第二章

「理子！なんかヘンやな？　」
「そう？　」
　正貴には携帯のアドレスも番号も知られている。どこでどうやって私を嗅ぎつけて来るかわからない不安が、あれから毎日続いて夜も眠れなかった。
　それを陽子は察知したのか、心配して声をかけてくれた。
「なんでもないの。最近バイトとかで疲れてるだけ」
「そっか。それならええねんけど」
　私は懸命に作り笑いをした。
「そや！理子も元気ない事だし、みんなで今夜飲みに行かへん？　もぉ嫌な事は忘れてパ〜っとやろ」
「フフ･･････そうね」
　私の笑った顔がどう陽子に見えたのか不安だった。
　陽子に連れられて来たのは、繁華街から少し離れた地下のスナックで、ブラックライトが白を強調するように浮かび上がらせていた。
　ボックスの席が三つ程あり、一番広い席に陽子と陽子の彼、それに私とクラスメイトの美穂が座った。
「あと二〜三人来るから」
　陽子の彼氏が私に笑って話しかけたが、カウンター席の男達の笑い声がうるさくてよく聞えなかった。
　ジョッキのビールが運ばれて、とりあえず乾杯という話になった時
「おまたせ〜〜」
　三人の男達が低い声をハモらせてやって来た。
「おいおい！ナイスタイミングだなぁ」
　陽子の彼氏が笑って男達を迎えると、その中にシュウの姿があった。
　シュウは陽子の彼氏と同じ某大学のサッカー部で、前に一度だけ誘われてコンパに参加した事で知っていた。
　まるでパーティーのような大人数のコンパだったのに、なぜかシュウの事は不思議と覚えていて、こうして改めて顔を見た瞬間、自分の意思とは無関係に胸がキュンと締め付けられたような気がした。
「カンパ〜〜イ」
　グビグビと男達が喉を鳴らしてジョッキのビールを半分以上一気に飲み干すと、まるで四重奏のようにプァ〜と同時に息を吐いた。
　その光景がおかしくて、私達は目を合わせて笑い転げた。
「理子にどうしても会いたい言うて、練習サボって来たんやて」　
　陽子が笑ってシュウを指差した。
　シュウが照れくさそうに私を見つめて
「ど、どうも･･････覚えてる？　」
「うん。覚えてる」
　私がニッコリと笑うと、相変わらず髪の毛を立たせたシュウが照れくさそうに笑い返した。
「理子さん胸大っきいすね〜」
　隣に座った丸顔の後輩が、二人の会話を遮るようにブラウスの谷間を覗き込んだので、私はあわてて胸元を手で押さえて恥ずかしそうに笑うと
「いいなぁ〜理子ちゃん、陽子なんて俺より小さいんだぜ」
　彼氏が陽子の胸を触ろうとして、アホ！っと頭を叩かれた。
　それがおかしくて、みんなが一斉に笑った。
「シュウは大きい胸好きだからなぁ」
「おいおい･･････」
「いつもエッチな話ばっかりするんやけど、好きな人の前では借りてきた猫やな」
　陽子がシュウの背中を笑いながらたたくと、人差し指を立ててシ〜と照れ笑いをした。
　一見軟派のように見えるが、みんなに気配りしながら話題も豊富で、人のお酒を作ったりする気が利く男だった。
　その後、カラオケボックスに行き、シュウはいつも隣に座って私に気遣ってくれた。
　安心するって言う言葉が適切なのかはわからないが、シュウとの時間は久しぶりにイヤな事を忘れて楽しく過ごせた。
　お開きって言う時に、陽子は彼氏のアパートに泊まりたいらしくソワソワしていたし、美穂はもう一人の後輩と気が合ったらしく、まだまだ飲み足りないので、もう一軒飲みに行くと張り切っていた。
　その向こう側でシュウは飲みすぎてフラフラになった丸顔の後輩の肩を抱きかかえ、私の方を遠目で見つめていた。
「今夜は楽しかった。ありがとう」
　私がみんなに手を振ると、シュウはちょっと寂しそうな顔をしていたので
「大丈夫？　一人で？　」
　シュウに問いかけると、少し不安げな顔で助けを求めているような表情になった。
「じゃ、私も一緒に彼を送り届けます」
　そう言って、私とシュウは両脇で丸顔を抱えると、心配そうに見守る陽子達に手を振り、駅までの道を歩き始めた。
「すみませんね〜酔っ払いで」
