第三章

　陽子が美穂と一緒に飲もうと電話して来た。
「ちょっと聞いてよ！　」
　好きだと思っていた男が、ただのエッチ目的で美穂に近づいた事に腹を立てていた。
　美穂は一夜限りの女だったのだろうか？
　どこかのコンパで知り合った男に惚れて、飲んだ勢いで抱かれたんだろうと思った。
「男なんてみんなそうや。アソコと心は別物なんや！　」
　陽子が呆れたように、ため息をつきながらそう言った。
　この店はレトロな感じで落ち着いている。
　陽子が指定する店はいつもこんな感じで、恋人同士で来るには最高の雰囲気がある。
　私は木目の梁からぶら下がった天井のシーリングファンの回転をずっと眺めながら、二人の会話を遠いところで聞いていた。
「ねえ、理子！　何ボ〜ッとしとんの？　」
「え？　」
「最近何かヘンやわこの子」
　陽子の言葉に美穂が反応して
「どうしたの？　理子」
「ううん･･････別にどうもしないわよ」
「そのどうもしないって言うのが、どうかしてんねん」
「いいじゃない。好きって思える男に抱かれてエッチしたんでしょ？　だったらいいじゃない」
　いきなりの私の言葉に二人は顔を見合わせて
「はぁ？　」
　二つの声が一緒になって私を見た。
「なにかあったんとちゃう？　」
「相談に乗るよ！　」
　心配そうな二人の顔を見ながら、私は
「あはは･･････何にもないって！　」
　そう笑い跳ばした。

　駅ビルのショーウインドでブランドもののバッグにふと足が止まった。
　もう何回正貴に抱かれただろう･･････
　最初のうちは燃やしていたお金も、最近では机の中にしまって、もう十万を超えている。
　そのお金で買おうかと半分悩んでいた。
「それ欲しいの？　」
　後ろから急に声をかけられて、驚いて振り返るとシュウだった。
「買ってあげたいけど、無理だなぁ」
「あたりまえよ。学生なんだから」
　シュウは家庭教師のバイトをしていて、ちょうど帰り道に私を見つけて声をかけたと言っていた。
「食事でも行こうか？　」
「いいの？　」
「うん。おごるよ。久しぶりだし」
　付き合おうと言ったあの飲み会以降、電話やメールは毎日してはいるものの、シュウはサッカーの試合と練習で、デートというデートもしていなかった。
「ここ美味いんだぜ！　」
「あら！　いらっしゃい！　」
　店の中から女将らしき太った女性がシュウを見て笑った。
　裏路地にある食堂は、まるでテレビドラマに出てくるように庶民的で、労働者や学生で賑わっていた。
　シュウが手渡してくれたメニュー表には、どんぶりものの定食が中心で、周りの人達はわき目も振らずにガツガツ食べている姿が、生きる糧を補ってる戦士のように見えた。
「あ！　イヤだった？　こういうところ」
　戸惑ったような私に気が付いて、シュウは申し訳なさそうに小声で言った。
「ううん」
「ゴメンな！　カッコつければ良かったんだけど、俺にはオシャレな店って似合わないし、いつもの店の方が落ち着くんだ」
　真っ黒に日焼けした顔から、白い歯が浮かんで凛々しく見えた。
「何にしましょう」
　女将がニヤニヤと笑いながら
「いいね〜若い人は･･････」
　照れくさそうにシュウが笑い返すと
「俺はカツ丼で、理子ちゃんは？　」
「う〜ん、じゃあ私も」
　そう言って二人顔を合わせて笑った。
　こうして同じ時間を共有できる事が、とても嬉しかった。

「あぁ〜お腹いっぱい」
「あはは、あそこ男向きだから量あるのに、
　無理して全部食うから」
「あ！　あれ･･････」
　シュウは私が指差した露店の店に目をやった。
「ほら、この指輪かわいい」
　外人の店主が、その小さな赤いハートが並んだカワイイ指輪を渡して見せてくれた。
　私はそれを右の薬指に入れてシュウに見せると
「いいねぇ。それ似合うよ」
　シュウの笑顔が私のすぐ横にあった。
　しばらく手をかざして左右に動かしながら見つめて抜こうとすると
「いいよ！　そのままで」
「あのぉ、これください」
　そう言ってポケットから財布を取り出し、私の方を見つめてニコニコしながらお金を払ってくれた。
「ありがとう」
「いいんだよ。付き合ってくれたお礼さ。ブランドのバッグとは比較にならないほど安物だけどね」
「ううん。とっても嬉しい」
　私はその指輪を何度も見つめては、シュウと目を合わせて笑った。
　駅までは二〜三分なのに、十秒くらいでついてしまったような感覚があって、しばらく駅の端で立ち話をして帰ろうとした時、シュウが私の腕を急に引き、私はその厚い胸元に引き寄せられるような格好になった。
「理子ちゃん･･････」
　シュウの腕が恐る恐る私の腰にまわり、そしてしっかりと抱きしめると、真剣な目で私を見つめてそっと唇を重ねてきた。
「あぁ･･････」
　通行人が横目で見ながら通り過ぎて行くが、逃れようにも逃れられない一瞬の出来事と、恥ずかしさよりも嬉しい気持ちが勝り、そのまま抱きしめられていた。
「まだ一緒にいたいよ」
　シュウが耳元でそう言った。

