１．寝室

　小奇麗に飾られてはいるが、小さな豆電球に照らされ、秘め事に支障のない明るさだけが確保された夫婦の寝室。
　部屋の広さには大きすぎるダブルベッドの中央に、生まれたままの姿で寄り添う二人は、徐々に息を荒くして絡み合っている。
　乳首を咥える浩介の股間に手を添えていく奈保子。
萎えた陰茎が柔らかい手の感触にじわじわと頭を上げてくる。
「今日、とっても元気そう」
　いつになく素早い反応に笑みを浮かべる奈保子。
　浩介の手が奈保子の恥毛を超えて陰唇を分け広げようと、まどろっこしい手つきでまさぐってくる。
「あぁ…」
　一週間ぶりの秘め事に熟れた身体が身悶える。
「あなた、早くぅ〜」
　浩介の不器用な愛撫も、そこそこに奈保子は先を急がせる。
　怒り立った息子を軽くしごき、勃起を確認した浩介は奈保子の真っ白な腿を引き上げ二人の股と股を引き付ける。
　壺壁の潤みは陰唇まで届いていないのか、壺口を越えようとしない亀頭にもどかしげに腰を振る奈保子。
「あっ」
　切先が花芽を捕らえて突き上げる。
　浩介は唾を手にとり、穂先の膨らみに塗りつけると壺口へと押し下げた。
　ぬるっとした心地よい感触で怒り立った怒張が秘園の奥へ奥へと埋没する。
「あぁ〜」
　身体を重ねてくる浩介の背中に手をまわすと、浩介の腰の動きよりも早いピッチで腰を振る奈保子。
「あっ、あなた、いい〜〜」
　秘園に蜜を溢れさせ、壺口をググッの絞って気をやる奈保子、後はお任せとばかりに静かになって身をゆだねていく。
　浩介は、ひたすら満足のいくまで腰を振り付け、何度も気をやる妻の悶えに飽きたころ、ゴムを着けて射精のための腰振りでもう一度、気をやらせ、それに合わせて果てた。
　愛と信頼に包まれ思いのままに蠢きあう夫婦の秘め事。

２．誘惑

　翌朝のダイニングテーブルには、たっぷりバターを塗ったトーストと点てたばかりの香ばしい薫りのコーヒーに、ゆで卵が並んでいる。
「奈保子、今度の土曜日、二人で遊びに来ないかって、有川部長に誘われてるんだ」
「有川部長って」
　有川部長が誰なのか判らない奈保子。
「ほら、ソフトボール大会で挨拶しただろう。奥さんと一緒に…」
「ああ、あの方。平のあなたにお誘いなんてあるの」
　めずらしい話に訝しがる奈保子。
「平社員でも、有能な者には目を掛けてくれているってことさ」
「そお」
「チャンスだよ、チャンス」
・
　部長室に呼ばれた浩介が、かしこまった姿勢で大きな机の前に立ったのは、つい先日のこと。
　有川部長は社長の一人娘を嫁にし、次期社長を約束された人物。
　浩介は組織改正に合わせての昇進をちらつかされていた。
「伊沢くん、あの事、話はついたかい」
　有川は、稀に見る美貌と一目見ただけで股間が疼くような官能的な人妻、奈保子を貢ぐよう迫っていた。
「何も納得づくでって訳じゃない、機会さえ調整してくれればいい、うちの家に遊びに来るぐらいどおってことないだろう」
　高級な作りの威圧的な部長室に入った瞬間から緊張と共に萎縮した浩介は「はい」と返事をするのがやっとだった。
・
　部長の思いなど伝えられるわけもなく、奈保子はただのお呼ばれと思って、いつになくめかし込んでいる。
「りっはな、お家ねぇ」
　事情を知らない気楽な奈保子は、豪勢な作りの部長宅を観察している。
　浩介は、まとまらない思いを胸にチャイムを鳴らす。
　ピン〜・ポォ〜〜ン
　カチャという機械音のあと、静かに大きなドアが開く。
「いらっしゃい、お待ちしてましたのよ」
「お世話になります」
　普段着とは思えないほど着飾った部長夫人が、二人を玄関近くの応接室に案内すると、一度姿を消してワインクーラーと豪華にカッティングのされたグラスを手にして戻ってくる。
「私、アルコールは頂けませんの」
　二つのグラスを並べると、血の色よりも濃いワインを満たしていく。
「さあ、どうぞ。自分の家だと思って気楽にして下さいね」
「ありがとうございます」
　浩介と奈保子が口をつける。
　在り来たりの世間話に二杯のワインを空けたころ。
「主人が話があると申してます。…奈保子さんは少しお待ち頂けます」
　夫人は、浩介の手を引くようにして部屋をでていった。