４　亜矢さんは聖母、娼婦？
　
　僕と亜矢さんは、彼氏のアパートを後にした。
　僕は、亜矢さんの車の助手席に乗った。
　シートベルトをする。女の人を抱えていたせいで、僕はまだ腕がだるかった。
「ごくろうさま」
　亜矢さんの声がした。
「それで、あのふたり、あのままで大丈夫なんですか？」
「うん、そうね。明日の朝、わたし、またここまで車で来て、彼女をうちまで送ってあげるの」
「そうなんですか。でも水城さんも大変ですね」
「そうね。でも、それがわたしの仕事みたいなものだから」
　僕は、感心していた。僕ならそこまではとてもやれないだろう。
　ＮＰＯ法人のビルのところまで帰ってきた。
「どうも、お疲れさまでした」
　僕は、シートベルトをはずしていた。
「どう？、わたしのところで、コーヒーでも飲む？」
「いえ、今日は遠慮しておきます」
「どうして？」
「うーん、平素僕は力仕事をしていなくて。どうも今夜は疲れたみたいです」
「えーぇ、まだ、若いのに」
「それじゃ、また」
「ありがとうね、今夜は」
　僕は、車を降りていた。
　それから、僕はアパートに帰り、ドタン、バタン、キューとなって、寝てしまった。

　僕は、ＮＰＯ法人のＨＰを検索していた。
　そして僕は僕の名前を見つけることができたのだ。水城さんがやっと登録の手続きをしてくれたのだ。僕は、水城さんに感謝した。
　僕はこれで、水城さんの個人的なセックス・ボランティアの仲間から解放されたのだ。
　それから僕は、学童保育の読み聞かせボランティアとか、公民館図書室に置かれる目の不自由な人のための朗読テープ吹き込みボランティアなどのオファー（申し出）があった。

　僕は、生活をするための仕事も注文があり、かつＮＰＯ法人紹介のボランティア活動も順調だった。
　気になるのは、府立病院に入院している美佐子さんのことだった。
　早期ガンなら摘出すれば大丈夫と思われる。むろん術後も放射線治療などがあって通院があるから、肉体的にも精神的にも大変だろうが。
　末期ガンでないことを祈っていた。
　僕は、市立図書館の喫茶室にいて、田代由香さんが図書館を出るのをつかまえようと思った。
　読み聞かせボランティアのある日をつかまえて、張り込み２回目でやっと田代由香さんの姿を見かけた。
　僕は、喫茶室を飛び出て田代由香さんの後を追った。
「田代さん、田代さん！」
　田代由香さんが振り向いた。
「あのぉ、すみません、呼び止めて。松宮さん、その後大丈夫なんでしょうか？」
「あらっ、橋本さん！。どうしたの？」
「僕は、今、ちょっと仕事が忙しくて。松宮さんの見舞いにも行けなくて。もしよければ、容態を教えてもらえないかと思って」
「うーん、わたしも実は一度しか見舞いには行っていなくて。だって、松宮さんが来るな、って言うもんだから」
「そんなにわるいんですか？」
「ええ、すぐには退院できないみたいよ」
　田代由香さんは、先を急いでいるみたいだった。
「どうも、ありがとう」
「あっ、橋本さん、あなただったら、松宮さん、会ってくれるかもしれないわよ。だから、是非、お見舞いに行ってあげてよ」
　田代さんがいたずらっぽく笑った。
　僕は、田代さんの言っている意味がよく飲み込めなかった。
『どうしてそんなことが言えるんですか？』
　僕は田代さんにそう聞きたかったけれど、もう田代さんは背を向け、駐車場の方へ向かって歩きはじめていた。

　仮に僕が府立病院へ見舞いに行ったとする。でも、僕は美佐子さんに何と言ったらいいのだろう。
『一日も早く回復されることを祈っていますから』
　なんて僕は言うのだろうか？。病状もわからないのに。
　そして、『退屈されておられるなら、村上春樹さんの小説の吹き込みテープを持ってきてあげましょうか？』なんて言うのだろうか？。
　そんなことは恥ずかしくてとても言えることではなかった。
