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　深くゆっくりとした呼吸を繰り返す中、涙が頬を伝って行く感触がありました・。
　エクスタシーの後の、なんとも表現し難い満足感があるのです・。
　大地や海のような大きなものに抱かれた様に・・・
　そして、奥さんの出迎えて下さった玄関の場面からのイメージが、加速度を付けて走って行くの。・・・走馬灯のように脳裏を駆け抜けていました。

　わたしがエクスタシーに近付くと奥さんの顔が大きくなって来たんです。
　どんどん、どんどん大きなイメージになって、顔の中心から両眼に注目して行きました。
　両眼がまだ大きくなって左目に寄って行って、瞳も大きくなって、瞳に虹色が輝いていたのです。虹色の宇宙のように広がった中に飲み込まれて行くの・・・。
　繰り返し繰り返し、そんなイメージが何かを考えようとするわたしの頭を埋めて行きました。
　わたしの身に覆い被さって来ているミステリアスなイメージ・・・
　達っしたからって、・・・それだけでわたしに、涙までなんて出て来たことなんてないわ・。
　どうして・・・？

　そこで思い出しました。
　幾らわたしに欲求が生まれたとしても、あまりに簡単にエクスタシーに至った事を・。
　奥さんの手が触れた処に沸き上がる悦情・、こんなの聞いた事だってありません！
　わたしのポイントでは無く、奥さんの手に引き吊られるなんて・？
　ヌメリを持ってわたしの口に入って来たものは・？
　そんなものは全く見当たらないのです・？
　どんな考え方をしてもわたしの官能の昂まり方はミステリアスでした・。
　神秘的な官能・・・奥さんがヘラに見える事と関係が・・・？
「ええ・。」答えながら、ヘラが重なって見える奥さんが戻る訳を考えていました・。
　満足したから？・ミステリアスな力を隠したから？


「奥さん、・待って！・・・今度は奥さんの番です・。」急いで奥さんの身体に抱き着いて、身体を入れ替えました・。
　達っしたのはわたしだけよ・・・。奥さんはまだ、・達っしてはいなかったわ。
　そんな状態で満足だなんてわたしには考えられないの・。
　そう思った途端にわたしは身体を起こしました。独りだけじゃぁ駄目なのよ！

　お互いがお互いを満足させ合ってこそ意味があるの。
　・・奥さん・女神ヘラ・にもエクスタシーに持ち上げてあげる為に・・・。
　わたしだけが達っしているのって、フェアーではない気がするのですもの。
・・・・奥さんに抱き着いて行きました・。
　暖かいんです、・奥さん。
　あのナイフを頂いたとき、この奥さんを尋常ではないと思ったのに・。
　幾ら同性同士だからって、女性にナイフのプレゼントなんてあり得ないでしょう？
　思えばこの奥さんには驚かされっぱなしだったわ・。

　思い立った事を直ぐに行動に移す奥さん。
　行動的だって事はお会いした、・いいえ、初めて電話を頂いた時から分かっていました。
　わたしだって、周りの人達に云わせれば行動的だと云われるわ。
　それでも、奥さんのように、ご主人の浮気相手と直接話そうとするなんて事は、あんなに素早く行動できるなんて、・・・とっても出来ないわ。

　それに、あのヘラのイメージ・・・。
　ヘラは恐いわ。・全能の神、ゼウスでさえ恐れる女神なのよ！
　神様にわたしなんか敵いっこ無いじゃない。
　頭の中が狂ったように掻き回された感じだわ。・・・エクスタシーの余韻？
　ギリシャやローマの神話なんて、物語を読んだ事はあっても、遠い世界の事だと思っていたわ・。神話の女神をこんなに身近に感じた事なんてある訳無かったもの・。

　恍惚の悦楽のお返しだけはしなければ・！
　神道の神様以外の、・世界の神様は、契約神ですもの・。ギブ　＆　テイク・・・
　人間がさせて頂いた事へのお返しがご利役です・。シモベとして何もして差し上げもしないのに、ご利役だけを受けられる事などあり得ません・。
　お返しが出来なければ、どんな祟りになるか分からないわ。