　後輩がトロンとした顔で私に会釈しながら、しっかりと彼のひじは私の胸に触っていた。
　男って酔っていても、そっちは別なんだなぁと思っておかしくなった。
「こいつ弱いくせに飲むんだよね」
「いいんじゃない、楽しくて」
　駅までの道のりをたわいのない話をしながら歩いて別れようとした時、シュウは後輩を駅のベンチに座らせ、真剣な顔つきで私の前に立った。
「酔ってるから言うんじゃないけど、もしも理子さんが良かったら、ボ、ボクと付き合ってくれませんか？　」
　半分息が荒かった。
　もちろん私には断る理由も無かったが、頭の片隅で正貴の事を思い出してうつむいた。
「俺の事･･････ダメかな･･････」
　正貴にはバージンを奪われただけ、考えてみれば行きずりの男に簡単に捧げてしまう女なんて掃いて捨てるほどいるはずだし、そんなものにこだわってもいられない。
「やっぱり無理か・なぁ」
　不安気な表情のシュウの目が不思議とおかしくて、私はフフ･･････っと笑ってしまった。
「あの、冗談じゃないよ！　マジだから」
　笑った顔を抑えて深く息を吸い込み
「私でよかったら･･････」
　今度は私がマジメな顔で応えると
「え？　マジで？　いいの？　ほんと？　」
　シュウは嬉しそうに何度も何度も聞き返し、私はそのたびに笑いながらうなずいた。

「夕べは楽しかったなぁ」
　陽子が眠そうな目で学校に来ていた。
「うん。でも家に戻ったの？　」
「あぁ、彼氏の家に着替え置いてあるし」
「下着も？　」
「うん」
「そっか、でも目がトロンとしてる」
「へへ･･････わかる？　飲むと性欲って倍増すんねんな」
　開けっぴろげな陽子は、本当に何でも私に隠さずに話してくれる。
「そや、シュウがメールで理子と付き合うって喜んどった」
「うん。私も好きだったし」
「あいつ気が利くやろ。女に生まれたらよかったってみんなで言うとんねん」
「あはは･･････」

　メールの着信があったのは週末の金曜日の夕方だった。
『先週はありがとう。夜また会いませんか？　見せたい写真もあるし、この前のラウンジで九時に待っています』
　それは正貴からのメールだった。
　せっかくシュウとこれからって時に、思ったとおりメールが来た。
　･･････しかも写真･･････
　そんなの撮った覚えがまったくないが、その文字を見た瞬間に、嫌な身震いが全身を襲った。
　ラウンジに居た正貴はジーパンに白のブレザーを着て、タバコを吸いながらブランデーを飲んでいた。
「もうやめてください。私もう･･････」
「おっかね〜顔だな。興奮しないで座れよ」
　穏やかな口調だが、その奥には脅迫に満ちた笑いがあった。
　正貴が上着のポケットから数枚の写真を出して私の目の前に置いた時、全身の血が引くのを感じた。
　それは携帯のカメラで撮ったのだろうか、間違いなく私の裸の姿だった。
「こんな事してどうするんですか？　」
　私の目を見ながらフンと笑いとばすと、一気にブランデーを飲み干し立ち上がった。
「さて、行くぞ」
　そう言って写真をまた胸ポケットにしまい込んで
「来る、来ないは君の自由だよ」
　ニヤリと笑うと一人で先に歩き出していた。
　この後、正貴が私をどうするのか想像はできた･･････でも、写真が気になって帰れない自分がそこに居た。
「オマエもスキもんだ。この部屋の、このベッドで俺に処女を捧げたんだよな」
　前と同じ部屋に入り、ソファーに座ると再びタバコに火をつけながら、思い出したように正貴は笑った。
「アナタが無理やり奪ったんでしょ！」
「フフッ、オマエは一生俺の事を忘れない」
　勢いよく煙を吐くと、大声で笑った。
「警察に訴えてやる」
「いいんじゃない！事情聴取とかで根堀葉堀聞かれて、そしてここに来て現場検証だ！　どうされたんですか？　貴方はどんな格好でしたか？　なんてイヤらしく聞かれたらいいさ」
「そんな･･････」
「それより、俺と気持ち良くしてた方がずっと幸せってもんだろ」
「鬼！　」
「フフ･･････鬼ねぇ」
