10．

「レイさん、・ウチの人を好きだと云うのは分りましたけど、何を考えてウチの人と関係を持たれたの？・レイさんとじゃ、見ただけで、随分歳が違うのがお分かりでしたでしょうに・・・。」
　唐突にダイレクトなことを聞いてくるのねぇ！
「何を・、って・・・。ただ、素晴らしい人に思えたから・。・見た目とか歳とか全然、頭に浮かびませんでしたよ。本物の『人間』に出会った気がしたんです。」なんか？穴があったら入りたい気分だったわ。
「ウチの人とのお付き合いで、何か変わりました？」
「・・・イメージが豊かな方ですから・、モノの見方が・・・。」
「イメージハンターなのよ・、写真家って・。・・・でも自然は、人間のイメージを遙かに超える大きさがあるの。心を自然に合わせると、モノの形だって違って見えて来るわ・・・レイさんの心もね。」
「えっ！・わたしの中？」
「そうよ。アナタの中にも色々な可能性があるの。・ウチの人は最初からそれを見抜い
ていたの。」
「わたしにどんな可能性があるんですか？・モデルとしてはもう歳の、ただの編集者で
すよ！」
「酸いも甘いも嗅ぎ分けた、大人の女性としてよ！・今の世の中では、普通に生活なさる方には、そう云う人って少ないのよぉ。・・・お友達としても、そう云う人は貴重さが無いのよ！・・・ウチの人、云わなかった？・『女性が好きだ！』って？」
「まだあんまり・・・。」奥さんのストレートなのには戸惑うわぁ！・頭の中から叩か
れるみたいな気までするじゃない！
「そぉ・？・成熟した女性がウチの人の好みなのよ。カメラでも自動車でも、完成されたものが好きで、未完成の可能性があると、見向きもしないのよ。・それが女性でもね。」
「えっ！」
「女性は女性に生まれないわ。姿形は女性でも心が完成されるのは、自分がある程度出来て、良い人付き合いが出来て、のことでしょう？・・・レイさんはきっと、良い恋を沢山なさっていらっしゃるんでしょうね？・ウチの人がレイさんに好意を持った。って云う事は、レイさんが完成された女性だって事だわ！」
「・・・恋なんて・！・それが実らないんですもの。お陰で未だに独身です！」
「あら、・ごめんなさいね。・もう御主人がいらっしゃると思っていましたのに・。」
　わたしが『夫持ち』ですって！・・・そんな縁があったら、もう少し円満な人間になっていたわ。
「良い処までは行っていると思うんですけどねぇ・・・。肝心の詰めの処で、わたしが迷ったり、相手の人が迷ったりで・・・。それに、そんなに数多い恋はしていません！」
「恋って処には、随分強調が入ったわねぇ！・何かおありになった？」
「３０の独身女は、『恋』にはオーバーアクションなんです！」おじさんに恋してる。なんて云ったら、目を剥くでしょうに・・・！

　おじさんの撮ったわたしを見て、奥さんがこんなに想像逞しくして来る。・・・おじさんの写真は力があるんだわ！・・・どんなカットがそんなに奥さんの心を動かしたのかしら？
　エディターとしては、凄く興味が沸いたけれど、今まで写真にそんな事を期待した事は無かったわ！・そう云う見方もした事も無かったんですもの！

　クリエーターって、イメージを追っているんだから、少しでも良いイメージが得られるとなったら、制限の感覚が無くなってしまう方は少なく無いのよ。・クリエーターって、殆どの人は、『仕事』だって云う前に『好き！』で始めているじゃない！
　元々、何かを造り出すのが好きだった人が『ちょっとした切っ掛けで仕事になってしまった。』って、人が多いのよっ。・
　それも相当に好きでなければ、続けて行くのが本当に難しいのよね。
　だから、おじさんが自分の思いで写真を撮り出した時には、写真を撮る事以外の事には、鈍感になってしまうのでしょう・？
　これはある意味でクリエーターの宿命なのよね。
　奥さんだって、そこの処はわたし以上に理解している筈だわ！
　・長い時間、おじさんと一緒に過ごして来たんですもの・。