　病院通いをするうちには、あるいは僕は美佐子さんの心を得ることができるかもしれないと思った。しかし、美佐子さんの心を得たとして、それからどうにかなるだろうか。仮に美佐子さんが僕に心を許し、美佐子さんのからだを抱いたとして、僕は美佐子さんを幸せにすることができるだろうか？。そんなことはできるはずもなかった。
　でも僕は、美佐子さんのために何ができるだろうかと考え続けた。
　結局、美佐子さんに会いに行くことは恥ずかしくてできないことだし、そんなことをしたら返って泥沼にはまっていくようなものだから、病院には行かず遠くから美佐子さんの病状の回復を祈るしかないなと思った。

　ある日、僕はケータイが鳴っているのに気がついた。
　なんと、相手は田代美香さんだった。
　僕たちは市立図書館の喫茶室で会うことになった。
「橋本さん、松宮さんがあなたのこと、心配していたわよ」
「えっ？」
「わたし、昨日、見舞いに行って来たの。そして、あなたのことがうわさになって。松宮さん、あなたがちゃんと生きているのか、気にしていたわよ」
「……」
「松宮さんに言わせるとね、あなたって、とてもあぶなかしくって、見ておれないんだって」
「えっ、松宮さん、そんなに視力があるんですか？」
「馬鹿ねぇ〜、雰囲気よ、雰囲気。松宮さんが言っていたわよ、『橋本さんは、何か消えてなくなりそうな人』だって」
「そんな！」
「でも、わたしもそう思うな。何か、いつか自殺でもしてしまいそうな…」
　僕は、ギクッとした。
　ひょっとしたら、他人（ひと）は意外に僕の本質を見抜いているのかもしれない。僕は、いつも歩きながらでも、死のことを考える癖があったから。
　でも、僕は、照れ笑いしながら田代さんに言った。
「大丈夫ですよ。今、僕は仕事も順調だし…」
「そういうことじゃなくって。なんか、橋本さんって、いつも遠くを見ているもの」
「そうですかね」
「それで、橋本さん、ちょっと信仰をしてみない？」
「いや、僕はいいですよ。僕の家は、もともと親鸞上人の浄土真宗を信仰していたんですが。でも、まったく僕は無宗教というやつで。信仰とは無縁な人間ですから」
「一度、教会に行ってみませんか？。魂が救われると思うのよね。松宮さんもあなたのこと心配していたし…」
「えっ、松宮さんって、キリスト教の信者さんなんですか？」
「ええ、そうよ、カソリックのね」
　僕は驚いた。松宮美佐子さんの明るさは、生来のものだと思っていた。しかし、そうではないかもしれない。
　不慮の交通事故で、ご主人を亡くされ、自分も視力を無くされた。見えぬ未来に不安や絶望があって、宗教に頼られたのかもしれない。そして、信仰の力によって、逆境を乗り越えられ、今の明るさを勝ち取られたのかもしれないと思った。
　僕は、田代美香さんから、今度の日曜日、教会で行われるミサ（祈りの式典）に出てみませんかと誘われた。すぐにはことわれなかった。病床にある美佐子さんが僕のことを心配していてくれたからだ。しばらく考えさせて欲しいと言って、田代美香さんとは別れた。
　実際のところ、神を信じたところで僕の魂が救われ、僕の心が明るくなるとも思えなかった。
　しかし、美佐子さんは癌におびえ、神に救いを求めているのかもしれないと思った。神に祈るつもりはなかったが、神に祈る美佐子さんを何とか励ましてあげたかった。僕が神に祈る、その僕の姿勢で、美佐子さんに多少とも元気を与えられたらいいなと僕は思った。

　ある日、僕はバス通りを歩いていた。
　と、バス停で、水城さんの姿を見てしまったのだ。路地に逃げようとしたが、もう相手に見つかってしまった。水城さんはメガネを掛けていた。そばに、黒いサンクラスを掛け、杖をついた高齢者の人がいた。
「あらっ、橋本さんじゃないの」
「ああ、こんにちは」
「何？」
「いえ、ちょっと出版社に仕事の届け物に。で、水城さん、今日は車じゃないんですか？」
