスの介護となると、わたし一人の手では負えないの。お願い、わたしを助けると思って！」
　僕は、すがるような目つきで水城さんに見られて、どぎまぎしてしまっていた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）