　・・・！・そうすると、わざわざ、わたしにそんな事を云ったのは、何か意味があるのかしら？
　急に持ち上がって来た疑問は、わたしの頭を疑問の解明に集中させてしまったのです。

　奥さんは、そんなに物分りが悪い様には見えないわ。わたしが本気ならおじさんとお付き合しても良い。って、云ってたわ。
　そこ迄承知出来る奥さんにしては、ちょっと不自然な感じに思えたわ。
　わたしを呼び出したのは、おじさんの事を話す為でしょう？
・奥さんの『お友達になりたい』は、そのまま信じるには、わたしは世間ずれし過ぎてるかも知れないわねぇ？
　常識的に考えれば、御主人を寝取った女は敵でしかない筈ですもの。
　・おじさんと別れろ！って云って来ると思っていたのに、今までの話しではまるで逆でしょう。

「・・・どうなさいました？」わたしの考えは、ちょっと時間を取っていたのかも知れません？奥さんが怪訝そうな顔でわたしを見ていました。
「あ！？・・・すみません。・ちょっと考えてしまって・。」
「ウチの人のこと？・勝手者だから、今頃何処にいるかしらね？」
「いぃえ！・」『奥さんの考え方を考えてしまって。』とは、云えませんもの。
「どちらにしても、ウチの事ね？・理解するのが大変？」
「えっ！」どうして分かるの？・わたしそんな顔をしていたのかしら？
「分かるわよ！・わたくしの云った事は常軌を逸しているもの。・女性としての感情からは、ちょっと分かり難いですものね？」ニコニコしながらは声音を落として云う奥さんは、ちょっと悪戯っぽく見えました。
「あの、わたし・・・」わたしには、次の言葉が続けられませんでした。

　わたしが言葉に詰まったのを見た奥さんは、わたしの表情を読んでから口を開いて、
「良いのよ。レイさんが普通の方なら、驚くのは当然よ！・わたくしの方が普通ではないの。・・・でも、わたくしがこうだから、ウチの人はクリエイティブでいられるの。・・・今までにも、ウチの人が浮気した事は何回もあるのよ。・でも、そのお相手に会ってみたくなるなんて、今まで無かったのよ。・レイさんのプリントを見ている内にね、ウチの人の感覚が今までと違う気がしたの。・どう？って聞かれたら答えられないんですけど、確かに違う感じだったのよ、今までの人とはね。・それだけで会ってみたくなるなんて、わたくしも変よね？」と、 一段と優しい声で云ってくれたの。

　何か？ストレートな感覚で一気に話してくれた様な奥さんに、わたしは感嘆してしまいました！
　だって、この奥さんには今日、初めてお目に掛かったんですよ。
　わたしの写真を見たと云っても、カメラを向けられた人は大概ちょっと構えるでしょう？
　撮られた時のわたしだって、絶対に防御線を張った筈ですもの！
　それに『おじさんの創造性を保つためには必要な措置をする。』って、強い決意みたいなものも感じるの。

　わたしも当然含めての話しですけれど、今の女性達って、多分に利己的なのよ。
　奥さんの様な立場になったとしても、御主人が他の女性を抱こうとすれば眉を吊り上げるのが普通の女性だと思うわ。
　・・・御主人(おじさん)を愛するからこそ、そのおじさんの助けになる事なら、自分自身の気持ちさえ犠牲にする。この奥さんは、本当の意味での自由を云っているのかも知れない？・どう説明すれば良いのか？良くは分からないのですけど、軽口で云う『愛』ではなく『愛する人を最良の状態に置いてこそ、愛』そんな思いが起こってきました。