「ええ、今日は、増永さんの介添えでね。増永さんって、こちらの方。とってもマッサージが上手なの。で、出張販売ではひっぱりだこなのよ。今日は介添えのバイトの子が急に都合がわるくなって、わたしがピンチ・ヒッターってわけ」
「そうなんですか、それはごくろうさまです」
　バスがやってきた。
　増永さんの手を取って、水城さんがバスの中に入って行かれた。僕がそんな光景をボケーッと見ていたら、バスに乗った水城さんが、席に着いて、僕に手を振っていた。僕も仕方なく、照れながら手を振っていた。
　それから何日かして、僕は、水城さんからケータイを受けていた。
「もしもし…」
「橋本さん、また、お手伝いしてもらえないかしら？」
「しかし…」
「今度は、楽だから…」
「しかし、僕は、どうも、そういうの、苦手だということがわかってきて」
「お願い！。午後８時に、いつもの喫茶店のところで、待っていて。くるまで拾うから」
「えっえぇぇ〜、そんなぁぁ」
　僕は優柔不断なところがある。しっかりとことわれなかった。
　そして、僕は、外食で夕食を済ませると、やはり歩いて、待ち合わせの場所に向かっていた。
　僕は、もう、水城さんのくるまのナンバーすら、覚えてしまっていた。
「○○５８　み　２１−９１」だった。
　その車がやってきた。
　僕は、ハンドルをにぎっている水城さんに手を振っていた。メガネの水城さんがにっこりと笑った。僕は、ほんの少しは、水城さんのことが気に入ったのかもしれない。助手席に乗り込んだら、少し胸がはずんでいた。あるいは、セックス・ボランティアなどという特殊な世界で、奇妙な連帯感が水城さんとの間に芽生えたのかもしれない。
「ごめんなさいね。今日は、どうしてもあなたにそばにいてもらいたくて。そうでないと、わたしはとても不安で…」
　僕は、驚いたように、運転している水城さんの横顔を見ていた。
　確かに、真剣そうだった。そんなに今日は大変なボランティアなんだろうか？。
　でも、僕は、水城さんの化粧の匂いに気を取られていた。何か、ひどく今夜は化粧の匂いが強く感じられたのだ。
　車は、ある一軒家に着いた。さほど大きくはない。しかし、こぎれいな家だった。
　僕は、車を降りていた。水城さんが車を入れている。
　僕は、その家の表札を見ていた。
「増永　良一」とあった。
　そばに、水城さんの化粧の匂いがしたので、僕は、つぶやいていた。
「あれっ、増永さんって、このあいだ、バス停にいた人なの？」
「あらっ、橋本さんって、記憶力がいいんだ。そうよ」
　僕は、水城さんに腕を取られ、増永さんの家の玄関の中に入っていた。

「増永さん、こちら橋本慎一さんよ。わたしのセックス・ボランティアのパートナーをしてもらっているの」
　僕は、黒のサングラスを掛けた男の人にあいさつをした。頭は白髪だった。年はもう５０歳は過ぎておられるように僕には思えた。
「橋本さん、こちらはね、増永さん。マッサージ師をしておられるの。わたしが若い頃、福祉ボランティアをやっていた頃からのお付き合いなの。増永さんが出張マッサージをやられるとき、わたしはそのおうちへ増永さんを案内していたわけ」
「まぁ、ビールでも、おあがんなさい」
　増永さんのはっきりした声がした。
　水城さんは、立ち上がった。このうちの勝手をよく知っているみたいだった。ビールが出て、コップが出て、おつまみさえ出た。
『水城さんって、よくこのうちには来るんだろうか？』
　そんなことを僕は考えていた。
　増永さんは、コップに注がれたビールを飲んでいた。
　部屋はさほどみすぼらしくはない。障害者年金とかマッサージなんかの収入で、比較的生活は楽なんだろうかと僕は考えていた。
「あなたは独身ですか？」
　僕は、急に増永さんに質問された。
「はい」
「それは。それなら今夜は、刺激が強すぎるかもしれないな」
「まぁっ、増永さんったら」
　僕は、耳慣れない艶っぽい女の人の声を聞いた。そばの水城さんを見た。めがねを掛けていなかった。そして、水城さんの横顔が妙に色っぽく見えた。
