アルバイトも無い火曜日の午前。 家の前の外廊下を掃除していた乃梨子は、隣家の田端夫人に声をかけられた。もう７０近い夫人は、車椅子の夫との二人暮し。介護の愚痴も溜まるのだろう。乃梨子は時々彼女の話し相手になっていた。 「それで、とにかくもう大騒ぎだったのよ」 今日は、いつも行く病院へ行く道が工事中で、遠回りしようとしたところで田端氏の機嫌が悪くなった…という話が、かれこれ１５分近く続いていた。 「それは大変でしたねぇ…」 相槌を打ちながら、乃梨子は話を切り上げるタイミングを図っていた。 「そうなの、大変だったのよ。大変って言えばね、聞いて頂戴。乃梨子さん」 夫人の話は終わりそうにない。 あと５分はお付き合いしようと覚悟を決めた時、廊下の端の７０５号室の扉が開くのが目に入った。 （………ぁ……工藤さん……？） 背の高い壮一郎の姿が見えて、胸が、トクンっ…と高鳴った。 ジーンズに綿シャツ、カーディガンを羽織っているところを見ると、仕事は休みなのだろう。 夫婦交換の夜から、十日が経過していた。 その後はじめて見る彼の姿に、自然に俯き顔を赤らめてしまう。 急に自分が薄いタートルのセーターとジーンズだけの姿で、化粧もしていないのが気になりだす。 「それでね、新しい車椅子なんだけど……」 田端夫人が話していることが、全く耳に入らなくなっていた。 「どうも、こんにちは」 壮一郎は、乃梨子達の横を通りかかると足を止めた。 「井戸端会議ですか？」 にこやかに笑みを浮かべ挨拶をしてくる。 「こんにちは。工藤さんは今日はお休みなの？」 田端夫人が挨拶を返す傍らで、乃梨子はぺこりと軽く頭だけを下げた。 「いえ、今日は午後から出勤です。けっこう時間が不定期な仕事なんですよ。ご主人は、お元気ですか？」 壮一郎は、如才なく田端夫人に話を合わせる。それなりに近所づきあいもしているようなのが、意外だった。 田端夫人は新しい車椅子について話を続け、壮一郎が頷きながら相槌を打ってくれるので上機嫌なようだ。 壮一郎と同じ会話の輪に居るのは苦痛だった。 （そろそろ切り上げて家に帰らなくちゃ…） 乃梨子が、家に入るチャンスを伺っていると、 「何か鳴ってるみたいですよ？」 壮一郎が乃梨子の家の方向を指差した。 低い電子音が聞こえる。 「あぁ…」 最近、パン焼き器の調子が悪いようで、焼き上がりを知らせるブザー音が大きい。「止めて来ますね。じゃあ田端さん、また。工藤さんも、失礼しますね」 救われたような気持ちになり、田端夫人と壮一郎の双方に頭を下げると自宅へ戻る。 家に入ると、ほうっと溜息が零れた。思っている以上に緊張していたらしい。 （田端さんが居てくれて良かった……） もうあの男とは関わり合いたくない、関わってはいけないと思った。 キッチンに入りミトン型の鍋つかみを使って、焼き立てのパンを取り出す。 芳ばしい香りを吸い込むと、幸せな気分になる。 （紅茶でも淹れてひと休みしようかな） のんびりと考えた時、 「へぇ、自宅でパンも焼くんですね」 すぐ近くで声がして、乃梨子は驚いて飛び上がりそうになった。 振り返るとリビングの壁に凭れ、ニヤニヤと笑みを浮かべた壮一郎が立っている。 （……！？……やだ…どうして？） 乃梨子に続いて勝手に入って来たらしい。 「他人の家で何してるんですかっ」 一瞬の驚きが収まると、あまりのずうずうしさに腹が立つ。 「何って……この間約束したでしょう？」 壮一郎が一歩前に出たので、 「約束？」 聞き返しながら、乃梨子は一歩後ずさる。 