『奥さんは何処までもご主人第一なんですね？』と、云おうとした時に奥さんは話しを
続けました。
「それでね、レイさんとお会いして直ぐに分かったわ。・・・レイさんはわたくしだって、・・・変な言い方よね？・レイさんわたくしに何か感じない？・わたくしから見ていると、レイさんは若い時のわたくしそのものなの。・遣っている事の違いもあるし、ご時世が違うから、全く同じとは云わないけれど、雰囲気がね。ウチの人って、好みまで頑固なんだなぁ。って思うわぁ！・・・レイさんとお会いして、わたくしはまだ『愛されてい
るんだ！』って、実感を感じるのよ。」
「えっ！・おじさんがわたしとお付き合いすると、奥さんが愛されて・・・？」思わず口に出してしまいました。・奥さんの考え方は、やっぱり理解できません。
「そうよ！・・・今は歳を取ってしまって、主人のお相手はちょっと苦痛なんだけど、若い頃はいつでも受け入れていたわ！・・・それだけで愛した訳ではないでしょうけど、それはウチの人に取っては、とっても大事な事なの。」何か、ハッキリ言わない、はぐらかされる様な言い方だったけど、前世代の女性としては、この位が精一杯なんでしょう？

「セックスそのものが大事って事ですか？」婉曲な話しはわたしが崩さなければハッキリしないと思って、直接的な言葉をわざと入れて云ったの。
「ええ・。」
「・でも・、わたしがおじさんとした事で、『奥さんが愛される』と云う論理は・・・？」
「それはねぇ、貴女がわたくしの若かった頃ととっても良く似ているからよ。・全体のイメージがね。勿論、わたくしはオートバイなんて乗らなかったわ。・わたくしの若い頃は、女の子が乗る乗り物とは、思われていなかったんですもの。」
「それは今でも云われますよ！・『良い歳した女が、何時まで玩具に乗っているの？』って、よく言われますモノ。」
「そうなの！？・あの頃のわたしは可成り活発な方だったのよ。・・・オートバイが世間に認められた乗り物だったら、たぶん、わたしも乗っていたでしょうね？・でも、貴女をお見掛けした途端に、『アッ！わたくしと同類！』って感じたのよ。・・・そうしたらね、ウチの人・『若かった時代を追ったんだなぁ！』って思ったの。」

「若かった・・・って、・・・奥さんはお若いのでしょう？！」
「ありがとう。・『お歳の割に・・・。』って付くのよ。その条件付けが我慢出来ないの！・それでも、かつては簡単に出来た事が随分出来なくなっているの。・そう云う事に出会う度に『あぁ、歳を取ったなぁ！』って、感じさせられるのよ。・・・レイさんもその内分かるわ。」
「いいえっ！・わたしでも分かりますわ。３０にもなったんですよ、十代の頃に簡単だった事が出来なくなっている事と変わらない。と、思いますけど・？」
「昔はねぇ・・・」奥さんが後を続けようとするのを遮ってわたしの方が話し出したわ！
「で、それ・『昔は・・・。』を云う様になりますと、お歳なんですってよ！・昔の事にばっかり想いが走ってしまう人を老人というのだそうです。・今出来る事に邁進出来る人を若者と云うのだそうです。奥様は、ご主人の浮気を知った途端に相手を呼び出す気概を持っていらっしゃいますモノ！・まだまだお若いでしょう？若い人達の中にも気概を無くして、今遣るべき事を出来ない人だっていますけど、・そう云う人達を『若年性老人』って云うんでしょうね？」

　わたしの周りにも歳が若いだけの男性が何人もいるし、そんな男性に限って云う事丈が大きいのよね！・云う事だけなんて云うのは、いつもの行動を見ていればその人が本心で云っているか建て前を云っているのかなんて、ストレートに分るのよ。・・・そんな男達が脳裏に浮かんでは消えていったわ。
「意識の老齢化？でしょうね？・若い人達、体力は有る筈なのにねぇ！・・・体力がきつくなって来るのが老人なのよねっ！・・・少なくはないわね。・・・体力が無くなって、『昔は簡単に持てた荷物が、今は持てなくなった！』って云うのとは、大分違うわねぇ。」
「そうですよ！・わたしを呼び出したのだって、意識がお若いからですよ！・・・『御主人の浮気相手を確かめてやる！』なんて、気がお若くなければ出来ないことですモノ。」
「そうかしら？・毎朝毎朝、鏡を見る度に、お肌の勢いが無くなっていくのは、恐怖に近いモノなのよ。それに、レイさんとは、ウチの人の浮気相手って事より、本当にお友達になりたかったからなのよ。」

