11．

　旦那さんの浮気相手を呼びだして、お妾になれ！・・・？？？
　そんな、・・・奥さんが云う事かしら？・・・ふつう・。
　世の奥さん達は『お妾さん』なんて、言葉を聞いただけで目くじら立てるのが普通だと思うわ。
　わたしのお友達にも、そう云う人が多いから、大体そうだと思うの！
　そこ迄一瞬で、頭に浮かんで来たの！
　・・・で、
「奥さん、わたしがおじさんの、そんな立場になって構わないんですか？」
「・・・！・レイさん、先程申しましたでしょう？・ウチの人には、身体ごと接する事の出来る方がどうしても必要なんです・。」力強く、、わたしを諭す言い方でした。
「世間一般的な考え方とは、随分な違いがおありなんですねぇ！」
「ウチの人はクリエーターでしょう・。・・・世間の方々と同じ処にいるのでしたら、何も生まれさせられませんわ。」

「愛憎は世間的な対面ではなく、人間として本来持っているものなのでは・？」
「そうよ。愛憎はそれぞれの個人の心、感情の部分に生まれるものですもの。・でも、こういう場合に問題になりますのは独占欲でしょう？・独占欲は人間だけでなく、どんな生き物にも存在していますよ。自分の伴侶を共有する雌がいるのは、独占欲に反しますもの。・・・じゃぁ、『愛』って何だとお思いになる？・わたくしは『愛』は、その対象をより良い状態に進めようとする気持ちだと思うの。・注意して聞いてね。わたくしはね、独占は愛に相反すると思っているのです。・・・何故なら、愛は対象を育てるもので、独占欲は対象の命までをも吸い取ろうとするもの。・になるからですわ。・」

　奥さんの考え方の骨子が分かってきました。
　奥さんが考える『愛する』って事は、御主人（おじさん）を大きくすること・！
　その為に精神的に自由な立場を維持させて、感覚の鋭さを研ぎ澄ませておく為に必要な事は、奥さんの意に添わない事でも自由にさせる・。
　それでいて、奥さん自身への見返りは期待していない！
　そんなに迄しなければ、愛って貫けないものなのかしら？
　・・・奥さんは強すぎる！

「それで・、奥さんの心は満たされているのですか？・」
「わたくしにも独占欲はありますわよ！・それは否定できません。・・・ですけれど、わたくしには理性もございますのよ。・・・まだまだ大きく育つ人なのよ！あの人。・あの人にはそれだけの素地があるの。わたくしは手助けしかできません。・だから、あの人を愛するから、独占なんて意味が無い事なの。・愛していれば『狭い世界なんかに閉じ込
めてはいけない！』と、考えるのが本当でしょう？」
「そうなんですか・！・・・だってそれじゃぁ・、」
「なんでレイさんをお呼び出ししたか？・ね？」
「・・・えぇ・。」
「始めに申しましたよ。・『お友達になりたい。』って。・レイさんは素敵な方だと思ったんですもの！・ウチの人が惹かれた気持ちも分かりますわ。」
「この『行かず後家』がですかぁ！」
「プッ・！・・・ごめんなさい。・随分古い言葉をご存じで・。・・・レイさんも不遇でしたのねぇ！・・・目の無い方ばかりの世界を・・・。ですけれど、始めにレイさんのプリントを拝見しました時には、『どちらの奥様でしょう？』って、思ったんですよ。」
「充分に嫁に行っている歳にご覧になった？！・親にも随分云われてるんですよ。」
「いいえ！・これだけの方を野放しにして置く程、この国の男性に目が無いとは思わなかったからよ。」ウィンクでもして来る様な楽し気な言い方。
「わぁ！・じゃぁ、わたしが高望みなのかしら？」
「アラッ？・高望みでウチの人？」奥さんはわたしを茶化していました。それも分りましたけど・、 奥さんが何処かうすら笑いした気がして、ムッっとなりました。
「おじさんは素晴らしい人です！」・東洋では身内を正当に評価しない傾向を感じています！・・・この傾向が身内の脚を引っ張る事になっているのに、多くの人が特別な思いもなく、こう云う身内を軽視した見方の事を云うんです！・