「うん。俺の奴隷になるって」 「そんな約束、してません」 そう広くは無いリビングルームで、逃げるにもすぐにテーブルにぶつかった。 「そうだっけ？でも、期待してただろ？」 壮一郎が、顔を寄せて来る。 「いやっ」 避けようとして、顔の前に出した手首を掴まれてしまう。 （いや……もう……いやっ……） もう二度と、雅史以外の男に抱かれたくはなかった。 身体を屈めた壮一郎に、耳朶を軽く噛まれる。 「やっ……お願い……っ…」 身体が疼く。 （こんな…自分の家で………いや……） 毎日、雅史と自分の生活が営まれているこの家で犯される。 その予感は、とても恐ろしく、とても甘かった。 「お願い？希望の体位でもある？」 抱き寄せられる。 （いやよ……だめ……どうして……） 溢れる。 壮一郎に触れられるだけで、どうしようもなく蜜が溢れてくる。 「やめてっ……」 両手首を掴まれたまま、乃梨子はもがいた。 もがく乃梨子を引き寄せ、耳から頬へ舌を這わせながら、壮一郎が囁いた。 「乃梨子は無理矢理されるの好きだよな。ここ、もうびしょ濡れなんじゃない？」 片手が、ジーンズの上から乃梨子の股間をまさぐる。 「っ…やめて下さい……ほんとに……」 厚い生地の上からなので、愛撫の感触が肌に伝わる訳ではない。 伝わらないもどかしさが、逆に官能を煽る。 自由になった片手で懸命に壮一郎の身体を押し返す。 「だめだ……奴隷は素直に言うことを聞け」 低く命令すると、壮一郎が唇を重ねて来た。 「んぅ……ぅ……」 噛み締めた乃梨子の唇の上を、壮一郎の舌が這う。 （だめ………力が……抜けちゃう……） ゆっくりと、壮一郎の舌先が唇を辿って動く。 舌先を、絡ませたい。 ふいに生まれた衝動が、乃梨子の理性を麻痺させていく。 ゆっくりと唇を開く。 壮一郎の舌が侵入してくる。 乃梨子の舌は、壮一郎を迎えるように緩やかに蠢いた。 ※ ※ ※ 乃梨子の舌が、おずおずと応えて来る。 （堕ちてしまうと、つまらないんだよな） 両手を乃梨子の背中に回して抱きしめながら、壮一郎は勝手なことを考えた。 ひとしきり柔らかな唇を貪ったあと、頬から首筋へ舌先を這わせていく。乃梨子に本気で抵抗する気は無くなっているようだった。 「……いや………だめ……」 微かに嫌がる言葉を発してはいるが、壮一郎を押し返して来る手は力無い。 「寝室は、どこ？」 セーターの上から乳房を揉みながら尋ねると、 「え……っ……」 乃梨子が顔を顰めた。 （ふぅん…夫婦の寝室でやるのは抵抗があるか？） それなら面白い…と、乃梨子の身体を抱き上げる。 「……っ…」 乃梨子が小さく息を飲む。 同じマンションであるから、壮一郎の家と似たような間取りだろう。 恐らく…と当たりをつけて開いたドアは、予想通りベッドルームだった。 中央に置かれたダブルベッドは寝乱れてはいなかったが、二つ並ぶ枕の上にそれぞれパジャマが畳まれて乗っているのが生々しい。 サイドテーブルに、旅先で撮ったらしい夫婦の写真を入れた写真立てと、ウェディングキャンドルというのだろうか、金色の文字が入ったキャンドルが飾られている。英文で書かれた愛の誓いの言葉をちらりと読み、壮一郎は皮肉な笑みを浮かべる。 「待って……ここは……いや……工藤さん……」 乃梨子の言葉は無視して、掛け布団を捲り、華奢な身体をベッドに投げるように下ろす。 ベッドサイドの椅子にかかるバスローブが目に入った。 「ちょうどいい物があった」 壮一郎はローブの腰紐を手にすると、ベッドの上の乃梨子を見下ろした。 