　わたしだったら、どこから攻められるのが嬉しい？
　やっぱり抱擁のあとは口付け・。
　ここは回り道は駄目よね・。
　静かに、スムースに唇を近づけて上唇に軽く触れて・。
　舌を奥さんの唇の間に静かに浅く差し込んで、奥さんの上唇の先を救い上げて上げる・。
　唇を辿って口角・・・また、かすかに軽く吸うの・・・。
　上唇の先を奥さんの口角に触れさせたまま首を傾げる・。
　奥さんも上手！・・・わたしの唇から離れないようにして反対側に頭を回して行くの！
　唇同士が直角になると静かに隙き間を無くして吸うの・。
　全てを静かに、ゆったりと、スムースに・・・。

　わたしだって力尽くは嫌っ。
　まして女神様が重なって見えるのです。感覚はわたしより遥かに敏感なはず・・・？
　わたし自身の感じる微かさよりも・もっと微かにタッチの力を神経質なくらいに神経を鋭くして軽くしました・。
　動かすのも全神経を総動員してスムーズに・・・

　奥さんもわたしの口を吸って来ている・。
　静かで、穏やかだけど、わたしの心まで吸い取られる感じだわ・。
「フゥゥ〜・・・」奥さんの吐き出す息が頬を撫で、耳たぶをもてあそんで行く・。
「ンッ・・・！」わたしの方がもてあそばれてる・？
　女神様がお相手では、荷が重すぎるわ・・・。
　だって、・ほぼ全能でしょう・？
　キスをしただけで、わたしの頭の中まで痺れるような悦撃が走ってしまいます。
　身体中の神経が逆立って、血液が沸騰しそう・・・
　わたしが主導権を握るには・・・、奥さんに官能の刺激を・
　脇腹から乳房へ・・・静かに撫で上げてあげるの・・・
　・さっき、確かに一声・・・なにか奥さんを女神を、一気に高揚させる手立てって、何かないのかしら？

　女神様って事を基に考えてみました・。
　神様って世の中に起ることは殆どご存知なのよね？・ってことは、全ての神経が想像を超えて繊細で敏感なはずだわ！・・
　・それにいつも世の中に起っていることを知ろうとしている・
　？・・・そんな事をしたら神経が散漫になっているはず・？
　意識を集中させるには？・・・視線だわっ！
　奥さんの眼を見詰め続けることにしました・。
　神様だとしても見詰めている眼があれば、意識がその視線に向かうはず・・・。
　そうすれば他のことではなく、わたしのことに集中してしまうはずよ！
　わたしに集中してしまえば、わたしの手が何をしているか、わたしの身体が何をしているかにも、集中してしまうはず・？
　そうすればわたしが触れている肌へも神経が集中するはず・・・。

　奥さんの眼の奥にまで分け入る様に見詰めました。
　始めは眼を逸らせました。とっても魅力的な眼でした。
　輝くように白いアウター、底深いグリーンに見える瞳・・・。
　見詰める程に奥深く、底が感じられないのです・。
　
　やっぱり女神様・・・？
　底の存在を感じない眼を覗いてしまった為、神秘性が高まっていました・。
　とても人間の眼だとは思えなかったのです・。

　こうなると、一遍に畏敬の念が強まります。
　それは何としてでも、お返しに足る行いをお返ししなければなりません。
　かと云って人間のわたしが、遥かに勝る能力の神様に、何が出来るでしょうか？・・・出来るのは誠意を示す事ぐらいです・。

　指先に神経を集中させて、わたしの知覚の全ての能力で「触れたと触れない。」の狭間の感覚を引き出します。
　触れてしまえば、遥かに優れた知覚能力は痛さとなるでしょうし、かと云って離れていては、どんなに鋭い神経も感じる事が出来ない筈ですもの。
　１０本の手指の触覚を全開にして、幽かな感触に頼るのです・。

『はぁっ・・・』
　それは小さな小さな吐息でした。・でもわたしには悦びの吐息が混じっている様に聞こえたのです・。
　女神様にわたしのテクが通じる！・これは有頂天になります。

　前にも増してソフトにソフトに、ポイントを探って撫で続けます。
　あの緑色の眼がわたしを見詰めています・。
　この眼には怯んでしまいます。・・・わたしの心の中まで見通すような眼・。
　視線を避けて首筋に、唇を寄せて滑らせるの。