　シュウのアパートは、部屋は小さいが小奇麗に片つけられて、男の雑然とした部屋を想像していた私は少しビックリした。
「キレイにしてるのね」
「何も無いだけさ」
　南側に一つだけある窓からは、西武線の電車が家と家の隙間を通過して行くのが見えた。
「コーヒー入れるね」
　そう言ってシュウは小さなガスコンロにやかんをかけた。
「あ！　私がやるわ」
　シュウの横に立ってインスタントコーヒーにお湯を注いでいる時、私の背中にシュウの温もりを感じた。
「理子ちゃん･･････」
　耳元にシュウの息がかかり、そっと私の背中から抱きしめようとしていた。
「危ないよぉ〜」
　私が驚いた顔でやかんをガス台の上に置くと
「ごめん･･････」
　シュウの困った表情がおかしかった。
『うぅん』と首を横に振って、私が目を閉じると、シュウはそっと私を抱きしめて、唇を重ねてきた。
　コーヒーの大人っぽい香りが部屋の中に漂い、シュウに初めて抱かれる喜びと、安心感が私を包んでいた。
「好きだよ。理子」
　うなずく私を再びギュッと抱きしめると、自分がいつも使っているベッドに軽々と抱きかかえて運び、重なるように横になった。
「電気消して･･････」
　固くなったペニスの膨らみを私に見つからないように手で隠して、電気を消そうと腰を少し引いて立ち上がる姿がおかしくて、ついつい笑ってしまった。
「何がおかしいの？　」
「フフ、なんでもない･･････」
　幸せってこういう事なんだろうか？
　耳元で何度も繰り返すシュウの告白に、子宮の奥が熱くなって行くのを感じていた。
　息が出来ないくらい長いキスをしながら、片手でブラウスのボタンをはずすと、ピンクのブラの上から、私の胸をいとおしむように揉み始め、そしてキスをした。
「あぁ･･････ん、うぅ･･････ん」
　自分が求めていた感覚が、ここにはあった。
「好きだよ、理子」
　ジーンズのホックをはずして、脱がそうとした時、自然に腰を浮かせた私が居た。
（初めてシュウに抱かれる･･････　）

　シュウの指が私のショーツにかかった時、体じゅうがゾクゾクして鳥肌が立った。
「理子･･････」
　指が割れ目に沿って上下に触れると、今まで溜まっていた愛液が一気に流れ出し、ショーツに染みて来ているのがわかった。
　あぁ･･････恥ずかしい･･････
　目を閉じて、小刻みにショーツの上で動かす指に集中すると、全身の力が自然に抜けて、自分から足を開き出していた。
「あぁ･･････ん、うぅ･･････ん」
　感じるたびにシュウのガッシリとした腕や背中に抱きついて声をあげると、そのたびに優しい言葉と一緒に唇を重ねてくれた。
　シュウはそっとショーツの間から指を忍び込ませ、愛液でたっぷりと濡れた私の膣口の間を器用に触り始めると、腰を浮かせて感じてしまう私が恥ずかしかった。
「理子！　」
　何度名前を呼ばれたんだろう。
「あぁ･･････、気持ちイイ･･････」
　シュウの唇が首筋から胸へと移動し、陰毛に隠れた膣口を舐め始めた時、シュウの固いペニスは私の目の前にあった。
　私はそれを右手でしっかり握ると、上下に擦りながら躊躇する事無く口に咥え、舌をクルクルと器用に動かすと、シュウが小さなうめき声を発し、負けないように私の膣を丁寧に舐めまわしてくれた。
「あぁ･･････、気持ちいい･･････」
　静まり返った部屋の中に、いやらしく舐める音だけが響いていた。
　シュウは私の足を開かせると、おしりの方に流れるほど濡れた膣口から、固くなったペニスをゆっくりと挿入して来た。
「うぅぅ、痛い･･････」
（反射的に言った言葉。）
　本当は大して痛くなんかない。
　その言葉に驚いたのか動こうとした腰を止めて、私の体をいたわるように抱きしめ一言二言声をかけてくれた。
「好きだ！　」
「う･･････ん！　」
　声にならない声で返事をするのが精一杯だった。
　シュウの匂いがすぐそばにあって、そして体は一つに結ばれている･･････
　ゆっくりと腰を動かすと、愛液が潤滑油になって、なんの抵抗も無く滑らかに私の中を上下し、私はその間シュウのものを意識して感じていた。
「あっ･･････あっ･･････」
　好きな人のものが、今自分の中にある。
「気持ちいいかい？　」
「うん。いい･･････あっ、あぁ･･････ん」
　感じるというより、このままずっと居たい思いでいっぱいだった。
「あぁ･･････イキそうだよ」
　目の前にシュウの汗ばんで緊張した顔が、私を見つめていた。
「うん･･････」
　シュウの目を見てうなずくと、さっきよりも早く腰を動かすシュウの額から、汗が私の顔に落ちた。
　その一瞬、閉じた瞳の中に正貴の顔が浮かんだ。

（こんな時に･･････　）

　あわてて目を開けてシュウの顔を確認すると、『うっ！　』という声と同時に、勢い良く膣からペニスを抜き、私のお腹の上に射精するシュウの姿があった。
（なぜ正貴なんか･･････　）
　額からこぼれ落ちた汗が、どこか正貴と似ていたからだろうか？
「ごめん、先にイッちゃって･･････」
「うぅん･･････」
　シュウが再び私を抱きしめて唇を重ねて来た時、私はすでに興奮から冷めていた。
「初めてだった？　」
　私は何て応えたらいいのかわからずに、シュウの目をじっと見つめた後、その首に腕をまわして自分から抱き寄せてキスをした。　

『着信音･･････　』

「携帯･･････鳴ってるよ」
「うん。いいの･･････」
　私には誰かわかっていた。
　シュウをしっかりと抱きしめながら、背中に廻した指をかざして、さっき買ってくれた指輪をじっと眺めていた。