第8章 くらやみ

　けっこう若いのね。
　部屋にやってきたのは、夫と同じくらいか、それより、少し若い感じの男性だった。色の黒いサングラスをしているため、表情はわからない。
　白い半袖の白衣で、丈は妙に長い。黒い大きな鞄を持ってる。
　でも、清潔そうな人ね。
　丁寧な感じだし。ちょっと、安心。
「どうぞ」
　恥ずかしいよお。だって、夫ったら、また、「ちょっと仕事の電話」ってホントなのかしら。ま、普段も会社人間で、お休みだって、滅多におうちにいないけど。
「途中で戻ってくるから始めてて」
　なんて言ってたけど、やっぱり約束を守れって念を押してくんだもの。
　どう考えても、裸でマッサージ、なんてヘンよね。
　私はどきどきして、部屋に案内する。布団が敷いてあるのが妙に恥ずかしい。
『あれ、やっぱり、慣れてるのね』
　マッサージさんは、ものなれた様子で部屋に入ってくる。
「では、ご主人から伺っているコースでよろしいでしょか」
「は、はい」
　しょうがないわ。今更、どんなコースであっても、どうせ受け入れるしかないんだもの。
　もうどうにでもなれ、よ。
「それでは、奥様、こちらに横になっていただいて」
「あの、その前に電気を」
「奥様、それは困ります。我々は、いかがわしい行為をするわけではありませんので、誤解をいただかないため、きちんと明るい所で施術させていただくことになっております」
　若いのにって、私よりちょっと年上みたいだけど、しっかりした人なのね。
　キッパリ言われちゃうと、それはそうよね。
　マッサージさんは仕事をしに来ただけなのだもの。
　恥ずかしいと感じてる私の方が、エッチみたい。
「ごめんなさい」
「いえ、おわかりいただければ」
　マッサージさんは、布団の横にさっさと座り込む。
　さすがね。目は見えなくても、ちゃんとわかるのね。
　中身も見ずに、大きめのバスタオルを取り出しながら話しかけてくる。
「奥様は、こういうの、初めてですよね」
「ええ」
「皆さん、最初は気になさいますが、まあ、お医者さんにかかるつもりで、安心なさってください。それに、最初は、こちらをおかけしますので」
　そういいながら、清潔そうな白いバスタオルを掲げて見せる。
　もう、これ以上恥ずかしがるのは、かえって申し訳ないわよね。
「えっと、奥様がこちらに横になられてからの１時間のコースとなっておりますので」
　そういわれると、いつまでもぐずぐずしているのは申し訳なかった。
　でも、いくら目が不自由であっても、やっぱり恥ずかしい。それに、さっきあんなエッチになっちゃったばかりだもの。
　チラって見ると、マッサージさんは、それがわかっているみたいね。布団の前に座ったまま、真っ直ぐ前を見つめたまま。ちょっと安心。
　約束通り、下着は着けてない。浴衣一枚、脱げば、裸。
『やっぱり、恥ずかしいよ〜』
　見えないとわかっていても、やっぱり、男性の前に横たわるときは、懸命に胸と大事なところを隠してしまう。
「まず、うつぶせでお願いします」
　我ながら、ぎこちないんだけど横になると、タイミング良く、ふわっと言う感じでバスタオルを掛けてくれる。
　お尻の下側までは隠してくれるけど、これじゃあ、足の方に回れば大事な部分は丸見えよね。だめだめ、エッチなことするんじゃないもの。
　ヘンな想像をしちゃダメ。
　大丈夫。この人は見えないんだから。考えすぎちゃダメ。
「あ、ご主人からのご注文でしたが、何でも、奥様が恥ずかしがり屋だとかで、このようなものを付けるようにとお預かりして参りましたが？」
「え？何ですか？」
　目の前に、何か差し出された。
『目隠し』
　反射的にわかった。
　忘れていたが、目隠しをしろって言ってた。
『あ、そうか、あなた、電気を消せないってことを知ってたのね。だから、これをつけろって』
　あれ、見えないって、案外、ヘン。感謝した私がバカみたい。
『恥ずかしい〜』
　なんだか、自分が見えないってことが、こんなに恥ずかしいことだってしらなかった。
『マッサージさんもみえないんだもの、同じよ』
　でも、やっぱり、違う。
「それでは、失礼いたします」
　マッサージが始まった。
『あ、やだ、見えないと、なんだか、ビンカン』
