３０

　楽しいディナーも済み、リヴィングでブランデーにお付き合いしていました・。
　優しい香りと豊潤なコクにうっとりさせられます・。
　鼻の奥から染み込んで来る。
　３人とも余りお酒に強い方だとは思えません・。それなのにブランデーですものね！
　酔いの回りは早いと思います・。

　案の定、直ぐに良い気持ちになってしまいました・。
　その中で、やっぱりご自分を保っていたのは奥様でした・。
　わたしもおじさんも、すっかり良い気持ちになって、時々、話が繋がらなくても笑い続けてしまいました。
　話が繋がらないのも考えように依っては面白いですもの！
　こんなに笑ったのは、久しぶりです。
　こう云う雰囲気だと、お酒って良いですよねぇ！

　ヴィジタールームがあるなんて！
　昼に奥さんとの事があった、寝室の奥の反対側・。
　あのお部屋程ではないのですが、ほぼ同じ大きさのベッドが設えてありましたし、シャワーの設えまであるんです・。
　クローゼットが大きすぎる気もしましたが、ベッドもキングサイズですし、ヴィジターはご夫婦の事もありますでしょうし、・・・外国のお客さんが滞在する事もあるとは聞いていましたから、そんな場合にはこれで良いのかも知れません・。

　キングサイズのベッドはわたしにはタップリ過ぎますが、ふかふかの大きなベッドは、また新鮮な感覚を与えてくれます。わたしのロフトのベッドとは大変な違いがありますもの！
　お腹一杯で、熱いお風呂に入って、・・・・グッスリ眠って明日はまた、・お仕事頑張らなければ！これが実感でした・。

　おじさんと奥さんは、勿論あの寝室です。
　さすがに今晩は、おじさんが来る事は無いでしょう・。
　今晩、おじさんがわたしを求めて来たら・、わたしには決まり悪さがありました・。
　でもシャワーを浴びながら、今日の出来事が蘇って来ました・。

　奥さんの肌がプルッとしているのは、良く考えて化粧品を選んでいるのだと思いましたし、昼間の肌の手触り・、とても４０過ぎだとは思えませんでしたもの！
　奥さんはどう考えてもアラウンド・フィフティーです・。
　一番それが分かるのは言葉遣い。エチケットの認識の仕方でしょう？
　編集部には色々な方がお見えになりますし、ジェネレーションウェーブには敏感だと思っているわたしの感なのですけど・・・。

　おじさんが帰って来た時の表情を思い返すと、わたしがいた事には驚いたようでしたが、奥さんが驚きもしないのは、当たり前のようでした。
　あの奥さんの表情を思い返すと、今日おじさんが帰って来るのを、分かっていた様な気もします・。
　おじさんはいつも、フラァっと出掛けて行って、何時帰って来るかも分からないんですって！・・・・散歩に出たとしか思えなかったのに、３っ日位帰って来ないのは当たり前で、それで帰って来るのは、また不明確・・・・。何とか合格点が出せる写真が撮れるまでは帰って来ないのだそうです・・・。


　メイクを落としてお手入れ・・・・。
　これを怠ると、直ぐに肌が荒れてしまうんですよぉ・・・・。
　なんて云っても、お泊まりの予定は無かったんですもの！・リメイクのコスメは持っていても、お手入れのアイテム、メイク落しのローションや乳液まで持って来てはいませんでした・。
　せめて、洗顔だけでもしっかりしておかなければ！・なんて、洗面台に行ったら、・化粧類らしいのが置いてあるの・。リンゴを立てて輪切りにしたような透明のボトルの中に黄色っぽい液体・・・・？
　メモがボトルの下にありました・。
「基の侭で使うとピリピリしますから、５倍位に薄めて化粧水としてお使いなさい。メイクも落ちますよ。・乳液は右の鏡の後ろに入れておきました。」・・・ですってぇ・。
　メモに従ってチョット左手に取って、蛇口からのお水で５倍位に薄めて使わせて貰いました・。
　肌に染み込んで行く感じと、かるくツンとした感じはあったのですけど、肌が張った気がしました・。
　奥さんさりげなく、良い化粧水を使っているんだわ・、やっぱりねぇ・。