「……ぇ……」 壮一郎の意図を察したのか、乃梨子がベッドの上で上半身を起こす。 「…っと、そのまま起きないで」 声をかけると、起きかけた乃梨子を押し倒し、腰の上に馬乗りになる。 「ぁ……いやっ……やっ…っ…！」 乱暴なやり方に、乃梨子の表情が怯えたものになる。 手足をバタバタさせるが、壮一郎の体重を跳ね返すことは出来ないようだ。 「こういうの、興奮するだろ？」 暴れる両手をまとめて万歳させると、腰紐を使って乃梨子の頭の上で縛っていく。 「……いや……こういうの…いや……っ…」 乃梨子は目に涙を滲ませ、懸命に首を左右に振っている。 「痴漢とか、犯されるのとか、大好きじゃないか？」 「……好きじゃないですっ………解いてください……お願い……」 声が震えている。 真剣に怖がっているらしいことに、壮一郎は満足する。 セーターを押し上げると、黒いハーフカップブラに包まれた小ぶりな乳房が現れる。 「ふぅん…けっこう厭らしいの着けてるんだな」 壮一郎が呟くと、乃梨子が顔を赤くして、身体を大きく捩った。 「やっ…いや………」 バタつく脚を押さえながらジーンズを脱がせる。 乃梨子は、両サイドを紐で結ぶタイプの黒いＴバックショーツを穿いていた。 この卑猥な下着を見せたくなくて、激しく抵抗したのかと思い当たって、壮一郎はニヤリと笑った。 「このエロい下着で、痴漢でもされに行くつもりだったのか？」 ブラを軽く引っ張るだけで、乳房が零れ出る。 ピンク色の乳首がツンと上を向いている。 「あぅ……そんなんじゃありません」 セーターを押し上げられ、ブラからは乳房が零れ出、厭らしいデザインのショーツを穿いているのに、足元は白いソックスなのがアンバランスだった。 「変に全裸より厭らしい眺めだぞ」 つぅ…っと指先で鳩尾のあたりを撫でる。 「んっ…ぅ…」 乃梨子の身体が波打つ。 ベッドが揺れる。 「この前、だんなとやったのはいつ？」 質問をしながら、壮一郎の指先は乃梨子の腹部を這い回る。 「…っ…ぁ……んっ……いやっ…」 びくっびくっと白い身体がしなる。 「いや、じゃなくて、いつかって聞いてるんだけどな？」 指は触れるか触れないかの微妙なタッチで、乃梨子の乳房を一周する。 「はぁ……ぅ……」 白い双丘の先端で、乳首が硬く勃ち上がっている。じりじりと指先を近寄らせては、また丘を下らせることを繰り返す。 「んっ……ぁ…んっ……」 少しずつ焦れて来たのか、乃梨子の発する声が甘く変わる。 何も声をかけずに、同じ動きを繰り返して乳房に触れる。 「ぁぁ……っ……はぁ……いやぁ……」 乃梨子が、切なげに見上げてくる。それでも変わらずに、ゆっくりと腹から乳房に指を這わせる。 「で、いつ？」 もう一度尋ねると、 「んっ…ぁんっ……昨日……です…」 身体を捩り、やっと乃梨子が答えを口にする。 「このベッドで？」 まだ、指先は乳首には触れない。擽るように乳房の上で円を描く。 「……んっ……んっ……ここで…です……」 乃梨子が頷く。 「どんな体位でやったのか説明してみな？」 問いかけながら、乳首を軽く弾いてやると、 「んくぅっ……っ…」 乃梨子は、胸を突き出すようにして仰け反った。 「そんなに感じるか？だんなとやったベッドの上で、他の男に弄られて」 いきなり左右の乳房を鷲掴みにして、荒々しく揉みしだく。 「ぁ……ぁぁ……や……いやぁ……」 乃梨子が激しく首を横に振る。 「ほら、説明してみろ。前からか？後ろからか？乃梨子は変態だから、だんなも大変だろうな」 きつく、乳首を捻り上げる。 