　僕は、何か様子がわからなくて、不安になった。
「あのぉー、増永さんのお相手をなさる女性の方は、まだ、来られないのですか？」
　僕は、増永さんに聞いていた。
「まぁ、そのことは。あなたは若いのだから、さぁ、飲みなさい。亜矢さん、この方にビールを注いであげてください」
「はい」
　水城さんが、まるでお客さんをもてなすような感じで、僕にビールを注いでくれる。
　僕は、何かおかしな気持ちになった。増永さんと水城さんとは気が合っているようだったからだ。まるで夫婦のような。しかし、水城さんはまだ、３０歳代の半ば。増永さんは５０歳代。年齢的には、２０歳以上も離れているはずだが…。
　僕は、増永さんに今の仕事のこととか、学生時代に何を勉強していたかなどを聞かれた。確かに増永さんは目が見えないらしい。しかし、話し振りからして、教養がありそうに僕には思えた。そして、こんな教養もあり、目が不自由であり、高齢者であっても、やはり性欲というものはあるんだろうかと思っていた。
　気が付くと、水城さんは、押し入れから布団を出していた。水城さんが布団を敷いている姿をちらりと目の端でとらえながら、僕は胸の鼓動が速くなったような気がした。
　増永さんは、独身だと言っていた。
　それなのに、相手の女性がやってこられないのだ。
　水城さんも、迎えに行くとか、ケータイをかけるとかということもしない。相手の女性も目が不自由で、時間どおりには来れないのだろうかと僕は思っていた。
　でも、とうとう僕は、がまんができなくて、布団を敷き終えて、そばに戻って来た水城さんに聞いた。
「水城さん、相手の女性の方、かなり遅刻しておられるようで。どうかなさったんですか？」
ククッと水城さんが、笑いをかみ殺すように、手を口にやって顔を俯けた。
「まぁ、橋本さん、ビールをやりなさいよ」
　増永さんの声がした。
　しかし、僕は、落ち着きをなくしていた。
「水城さん、どうなっているんですか？」
　僕は、隣りでビールをあおっている水城さんに聞いていた。
「あのね、慎一さん、今夜、増永さんにボランティアをするのは、わたしなの」
「えっ！」
「そんなに驚かないでよ」
「でも、それじゃ、僕は必要ないじゃないですか！」
　僕は、僕の存在が無視されたようで、怒っていた。
「そんなことはないわよ。わたしにはあなたが必要なのよ。増永さんだって、男よ。どんなことされるかわからないもの。あなたにそばに付いていてもらわなくっちゃ」
「おいおい、亜矢さん、わたしはそんな乱暴者ではないよ」
　僕は、ハッとしたように、増永さんの顔を見ていた。増永さんの顔は照れているようだったが、明らかに、雄としての表情が僕には看て取れた。僕は、また動悸が激しくなっていた。
　増永さんは、ちゃんとビールのコップを手で握れているのだ。手は決して不自由ではない。自慰行為は自らの手で可能なはずだ。性の介護は必要ない。それなのに、なぜ？。
　僕は、心の中で震えていた。
　僕はとんでもないところに連れて来られたのかもしれない。
「慎一さん、協力をしてあげて」
　ボーッとなった頭の中に、水城さんの声が届いていた。
「増永さんは、ＥＤなの」
「えっ？」
「勃起不全」
　僕は、何となく言葉だけは聞いたことがあった。内容はよくわからない。
　僕は、インポテンツと勃起不全と、どこがどうちがうのだろうか、と考え込んでいた。それに、こうした性機能障害の人にもそもそも性欲までは失せていないのだろうかと思っていた。
　
　見ると、水城さんが増永さんの手を取って、布団の上に導いていた。
　僕は、水城さんのことを怒っていた。
　これはボランティアという奉仕活動ではないと思った。同情にしても行き過ぎだと思った。好意なのか？。
　僕は、ハッと気付いた。
　好意なのかもしれない。