　今はいやらしいことをしているんじゃないんだゾって思うんだけど、ちっとも効果がないみたい。
　だって、手が動く度に、妙に感じちゃうんだもの。まるで、夫に愛撫されてる時みたいに。ううん、夫よりもはるかに上手。
　もう、ぜったいヘンにならないって決めてたのにぃ…
　最初は、足からだったの。
　右の太ももの下側からゆっくりと両手に包み込まれるみたいな感触。
　とたんに、身体の中が、ザワザワしてきた。
　まるで、愛撫されているみたい。
　だけど、これで、やめてっていったら、私がエッチみたいよね。
『あ、だめ、今度は膝、あ〜ん、急に場所が変わるから、よけいヘンになっちゃうの』
　膝のあたりから、さするような動き。これがすっごく微妙なの。サラサラって感じ。なんだか、筆か何か柔らかい物でいたずらされてるみたい。
　で大事な部分に触れるか触れないかというきわどいあたりまでやってくる。
『あ、だめ、そこ、それ以上きたら、そこはダメなの』
　そう焦ってるのを知っているみたいに、ギリギリの所で手が離れるのだけど。
『ふぅ〜、そうようね、マッサージさんがそんなことするわけ無いもの。あせっちゃったわ、バカみたい』
　今度は反対の足に、またサラサラって。
　あうう、こんなの何回も繰り返されちゃうと、ホントにヘンになっちゃうじゃないの。
　右と左、交互なら、なんとかなるのに、『次は右ね』なんて思ってると突然、もう一度左だったり、右に来ても、さっきと違う角度だったり。
　毎回、違う動きなの。
　声だって出ちゃいそうになるわ。
　だって、見えないと、突然、身体に触れられちゃうことになるんだもの。
　知らないうちに、どこを触られるのかビクビクしてた。だって、全身のヒフがビンカンになっちゃってる感じなんだもの。
『あれ、なんだか、この人、上手。ううん、こういうの上手って言うのかしら、感じちゃうじゃないの、あ〜ん、それとも、私の身体がエッチなのかしら』
　不意に、マッサージさんの手を、ヒップに感じる。
『わお。ダイレクト。いつの間になの？』
　いつの間にか、タオルはめくり上げられちゃったみたい。
　ヒップに直接触れるその手は、さっきよりも、強く感じてしまう。
『あ、いっけない！』
　どうしよ、ホントに感じちゃう。
　こんなことで感じちゃうなんて。私ってやっぱりエッチなのかな。
　違うわ。きっと、あれよ。さっきのアレ。おじいちゃん達とのこと。
　それに、あの後の夫もいけないのよ。
　だって夫が、逝かせてくれなかったんだもの。もう、ひどいんだから。
　あれで、落ち着かせてくれれば、こんな風にならなかったんだから。
　もう身体が、ふわふわしちゃって。
　身体が火照るって、きっと、こういうコトを言うんだわ。だって、なんだか、触られる部分が、カッカするもの。
　もうだめ、なんとかしないと、また、エッチな感じになっちゃう。
　気を紛らわせなきゃ。私はマッサージさんに話しかけるのも声が震えないようにするのに、もう必死よ。
「あっ、あの、ご経験はどのくらいなんですか」
「いえいえ、私なんてまだまだ、初心者に毛の生えたようなものでして」
「へえぇ〜、あう、やっぱり、が、学校かなんかに行くんですよね」
　ヒップの頂点から、腰に向かって、何度も、何度も、サラサラとされちゃうと、本当に感じてしまうじゃないの。もう、これやめてよぉ〜。
「ええ、マッサージ師の資格は取らないとマズいんで」
「そりゃ、う、う、あふ、そ、そうです、よね」
　あ〜ん、こんな風に背中をされるのって初めて。感じちゃう。でも、普通のマッサージって、こうなの？なんかヘンじゃないの。
　だって、これだと、お腹がザワザワして、エッチになっちゃう。
　ううん、私のせいじゃない。これって、ぜったいエッチなさわり方だと思うんだけど。
「やっぱり、そういう学校って目の見えない方ばっかりなの？」
「いいえ、ばっかりと言うことはないですよ」
　あう、そんなあ、喋ってるときも、平気で同じように触るんだもの。喋ると、かえって感じちゃうかも。
　それに、なんだか、魔法の手。
　何本もの手で、触られているみたいに、あっちこっちに触ってくるのだもの。
「と、ところで、マッサージって、あの、こういうのが普通なのかしら。あの、気を悪くしないでほしいけど、なんだか、あの、ちょっと」