　黄色い化粧水の成分表に目を通して、奥さんのお肌は、内面から良くしているのが分かったのです。
　そこに書かれていたのは、みんな漢方薬の素材でした・。
　この家の雰囲気だけで、充分に自然の息吹が伝わって来るのですが、おじさんだけでなく奥さんも徹底した自然志向派なのでしょう・。
　そう云えば今日のお料理、何となく素材のお味が強く感じました・。
　お手伝いの時には下ごしらえもされてはいましたが、手触りが微妙に違ったりもしたのはたぶん、自然農法のお野菜を使っている為だと思います。
　こんな事は何でも無い事の筈ですけれど、『生きる』と云うことに真摯なんでしょう・。
　そう云う方だから、泊まるつもりなんて無く伺ったわたしの、お肌のお手入れアイテムを持っていないだろう事も察知して下さるのね・。
　これ等一連の事実・・・おじさんに劣らずわたしは、奥さんを好きになっていました・。

　このお部屋にも、４２インチの大きな地デジ対応テレビが備えられていましたが、気分的にテレビは見る気になれませんでした・。
　昼下がりの奥さんとの出来事が頭の多くを埋めていました。
　奥さんは女性を卒業してしまって、ヴァギナが固くなってしまったと云っていたのよねぇ・。・・・それでおじさんを受け入れるのが難しいんだって・・・。

　わたしはそれを聞いたから、奥さんの柔らかい中心への刺激を、避けたことを思い出しました・。
　同時にそれは、わたしが受けた悦びをも思い出させました・。
　思い出されるそれぞれの場面で歓喜したわたし・・・・
　自然と身体の中から暖かくなってきました・。
　そして淫らな気持ちも・・・・
　おじさんが来てくれたら良いなぁ・。と思ってしまいました・。
　幾らおじさんでも、最初のお泊まりの時からはぁ・・・・、わたしのベッドに来る事は出来ないでしょう・？

　そして、昼の奥さんとの一戦を思い返して身体の熱くなってしまったのを、どう冷まそうかと思った時にノックが来たんです・！
　まさか、おじさんが・・・？
　ちょっと複雑な思いが頭をもたげましたが、備えられていたガウンを羽織り、スリッパを突っ掛けてドアを開けました・。
　そう、奥さんでした・。
「良いかしら？・」
「どうぞ・？」
　奥さんはサイドテーブルのいすに真っ直ぐ向って、腰掛けました・。
　ドアを閉じ、わたしもサイドテーブルのいすに腰を下ろすと
「何か？・・・・」
「ふふ・、家の人・待ってたの？・・・もう、いびき掻いてるわよ！」
「まぁ！・・・・ぅふふふふ・・・。」
　おじさんがいびきを掻いていると聞いて、わたしの色々考えていた事自体が滑稽に思えたわ。
　それに奥さん、たったこれだけで、何か全てが伝わって来たかの様な気がしました・。

　だけどこんな事って・・・、まるでテレパシーの様な・、普通は口が酸っぱくなるまでわぁわぁ遣ったって、気持ちの半分も伝わらないのが普通でしょう？
　奥さんは性に接したのが久しぶりだったってこと・。
　おじさんが久しぶりに帰って来て、わたしがいるのに奥さんの傍で眠ったことで、凄く安心したこと・。
　安心したら、わたしと話したくなった・。

　ホッとはしました・。
　だって、奥さんとまた一戦？・一瞬考えちゃったんですもの！

　昼のあの時を思い返すと、わたしは奥さんの掌をウロウロしていただけ・。
　それは普通なら、わたしの自尊心をとっても傷付けることだったわ。
　ところがわたしは傷付けられた気がしないのよ！
　奥さんが素敵だから・、は勿論ですけれど、神様にも見える奥さんの御器量・。
　わたしとした事が、始めから器量に差がある。と思わされたのですもの！