　僕だって、目の不自由な松宮美佐子さんのことが好きになったのだ。それは同情ではなかった。
　ひょっとしたら、水城さんは、増永さんが好きなのかもしれない。セックス・ボランティアというのは、隠れ蓑ではないのか？。
　確かに、増永さんは、かなり高齢の人だ。
　しかし、僕にしたって、美佐子さんとは２０歳も年が離れている。好きになるのに年齢は関係ないかもしれない。
　僕は、水城さんが、増永さんの上着のシャツのボタンを取っているのを見て、嫉妬みたいな感情が芽生えてくるような気がした。
　僕は、ビールをあおっていた。そして、空になったので、注ぎ足していた。
　水城さんは、増永さんのズボンまで取っていた。
　これはおかしい、これはボランティアではない、これは単なる猥褻行為だと思った。僕は立ち上がろうとしていた。帰るつもりだった。こんなところには居たくない。
　しかし、なぜか、視線は、水城さんの方に行き、腰が上がらないのだ。
　水城さんが、身につけている物を自ら取っているのだ。
　上着を取り、スカートを脱いでいる。
　ブラジャーすら取っていた。
　水城さんは、パンティだけの姿になり、布団の上に仰向けになっていた。
　よく見ると、増永さんも、トランクスしか身につけていなかった。
　増永さんが、水城さんのからだの横に座っていた。
　僕は、ビールを飲もうとしている。しかし、コップをにぎる手が震えていた。
「慎一さん、そばについていて」
　僕は、水城さんの必死な感じの声に、胸が詰まるようだった。
　僕は、意を決して、コップを置き、布団の方に這って行った。水城さんの横に行く。すると僕は、手を水城さんの手に取られていた。
　僕は、水城さんの目を見ていた。真剣なまなざしで、その瞳は少し濡れているような気がした。
　水城さんのからだをはさみ、左側に僕がいて、右側に増永さんがいる。
　増永さんの手が水城さんの両肩に伸びていた。
　増永さんの手はまるで、亜矢さんの肩をマッサージしているみたいだった。
　増永さんの手は、肩から腕に移っていた。そして、わき腹に。腰にと下がっていく。
　亜矢さんの腰がよじれる。そして、僕の手をにぎっている亜矢さんの手に力が入ったような気がした。
「アンッ！」
　亜矢さんの声が漏れる。
　増永さんの手が亜矢さんの内腿に這っている。増永さんが内腿をもんでいるのだ。僕は、股間の自分のモノがビクッンとなったのに気がつく。
　視線を増永さんの股間に当てる。しかし、増永さんの股間はさほど膨れてはいなかった。
　増永さんは、亜矢さんをうつ伏せにしようとしている。
　僕は、抵抗しようとした。しかし、亜矢さんは協力している、増永さんに。亜矢さんは、僕の手をはずしてしまった。
　亜矢さんが寝返りを打ち、ふっくらとしたお尻が僕の目に入り、僕はゴクリッと生唾を飲んだ。その音が僕の耳に入り、そばのふたりにもわかったと思うと、僕は恥ずかしくて、顔を真っ赤にしていた。
　増永さんは表情がよくわからない、サングラスのせいなのか。
　でも増永さんは、手を伸ばし、上体を亜矢さんの背中に被せるようにして、亜矢さんのお尻をパンティの上から、もみしだいていた。
「ハァ、ウ〜ン、ハァ、ハァッ」
　亜矢さんの手が伸びてくる。亜矢さんの手が僕の手を探しているような。僕は、亜矢さんの手の平をにぎってあげた。
　すると、図々しくも、増永さんは、亜矢さんのパンティに手をかけていた。パンティを脱がそうとしている。
　僕は、そのいやらしい手を跳ね除けようとした。しかし、亜矢さんに握られている片手がしっかりとにぎられる。亜矢さんが、だめだと言っているみたいだ。
　こちらに向けている亜矢さんの伏せている横顔を僕は上から見ていた。その亜矢さんの横顔からは、『増永さんのしたいようにさせてあげて』ということが見て取れるのだ。
　僕は、成り行きに任せるしかないのかと思った。僕は、今夜は、増永さんではなく、亜矢さんの介添え役なのだと思った。