「あれ、お気に召しませんですか」
「ううん、あの、あう、私が悪いんだけど、あの、なんだか、ああ、ちょっと、エッチな気がして」
　背中の方から、何度も胸の外側に手のひらが回されて、まるで後ろから、おっぱいを触られてるみたいな感じがするのだもの。
「ああ、これですか」
「あん！」
　あ〜ん、なんで、胸の裾野を指先でサワサワするのよ。こんなのエッチじゃない！
　感じちゃう私もエッチかもしれないけどさ。
「ご心配なく。皆さん、こういう風に反応なさいますよ」
「え〜？だって、男の人にもするんでしょ？」
「いいえ」
　簡単に否定されて一瞬びっくりしちゃう。だって、マッサージって男の人がよく受けると思ってたのに。
「私は、女性専門ですよ、っていうか、男に施術されても、男性はうれしくないでしょ」
　そりゃ、そうかもしれないけど。
「普通のマッサージさんと違って、性感は、そういうとこ、微妙なんですよ」
「え？え！セイカンって」
「はい、このように、女性の方に喜んでいただけるように努めさせていただいてます」
「あうう！」
　セイカンって、いったい何なの。普通のマッサージと違うの？
　そんなの聞いたこと無いのに。
　私が考えてる間も、マッサージさんの手は、それとは関係なく動いてた。急に今までの澤触って感じの表面をさするのと変わったの。
　お尻の頂点と腰のちょうど真ん中あたりを、急に強く押されて、なんだか、腰が溶けるような意外な気持ちよさが来ちゃった。
「ああぁ」
　声が出ちゃった。自分でもビックリ。
　こんなところに、感じる部分があったなんて。
　これが、急に腰の奥にダイレクトにつながるボタンだったのよね。
　なんだか、腰の奥からずーんと、重い衝撃がすっごいの。　
　なんとか、声を我慢しようとしたんだけどうまくいかない。
「う、う、う」
　思いっきり口をふさいだんだけど。
　だから、これ以上やめて、っていうタイミングを逃しちゃって。
「はい、足を、失礼」
　そういいながら、片足ずつ持ち上げられて、そっと広げられちゃう。
　その広がった間に、マッサージさんの片足が入ってきて、私の腿の付けの方に膝が来る。
　私の両方の内ももに、マッサージさんの足がわずかにくっつく感じ。
　あれ、これ、あと、２、３センチこっちに来たら、アソコにくっついちゃうじゃないの。
　そういう風に意識したら、なんだか、ドキドキしちゃって。
　それに、足を広げると、お尻も広がっちゃうのかな。谷間からスッと外に向かって、指先が、引っかかるみたいに何度も動かされちゃうと、ヒクンってなってるしまう。
「はう〜」
　思わず、ため息みたいに声が出ちゃって。
「いいんですよ、我慢なさらないでください」
「え、そんな、我慢なんて、あん、そんな、こと」
「もっと感じていただかないと。誰でも、感じるのですから、我慢しないことです」
「あうう」
　お尻の谷間を、浅く、たぶん指先だと思うけど、割れ目にそって、突然、スウって撫でてくるんだもの。
　私は思わず、また声が出ちゃって。
　あわてて、また口を押さえたけど、やっぱり聞こえちゃったみたい。

　だから、何度も何度も、同じようになで上げられて、一生懸命に声を我慢しようとしたんだけど、うまくいかないの。
　けっこうエッチな声、出ちゃってる。
　そしたら、突然、今度は、腰の横を撫でられちゃって。
「ああっ」
「そうですよ。ご主人も、その方がお喜びになりますからね」
「ええ？なんで？」
「こういうのをご主人が依頼される場合は、例外なく、奥さんの喜ぶところをご覧になって興奮されるんですよ」
　ああ、奥さんが他の男性にヘンなことをされて喜ぶなんてコト、あるのかしら？
「あとで、ご主人がいらっしゃったら、いっぱい、感じるフリをなさってご覧なさい。もう、てきめん、ご主人は、元気になっちゃいますよ」
　そういいながら、背中をこんどは、真ん中を刷毛でも使ってるような絶妙な感じで撫でられちゃうと、また、声が我慢できなくなる。
　あ〜ん、ふりじゃなくって、本当に感じているのに〜。
「そう、そう、今みたいに、いえ、もっと声を出してください。もっと気持ち良くなりますよ」
