その日雅史は、クリスマス用の飾りがトッピングされたケーキを持って帰宅した。七恵と出逢って以来、何度もあの洋菓子店に寄っている。乃梨子の好きなタルトがあるからと言い訳しながら、再び七恵と逢えることを期待しているのは自覚していたが、そう都合の良い偶然は起こりはしなかった。 「お帰りなさい」 出迎えた乃梨子の表情が硬いことに気付かず、 「ただいま。はい、お土産」 雅史はケーキの入った小さな紙袋を手渡した。 「あ…ありがと。あのね、雅史さん……」 「ん？」 コートを脱ぎながら聞き流していたが、 「……お客様が……」 「ん…？お客さん？」 ようやく乃梨子の躊躇いがちの口調に引っかかりを感じる。 「あの……工藤さんがいらっしゃってるの」 工藤と耳にして、最初に頭に浮かんだのは壮一郎の方だった。 （俺の留守の間に、乃梨子に何か……！） 足音も荒く廊下を歩く。 リビングのドアを勢い良く開くと 「あら、お帰りなさい。雅史さん」 そこが自宅であるかのように寛いでワインを愉しんでいる、七恵と壮一郎夫妻の姿があった。 「あのね、また良いワインが手に入ったからって……」 慌てて後を追ってきた乃梨子が、しどろもどろに今の状況を説明しようとしているが、雅史の耳にはろくに入っていない。 （どうして二人が……俺の家に……） またスワッピングをしようと言うのか。 雅史の頭の中に、七恵の白く柔らかな巨乳と、壮一郎に大きく脚を開かれて犯される乃梨子のイメージが同時に浮かぶ。 （ダメだ。乃梨子を他の男になんて、もう二度と絶対にダメだ） 少し前まで、七恵に逢いたいと思っていた自分のことは棚に上げる。 部屋の入り口で強張った表情を浮かべている雅史を見ても、七恵と壮一郎にはさして驚いた様子も無かった。 「クリスマスにそんなに怖い顔をしないの」 クスクスと笑いながら七恵が近寄って来る。 今夜の七恵は、深紅のシルクのワンピースを着ている。胸元が大きく開いたデザインで、ダイヤのプチネックレスが胸の谷間を彩っていた。 「失礼ですが、あなた方を招待したつもりはありません」 情けないことに、七恵の胸に目がいって、声が上擦ってしまった。 「あら…でも奥様は、一緒にクリスマスをお祝いすることを賛成して下さったわよ」 歌うように七恵が言い返す。 「ね？」 と、七恵が乃梨子を見たのと同時に、雅史も乃梨子へ視線を走らせた。 （そうなのか？乃梨子は、またあいつに抱かれたいと思ってるのか？） 工藤夫妻を招いたことイコール夫婦交換の承諾としか雅史には思えない。 「あの…今日はこの間みたいなことはしないって……仰るから…」 乃梨子が、七恵をちらりと見ては雅史に説明する。 何か違和感を感じた。 自分だけが部外者のような違和感。 「そうなの。この間はいきなりすぎました。ごめんなさい」 ぺこりと七恵が頭を下げる。 妙に芝居臭いと感じるのだが、何と返事をして良いのか分からない。 壮一郎は…と、視線を反らすと、事の成り行きを見守りながら呑気にグラスを傾けていた。余裕ありげな態度に見えるのが気に入らない。 「雅史さん、お腹空いてるでしょ。七恵さんがいろいろ持って来てくださってるの。ね…一緒にお食事するだけなら……」 乃梨子がスーツの袖を引く。 必死にこの場を取り繕おうとしているのが感じられる。 （これも近所付き合いってことなのか？） 確かに、クリスマスの夜に喧嘩をするのも大人気ないかもしれない。 「わかった。着替えて来る」 いろいろと腑に落ちないことばかりだったが、既にテーブルの上に並んでいる料理を見て、とりあえず食事だけは一緒にするしかないのだろうと雅史は諦めた。 奇妙なクリスマスパーティだった。気まずい空気のままで食事が進む。 七恵が作って来たというオードブル、ローストチキン、シーフードサラダ。どれも美味しかったのだが、雅史はそれを愉しむどころではなかった。 七恵と乃梨子が、給仕をしながら小声で話すのが気に障った。 