　わたしは奥さんをヘラと認めているのかもしれないわ！
　でもぉ、だとしたら奇妙だわ。・ヘラって嫉妬深い事になっているのに、旦那様の情婦を家庭に引き入れる様な事をするかしら？
　さてはキリスト教協会の仕業かもしれないわ！・あの策謀の固まりの様な人達は、聖書でさえ自分たちの都合に合わせて変遷したのですもの！・人物像を書き換える位はお手の物でしょう？・それもご時世かも知れませんけどね？
　全能の神のゼウス。そのゼウスの頭の上がらないヘラ・・・・そんな構図を作ろうと思えば・・・・
　そうなると歴史的証言とされている多くの事も、まだまだ本格的に探ったら、何が出て来るか分からないのね！
　何の確証もある訳は無いけれどねぇ・。
　
　わっ！・奥さんがわたしの顔を覗き込んでいたっ・。
「なに考えてるの？」
　聞かれたっ！・って云うより、他の言葉を云いづらい？・・・・
「びっくりしますよぉ！・奥さん。・」
「急に考え事に入っちゃうんですもの。・なにか、わたしの事を考えていたわね？」
　やっぱりこの奥さんはわたしが考えている事が分かるのだわ！
「奥さん、どうして分かるんですか？」
「そりゃぁ分かるわよ！・レイさんの事なら・。ちゃんと確かめましたからね・。」
「えっ！」・・・昼のレズの真似で？
「人間にはいろいろな癖があるの。・どんな時にどんな反応が出るかがね・。それでね、ある程度は推測出来るのよ。・レイさん素直だから、ちゃんと統一性の原理だって働いているみたいですし・。」
　どう云う事？・・・
「何年、人を見て来たと思っていらっしゃる？・わたしはね、人を見続けて来たの・。何を考えているかなんて、どうしても兆候が何処かに出てしまうものなのよ。・もちろん、その兆候は極小さなものでしかないわ。でもね、そういう変化ばっかり注意していると、改めて『どの部分の変化が・？』なんて注意してみなくても、雰囲気として分かる様になってくるの。」
「それって、身体の壷みたいなものですか？」
「そうよ。・同じ様な系統だと思うわ。論理的なことを考えている時には脳のどの部分が・・・って言うのは研究されているのはご存知よね？・・・特定の場所が反応するのなら、それが現れてしまう場所があるのよ！・その働いている脳の部分が分かったら、話している内容とで推察するの。・・・外から見えるのはホンの僅かなんだけれど、その内一つずつ教えてあげるわ・。」
「凄い技を持っていらっしゃるのですねぇ！」
　だって、観察眼で何を考えているかなんて！・わたしには考えられませんでした・。
「だって、レイさん。・レイさんだってわたしの表情をご覧になっていらっしゃるでしょう。・それで、わたしの大まかな気分はお分かりですよね？」
「それは・・・、表情に現れますからねぇ・。それを少し細かく見るだけのことよ！」
「奥さんは事も無気に仰いますけれど、そんなに簡単なことの筈はないじゃない！・・・でも、凄い技だわぁ！」
　こんな技を使い粉せたら、仕事で出会う方達、びっくりするでしょうねぇ・。
　政治家の方々なんで絶対に欲しがる筈だわ！
　でも、政治家さんが使い方を間違ったら、お国が傾いちゃうかも知れないわねぇ？