　増永さんの手が、亜矢さんのお尻の割れ目の中に差し込まれる。
　そんなマッサージはないだろうと思った。
　しかし、僕は卑猥な観念にとらわれていた。
　このマッサージ師は、ときどきはお金持ちの未亡人の家に呼ばれ、こんな卑猥なマッサージを施し、お金をもらっているのではないかと思った。
「うっ、ううううっ！」
　亜矢さんは目をつむっている、しかし、くぐもった声を挙げている。肩の肉が揺れている。しかし、歯を食いしばって耐えているような気がした。
　亜矢さんは上から股間をいじられ、苦痛なのかもしれない。
　しかし、何と言うことか、僕は、返って、僕自身の股間のモノが固くなっていくのだ。そしてむろん、胸の鼓動も確実に速くなっている…。
　増永さんは、亜矢さんを抱えるようにしながら、また、亜矢さんを仰向けにしている。亜矢さんの恥毛が目に入る。パンティが膝のところにひっかかっている。
　僕は、固くなって身動きできないでいた。それなのに、増永さんは図々しくまるで目が見えるかのように、その亜矢さんの膝頭あたりにひっかかっているパンティをずりさげ、完全に足首からはずしてしまったのだ。
　そして、増永さんは、からだを動かし、亜矢さんの足もとに体を移動させようとしていた。
　僕は、増永さんのその行動を止められない。
　亜矢さんの顔を僕は見る。
　まぶたの皮膚や眉毛をかすかにふるわせている。しかし、亜矢さんは、まだ僕に助けを求めていないようだ。
　増永さんは、亜矢さんの足首をにぎり、膝を立てさせるようにした。股が開き、足がＭ字型に開脚されていた。
　亜矢さんの恥毛に僕は気を取られていた。が、そのとき亜矢さんの手が伸びて、また僕の手をにぎってきた。
　増永さんの手が、亜矢さんの内腿を撫でていた。そして、太い、節くれだった、たくましい指が、亜矢さんの土手を這っていた。
「アッ、アアアッ、アーン、イヤッ！」
　亜矢さんの身がよじれる。亜矢さんの眉毛の先が濡れているような。気持ちのわるさに耐えているのだろうか。
　亜矢さんのクレバスを不粋な指が開く。クレバスは湿っていた。僕は怒りの目を増永さんに向ける。しかし、増永さんの表情はひどく落ち着いていた。
　と、増永さんが、黒のサングラスをはずした。
　目がしっかりと閉じられていた。しかし、その目の皮膚はひどく生彩のない無機質のものだった。
「アン、アン、いやよ、いやよ、ハァ〜ン」
　増永さんの指が、亜矢さんのクレバスの上の丘を攻めているみたいだった。
　亜矢さんの上体が揺れ、亜矢さんは上へ逃げようとしていた。
「ハァッ、ハァ、ハァーン、イヤイヤ、イヤーッ！」
　増永さんの節くれだった黒い指が、ピンク色をしたクレバスの中に差し込まれる。そして、抜かれる。その指が濡れそぼっている。
　僕は亜矢さんに怒りを覚えていた。しかし、股間の僕のモノは興奮しているのだ。
　増永さんは、中指の腹を上にしながら、亜矢さんのオ○んこに差し入れをしている。
　僕は、胸の鼓動が高鳴っているのがわかる。そして、股間のモノがあばれ出し、狭いジーンズの中で行き場を封じられて、痛みを感じていた。
　僕は、右手は亜矢さんに握られている。不器用に左手でジーンズのベルトを緩め、ジーンズの上から、股間のモノの位置を直していた。
「亜矢、さぁ、わたしのモノを触っておくれ」
　僕は、見知らぬ人間の声を聞いた。しかし、見ると、増永さんのくちびるが動いている。亜矢さんのことを呼び捨てにして呼んだのはまちがいなく増永さんなのだ、僕は嫉妬に狂った。増永さんの頬をなぐりたかった。しかし、右手が亜矢さんに押さえつけられていて、言うことを効かないのだ。
　亜矢さんのもう片方の手が伸びている。亜矢さんの手が増永さんの股間へ行く。トランクスの上から、触ろうとしているみたいだ。
亜矢さんが上半身を少し、起こすようにして、増永さんのモノを撫でさすっている。
「はぁ〜、いい気持ちだ、いいよ、いいよ、亜矢！」