今夜の乃梨子は黒いベルベットのワンピースを着ていて、七恵とは姉妹のように見えた。 やけになってワインを何杯も煽るうちに、かなり酔いが回る。 雅史が酔うのを待っていたかのように、隣りの席へ七恵が移ってきた。 「工藤さん達って変わってますよねぇ？」 酔いにまかせて七恵に絡む。 ワンピースの襟元から零れんばかりの白い乳房へ、目が吸い寄せられる。 「そうかしら？」 七恵が首を傾げる。大して会話も弾んでいないのに、七恵は楽しそうだ。 「そうですよ。普通しないでしょ？あんなこと」 「あんなこと…って？」 からかうように七恵が聞き返す。 「あんなことは、あんなことですよ」 むっとして答える。 正面の席で、壮一郎が面白そうにこちらを見ているのがいよいよ気に入らない。 「刺激的だったでしょう？愉しくなかった？」 つぅ…っと七恵の指先が雅史の頬を辿った。 思わず身体に震えが走り、乃梨子を探して顔を巡らせる。 乃梨子はキッチンで洗い物をしていて、こちらを見てはいないようだった。 （うわ…やべぇ……。このままじゃ、また七恵さんのペースだ） 「たしかに刺激はありました…けど、もうああいうのはごめんです」 七恵の手を払いのける。 「どうして？」 手を払われたのを気にした様子もなく、七恵が身体をすり寄せてくる。 「どうしてって…おかしいでしょう？普通ああいうことは夫婦でするもので」 否応無く胸の谷間が目に入り、雅史は生唾を飲み込んだ。 「まあいいわ。今日はクリスマスをお祝いしながら、お互いに見せるだけにしようと思うの。如何かしら？」 間近で見上げてくる濡れたような七恵の瞳に、吸い込まれてしまいそうな気がした。 「はぁ？」 相変わらず、とんでもないことを平気で言い出す女だと思う。 「ね。乃梨子さんもそれでいいわよね？」 七恵が、リビングに戻って来た乃梨子に問いかける。 七恵の視線を受け、乃梨子が眉根を寄せた。 「乃梨子さんも、少しは刺激を楽しみたいわよね？」 （…………ん？） 七恵の口調が、少しきついものに思えた。 乃梨子が、困ったような泣き出しそうな表情になり、小さくコクッと頷いた。 （えっ……！？） 見慣れた妻が別人に思え、雅史は一瞬言葉を失った。 ※ ※ ※ 「クリスマスパーティをしようと思うの」 高らかに七恵が宣言した時、乃梨子は嫌な予感がした。 果たして、七恵は「クリスマスだからスワッピングがしたい」と言い出した。 無茶苦茶な理由なのだが、乃梨子には逆らえない。 最初の夫婦交換の時の物を含め、今では七恵の手元には乃梨子の淫らな様子を納めた映像がいくつもあった。それを雅史に見せると言われては、何も言えない。 乃梨子の家へ招待する代わりに、今日はお互いの行為を見せ合うだけ…ということで、七恵が納得してくれたのだけが救いだった。 「俺たち、そういうの好きじゃないですから…」 傍らで聞きながら、乃梨子は雅史の口調が少しずつ弱気になっているのを感じた。 「な、乃梨子。そうだろ？」 「………」 助けを求めるように話を振られて、乃梨子は困ってしまった。 今夜のことは、先週のうちに命令されている。 ここ一ヶ月、工藤夫妻に”奴隷”として呼び出される生活が続いていた。 七恵に呼び出されては自慰を披露し、壮一郎に呼び出されては奉仕をさせられ、時には初対面の男にまで犯される。 屈辱的な行為を強いられることに、えもいわれぬ快楽を感じてしまう自分を、雅史に知られたくはなかった。 雅史の貞淑な妻でありたいと思いながらも、工藤夫妻の”奴隷”としての生活に馴染み始めている乃梨子だった。 「お互いに見せ合うのも、刺激になってなかなか良い物ですよ」 壮一郎が、ゆっくりとした調子で雅史に話しかけた。 雅史がむっとするのが分かる。 余計なことを言わないで…と言うように、七恵が壮一郎へ目配せしてから乃梨子へ近寄ってきた。 「乃梨子さんはＯＫだもんね」 ふわっと肩を抱きしめられる。 「え………ぁ……」 雅史が不審そうにこちらを見ている。 