　概略をお聞きしただけでは、当然直ぐに使えると云うものではありません・。
　小さなポイントの小さな動き方を察知しなければならないでしょう。
　だって、腰痛のツボだとか頭痛のツボだとかはわたしも幾つかは知っていますけれど、それ等はみんな皮膚の奥に隠れていて、見た目で分かる様な者は何一つありません。
　種類が違うから眼に見えるツボと云うものがあるのでしょうけれど、その変化が大きいとは思えませんもの・。
　第一そんなに直ぐに分かる様なものであるのなら、この文明化され始めてからだけで、２千年以上を持つわたし達の歴史の中に、必ず体系化された技術として語られる筈ですもの！
　他人の考えている事を知りたいと思うのは、たぶん、人類の歴史が始まる頃からの事でしょうから・。

「そうねぇ・、直ぐには教えられないわよねぇ・。」
　わたしがちょっと考えているだけで、また先を取られた気がしました。だけどこの時は、ちょっと考えれば話の繋がり方で分かりますよね。
「そう、そう云う事なのよ！」
　奥さんはまた、わたしの思った事が分かったみたいです！
「また先に？・・・」
「レイさん素直だから、分かり易いのよね！」奥さんの嬉しくて溜まらない答えが返って来ました。
「フゥ・・・・。」ため息を吐いてから、わたしは感情を押し殺してみる事を考えました。
　わたしだって一応仕事をしているのよ。感情を抑えなければならない事だって何度もあったわ。・奥さんがわたしの考えを知るのはたぶん、わたしの感情がストレートに出ている所為だろうと思ったの。でも、効果がどうなのかはこの時には分からなかったわ・。
　それに、わたしの話が急に関連の無い方向へ大きく飛んだ時には、推察も出来ないようでしたもの！

「やっぱり編集のお仕事って云うのも大変なのねぇ・。広範囲の知識が必要だって良く分かるわぁ！・・・それに『人』が好きじゃぁないと出来ないわねぇ？」
「わたしは勝手に遣らせて貰っているだけですわ！」
　奥さんに褒められると、なんか気恥ずかしい・。奥さん凄いですもの！

　それからちょっとして、奥さんはご自分の部屋へ戻ってしまったのですもの・。

　わたしは直ぐに眠りに付き、素晴らしい目覚めを迎えました。
　フッカフカのベッド、ベッド周りのシールドカーテン・。
　その向こうのレースのカーテンが掛かった窓から、朝の光が差し込んで来ていたの。
　こんな素晴らしく清々しい朝が迎えられるなんて！
　わたしのアパートでは、陽の射さない湿った朝ばっかりだったわ・。
　こんな環境のアパートなんて、わたしのお給料ジャァ家賃が払えなくなっちゃう！

　沢山の人達がこんな環境が欲しいだろうなぁ。
　何か小鳥がさえずる声だって聞こえて来るんだもの！
　ゴミ回収者の音で起こされるのとは大変な違いだわ！
　夕べの楽しかった晩餐を思い出します・。あれは特別なお料理だったでしょうけれど、一人でなく食べる食事のなんて楽しい・。
　思わず笑みが湧いてしまいます・。

　メイクアップが終わりそうな頃『朝ご飯よぉ！』ですって！
　もう何年も朝ご飯なんか食べてなかったわ。
　ギリギリまで寝ていて、急いで出勤でしたもの。朝ご飯なんて支度している時間は全然取れなかったの。・会社の近くのファーストフードが良いところ！
　家族と暮らすって、こう云うことだったんだと思い出したわ。

　本当にわたしがこのお宅に住んで良いのかしら？・わたしはおじさんだけじゃぁなく、奥さんだって素晴らしいんですもの！
　フレックスタイム出勤の編集者仕事は、出勤時間が遅くて良いので、家賃の高い渋谷区にいる必要も無いでしょう？
　千葉県からだって東西線を使えば、１時間位で新橋の会社まで行けてしまうんですもの！・試して良いかもしれないわ？
　駅から徒歩１０分位って云うのも、朝のウォーミングアップ位のものよ！
　急ぐ時にはバイクも使い易いし・。