　奥さんの考え方を若く感じたわたし。掛け値なしに奥さんを『若い！』って感じていたのですけれど、 お見掛けした限りは、わたしと３〜５歳位しか違わない様に見えるのです。
　おじさんの感じからして、そんなにお若い奥さんを貰ったとは思えなかったのに、奥さんは、おじさんが６０歳近くだとして、お若いとしても１０歳以内でしょう？・わたしが感じたおじさんの態度から、常識外の若い奥さんって事は絶対ないわ。そうすると５０歳以上？・・・そんなお歳には見えないわ！・・・見掛けは、どう見てもわたしと同じ３０代だわ！
「そんな事を仰るけど、奥さんはお若いですよぉ！」
　わたし自身の歳で見掛けの若さが奥さんの割合に匹敵するでしょうか？・・・それは幾ら贔屓目に見ても、敵わなかったわ。
「男の人に限らないけれど、人間には『慣れ』って云うモノがあるの。・それは同じ時間を長く過ごしていけば、見掛けなんてどうでも良くなるモノなのよ。あの人に取ってのわたしは、・そうねぇ、・そこにいて当たり前なんだけど、改めて意識することの無いもの！・ 空気みたいなモノなのかしら？」
　奥さんの目が遠くを見ている様な感じがしたわ。

「そんな事で、わたしみたいな女が現れて、平気なんですか？」御主人を寝取った女と仲間意識なんて！・常識的には、奥さんの云う事はちょっと信じられないわ。
「妻としては放っては置けないでしょうね？『平気よ！』とは云えないわ。・自分の立場だけを考えるなら・・・。でもそれが、あの人を愛する事になるか？と考えると、女の立場を強調する事は、男の人を萎縮させる事にしかならない。と、思うのよ。秘められた力までを奪い取ってね。」
　奥さんの言い方は、まるで他人事を見る第三者の話のようだわ。
「だってそれじゃぁ、ご自分の立場を放棄なさるんですか？」奥さんの云う『妻』は御自身でしょう？って云いたかったわ。
「それは違うわ。幾ら夫婦でも、それぞれ育って来た環境が違うでしょう？読んだ本だって違うし、知識の持ち方も違うんじゃない？・・・どれはどんな方法を採っても、わたくしはわたくしなりの考えでしか行動できないでしょう？・主人の考えでわたくしが行動する事なんて出来ませんもの！」
　それはそうだわ！・夫婦って云ったって人格が違うのだから、全く同じ考えになんかなる筈がないし、自分以外の人格の考えが分かる様な事はあり得ませんもの！

　それでも、世界中の『妻』の座にいる人達は、伴侶の浮気を認める筈が無いじゃない。
　少なくとも、９９％は奥さんみたいな考え方は出来る筈もないわよ！
　わたしだって、おじさんが奥さんと肌を重ねるのはしょうがないけれど『私達以外の女性と・・・。』なんて云ったら、嫉妬すると思うもの。
「さっき云ったでしょう？・『女性は今のままのわたしを愛して欲しい。』って云うって。・・・それならば、男性だって『その侭の自分を愛して欲しい。』筈じゃない？・・始めから男性って、多くの女性を欲しがる様になっているの。神様がそう造られたのだから・・・。」
「神様って・！・・・結婚の誓いでは『この女性のみを愛し・・・。』って誓うのではなかったですか？」
「それは宗教が作り出したものよ。・宗教は、人に様々な苦行を与えて、自分の団体を権威付け様とするものなの。・愛とか自然に反してでもね。・・重く見せ様とする為なのでしょうけれど、それが人間の生活を自然から遠ざけている事には、目を瞑っているの。」
「えっ！・そうなんですか？」奥さんの言葉の途中から、わたしの頭の中は『人間の自然な生活』に付いて考え出していたの。短いフレーズの内に結論を出す事が出来なかったので、認識を変えるような言い方しかできなかったわ。・でも、簡単に認める事の出来る様な問題ではないわ！・・・奥さんの考え方を認めたら、男の人達は万々歳で、浮気のし放題？・奥さんは一人で家で待っていなければならなくなるのよ！・・・そんな寂しい生活を神様が認める筈がないと思うの！・・・これ・って、わたしが奥さんみたい？・わたし自身の立場をわたしが否定する事になるわ！