　それでって、私はようやく思い当たった。
　私が、おじさん達にされているところ、さては、って。
　だから、あんな風に怒ってたフリして、簡単に、許したのは、まさか、わざとだったのかしら。だって、あんな風に怒ったのは初めてのくせに、マッサージを受けるって言ったとたん、あっさりと、まあ、それなら、今回だけはって。
『もう、いったい、どういうつもりなのよ』
　私が心の中で怒ろうとしたその時だった。
「あうう」
　考えるの中断。
　だって、不意に気がついたんだもの。
　お尻とか背中とか、足とか。あっちこっち触りながら、絶対に私のアソコには触れてこなかったのに。いつの間にか、膝が私のアソコに、あたってた。
　もう、今更だから、それは、怒る気にはなれないんだけど。
　触れた瞬間、ず〜んって、そうなの、重低音みたいな感じが、下半身に響いちゃったの。そ、それに、感じただけじゃなかったの。
『ぬ、濡れてるの？』
　自分でも、信じられなかったけど、考えてみると当たり前か。
　だって、さすがに、上手で、ホント言うと結構感じちゃってたし、さっきの「後遺症」っていうのか、身体が信じられないくらいビンカンだし。
　でも、膝に、ヌルって自分のがあたるのって、信じられないくらい恥ずかしいんだもん。
　淫らなオンナって感じ。
　でも、この膝が、すっごく良いの。

　このあたり具合って言うのか、そう、なんだか、触られている所からザワザワしてるのが、ズーンって静まるって言うのか。
　ううん、静まるって言うのも違う。だって、よけい身体の奥が溶けるような感じで、もっと、ザワザワがほしくなっちゃうし。
　それが何度も繰り返すと、今度は、膝が恋しくなって来ちゃうのよね。
　もうちょっと、強く当ててほしいって。
　でも、恥ずかしいから、そんなことを言えるわけないし。
「ああ」
　私は、ため息が何度も出てしまう。ううん、いやらしい声。だって、とっても感じてしまうんだもの。
　そして、膝がもっと強くほしい、押さえてもらわないと、ザワザワが静まらない気がして。
　もちろん、押さえても、静まらないどころか、強くなるのはわかってはいるの。
　だけど、押さえてもらわないと、身体が我慢できない気がして。
　そのまま、あっちこっちをエッチに触られたら、もうダメ、限界。
　アソコが苦しい。
　私は、とうとう、そっと、身じろぎをするフリをして、身体をずらしてしまう。
　そうしたら、グッと膝が食い込んで。
「ああぁ」
　ちょうど、寒い日に、温かいお湯につかるような、そんなホッとするような安心感というか、カイカンよね。
　でも、ホッとするような感じもするけど、それでいて、物足りないような。
「膝が、お気に召しまして、何よりです。それでは、そろそろ、反対を向いていただきましょうか」
　バレてた！
　淫らなワタシを見抜かれちゃった気がして。
　だから、スッと足を抜いて、仰向きになるようにされると、そのまま従うしかなかったの。
　だって、いやらしいこと、自分でしちゃったんだもの。
　男の人の膝に、恥ずかしいところを自分からくっつけちゃうなんて。
『ああ、煌々と電気がついているのに、裸で男の人の前にいるのね』
　仰向けになっても、つい、胸を隠しちゃう。
「あああ」
　風が、乳首にあたるだけで、声が出ちゃう。あ〜ん、なんなのよ、「セイカン」とかいうマッサージって。
　全身がビンカンになっちゃってるじゃないの。
　あれ？セイカン？「せいかん」って。
　まさか「感じる」の「感」かしら？
　私、どうなっちゃうんだろ。
　まさか、このまま、エッチなコトされちゃうんじゃ…
　って、もう十分エッチだけど。
　救いは、この人が見えないと言うこと。
　だって、もう、当然、って感じで足を広げられちゃって、また、膝が当てられちゃってるんだもの。

　もし、見てる人がいたら、きっと、私のこと、なんてミダラな女だって思うと思うわ。
　夫以外の男性と二人きり。裸で布団の上。
　どこも隠さないまんま、自分からアソコを男にこすりつけて感じてる、いやらしい女。
　目隠ししてるから、何も見えない。されるがまま。
　もうやめて、って思うんだけど、体中を触られながら、その膝を取られちゃったらどうなるんだろって怖かった。