| （１８） 尻割れの少し上の場所で見え隠れしているのは肛門だった。数本のしわが排泄孔に吸いこまれる形で消えていて、淫裂ほどではないが、色素も薄い。 肉唇は若い勃起を咥えてすっかりと充血している。そこを突きあげるたびに、肛門までがヒクヒクと蠢いた。結合部から垂れ落ちた愛液の糸も揺れる。杉田拓海の精液が混ざっているから、ひどく濁った色だった。そして、尻割れから会陰にかけての淡色全体が淫液で濡れ光っている。 大木は、左右の臀丘を掴んで女体を引き寄せると、そのまま両手を腰へと這わせた。少女以上にくびれたウエストである。風船のような量感の尻だから、よけいに胴まわりの細さが目立つのかもしれない。これは男に貪らせるための身体つきだ。 「お姉さんってすごいよな。お上品な顔のくせに、身体はこんななんだもんなあ」 これまで何度となく口にした「すごい」という言葉が、また大木の唇からこぼれた。細腰に沿って伸びた指が、揺れる乳房を掴んだ。 揉み潰しながら突きあげる。何度も腰を打ちつける。 「オッパイもオマ×コも最高だしさ」 真穂は首を左右に振った。年下の子供から身体的なことを罵倒されている。これ以上の屈辱はないはずなのに、勃起を挿入されたままでは、ののしりすら性感の一部だった。何を言われても、何をされても甘い声が出てしまう。 「俺もう癖になっちゃうよ」 「はあン、そ、そんなことより……もっと、ねえ、もっとォ」 「わかってるって」 大木の腰が丸く揺らめき、次に、小刻みに前後した。拓海の首にしがみついたまま、真穂は「あッあッあッ」と裏返った声を震わせる。かと思うと、反動をつけて強く勃起を打ちこんできたり、動きを止めて背骨を舐めたりしてくるのだ。 若さに似合わぬ熟練した性戯である。しかも、淫裂を突きあげているのはただのペニスではない。彼女の手首ほどもある極太の勃起である。 感じないわけがなかった。翻弄されているのが自分でもわかる。この勃起の虜になっている。真穂は枯れた喘ぎを繰りかえし、ときに大泣きの声を張りあげ、恥液まみれの裸身を延々と揺らした。そんな嬌態を見せつけられては、大木の射精感も急速に高まってくる。 「ああ、出そうだ……で、出るよォ」 乳房を掴んでいた指が離れ、汗に濡れた細腰を掴みなおした。直後、今度は別の指が乳房をそっと握った。 喘ぎのなかで真穂は顔を起こした。すぐに拓海と目があった。息がかかるほどの近さである。 「先生、すごくいやらしい顔になってる」 「あン、だめだめッ、見ないで、見ちゃだめなの……ッン、ンアアーッ」 恥じらいの声が途中でよじれ、牝獣の叫びへと変転する。膣内で起こった男茎の爆発と同時に、彼女もまた絶頂の高波にさらわれたのだった。 「ああッ、あ、あは……ッ」 開きっぱなしの朱唇から灼熱の息がこぼれる。吊りさがった眉毛が震える。アクメの淫色に染まった女の美貌を、拓海は濁りのない目でじっと見つめた。 最後の一滴まで精を注ぎ終えると、大木は、噴出してもなお長大な勃起を引き抜き、トイレの壁に背中を預けた。 精液の太い糸がネットリと引いて、女の尻から腿にかけてを汚した。その尻を色っぽく揺らし、真穂も虚脱した上体を拓海の肩に密着させる。股間を中心に、男女のおびただしい恥液が裸身じゅうに付着している。 まるで無数の水鉄砲を乱射されたようなありさまだ。もしくは、女の股から産み落とされたばかりの胎児である。生まれながらにして男を欲情させる肉体を持った淫魔の胎児だ。 「先生。僕、まだしたいよ」 精液に濡れた肌を押しつけられても、拓海はいやがりはしなかった。熱心に、あるいは何かを訴えるように乳房を揉んでいる。 「先生のオマ×コに入れたいよ、明日もしたいよ」 「明日は無理だわ」 「じゃあ、あさっては？」 「それは……まだわからないの」 「僕、もう先生なしじゃあいられないよ」 執拗にそんなことを言う拓海の心情は、真穂にも容易に理解することができた。性に対して何より貪欲な年頃である。情交を知った以上、もはやそれ以外のことは考えられなくなるに違いない。 だからこそ、真穂は一抹の不安を覚えずにはいられなかった。このままでは、彼らが第二の宮内になる危険性があった。 彼女の私生活に土足で踏みこんできて、関係を強要してくるのではないか。もしそうなったら、彼女はどうすればいいのか。 自分から誘った以上、彼らの要求を無下にするわけにもいかない。かといって彼らに肉体を与えつづければ、夫や宮内との関係が危ういものになる。では、どうすればいいのか。 「ねえ、先生」 真穂は、答えるかわりに拓海の乳首へと舌を伸ばした。ペロペロと舐めて、強く吸う。 「ああッ、気持ちいいよォ」 拓海は天を仰いだ。子供だから、感情よりも目の前の快楽を優先してしまうのだ。真穂はさらに腰から臍へと舌を這わせ、そのまま彼の勃起を口に含んだ。 不意に、彼女の尻がモゾリと動いた。大木が両腕を伸ばして細腰を引き寄せたのだった。太腿の奥に亀頭が当たる。 「ああン、まだするのォ？」 そう言いながらも真穂は自ら尻を浮かせ気味にした。 目先の肉欲に溺れているのは彼女も同じだった。