「ぁ……はぁ…だめ……」 乃梨子は口では駄目だと言いながらも、自分が何かをねだるように脚を広げ、尻を高く上げていくのを感じていた。 （いや…こんな……駐車場で……誰かが来たら……） 誰かが通りかかれば、車の中で何が行われているのかが分かってしまう。 そう思う一方で、膣壁は挿し込まれた指に絡みつき、奥へ誘うようにと蠢いている。 「奥さんのここ…指に吸い付くようだ」 ゆっくりと壮一郎の指が出し入れされる。 くちゅっくちゅっと小さな水音が耳に届く。 「やめて……ぁ……っふぁ……ぁぁ………」 蜜が溢れる。 溢れて腿を伝わっていく。 「こんなにおま○こぐちゃぐちゃにしといて、やめてって言われてもなぁ」 蔑むような壮一郎の口調に、膣壁がきゅんと収縮する。 「んぁ…っ…ぁぁ……はぁ……」 「そういえば、名前を聞いてなかったね」 挿入される指が増やされる。 「ひぁ…ぁぁぁぁ……いや……やめて……」 二本の指を締め付けて、乃梨子の身体はびくんと仰け反った。 「聞いていることに答えろ」 抉るように指を押し込まれ、同時に平手で尻を叩かれた。 ピシッと乾いた音が響く。 「ぁぁっ……乃梨子…ですっ…んぅぅ……っ」 （名前も知らないのに……ぁぁ……） 乃梨子は目をぎゅっと閉じ、高く上げた腰を淫らに振っていく。 「乃梨子は淫乱な奥さんだな」 「…ぁん……や……んんっ……んんっ…」 （どうして……こんなに感じちゃうの……） 壮一郎の指先が、膣壁を引っ掻くように出入りし、その度に蜜が溢れていく。 「この間は、電車の中で」 「ぁっ…ぁっ…はぁっ…」 「今日は、車の中で」 「んぁぁっ…だめっ……だめぇっ…」 指を奥へ突き入れるたびに、壮一郎の声がかけられ、淫らな水音と乃梨子の喘ぎ声が交錯する。 「乃梨子は、だんなより痴漢が好きな変態だな」 壮一郎の掌が尻肉を掴み、揉みしだく。 挿入された指が、膣奥を広げるようにかき回す。 「……いや…っ」 （違う……あたし……ぁぁ……） 夫のことを言われると、膣がひくついた。 「電車より声を出せていいだろう」 「っふぁ……ぁぅぅ……」 指摘され、乃梨子は唇を噛んで喘ぎを堪えようとすると 「声出せよ、だんなにも聞かせてやれ」 「ぁ…ぁぅ……んっ……んっ……んぅ…」 指の出し入れが更に激しさを増した。 首を左右に振る。 声をあげるのを堪えようとすることで、余計に感じていた。 「ほら、逝けよ。厭らしく腰振って、変態女」 「や……違う……ぁはぁ……ぁぁ……だめ……んぁぁ……」 罵倒される言葉も、たまらなく官能を刺激する。 絶頂を求め、乃梨子が夢中になって腰を振り始めたその時、さっとライトが射し、車内が一瞬明るくなった。 続いて、車が駐車場に入って来る音が響く。 小さく壮一郎が舌打ちをして、挿入されていた指が抜かれる。 「…………ぁぅ……」 「ここじゃ落ち着いて最後までは出来ないな」 シートに崩れ落ちる乃梨子を見やって、壮一郎が笑った。 「続きはまた今度ってことで」 パチンと軽く尻を叩かれる。 壮一郎はダッシュボードから取り出したティッシュで、指を拭い始めた。 急に、恥ずかしさが込み上げて来た。 （あたし……信じられない………こんなところで……） 壮一郎の差し出すティッシュを受け取り、慌てて身繕いをする。 膝近くまで流れた愛液を拭き取るには、ティッシュが一枚では足りなかった。 （やだ……こんなに濡れて……） 惨めさに涙が溢れそうになる。 「これを忘れないようにね」 壮一郎が買い物袋を差し出した。 何事も無かったかのような態度だった。 