「そりゃそうですよ！・わたくしが伴侶に選んだのよっ！・写真での能力は惚れ惚れしますもの！・でも世渡りは、上手とは言えないわぁ・・・！・この点では、イライラさせられるの！」
　わたしが軽視に反発した事で、奥さんは誇らしい気持ちをもたれたんだわ。それでも同時にお顔が少し曇った気がしました。・おじさんが有名にならない事にでも思いがあるのでしょう？・・・おじさんは自分が撮った写真を謙遜し過ぎるのよ。
　編集部に売り込みに来る人達の猛々しさ！・・・大した見本写真も無いのに、厚顔暴言！
　あんなお調子に乗ってしまったら、雑誌なんて直ぐに売れなくなってしまうわ！

「お陰で・、お知り合いになれました！・おじさんのお歳ともなると、乗用車の方の方が多いでしょう。・表現者って考えると、おじさんにはもう少し自分を押し出して頂きたいんです。」
　おじさんがそんな生き方をしてくれるから、山中湖での出会いがあったんですもの。・世渡りが上手だったり、ふんぞり返るタイプだったりしたら、今のお歳でフュージョンなんて乗っていないだろうし・・・、そうなったら、わたしにも気持ちを惹かれる事も無かった筈だもの。

「レイさん、やっぱりわたくしの若い頃みたい！・真咲義美を育てられる人だわ。それが、わたくしが『ウチの人、を託すのでしたらこの人！』と思わせたのだと、思うのよ。」
「えっ！・」
「わたくしと似た感覚をお持ちなのよ。あの人の良い処も悪い処も良く見ていらっしゃるわ！・そして、あの人をもっと良くして上げたいとも思って下さっている。我の強いあの人、ぶつかり合ってでも悪いところは『悪い！』って云える人じゃないとならないのよ。やっぱり良いお友達になりたいわぁ！」
　奥さんの目の輝きが増しました！・この人・本気でわたしとお友達になりたがっているんだわ！！
「よろしく。って云うのに、戸惑いがありますよ！・わたしにはまだ、納得できない部分が少なくないんです。」出会って直ぐに、『アレを引き受けてくれるなら・・・。』なんて・、云う人ですもの！・・・男と女の間にセックスが入ったら、心が動かない筈がないでしょう？・少なくとも、女性には考え難い事だわ！・女性は受け入れ側なんですからね。・跳んでる人達の中には『セックスフレンド』なんて云う人もいるんだけど、本当の処はそんな状態は信じがたいの。・奥さんが云う様な関係が続いたら、わたしはおじさんを夢中で愛する様になるだろうし・・・。奥さんだってそこら辺は承知の筈でしょう？・
　そうなったら、奥さんとわたしでおじさんの取り合いをする事になるのよ。・それで、『良いお友達』で、いられる訳がないでしょう。わたしに納得できないのは、そう云う未来が見えているからだと思うの。

「そう云う、正直なところは好きよ！・考え方はその人ごとの歴史ですもの。・簡単に転換するような人は、かえって信用できないわよね。レイさんが戸惑う処って、レイさんとウチの人が肌を合わせていて、わたくしが平気なのか？って事でしょう？・・・」
「・ぇえ・・・。」
「そうね。肌を重ねて心を動かされない女性は少ないわ。レイさんみたいに感受性豊かな方なら、心が動いて当然よね？・そうなると一人占めしたいんでしょう？・普通はそう考えるわよね？でもね、これだけ覚えて置いて・、『愛は奪うのではなく、与える物。』・レイさんなら遠からず正しく理解できる筈よ。・わたくしはそこに期待しています。」

　日本人の舌に合わせられて好感を持った、ここの中華の味も、もう一つ味わい切れません。・わたしの心には、味わいを楽しむ余裕なんて無くなっていたのですから・。
　だって、奥さんの仰る事は正論の様でもあり、その割には茶化されている様な雰囲気を感じたりもするんですもの・・・。
　神妙になって奥さんに気後れしながらのお話も、諭されるようだったり、茶化される様だったりで、舌に払う注意力をわたしには持てませんでした。
　思いも掛けない時間が飛び去っていました。
　・
　・
　・
「昔の人は女性でも『懐剣』を持っていたのよ。そのナイフは、きっとレイさんの心の支えになってくれるわ。・刃物は自分を正直にしてくれるの。」
　三原橋交差点を渡り有楽町方向へ歩いていました。
　歌舞伎座の真向かいの刃物やさんで、６０数万もする小さな折り畳みナイフをプレゼントされてしまいました！
　女性が女性にプレゼントするのにナイフ！！！
　ナイフの作りは、一言で云えばセクシ〜！
　刃渡り１０センチ程の刃の流れは、優雅さと気品を感じました。
　開いても閉じても纏まりが良く、始めに感じた優雅と気品が些かも崩れる事がありません。それでいて握ると腕の軸の延長に刃があるような感じがします。
　物を削ったり切ったりする事を想定して握り直しても、力を入れるべき処には力が入りやすく、わたしの手に吸い付くように握られるんです！
　象牙の柄の部分まで繋がる細かい裸婦の掘りにも優雅さが、・・・彫刻の趣で芸術品の趣がありました。
　単純なナイフでありながら、こんな完成感を感じさせられるなんて！・・・切ったり削ったりする道具でしか有りませんから、そう云う事には無関心なわたしが『ナイフの完成度』なんて分かる筈がないと思っていたんです。
　それは究極に近いからこそ、関心の無いわたしにだって伝わる物を持っていたのでしょう？・・・このナイフが素晴らしい物であるのは、わたしにでも強く伝わってきます。
　これはナイフの中でも一品中の一品なのでしょう？
　それでも、この奥さんの考え方はやっぱり、相当に跳んでいます！