　柔らかな膨らみに添えた手も、静かに滑らせ続けています。
　手をすぼめて柔らかな膨らみを包み込んだり、僅かな丈、滑らせたり・。

　言葉は一切必要ないんです。
　お互いの気持ちは、その仕草、触れ方滑らせ方で伝わって来ます。
　わたしだって思いを込めた触れ方をしているのです・。

「フゥ・・・・」
　また小さな吐息が
　・・・・
　気持ちを込めていれば、やっぱり通じるものなんですね。
　ヘラと重なって見える奥さんですもの。感受性は、わたしよりも鋭い筈です・。
　奥さんは仰向けで、・優しく、これ以上なく優しくわたしを包んでいます。
　お互いの身体の間に空間はあるのですが、包まれる様に抱き抱えられています・。
　この感覚も未知のものでした・。

　下腹をお互いに押し付け合っているのですが、圧迫感がなくて、・・・表現しようの無い・、暖かいゼリーのような・？・・・接触感はあるのですが、それはとっても柔らかい感じなの・・・。マシュマロとマシュマロの触れ合いって云うのかしら・？
　それよりも、解け合って行く・。って云う方が近いのかしら？

　そして擦れ合うと、また微妙な感触が膨らみます。
　だって、微妙な僅かの動きでしかない筈なのに、全身に響いて来るんですよ！
　それは肌の表面ではなく、お互いの身体の、もっと深い部分で擦れ合っているように感じます。
　それだけ悦の響きも、身体の身を揺るがしているの・。

「ファァァ・・・。」自然な吐息が声になって出てしまいます・。
　奥さんだって同じ見たい・・・？
「ァ〜・・・・。」スラーが掛かったような後を引く吐息が、奥さんからも漏れて来るのですから・。

　静かで強い悦楽の波が身体の中で打ちては引き、打ちては引いて繰り返すの・。
　全身に熱い汗が滲み出して行きました。
　二人共お互いに任せたままでは、とても収まらないのです。
　自分自身の身体さえ、静かに治めておく事が出来ないのです・。
　わたしのからだは、全くの意識無しにうねり、のたうって、身体の心から沸き上がって来る悦楽に翻弄されています・。
　皮膚の内側がむず痒いような・、身体中がより強い悦楽を求めて、幽かしか無い手掛かりを追うの・・・。
　そう、・奥さんの手や身体の触れている処が・・・・。

　奥さんをもっと楽しませる事だけを考えていました・。おじさんの愛人のわたしがその奥さんを・・・変な感じはするのですけど、止められません。
　直接的に敏感な処には殆ど触れないですけれど、何処に触れるにしても触れ方に細心の注意を払っていました。
　耳たぶから首筋へ降りるにも、触れるか触れないかの感覚を保って、ぎくしゃくしそうな滑りを細心の注意でスムーズに保ちました・。
　一定のリズムを保つように心にメトロノームを置いて、４分の１拍子、・一つずつの触れ合いを４小節か８小節で終わるように・・・。
　首筋からも咽を渡って乳房に至るのも・・・。

　もう一方の手だって反対側の肩甲骨付近から脇腹を下ったり登ったりして、・一時でも止まらせないの・。
　唇は奥さんの唇とその縁をなぞって吸い、くすぐって、奥さんの官能を昂めようとしたわ！
　でもあの，奥さんの呻きが出始めて頃から、わたしへの奥さんも手から伝わって来る官能も凄くなって来てるの！
　わたしが奥さんの官能を呼び起こそうとして、身体を触れさせる処からも、奥さんの官能を呼び出すと同時に、わたしの方へもその官能が伝わって来てしまうの・。
　
　変な感じ・・・、わたしが呼び起こした奥さんの悦感が、そのままわたしへも移って来るみたいなの・。
　わたしが奥さんの官能を高めようとする事が、わたしの官能をも高める事。
　柔らかく奥さんに触れようとすればする程、わたし自身の柔らかい所を使わざるを得ないんですもの・。そうすると、柔らかい処って簡単にポイントに変わってしまうの・。
　喜悦の波がわたしの中を走り回っている・。
　ニップルとニップルが触れた時なんて、考えられない程凄い電撃になっていたわ・。
　それを我慢してるの・。
　だって，奥さんを昂めなけりゃ！

