| （１５） 湾岸地区にある人の寄りつかない公衆便所内で、二十七歳の美人妻がワンピースの裾を腰まで引きあげ、ノーパンの淫裂を少年たちの前で露呈している。 高校生の杉田拓海は息を呑んだ。少しでも気を緩めたら腰が抜けてしまいそうだった。いや、すでに足腰が立たなくなっている。ほとんど床に這いつくばるような姿勢のままで、彼は、昔ピアノを教わったことがある年上の女の股間を眺めた。 無修正のアダルトＤＶＤに出てくる女の淫裂とはまるきり違う。肉唇の厚みも色素もひどく薄く、女性器特有のよじれもない。かわりに、無毛の肉丘全体が蕩けかけた飴のように光っている。それは、モノクロームの風景に忽然と咲いた真紅の薔薇である。 ここに男の勃起が埋没するのだと考えただけで、頭の芯がカッと熱くなった。しかも、ただの女性器ではない。彼にとっては特別な女の性器であり、肉体である。 自宅のリビングでピアノを演奏する彼女の姿が脳裏に浮かんだ。 久川真穂が得体の知れない魅力を持つ女だということは、彼も小学生のころから気づいていた。具体的に何かをしたわけではないし、されたわけでもない。ただ、彼女の体臭の甘さを間近で嗅いだり、ブラウスの胸元から覗く谷間を偶然に目にしたさい、不意に股間のあたりがむず痒くなることがあったのだ。そんなときは、ズボンの下の男根がいつも痛いくらいに膨張していた。 勃起の意味も理由も知らない子供にとって、それは大いにショックなことだった。自分は何か悪い病気なのではないか、と思ったほどである。 けれども、今は違う。幼いなりに性の知識も関心もあるし、女の肉体を知りたいという若い熱情もある。そして、そのための裸身が今こうして目の前にある。あの久川真穂が、あたかも献上品のようにノーパンの下半身をさらしている。 出会い系サイトではじめて名前を見たときも、彼女の顔が自然と頭に浮かんだほどだった。白い指で情熱的なショパンを奏でる女。小学生の彼を夜な夜な鬱屈とした気持ちにさせた、年上の美女。その女の淫裂を彼は目を皿にして熱視した。 これが女の人のアソコ……先生のオマ×コ……。 固唾を呑んだ拓海の視界を、黒い何かが遮った。それは親友の後頭部だった。息がかかるほどに顔を近寄せながら、大木はポツリと口にした。 「すごいや、本当にツルツルだ」 便器の蓋に片足を乗せたまま、真穂は軽い眩暈を覚えた。女の淫裂を嘲笑の目で射抜かれるのはつらい。だが、少年たちから崇拝のまなざしで見られるのは、もっとつらい。 恥辱から生じる痛みではない、性愛のための器官をさらしているというのに、視線しか与えられないことがつらいのだ。もどかしいのだ。 どうせなら見る以外のこともしてほしい。ふたつの口舌と四本の手で淫裂を苛めてほしかった。腰を揺らしてそれをねだってみたかった。また同時に、このまま視姦の刺激に浸っていたいという思いもある。彼らの視線が、じれったい愛撫にも似た性感を与えてくるのだ。 「まるで小学生みたいだな」 「うん、女の人のってこんなだったんだ」 「違うって、このお姉さんのは特別なんだよ」 「そ、そうなの？」 「大人のオマ×コはこんなんじゃないんだぜ」 大木の息が淫裂をくすぐる。どこか得意げな顔だった。 「形もグチャグチャだし、毛だってボウボウだしさ」 「じゃあ、先生は普通じゃないんだ」 子供の純粋さから生じた拓海の言葉は、真穂を傷つけた。 「ああッ、先生……すごいよ」 感嘆の息とともに拓海が首を伸ばそうとした拍子に、彼の肩が親友の肩にぶつかった。 咄嗟に大木は手を伸ばして、よろめきそうになる身体を支えた。その手が触れているのは、真穂の太腿だった。 偶然の接触はすぐに意志を秘めた愛撫となった。 「うわッ、ムッチムチだ……」 臆病な手は尻にもまわりこんだ。ＯＬ時代にいやというほど経験した痴漢の触りかたに似ている。 昔と異なっているのは、彼女がノーパンだということだ。 「ンゥ、だ、だめ……だめよォ」 ワンピースの裾が溜まっている真穂の腰がくねついた。そんなふうに素肌の尻を撫でまわされたら、淫裂も触ってほしいという欲求が生じてくる。 まだ遠慮があるのか、大木の指は尻や太腿を這いまわるばかりで、股間の周囲には伸びてこない。 そして拓海はといえば、何か言いたげなまなざしで彼女の顔と胸元を交互に眺めている。 「ねえ先生、オッパイも見たいよ」 「え……？」 