　わたしの記憶にあったナイフは、大方が果物ナイフです。
　唯一むかし、学友の男子が他の友達に『高価な物なんだ。』と、見せ開かしていた事があった、記憶だけなのです。
　文化包丁なら、この倍以上の刃渡りで１０００円にお釣が着いて来るくらいだわ・。
　使い方だって、そうは違わないはずだわ。
　キャベツの千切りには向かないだろうし、３００円のリンゴを剥くのに、こんな高価なナイフは使えないわ！

「今は懐剣を持ち歩くことは出来ないでしょう。・そう云う刃物は女性は一生使う事が有ってはならないの。・武家の考え方でしたのですけれど、女性と云っても身を律するには覚悟が要る事を示していたのよ。・護身用って云われる事が多いですけれども、自分の心の枷となっている物なの。・レイさんなら、その内にこの意味は分かって下さるわね。」
　こんな考え方！・わたしは思った事もありませんでした。
「でも、こんな高価な物！」わたしは使いもしない物に、こんなにも高額を叩く気が理解できませんでした。
「それはあなたの心、精神に関わる物ですから、安物では意味がありませんでしょう？」
　奥さんが当然の様に言う言葉・・・。わたしには納得できる気もするものゝ、もう一つ納得には物足りなさがあります。
「それだって、使ってはいけない物にこんな高価な物を・。」
「レイさんと初めてお会いした記念よ！・衝撃的でしょう？」
　そりゃぁ衝撃的ですよ！・これがネックレスとか、ブローチだとかなら、もっと容易に受け入れられる筈です。・ナイフとは・・・？？？
『中途半端な気持ちだったら身を引きなさい！・本気でウチの人をもっと大きくしたいのなら、協力しなさい。それだけの覚悟をしなさい。』って云うの？
　奥さんの言外の言だわ！
　・
　・
　・
　休みの日におじさんを呼び出しました。
「やぁ！・ご無沙汰。どうしていた？」
　銀座5丁目のオープンカフェにおじさんはニコニコして現れました。
「この間ね、・・・」
「ウチの奴に呼び出されたんだってね。・ナイフのプレゼントだなんて、ウチの奴も思
いきった事をしたものだ。。」
　わたしの話そうとした言葉を遮って、おじさんが話し出しました。
「ビックリしただろう？・遣りたいと思った事は、考える前に動き出す奴だからなぁ！」
「ビックリなんてもんじゃ無かったわよぉ！・・・あの日はまる一日、何遣ってたか分からなかったんだからぁ・。これ見て！」わたしは折り畳みナイフをおじさんの前に置きました。ナイフなんて、荒くれ者のアイテム位にしか考えていなかったわたしでも、この
ナイフが繊細な神経で作り上げられたものだとは分かります。
「済まなかったなぁ・・・。・えっ！シュナイダーじゃないかっ！・・・フォールディングを造ってたなんて聞いた事も無かったのに・・・、良いものを見付けていたんだなぁ！随分ウチの奴に見込まれたなぁ・、レイちゃん！」あのナイフがそんなに珍しいモノだとは・・・。？おじさんの驚き様に、わたしの方がビックリでした。
「ウチの奴になぁ、あそこまで、わたしが見切られていると迄は思っていなかったんだよ。『あなた、将来有る編集者を駄目にしたわよ！』なんて云われてね。・そんなに、君にダメージを与えたのかい？」
　おじさんの言い方には、不可思議な物への疑問が含まれていたの。