「レイさん・わたくしね、　ウチの人のイメージの元はセックスだと思っているの・。どうしてだかは分からないけれど、セックスが途絶えると、途端に写真が平凡になるのよ、あの人は・・・。だから、わたしがお相手できないなら、他の人でもウチの人の渇きを癒して欲しかったのよ。」
「それ・じゃ、わたしはセックス人形？！」奥さんに取って代わろう。なんて考えた事は無かったけれど、セックス処理だけの立場なんて、わたしは嫌だわ。
「あらやだ！・日本の国にも、お妾さんは昔から居たわ。・紀伊国屋文左衛門の、あの活力の元は女性達との豪放磊落な遊び・。・・・様々な考え方はあるでしょう。『男の人が何か大きな事をしようとする時、裏には女性が居る。』と云われますけれど、それは、活力源が女性にあるって事だと、わたくしは思っておりますの。・ですから、ウチの人を愛するから、良い仕事をして欲しいと思うの。・・・どうせ、そんなに大きな事の出来る人ではないけれど、お仕事は全力で向かって欲しいんですもの！」
「でも、それでおじさんの心まで動いてしまったら？」こんな考え方。わたしには堪らないわ！・これじゃぁまるで時代劇の武家の女房じゃない！
「男の人ってね、中にはいち時に複数の女性を愛することが出来る人がいるのよ。・そこが女性と違う処なの。・神様がお造りになられた『男の人』がそうなのよ。ウチの人が一人だけ一直線の人だったら、大変だったんですけどね！」
　思い出し笑いをしながらの奥さんの言い分、そう云う事もあるのかなぁ？って、半信半疑で考えちゃったわ。
「そんなぁ・！同じ人間ですよ！・男性も女性も『男性の浮気は・』って云うのは・！」
　奥さんの言い方は、わたしにはとっても不公平な考え方に思えたんですもの。