　薄ら笑いを浮かべて立ち上がると、私の手をギュッと引っ張り、外の景色が見える大きな窓に私を押し付けると、ワンピースのボタンをはずそうとしていた。
「ほら、オマエの裸をみんなに見せてやれ」
「やめてください」
　背中のボタンがプチンと切れて、コロコロと床を転がる音がした。
「いいのかい？　写真ほしいんだろ？　」
　正貴は私のワンピースをずり降ろすと、黒のお揃いのブラとショーツを覗き込んでいた。
「今夜は黒か･･････」
　独り言のように言いながら、ブラのホックをゆるめ、肩紐を片方だけ腕の方に落とすと、ショーツをギュッと持ち上げて割れ目の中に食い込ませて笑った。
「やめてください！　」
「淫らな格好だな！　ほら、通りすがりの人に手でも振ったらどうだ？　」
　大きな窓ガラスに私の下着姿が映った。
　数階下に見える歩道には、何人もの人が歩いていて、おそらく見あげれば間違いなく私の存在には気づくはず。
　見ないで！　そのまま歩いて！･･････
　心の中でそう叫んではみたものの、正貴は私をイヤらしく耳元から首、乳首を嘗め回し、ショーツの上から指でクリの上を振動させていた。
「イヤ！　」
　食い込んだショーツから、淫らにはみ出したひだと陰毛がガラスに反射して見えた。
「食い込んだおま×こを下から見あげたら、もっとイヤらしく見えるかもな」
　そう言って、何度も膣が痛くなるほど食い込ませて笑うと、履いていたショーツを足首までズリ下げて、太ももの間から顔を埋め、陰毛に隠れたクリをいやらしい音をたてて嘗め回していた。
「みんな羨ましそうに見てるかもな？　ほら下の奴らを覗いて見ろよ！　」
　大きな窓ガラスに裸になって立っている女と、股間を舐める男。下から見れば、見られる事に快感を得ながらセックスをしているように見えるのだろうか？
　正貴は知らない内にズボンを脱ぎ、固くなったペニスを、私の頭を押さえつけて咥えさせた。
（この前と変わらない生臭い匂い･･････　）
　腰を振るたびに喉の奥にペニスが当たり吐きそうになった。
　しばらく動かすとその固いペニスを抜き、後ろ向きにさせて腰を持ち上げ、バックから私の中にそれをグイグイと押し込んで来た。
「あぁ･･････イヤ！　痛い！　」
「どうだ、イヤらしいだろう」
　正貴が動くと、それに合わせて乳房が大きく揺れて、まるで外を歩く人に見てくださいと手招きしているように見えた。
「お願い！言う事聞くから、やめて！」
　シュウがもしも下から私を見つけたら･･････そう思うと、怖くて仕方なかった。
　正貴は動きを止めると、私をベッドまで抱き上げて寝かせ、笑いながらそう言った。
「オナニーしてごらん」
「･･････」
「いつもしてるだろう！　」
「･･････」
「今、言う事を聞くって言っただろ！　写真バラ撒いてもいいのか？　」
「やめて！　」
「オナニーしてみろって言ってるだろ！　」
「したら返してくれるの？　」
「もちろんだよ」
（嘘、たぶん嘘･･････そんなのわかってる）
　どうせ写真をネタに飽きるまで私を脅し、もてあそぶに決まってる。
　わかってる。わかってるけど抵抗出来ない。
　仕方なく指を持って行くと、正貴はニヤリとイヤらしく笑い
「やれば出来るじゃね〜か」
　さっき入れたペニスのせいで、触ると痛かった。
「ほら！　指の滑りをよくするように一緒に舐めてやるよ」
　正貴は再び足の付け根に顔を埋めると、私の指の間に唾液を流し込んでは舌の先でクリを舐めていた。
「どうだ？　気持ちいいか？　」
　私がそこから指を離そうとしたり、動きを止めると、続けろと言わんばかりに睨みつけた。
「もういいでしょ！　」
　そう叫んでも動きは止まらない。
　舌先を割れ目の下から上にかき上げるように舐めたり、クリを小さく震えさせている感覚だけが閉じた目の裏側を伝わっていた。
早くこの時間が行き過ぎて欲しい･･････
　ずっとそう思っていたのに、どこかに油断があったのだろうか？　クリを触る舌先がス〜っと通過した時、一瞬だがオナニーの快感に似たものがあった。
「あっ･･････」
　意思とは無関係に声が出た。