　男の人達には殆ど分からないのでしょう？・女性にとっての愛のあり方って云うのは、・・・ただ献身すれば済む物ではないし、奥さんが仰った『愛は与えるもの。』も、普通の女性は本来、自己中心的なはずだから、それだけでは女性の側が納得できないのよ！
　・頭では理解できても、心が『わたしがこれ丈、遣って上げたんだから・・・。』の、お返しを求める心が沸いて来てしまうものなの・。
　これが自己中の切っ掛けだなんて気付きもしないでね。
『遣って上げたんだから返して・。』は、『好き』だとか『愛』だとかとは全然関係の
無い事よ！
『あの人を愛したい！』と思って愛する人って、本当にいるのかしら？
『自分で気付かない内に、誰かを愛してしまっていた！』が、本当じゃぁないかしら？
　愛する人と愛される人とが別人格である以上、一つの事象が起こっても、その感じ方はそれぞれでしょう？
『愛』って、自分の感情で、結局は自分だけのものよ。
　相手の方に『愛』を強要するなんて出来っこ無いことでしょ。
　誰かを愛したら、その誰かからも愛されたいのは自然な感情だけど、その誰かさんが、誰を愛するかを決めるのは、誰かさんの心なの。

　愛する人には何か遣って上げたい。
　でも、遣って上げたから愛してくれると云うものでもないわ。
　お互いが別の人格ってそう云うことなのよ。
『遣って上げたい！』と思ったから遣って上げたのでしょう？
　そこには相手の方の気持ちなんて入ってもいないじゃない。
『遣りたい人が遣りたいから遣った。』ただそれだけの話しじゃないかしら？・それに依って『喜ぶ顔が見たい。』とか、『喜んで貰いたい。』なんて、遣る側の勝手な思いでしょう？
　もし、遣って貰う側が、遣る人を快く思っていなかったとしたら？
　有り難く喜ぶどころか、迷惑至極に思うかも知れません？
　どんな気持ちであろうと、気持ちは自分だけのものなんです。
　わたしにだって３０女の常識はありますし、奥さんに気に入られても、当のご本人の気持ちが一番大切なんです。

「奥さんねぇ、・全部おじさんに話したの？」
「全部って？・何処までが全部なのかが分からないからなぁ。」
「おじさん何処まで聞いているの？」
　奥さんの話はわたしには衝撃的でしたから、おじさんが奥さんから何処まで聞いているのかは、それに依って話しが向かう方向が違ってしまいます。
「『レイさんをしっかり口説きなさい！・モデルとしてより、女性として好きなんでしょう？』・なんて云われちゃったよ。」
　奥さんも随分思いきったことを仰ったのねぇ！
『女性を口説け！』なんて、浮気奨励を奥さんに云われる御主人がいるかしら？この間
のお話しを、奥さんは奥さんで進めているのが分かりました。

『愛の為には全てを犠牲にしても良い。』人は簡単に口にする事が出来ます。
　でも、それを実際に行動で表せる人がどれ程、居ることでしょう？
　わたしは、奥さんの愛の深さを思い知らされました。

「奥さんそんなこと仰ったの？・それじゃぁ、おじさん驚いたでしょう！？」
「そりゃそうだよ！・・・『浮気しろ！』って、云われたんだからなぁ・。」
「それじゃぁ、わたしが云われた事を知ったら、もっと驚くわよ。」
「なんだよ。・勿体付けないで教えてくれよ！ウチの奴の話ってなんだったんだ？」
「わたしにねぇ・・・。」
「レイさんに・・・？」
「おじさんのお妾さんになれ！って。」ここだけ早口になってしまいました。
「・・・・・！」流石のおじさんも呆れ顔を隠せません。ちょっと考え込んだ様でした。
　でも、一息突いてから続けて云いました。
「アイツがレイさんに・・そんな事・を・・・。・・・それじゃぁ、驚かない人はいないよなぁ・！」云いながら、おじさんの心の中が奥さんへの思いで一杯になっていくのを感じていました。
　
　わたし以外の人の『愛』を、初めて目の当たりにしました！
　奥さんが仰っていた『レイさんはわたしなのよ。』が、目の当たりに展開されて行くんです！・・・おじさんとわたしの間に言葉が存在しなくなってしまいました。
　わたしを見ているかの様なおじさんの視線は、・わたしを通り抜けて、今ここにはいない奥さんを見ていました。・・・愛の眼差しなんです。
　奥さんの愛を自覚したのね・！・・・そして、おじさんの奥さんへの愛が呼び返された・・・。
　おじさんの顔にジレンマが漂っていました。