「同じ人間って云ってもね、役割が違うのよ。・だから身体の構造も違いがあるの。構造に違いがあるって事は、考え方の組み立てから違いがあるって事でしょう？」
「そうなんですか？」
「そうでしょう？・子孫を残すのは生き物全体の使命でしょ。そうしたら、男性と女性それぞれが、子孫を残す為の効率を考えてご覧なさい・。・・・女性は受胎してから自分の身体の中に新しい命を育むけれど、新しい命の存続を有利にするには、他の同種の生命が少ない方が良いじゃないっ！・違う言い方をすれば、他の女性が受胎して同種の生命が誕生することは、その女性の『新しい生命の生存の為の敵』が現れることになるの。・で、他の女性に目移りすることを防ごうとするのね。・・・でも、男性の側から効率を考えれば・、１０ヶ月も掛かる新しい子孫の誕生の間に、他の女性に受胎させることも出来る訳でしょう？・・・効率を考えれば・、だけど。」
「男性と女性の子孫を残す効率が違うって事ですか？」
「その通り！・もっと云えば、常に多くの女性を相手にしていれば、絶え間なく子孫を残すことが出来る訳よね？・・・それではハーレムになってしまうけど・。」
「ハーレム！・奥さん、わたしが考えていること迄、仰るんですね？」多分、奥さんも色々なことを沢山、沢山経験なさってこられたのでしょう？
「そうよ！・ハーレムなんて、経済的にもとっても無理でしょう。・今の世の中では、一人の男性が複数の奥さんを持つことは法律でも禁止されているじゃない！」
「それは自然なことではないのですか？」奥さんの目に小さくはない怒りさえ感じて聞きました・。
「そう。・『自然』とは云えないことなのよ。自然の中では、女性は男性に生存の保証を求めるモノなの。・・・子供を自分の胎内に受胎して生育する代償にね。・現代では、男性の力は武力や生存力ではなく、経済力になってきているけれど、・・・それは自然が、男性は女性を護る義務を持つ様にしていることなのよ。・女性には子孫を受胎し、出産し、生活力を持つまでの養育の義務もあるの。・それは母性という本能もなって、自然な感情のように云われているけれど、女性の果たさなければならない、自然から与えられた義務でもあるの。・男性はその間、女性を護らなければならないのだけど、『子孫繁栄』の考え方なら、より多くの母胎を持つ方が効率的でしょう？『力』を持つ男性が多くの女性を囲うのはこの為なのよ。・・・男性の中には、一人の女性の生活さえ保障できない人がいるわ。男性の世界も競争社会ですからね。・力を蓄えられなかった男性は、一人の女性をも母胎として持つことが出来ないの！・その分、女性は力のある男性の処へ流れて行く。・・・これが自然なことなのよ。・・・・一夫一婦制が法で定められた為に、余力のある男性に女性が身を寄せる事が出来なくなっているの。・・・そして、平等の美語に隠れて、『女性１人を養えない男性』にも妻を持つ機会が与えられたの。・・だから、男女が一人対一人となることは、全然自然なことではないの。今の一夫一婦制は、自然なことと云うより、宗教的、政治的拘束物と考えた方が分かり易いわ・。」
　言葉を止めた奥さんは宙を見て溜息を突かれました。

　奥さん、時々考えながらでしたけれど、わたしの理解を確認しながら噛み砕くように話してくれたのね。・ここまで『男と女の本来のあり方』なんて、考えたことがなかったわ！
　好きだから好きな人といたい。・・・それだけでは駄目なの？
　・それに、最後に云われた『今の一夫一婦制は、自然なことと云うより、宗教的、政治的拘束物・・・。』は、これは・！
　・・・奥さんの考えたことが正しいとしたら、世界中がひっくり返る様な事じゃない・・・！

　わたしには、・言葉が出て来なくなっていました。
　だって、奥さんの云った事、しっかり思い当たるんですもの！
　力を持てなかった男性と一緒になった女性は、傍目にも可哀想な生活しか待っていないじゃない・！

　近頃の子供の親殺し、親の子殺し、生活力のない男性に嫁いでしまった女性は、ただただ大変だわ！
　・・・子供の養育から教育。社会を少しでも優位に生き抜けるようにしなければならないけれど、社会に出てからの経済力の底には学歴がものを云うんですもの！
　その優位な学歴を付けさせる為には、塾等も良く選んで幼稚園、小学校の早い段階から良い成績を取らせる事が大切なのよ。青春を謳歌するはずの高校時代には、出来ることなら進学志向一直線であって欲しいわ。
　学校を何処を出たのか？それは一般社会に出てからの推進力になるの。
　三流学校出では、なかなか十分な収入を得る程の位置に入れないわよ。

　進みたい仕事に依っては、国立ではない学校かも知れないけれど、それぞれの仕事に良い学校へ入るのは、それぞれの仕事で良いポジションを得る為の最短距離ですもの！
　その勉強をする為にもコストが掛かるのよねぇ！
　理科系まではまだしも、医学系だなんて云ったらトンでもない学費、教育費が掛かるの！

　現代社会では、生活力って経済力のこと・・・。
　それなら、第二、第三婦人であろうとも、人並み以上の生活を保障される方が良いんじゃない・？
　ハッ！としたわ。・・・奥さん、わたしに『お妾さんになれ！』って、云っているのかしら？