しかし、いったん心に浮上した不安は消えることがない。この少年たちを説き伏せる手段はあるのか、宮内になんと釈明すればいいのか。慎一との夫婦関係はどうなってしまうのか。 さまざまな混乱と欲情をかかえた若妻の裸身が、ふたたび二本のペニスで貫かれた。 ☆ 公衆トイレの裏側にある石段をのぼり、高速道路の下の横断歩道を渡って駅前に出ると、宮内照彦はエレベーターを使ってショッピングモールの地下駐車場へと戻った。 運転席のシートに背中を沈めて、煙草に火をつける。地下駐車場に人の姿はなかった。エレベーターの横に段ボール箱の山が積まれている。 まったく。たいした女だぜ……。 乾いた笑みが自然とこぼれた。 先ほどトイレで用を足したさい、男の乱れた息づかいが個室内から聞こえてきた。あれは明らかに情交の荒息だった。ならば、相手の女は久川真穂をおいてほかにいない。 計画は予定通りに進んでいるといっていいだろう。むしろ順調すぎて怖いくらいだ。彼女がここまで淫にのめりこむとは予想していなかった。 つい先日まで強姦の恥辱に震えていたあの若妻が、今は、見ず知らずの男にやすやすと身体を与えるまでに淫化している。蛹から孵化した蝶のように、彼女の奥底にある女が生動をはじめているのだ。また、彼女が男子トイレで淫行に及んだことも幸運だった。 もしも女子トイレに入っていたら、あるいは、彼女が行為に及ばず帰宅していたら、せっかく仕掛けた隠しカメラが無駄になるところだった。もっとも、仮にそうなった場合は宮内自身が手をくだす腹づもりだったのだが。 しかし、何も僥倖ばかりというわけでもない。心残りもある。充足感と同時に小さな嫉妬もあった。彼にとって最高の女が、こうしている今も別の男に抱かれている。 メール相手の男は確か高校生だったはずだ。ならば、身も世も忘れて久川真穂の肉体に没頭するのは避けようのないことだった。若い性欲が尽きるまで挿入と射精を繰りかえし、あの縦筋のような淫裂を、絹白の肌を、男の毒液で埋め尽くすに違いない。 いくら彼自身の仕掛けた罠とはいえ、それは許されることではなかった。絶世的な美貌と肉体を備えた女、声や匂いまで恐ろしく魅惑的な女。あの若妻を好きにできるのは自分だけなのだ、彼女の所有権は自分にあるのだ。とはいえ、もはや後戻りのできる状況ではない。 この怒りは彼女の肉体にぶつければいい。非常識な性で久川真穂をとことん失墜させるのだ。そのための時間も口実もたっぷりとある。 あの様子だと、情交はとうぶん終わらないだろう。個室に仕掛けたスネークカメラとビデオレコーダーを回収するのは、そのあとでいい。 二本目の煙草に火をつけた直後、何かが窓ガラスを叩いた。 車の横に若い男が立っている。いつの間に歩み寄ってきたのか。 宮内は、運転席のウィンドウを半分だけさげた。 「すみません。火を貸してもらえませんか」 煙草を片手に男は言った。スーツ姿だが、サラリーマンというふうではない。かといって、水商売の男にありがちな軽い口調でもない。 一瞬だけ怪訝に眉を寄せたあと、宮内はウィンドウを全開にして、ライターの火をかざした。 「すみません」 男は軽く頭をさげた。その礼儀正しさが、宮内にはひどくよそよそしいものに思えた。几帳面の裏側に魂胆を隠した顔だった。 雰囲気や年恰好から察するに、警察関係の人間でないことは明らかだ。ならば、久川真穂が雇った私立探偵か何かか。宮内のなかに小さな緊張が走った。 「奥さんはお元気ですか」 ウィンドウをあげようとした矢先、男は口を開いた。 「奥さんって、僕のかい？」 「はい」 「きみ、前にどこかであったかな？」 「ええ、たぶん」 それが虚言だということは宮内にもすぐにわかった。 「僕は独身だけど」 「それは知ってますよ」 エレベーターから作業服姿の男が出てきた。段ボール箱を台車に乗せはじめる。軽自動車がフロントガラスの正面を横切った。 「あなたの奥さんじゃなく、色っぽいお尻をしたあの奥さんのことです」 灰皿に煙草を押しつけようとした宮内の指が止まった。 「僕、あのマンションに住んでるんですよ。十八階にね。半月ほど前に越してきたばかりですが」 「なんのことだかわからないな」 「安心してください、別にあなたをどうこうしようってわけじゃあない」 男の表情に敵意や挑発めいた色はなかった。涼しい目で宮内を見据えてくる。感情の読み取りづらい顔である。 「僕はあなたの敵じゃあない。むしろ味方、いや、同志といったほうがいいかな」 「……それを判断するのはきみじゃあないと思うがね」 「おっしゃる通りです」 「とりあえず乗れよ」 宮内は顎を揺さぶった。ここまで聞いた以上、彼をこのまま帰すわけにはいかない。 男の首から赤い紐が垂れている。ネックレスではなく、携帯用の灰皿だった。彼はそこに吸い殻を入れると、助手席のドアを開けて車内へと乗りこんだ。 |
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| 2008.9.17掲載 |
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