「あ………はい………」 （あたしだけが……あんな恥ずかしいこと……） 乱れたのは自分だけだったのだと思い知り、頬が火照った。 荷物を受け取り、車を下りる。 逃げるようにエレベーターホールへ急いだ。 急いだけれど、結局は追いついて来た壮一郎と同乗することになった。 壮一郎がボタンを操作する。 再び密室の中に二人だと思うと、緊張した。 乃梨子がじっと俯いていると 「次、いつ逢えますか？」 当然のように、壮一郎が質問して来た。 「次って…あの……困ります…」 「困る？今すぐ続きをしたい？」 からかうように、壮一郎に顔を覗き込まれる。 「違いますっ！そうじゃなくて…」 言い返しながらも、身体の奥が疼く。 絶頂の手前で行為を中断された身体は、顔が近づいただけでひくひくと反応した。 「ふぅん…また偶然逢えるのに期待しますか」 あっさり引き下がられると、逆に拍子抜けする。 （だめよ……もう…二度とこんなこと……） 自分を戒めながら隣りに立つ壮一郎をちらりと見上げ、 「ん？」 こちらを見返す壮一郎と目が合ってしまい、慌てて視線を逸らす。 「面白いね。乃梨子さんは」 もう一度、壮一郎が顔を寄せると、今度は乃梨子の顎に指をかけた。 軽く顔を持ち上げられ、唇を重ねられる。 「…んっ…」 抵抗するほどもなく、すぐに壮一郎は離れていった。 （やだ………） 胸の鼓動が早まった。 乃梨子は壮一郎から一歩離れ、じっとエレベーターの床を見つめる。 一刻も早く壮一郎の前から立ち去りたいと思った。 エレベーターの上昇は嫌になるくらいゆっくりだった。 ようやく７階に着き、小走りに下りる。 数歩廊下を歩いたところで、向こう側から歩いてくる人影が目に入った。 （………ぁ………） スラリと背の高い、赤いジャケットに黒いミニスカートの女性。 何度か立ち話をしたことがある工藤夫人の七恵に相違ない。 思わず壮一郎を振り返ってしまう。 「こんにちは」 七恵に笑いかけられ、どぎまぎしながら乃梨子は頭を下げた。 「あぁ、出かけるの？」 壮一郎が、何食わぬ顔で夫人に声をかける。 「ちょっとトラブルで。晩ご飯までには帰れると思う」 答える七恵の視線が、二人を見比べたように乃梨子には思えた。 「ちょうど下で一緒になってね。二人で夕飯の献立について語って来たところですよね」 平然と壮一郎が話を振って来る。 「えっ…ぁ…はい…」 （こんなんじゃ……奥さんに変だって思われちゃう……） うろたえている自分を意識すればするほど、顔が熱くなってくる。 小柄な乃梨子を見下ろして、七恵がクスリと笑った。 「アップルパイでも作られるんですか？」 「えっ…」 先刻の壮一郎と同じことを聞かれ、今までの車の中での行為を全て七恵に知られていたような錯覚を覚える。そんなことはあるはずもなく、 「紅玉リンゴが見えたから。私、大好物なんです」 七恵はにこやかに話を続ける。 「よろしければ今度…お作りしましょうか…」 乃梨子が社交辞令を述べると、七恵は嬉しそうに華やかな笑顔を浮かべた。 「まあ、本当に？嬉しい。楽しみにしてますね」 どうにも居たたまれなかった。 「あの、あたしはこれで、失礼します」 ぺこりともう一度頭を下げ、乃梨子は逃げるように自宅へ向かう。 鍵を開け、ドアを開いて閉じるまでがもどかしく、果てしなく長く感じた。 閉じたドアに凭れ掛かり深い溜息をついた時、乃梨子の耳にエレベーターの扉が再び開く音がかすかに聞こえて来た。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2009.1.17掲載 |
桜子さんの作品集→ |