「ぅ…ぁ……痛ぃ……っ……後ろから…ですぅ……」 「後ろから、牝犬みたいにハメられてるのか」 身体を寄せ、尖って上を向いている乳首に歯を立てる。 カリッと軽く噛んでやると、 「ぁぁっ…ぁんっ……んんっ……」 乃梨子の身体が面白いくらいびくんと跳ねた。 「だんなは１回で終わるのか？」 片方の乳首を指先で捏ね、反対の乳首を吸い上げる。 「はぁ……ぁぅ……昨日は……２回……」 次第に、乃梨子は素直に質問に答えるようになっている。 「二度目は？どんな体位で？」 壮一郎がショーツに手をかけると、協力するように腰を浮かせて来た。 「二度目は…あたしが……上に……はぅ……」 脱がせたショーツは既にぐっしょりと濡れていた。 「おとなしそうな顔をして、夜はだんなに跨って腰を振ってるんだ」 わざと厭らしい言葉を使い、掌を乃梨子の腿に這わす。 なめらかな肌に手を滑らせていると、乃梨子の脚がゆるゆると開いては、慌てたように閉じあわされる。 （もうびしょ濡れだからな） 苦笑して、腿を撫で続ける。 「ん……ぁぅ……」 乃梨子が腰をもじつかせる。 膝裏から脚の付け根まで、じわじわと指を動かす。 決して濡れそぼっているところには触れずに、腿の上を往復する。 「んぁ……あぁ……はぅ……」 腿を撫でながら視線を合わすと、乃梨子は眉根を寄せてイヤイヤと首を振った。 からかうようにリズムをつけて白い肌の上で指を踊らせ、柔らかな茂みに覆われた恥丘に触れ、手を離しては乃梨子の目の前に差し出す。 「どこを、弄って欲しい？」 長い指を曲げ伸ばしして見せる。 「………んぅ……いや……」 壮一郎の指を見つめる乃梨子の瞳が、とろんと潤んでいる。 指先を近づけると、乃梨子は唇をうっすらと開いた。 その隙間に、人差し指と中指を挿し込んでやると、子どもがおしゃぶりをしゃぶるように乃梨子の唇が吸い付いて来た。指の周りを、柔らかな舌が這い回る。 「ん……んん……」 指を引き抜き、また挿し込む。 ちゅぷ……ちゅぷ…… 目を閉じ、小さな水音をたてて、乃梨子が指をしゃぶる。 時折、閉じ合わせた脚をもじつかせている。 （フェラも上手そうじゃないか） 「もう欲しくなったのか？」 乃梨子の唾液に塗れた指先を、胸から脇腹、肝心な部分へは触れずに腿から膝裏へと動かしていくと 「ぁ…ぁぅ……もう……ぁんっ…っ」 乃梨子が細い悲鳴のような声をあげた。 「どうした？」 瞳を覗き込む。 「はぁ……ぁぅぅ………中……に……」 欲情に掠れた声で、乃梨子がねだってくる。 「どこの中に？」 更に言葉を促すと、 「ぁぅ…………」 必死に首を振っている。 「言えないんなら、入れて欲しいところを大きく広げてみろ」 脚の付け根だけを執拗に責め続ける。 しばらく続けるうちに、そろそろと乃梨子の脚が開き始めた。 思わず、くっと喉の奥で笑ってしまう。 壮一郎は開き始めた乃梨子の膝を両手で押さえ、大きくＭ字に開かせる。 「ぁっ…ぁぁっ…」 息づくように震える紅色の秘所が露になる。溢れた透明な愛液がアナルにまで流れているのが丸見えだ。 「しばらくそのままでいろ。閉じるなよ」 言い渡すと、壮一郎は恥ずかしい姿勢のままでいる乃梨子を眺めながら、服を脱ぎ始めた。 |
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| 2009.5.2掲載 |
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