　奥さんの呻きは、随分大きくなってました。・その声だって、わたしの官能に響くんです・。
　ァア〜〜〜！・・・っと、言葉ではない嗚咽の呻き・・・
　耳から入って三判器官を震わせると、頭の中に直接喜悦が響いて来るんです・。

　お互いをいたわり合い乍らの喜悦を送り込んだつもりだったのですが、そのままわたしに跳ね返っていました・。
　こんなの・・・、とっても我慢出来ないっ！
　奥さんに悦んで欲しいと思えば思う程、わたしの中のポイントを写すように、・そのポイントを刺激する事になるでしょう・。
　それが返って来てしまうんですよ！
　わたしに取っての最適なポイントが最適なタイミングで・・・。

　奥さんから漏れる嗚咽が最高潮を示した時、わたしもオーガスムスに達してしまい、二人の奥底からの嗚咽が絡み合って響き渡りました・・・・

　目の前には奥さんの眼が大きく広がって見えていました・。
　そんなに大きく見える筈が無い事だって承知しているのに・。
　確かに目の前に広がって見えているのは奥さんの二つの眼です・。
　その眼が奥まで見えるんです！
　綺麗な水晶体はまるで底無しででもあるかのように・、綺麗な空気の下で見た、あの天空の宇宙の向こう側でも見るように・・・。

　凄いスケールの悦楽です。
　もう半信半疑なんて云えるものではありません！
　わたしの空想の限度さえ通り抜けて行っています。こんな神秘的とさえ思える悦楽は、聞いた事もありません。それがわたしに起こっています・。
　奥さんの眼の奥に飲み込まれて行くような気がします・。
　ファンタジー映画の中では何度か見た事はありますけど、こんな非現実的な事が・・・。

　ベッドの感覚も、触れ合っている奥さんの感覚も一瞬で消え去って、腕と身体が絡み合っているのにその触感も無く、宙に浮いている感じになっていました。
　俯せになっている筈の体勢から、仰向けになろうと身体を回しても、肘にも膝にも当たるものを感じません・。周り中が光り・・・
　そう、・眼を開いて見えるもの全てが光なんです！
　奥さんがあの、ヘラに見えていました。
　そして、すぐ傍にいるのに、遠く離れている様にも感じて・・・。
　全ての感覚が宙を漂っていました・。
　今迄に感じた事のある悦びの、全てがまとまって被さって来ていました・。

　これが神様のクライマックス・・・？
　わたしの頭の中は、現実とイメージがカオスのように絡み合っていました・。



　全身の脱力感、・・・力が入らないんじゃないの・。
　満たされた感覚・・・力を入れたくないの・。
　心の奥まで満足させられていたから・。

　指の一本だって動かしたくなかったわ・。
　チョットでも動いたら、この満足感が消えて行ってしまいそうな気がしていたの。

　奥さんも動かなかったわ！
　・・・満たされた顔をしていたの・。わたしにはそう見えていた・。
　こんな満足感・。空気・・・その場の雰囲気と同化しているみたいな・。
　そんな奥さんを見る事ができてホッとしました。わたし自身がエクスタシーに達した事よりも、この方がわたしに満足感を与えれくれました・。

　ただ奥さんを眺めていました・。
　何の思いも、心にも頭にも浮かんでは来ません・。フワァっとした虚脱感の中に漂っていたのですが、スゥっと立ち上がった奥さんが声を掛けて来ました・。
「大分暗くなっちゃったわねぇ・、今日は帰って来る。って云ってましたから、お食事の用意をしておかなきゃならないわぁ・。手伝って下さる？」
「もちろんですわぁ！・そうですか！おじさん、今日はお帰りなんですか？」
　まだ、頭の中が真っ白のままです・。奥さんを追ってフラっとしながらもベッドを降り、階下から脱ぎ落として来た下着が何処だったか捜しました・。



「おいおいっ！・レイちゃんが家にいただけで心臓がひっくり返りそうなのに、いつの間にそんなに二人が結託しているんだよ！！・・・」
　奥さんの予想通りの時間に帰宅したおじさんの驚きが、食卓の上に響きました。