　増永さんは、顔を挙げていた。口を半開きにしながら。
　しかし、増永さんは、その手で、しっかりと、亜矢さんのクリトリスを揉んでいるみたいだった。
「ああ、いいよ、いいよ、復活するみたいだ。わたしは、復活する、復活する。亜矢、亜矢、いいよ、いいよ、ありがとう」
　増永さんの声がして、僕の頭がしめつけられ、痛くなるほどだった。
「慎一さん、慎一さん、トランクスを取ってあげて」
　僕は、亜矢さんの声に従っていた。
　増永さんのトランクスを下げる。太い。しかも長い。赤黒いものは長さが１６センチもあるようだ。半立ちの、増永さんのモノが目に入る。僕はそれでも、片膝を順番に上げてあげながら、トランクスを取ってあげた。
　その、もろに出た増永さんのお○ん○んに、亜矢さんの指がからみつく。亜矢さんの親指が、人差し指が、中指が、器用に陰茎の周りで揺れ動いている。
　と、亜矢さんの親指と中指が亀頭の雁首を摘む。亀頭の雁（カリ）の部分は口径が優に４．５センチはあるように見えた。そして、人差し指が亀頭部突端の裂け目をさする。
「亜矢、いいよ、いいよ」
　上半身を立てている増永さんが、腰を前後に振っている。股間のモノは、硬くなってきたような。その小さな裂け目から透明な汁が出て、亜矢さんの人差し指を濡らしている。
　亜矢さんの指が、陰茎を撫でさすっている。そして、ときどきは陰嚢をひっばるように撫でている。
「ああ、あっ、芯が入ってきた、いいっ、いいっ！」
　増永さんのお尻が跳ねているように見えるのだ。
　増永さんのモノが、おっ立ってきた。それは、直角のところまで。
　天井を向くほどではない。
　その９０度の仰角になってきたものを、亜矢さんがしきりに手で揉む。
「はぁ、いいっ、いいよ、いいよ。入れさせて、入れさせて」
「だめよ、だめよ」
「お願い、入れさせて、入れさせて、入れて、中で出したい」
「だめよ、だめよ、それだけはかんべんして」
　見ると、増永さんは、その閉じられた目から涙を流しているようだ。
　増永さんは、からだをかがめて、亜矢さんの股間に顔を埋めている。
「ア−ン、いや、いや、そんなことしちゃ、いやよぉ〜」
　増永さんは、亜矢さんにクンニをしているみたいだ。
「アーン、いやっー」
　寝ていた亜矢さんが、跳ね起きた。
「入れるのは、だめだって、言ったでしょ！」
　増永さんは、亜矢さんに叱られていた。
　増永さんは、萎れている。
　僕は、いい気味だと、思っていた。
　入れさせて欲しいなんて、なんて図々しい奴なんだと、僕は思う。

　しかし、増永さんは、つぶれたような目から涙を流しているのだ。どうしてそんな隙間のない目の間から涙が出るのか、僕にはわからなかった。しかし、確実に、増永さんの頬は濡れているのだ。
「お願いだ、お願いだ、いつ立つのかもわからない、今日は体調もよくて。こんなことはいつあるか、わからない。今日を逃がしたら、もう、わたしは一生できない」
　増永さんが、拝むように亜矢さんに懇願している。
「慎一さん、そのバッグを取って」
　亜矢さんの怒ったような声がした。
　僕は、亜矢さんの命令口調に従っていた。
　バッグを取ってきて、亜矢さんに渡す。
「コンドームはつけようね」
　亜矢さんが、優しそうに増永さんに言っているではないか。
　僕は、蒼白になった。座っているが、後ろにひっくり返りそうなぐらいに。
　しかし、僕は、反対する立場にないことだけがわかっていた。

　見ると、亜矢さんは、増永さんの股間のモノをいとおしそうに、指で揉んでいた。
　それが勃（お）っ立つ。
　亜矢さんが、袋を引きちぎり、コンドームをつけている。硬さが十分でないのだろうか、装填するのに、亜矢さんは苦労をしているみたいだった。でも、ようやく、根っ子にまで、コンドームの輪が嵌ったようだった。
　亜矢さんは、また、仰向けになった。
　増永さんの手が、亜矢さんの内腿や足のつけ根を揉んでいる。