「先生のオッパイ見たいよ」 それを聞いて大木も顔をあげた。指は太腿に触れたままだ。 「俺も見てみたいな、お姉さんのオッパイ」 「あン、み、見たいの？」 狼狽の下に嬉しさを隠した声だった。 「……いいわ、見せてあげる。でもね、その前に聞いておきたいことがあるの。拓海くん、わたしのことをほかの友達に話したりした？」 「ううん、大木には話したけど」 「だったら、わたしのことは誰にも言わないでほしいの。このことは三人だけの秘密にしてほしいの。いい？ ほかの友達には言っちゃだめ。それが守れるなら見せてあげる」 「うん、絶対に言わないよ」 「携帯の写真も見せちゃだめ」 諭す口調でそう言ったときには、もうワンピースの襟元に指がかかっていた。 前面のボタンをひとつずつ外す。花柄の布地が、高い乳房の弾力に負けて自然と左右に開いた。ブラジャーなどつけていない生の肉肌が揺れる。 「仕方ないから見せてあげる」 ボタンをすべて外したワンピースの布地は、もはや衣服としての役割を失った布切れにすぎない。 真穂は、邪魔なだけのそれを腕から抜いて、トイレの仕切りの壁にかけた。ひどく緩慢な動作だった。片足も便器の蓋に乗せたままだから、客を挑発したがっているストリップショーの女そのものにしか見えない。 「おおッ……」 ふたりの少年は口々に感動の呻きをもらした。 ツンと突き出た白い乳房に彼らの視線は注がれている。恐ろしく卑猥な眺めだった。乳房が猥褻なのではない、半屋外と呼ぶべき公衆トイレ内で全裸をさらしている女こそが猥褻であり、不貞そのものの行為なのだ。 そのことは真穂自身も強く感じている。しかし、自分を変態趣味の見せたがり女だとは思わない。 そんなものは男が定義すればいい話だった。そして、この少年たちの顔には罵倒や嘲笑の色など微塵もない。 「やっぱりブラジャーもつけてなかったんだね、お姉さん」 純粋な驚きと陶酔だけが張りついた顔で大木は言った。 「そうじゃないかって思ってたんだ」 「ああン、いつ気づいたの？」 「最初からだよ。なんとなくだけどね」 真穂は、身体が急速に熱くなっていくのを感じた。だとすれば当然、ほかの男たちにも気づかれていた可能性が高かった。大型バスの前で話す観光客の一団、電車内で向かいの席に座っていたサラリーマン、ティッシュ配りの青年。彼らにもノーブラを見抜かれていたのだろうか、もしやパンティも履いていないのでは、と思われたのだろうか。 けれども、後悔の気持ちは不思議と湧いてこない。男の注目を浴びることは、女にとって糧である。学生時代もＯＬ時代もそうだった。満員電車のなかで、プールや海水浴場で、胸や下半身に注がれる男たちの視線が嬉しかった。憤りの裏側に一抹の爽快感があった。 今は、宮内に放尿を見られたときと同じ緊張に包まれている。なのに少しも不快ではない。どころか、もっと見せたくなっている。乳房に股間に、白い肌のあらゆる部分に、視姦という名の賞賛を浴びてみたい。 気がつくと、ふたりの顔が乳房のすぐ前にあった。大木が口を開いた。 「さ、触ってもいい？」 真穂は目尻をほころばせる。それが快諾の笑みであることをすぐに悟って、彼は右手をそっと伸ばした。 「うわ……」 生ゴムで作られた果実のような弾力を指一本で押して、丸くなぞる。次には乳房の底を手のひらに乗せて、量感を確かめるように揺さぶった。Ｅカップのサイズよりもはるかに大きく見える膨らみが上下する。 「すごいや、ウチの姉ちゃんの三倍は大きいや」 「大木、そんなの見たことあるんだ？」 「脱衣所でたまたま見たのさ」 今度は五本の指で遠慮がちに揉み潰した。 「最高だよ、お姉さんのオッパイ。すごく柔らかいよ」 「ンンゥ、わ、わたしも……」 真穂は、乳房の上で蠢く指の動きをじっと見つめた。 「わたしも変になりそう」 「き、気持ちいいの？」 「だって、あなたがいやらしい触りかたをするから……」 照れ臭そうに笑う大木の横では、拓海が緊張の面持ちで揉まれる乳房を眺めている。 「ねえ、拓海くんも」 「え」 「拓海くんも触っていいのよ、このオッパイ好きにしていいの」 全裸の女に色っぽい声で促がされても、拓海は乳房に触れようとしない。まだ躊躇があるのか、伸ばしかけた手を何度も引っこめる。 