　あきらかに今までとは違う感覚を、体が感じ取ったと同時に、さっきまでの恐怖感や緊張感が緩み、神経がそこに集中して次の快感を求めていた。
「気持ちいいだろ、すごく濡れてるぞ」
　膣の奥が熱くなっている。
　女のソレは、自分の意思とは関係なく反応するのだと初めて知った。
　正貴の舌の使い方が上手なのか、微妙に強弱をつけて舐め、クリに触るか触らない軽いタッチが、何度も体を反応させる。
「あぁ･･････」
「もっと感じさせてやるからな」
「あぁ･･････うぅ･･････」
　体がどんどんと勝手に反応している。
　舌の刺激に同調するように、体はジンジンとうずき、自然と自分の指が一番感じる部分を開いて、舌が入りやすいようにしていた。
　こんな男に抱かれてる自分が情けないと思っているのに、いつしか舐めて欲しくて指先に力が入っている。
　気持ちイイ･･････
　快感には勝てない自分がそこにあった。
　正貴の指が膣口を撫でるように触りながら徐々に入り込んで来ると、愛液がまるで奥に導くように滑らせて行く。
「あぁ･･････」
　と声が漏れた。
　指で膣奥の上部をソフトに小刻みに動かすと、クリを舐めている舌の動きと一緒に快感が襲い、だんだんと頭の中が白くぼやけさせて行くようだった。
「あぁ･･････ん」
　膣の中で小さな生き物が動いているようで、尿意をもよおしたのも束の間。
　太ももが痙攣し、息をする事さえ苦しいような感覚になり、全身はピクピクと意識に関係なく動いて、オナニー以上の興奮が私を襲い始めていた。
「あぁ･･････イイ･･････」
　正貴は空いたもう片方の手で乳首を挟み、下から上にイヤらしく揉み上げている。
（たまらない刺激･･････　）
　指も舌も動きが早くなると、それと一緒に快感は頂点へと高まり、急に私の体を閃光が走り抜けたようにド〜ンという刺激が襲った。
「あぁっ！　」
　腰に電気ショックを受けたような快感が、私の腰を浮かせた。
　さっきまでの心地良さとは違う、もっと大きな快感が私の体全部を包んでいる。
「あぁ･･････ハアハア･･････」
　誰かに呼吸を代わってもらいたいくらい全力で駆け抜けたような苦しさと、どこを触られても敏感に反応する私がそこにあった。
　何がどうなったのか、まったくわからない。　
　正貴はゆっくりと指を抜くと、私を抱くように体を上へと移動させながら、濡れた膣口からペニスを押し込んで来た。
「痛い！　」
　指とは違って膣全体に存在感があり、激痛が走った。
「あぁ･･････ん、うぅ･･････ん」
　痛さと気持ち良さが複雑に交差して、自分ではどうにもできない感覚。
「うっ！　イクぞ」
　私の体にしがみつくように抱きしめると、急に激しく腰を動かして正貴は果てた。

　エアコンの風が体を通り過ぎると、火照った体に気持ちよかった。
「どうだ、よかっただろ？　」
　私はそれには応えなかった。
「おま×こがまだヒクヒクしてるぞ」
　確かにまだ余韻のようなものがあって、体はグッタリとして動けなかったが、体のどこかに満足感が存在していた。
　犯されて、最初は恐怖心で一杯だったのに、舐められて、揉まれて、感じて、そしてとうとう初めてイカされた。

「写真･･････」
　帰り際に私がそう言うと、背広の奥から写真を取り出し素直に私に渡した。
「また会えるかい？　」
「無理やりしたって楽しくないでしょ！　」
　真剣な私の顔を見ながらニヤリと笑うと
「無理やりなのに感じてる女もいるじゃないか」
「それは･･････」
　私は言葉に詰まった。
「また会おう。もっと感じるようにしてやるから」
「もう絶対に来ません！　」
「そうか、じゃあ今度はオマエの部屋に行ってもいいんだよ」
「部屋？　」
「オマエのアパート、確か白壁で三階建て、部屋は二階の右端だったな！　」
「･･････」
　私は言葉を失ってしまった。
　この男は私の事をどこまで調べあげたのだろうかと不安が心をよぎった。
「来週またここで会おう！　」
　正貴はまた三万円を出して、立ちすくむ私のワンピースの胸元に入れた。