　そして、指でクレバスを広げていた。
　増永さんは、上体をかがめるようにして、亜矢さんの股間に顔をつけていく。
　舌で、亜矢さんのクレバスをこじ開けている。
「あーん、ダメよ、ダメよ、そんなことしちゃ」
「でも、濡れてきたよ。濡れないと入れられないよ」
「ハァーン、ダメ、ダメ、ダメよ」
　亜矢さんは、僕の手をにぎってくれていない。
　僕は、僕の方から、亜矢さんの手をにぎっていた。
「いやっ、嫌よ！」
　亜矢さんが叫ぶ。
　それなのに、増永さんったら、足首を取って、亜矢さんの股間を大きく広げ、自分のからだを亜矢さんの股座に押し込もうとしている。
　しかし、亜矢さんが膝を閉じようにも、もう増永さんがからだを押し込めているし、増永さんの膝が当たって、無駄な抵抗になってしまっていた。
　亜矢さんの下半身が剥き出しにされている。そして、増永さんが再び、節くれだった指を亜矢さんのクレバスの奥に差し入れしていた。
　そして、増永さんは、片手を伸ばして亜矢の胸を揉んでいた。
　増永さんの股間のモノが、亜矢さんのクレバスに近づけられていく。
「アッ、いやいや、いいっ、いやいや」
　増永さんが、固い自分のモノに手を添え、その太いお○んちんの先っぽを亜矢さんのクレバスの入り口に当て、上下に動かしている。
「あっあっ、いい気持ちだ、亜矢、入れるよ、入れるよ」
「ダメダメ」
　ヌルッ！。
　あっ、入れ込んでしまった。
　僕は、一瞬、呼吸が止まる。
「アッ、アーン！」
　亜矢さんの手に力が込められた。
　増永さんは、亜矢さんの上半身に覆いかぶさっていく。そして、亜矢さんの乳首を口に咥える。
「あああっ、亜矢、亜矢、おいしいよ、おいしいよ」
「アンアン、いやいや、そんなこと、アンアン、ア―――ン」
　増永さんは、亜矢さんのわき腹のあたりに手を置き、からだをゆすっている。
　僕は、もう増永さんの行為を止める意思を完全になくしてしまっていた。
　それに何と言うことか、僕は、寝そべるようにして、下を見ていたのだ。
　確実に、増永さんのモノが、亜矢さんのクレバスの奥深くに差し込まれている。
　増永さんの背中が上下に規則正しく動いている。
　僕は、しかし、その接合点から目を離せない。
「亜矢、気持ちいいよ、いい、いいっ――」
「アーン、いやいや、どうにかなりそうよ、だめだめ、ダメーッ」
　増永さんの固いモノが引かれると、クレバスを押し包む襞肉がめくり上がる。
　しかも、増永さんのモノが差し入れされる度に、亜矢さんの谷間からは、何かねばっこいものが滲み出ている。
　増永さんの腰が、クイックイッと、小気味よく動いている。
　亜矢さんは、もう僕の手から手を離し、手を増永さんの背中に回していた。
　そのうち、クチャクチャという卑猥な音すら、僕の耳に届き始めてきた。
「亜矢、どうだ、どうだ、気持ちいいかい？」
「イイッイーッ、アン、イイわ、イイわ、アアアアッ、アッー」
　亜矢さんの腰が上下に動く。亜矢さんの上体は左右に揺れている。
　亜矢さんの顔を僕は見ていた。
　亜矢さんの眉間に皺が。目はしっかりと閉じられて。しかし、まぶたのあたりには苦しそうでいて、何か呆けたような、陶酔したような表情が看て取れる。
　僕は、もう亜矢さんの上に乗っている増永さんの体をはねつける必要はないのだと思った。
　亜矢さんの両足が、増永さんの腰にからみつく。
　亜矢さんの腰が、跳ね上がった。
「アッアッ、アアアア、アッ―――――ッ！」
　亜矢さんが背中を反らす。
「ウッ、ウッグゥッ―――ッ」
　増永さんが、亜矢さんの胸にしっかりとしがみついていた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（つづく）

（注）なお、この作品の創作にあたり、「セックスボランティア」（河合香織著、新潮社刊）を参考としましたので、おことわりします。