「遠慮しないでいいのよ」 「う、うん……でも」 「なら、こうしてあげる」 真穂は、彼の頭に手をまわして乳房へと引き寄せた。 「先生……ン、ンうッ」 驚きの声を発したときには、もうマシュマロの肉肌に顔が埋まっていた。 すぐに彼は、乳首を口に含んで啜りはじめた。いきなりの容赦ない吸いかたである。もう片方の乳首にも大木が唇を押しつけた。 「ッああ……ン」 真穂の首が後ろに折れる。左右の乳首をふたつの口で吸われるという異様な状況に、頭の芯までジンと痺れた。また同時に、性感とは別の感動も覚えている。 授乳する母親の心情とはこういったものか、と思う。しかし、彼らは赤子ではない。もっとも情欲の強い年頃の少年である。その若い激情が微笑ましくて、屈託のないいやらしさが嬉しくて、彼女はふたりの頭を強く抱き寄せた。 「はァあン、す、吸って……もっとメチャクチャに吸ってえッ」 ありのままの欲求が声になった。 ふたつの乳首を同時に啜られているのに、性感の種類は微妙に違った。無我夢中なだけの拓海に対し、大木のほうは女を喜ばせようとする意志が働いている。乳首を舌で叩いたり、ころがしたりしてくるのだ。明らかに性経験のある男の舌づかいである。 けれども、どちらもいいことに変わりはない。異なる性感を同時に与えられているから、よけいに感じる。ふたつの乳房が、性熱と涎でドロドロになる。 不意に拓海の身体が大きく揺れた。 「先生、う、うあッ」 手加減なしの力で乳房を掴まれ、真穂の裸身も揺れる。そのまま熱情にまかせた愛撫がはじまるのかと思ったが、そうではなかった。本当に掴んでいるだけなのだ。 「やン、い、痛いッ」 拗ねた声で訴えても拓海は指を離そうとしない。 痛いのは真穂だというのに、拓海のほうが顔をしかめている。まるで、何かを必死にこらえているような感じだった。 まさか、と真穂は思った。情交の途中で男がそのような顔をする理由といえば、ひとつしかない。 何かを掴まずにはいられないほどの衝撃が彼の内部で起こっているのだ。 その異変を確かめたくて、覗き見したくなって、真穂は口を開いた。 「ねえ、拓海くん」 輝く目で少年の顔を見つめる。拓海はまだ息を乱したままだ。乳房を握った手も離そうとしない。 真穂は、彼の学生ズボンの股間へと目線を落とした。体臭とは別の濃い匂いがそこからたちのぼっている。 「わたしだけ裸だなんて不公平よね」 「え」 「拓海くんのも見せて、って言ってるの」 「見せるって、何を」 「これ……ここにあるもの」 ズボンの膨らみに人さし指を押しつけ、指一本で上下になぞる。それだけで拓海は少女のような声をもらした。乳房に指を埋めたまま、大木も息を詰める。 「脱がなくちゃあ何もしてあげられないわ」 そんなことを平然と口にする自らの大胆さに、誰よりも彼女自身が驚いた。 「だから、ね……いいでしょう？」 「で、でも」 「拓海くんのオチン×ン、見せて」 真穂は、便器の蓋に裸の尻を落とした。隠そうとする拓海の手を柔らかく退け、学生ズボンのベルトを両手で外し、ジッパーを引きおろす。 白いブリーフの一部が見えた。思った通り、濡れている。男茎の盛りあがりが透けて見えるほどだ。涎でテカテカと光る乳房が期待のために震える。 「ああッ……先生」 拓海は泣きそうな顔になっている。 「我慢して、わたしだって恥ずかしいんだから」 真穂は本心を口にした。恥じらいが情交の味を絶妙にすることは、すでに宮内から学んでいる。しかし、男の羞恥がここまで女の性感を揺さぶるものとは思わなかった。 真穂は、トロトロになった股間を少しでも隠すために腰を引いた。けれどもそれは、あまりにも無意味な防御だった。いや、防御のふりをした挑発の痴態である。便器をまたいだ足が左右に割れるばかりか、拓海の股間により顔を寄せる形になるからだ。淫裂に密着した便座の冷たい感触も、新たな性感をはこんでくる。 そのような姿勢のまま、彼女は拓海のズボンを膝までずりさげ、白いブリーフに両手をかけた。 プレゼントの包装を解く子供のような心境のまま、ゆっくりと引きおろした。草のような匂いがむわっとひろがり、鼻孔に流れこんでくる。それは、男のペニスから噴出するあの樹液の芳香である。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2008.8.27掲載 |
蘭丸さんの作品群→ |