「ねっ」 カリッと耳朶を七恵に噛まれた。 「ぁ……はい……」 反射的に頷いて返事をする。 「乃梨子？」 責めるような雅史の声を無視するように 「七恵がお手本を見せたら良いんじゃないか？」 壮一郎から声がかかった。 「ん…そうね。そうする」 七恵は頷くと、妖しい瞳で乃梨子を見つめ、腕を背中に回してワンピースのファスナーを下ろし始めた。 「なっ…七恵さんっ…何してんですかっ！」 雅史が焦って声をあげる。 （…………ぁぁ……雅史さん……） うろたえている夫の姿を見て、乃梨子は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。 七恵はファスナーを下ろし終わると、身体をくねらせるように揺すり、厭らしい仕草でワンピースを足元へ落とした。紫色のレェスを多く使ったブラとショーツだけの姿になる。胸元のダイヤの輝きすら淫靡なものに見える。 「乃梨子さんも、早く」 口調は柔らかいが、七恵が乃梨子を見つめる視線は冷たい。 （ごめんなさい……雅史さん……あたし……） 緩慢な動作で、乃梨子も背中のファスナーを下ろし始める。 「乃梨子……？」 雅史の声にびくっと身体が震える。七恵と同じように、乃梨子の足元へもワンピースが落ちた。乃梨子は露出の多い紐だけで作られたようなブラとショーツを身に着けていた。雅史に言われて着けている物にもかかわらず、後ろめたさを感じる。 「ほう……奥さんはなかなか色っぽい下着をお召しですね」 壮一郎の声が聞こえると、頭の芯が痺れる。 雅史はと見ると、椅子に座ったまま呆然としていた。 七恵が、座っている壮一郎の脚の間で跪いた。膝立ちになって手を伸ばし、壮一郎のベルトを外し始めている。 乃梨子も七恵に習い、雅史の足元へと跪いた。 「乃梨子…お前、変だぞ。どうして…こんなこと……」 言いながらも雅史は、乃梨子がベルトを外すことに抵抗はしなかった。奇妙な失望を感じながら、乃梨子は黙々とベルトを外し、スラックスのファスナーを下ろす。 下着の上から、雅史の股間が熱くなっているのがはっきり分かった。 「雅史さん……」 夫の名前を呼ぶと、涙が込み上げそうになった。 （あたし……とんでもないことをしてる……） 雅史は、こんなことをする自分を許してくれるのだろうかと心配になる。 「乃梨子さん、今日はあなたが雅史さんを悦ばせてあげないとね」 七恵は既に壮一郎のスラックスも下着も脱がせ、屹立した肉棒を指先で扱き始めていた。 「……乃梨子……ほんとに…こんなことしたいのか…？」 雅史の声が掠れている。 乃梨子がスラックスを脱がそうとすると、雅史が腰を浮かせた。 「ん………だめ……？」 甘えるように見上げながら、雅史の下半身を露にしていく。 股間の肉棒は、硬くそそり立っていた。 「………だめ…じゃない……けど………」 戸惑いつつも、雅史がとても興奮しているのが分かった。 乃梨子の身体も、いつもより熱くなっている。 壮一郎に奉仕する時より、胸が高鳴り、身体の奥が脈打つ。 背後で、じゅぶじゅぶという水音がした。 七恵が、壮一郎の肉棒を咥えたまま頭を上下させ、絡めた唾液が音を立てているのだ。 （あぁ……七恵さんが……厭らしい音を……） 乃梨子は瞳を潤ませ、雅史の脚の間で身体を伸び上がらせる。 「乃梨子……乃梨子もああいう風にやって……」 七恵の様子を見ながら、雅史が下半身を前に突き出すように座る位置をずらした。 「ん……」 小さく頷くと、乃梨子は亀頭を咥えていく。 「………ぁぁ……」 雅史が小さく吐息を零した。 ちゅぷ…ちゅぷ……くちゅ……すぐに乃梨子の唇からも、淫らな水音が零れはじめた。 |
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| 2009.12.23掲載 |
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