　多分、おじさんは奥さんを愛していらっしゃる。
　おじさんは、奥さんの愛の形をハッキリと自覚したんです。
　かと云って、目の前にいるわたしを無視もしたくない。・・・これがおじさんの優しさですね、奥さんの事は勿論、わたしをも『傷つけたくない！』想いに苛まれているんでしょう？
　優しい気持ちを持った人は、このような状況に巻き込まれれば、悩み続けなければならないのでしょうね？・奥さんがわたしにお付き合いを許して下さっていらっしゃるのに・・・・。

「ねぇ？・わたしと奥様が繋がってしまっても、おじさんは平気なの？」これ、一番の疑問です。
　わたしはまだまだ、奥さんのレベルには程遠い考えしか持っていません。
　それでも、奥さんの云われた非常に高いレベルでの愛の形、巧く説明は出来ませんけれど、わたしの心の奥深くでは納得しているような気がします。
『愛することは独占することではない！』
『愛することは相手の方を高めること・・・・・。』
　これは理性では理解できています。でも、感情は『わたしだけを愛して貰いなさい！』と、叫んでいるのです。・・・『奥さんとの共有なんて！それじゃぁ、わたしの立場はどうなるのよ！』とも・・・。

「平気だとは言い難いね。・わたしが『素敵だ！』と思う女性二人が結託したんだろう？・男としては戦々恐々なんてモンじゃぁないよ！・・・ウチの奴がプレゼントなんて、するって事は、・ウチの奴はレイさんを敵としては見ていないっ筈だ！？・・・敵味方をハッキリ分ける女だからね。あいつは・・・。」
「お友達になりたいんだって・。・おじさんと奥さん・女性を廃業のセックスレスだっ
て！・・・そんな事まで仰るのよ！・でね、おじさんにはどうしてもセックスが必要だから、わたしに・・・。・・・解るんだけど、分からないのよ！」
「オイオイ！・協定結んじゃった当事者が何を言い出すんだい！？」
「だってぇ・・・、わたしの旦那様が余所で女を作って、・・・なんて云ったら、多分、目尻、吊り上げちゃうわよ！・わたしなら・。奥さんは、わたしじゃぁ解らない程の高い処から見ていらっしゃる様な気がするの。」
「・・・・。」
「協定って、おじさんは云うけどぉ、奥さんが仰った協定は『おじさんをもっと高い処
に上がれるようにしよう！』って事よ。・・・巧く云えないんだけど、それは、おじさんがもっと高いレベルの写真を撮れるように。って事？・・・協力してくれれば同志だって。それがおじさんを愛する事だって・・・。」
「ん〜ん 、ウチの奴らしいな・ぁ・。・わたしは尻を叩かれ通しだよ。」
「なぁに？・おじさんをお尻・叩かれないと動かないの？」
「・・・そうだなぁ。男は大半がそうじゃぁないかなぁ・？・・・長いこと同じ事を続けていると、なにか？惰性みたいになっちゃってね、自ら動き出すのが億劫に思う事もあるんだよ。」
「へ〜！・そぅ？・・・」
「一応、写真が好きだからね。そんな怠けてばっかりじゃぁないよ。創造欲に突き動かされて動く事だって沢山あるさ。・・・他の仕事をしてる人達だってそうだろぅ？・大半は自分から動いている。それでも、動きたくなくなる時があるんだ。男って奴は・ねぇ。」
「そんな事、考えた事は無かったわ。・仕事だったり、好きだったりしたら、どんどん邁進して行くものだと思っていたわ！」
「若い時ならね・・・。・歳取って、同じ事の繰り返しを重ねると、時にそこから逃げ出したくなるんだ。」
「逃げる・。って事は、廃業することでしょう？クリエーターは・・・。」
「そんな処までの事じゃぁないんだよ！・『事件の陰に女有り。』って、良く云われるだろう？・一概に言い切る事なんて出来ないけど、男の中には、わたしみたいなタイプも少なくないね。・『英雄、色を好む。』なんて云うのも同じだね。・大きな事をしようと思うと、膨大なエネルギーが必要になる。独りだけで成し遂げられる人はいないよ。・どんな人でも、歴史に名を残すことの出来た人達でも、その人を支えた人が必ず居たものだ。」
　おじさんの目が遠くを見ていました。