　昨日奥さんに出された提案は、わたしには眩しい位でした・。
　問題はまだ全てが分かっている訳ではない、奥さんとの関係・・・・

　このお宅の、素晴らしいところばかりが見えているけれど、わたしにはまだここに住む事に踏み込めない何かを感じていました・。

　奥さんがあの時、ヘラと感じたのは錯覚と云うだけでは理解出来ないのですもの。
　わたしはあの時、何を思っていたのかしら・？
　わたしが女性に誘惑されるなんて、到底考えられないことの筈です・。
　それでもあの時は、魅入られたとしか云えませんでした・。
　どうしても自分の気持ちだけではなく、奥さんからの強い引力の様なものがあったような・・・？
　その力に逆らうことが罪悪のような・・・・

　結果は、確かに素晴らしい感覚に出会えました・。
　めくるめく様な感覚でした・。
　あれは、おじさんに連れて行って貰う境地とは違うのですが、同じようなレベルにあったことは確かです・。

　わたしの中心から熱くして行くおじさん。
　奥さんだと中からと同時に、奥さんの手の振れた皮膚からも熱くなるのですもの！
　おじさんでも、奥さんでも、中心から熱くして来るのも、それはそれで熱の質が違う気がするの・。
　男と女ですものねぇ・。
　わたし達を造られた神様は、男と女をお互いを補い合う様にお作りになったの。
　ですから、・男同士や女同士はお考えにならなかったろうと思えるのですもの・。
　それでも男同士や女同士は、随分昔からあるんですってねぇ・。
　それも、世界中で・。

　わたしも何度もそれを経験して来たわ・。
　憧れ・・・の様なものだったけど、手放したくなくって、何とか繋ぎ止めておきたかったもの・。
　何かと一緒だと思いたかった・。誰か・・・だなんて思えなかった・。何か・・・・
　随分とむかしの事の様に思えるわぁ・。
　それが、いつしか誰かになっていたの・。
　でも、わたしを充足させてくれた人には出会えなかった・。

　わたしの身体を貫いて行った人も何人もいたの・。
　それでも心を満たしてくれた人はとうとう現れなかったわ・。
　それなのにおじさんと出会ってから、他の人の事が考えられなくなってしまった・。
　そんなの、考えられないわ！
　自由な世界を持った、自立した女の筈だったんですもの！
　それにあの奥さん！・・・わたしのズゥッと先、境地の近くにいるわ。・・・わたし・、まだ、殆どあの人の事を知らないのによ・・・。
　どうしてわたしを満たせるのかしら？・・・
　経験の差かしら・。でも奥さんだって滅多に無い事だと云っていたわ・。
　それはそうよね！・奥さんは、どうしても欲しくなったら、おじさんにおねだりすれば良いんですものね・。

　あのおじさんの事だもの。・奥さんを充足させること位は容易に出来そうだわ！
　女が上がってしまうと、あそこって柔軟性が無くなるのかしら？・奥さんの昨日云っていたお話では、そう云うことになりそう・・・・。
　でも、奥さんだって自分で受け入れなくたって、おじさんを充足させるでしょう・。
　それなら、なんでわたしが求められたの？・・・・
　それもお二人共、・から・・・・。

　それにしても良い気持ちの朝が迎えられたものだわ！
　朝からこんなこと、考えているのが恥ずかしくなりそう・。
　今日はお休みじゃぁないんですものねぇ・。フレックスタイムだって云ったって、やっぱり出勤はしなけりゃならないんだもの！
　もうすぐ７時・・・・
　起きて行って、朝ご飯の支度もお手伝いしなけりゃぁ・。　
　わたしのお化粧なんて、毎日殆ど１０っ分も掛からないんだもの！

　キッチンには、既に奥様が支度に掛かっていたの！
「おはようございます！・お手伝い出来ますことはございますか？」ベッドでゆっくりし過ぎたわ・。キリッと纏められた奥様の姿を目にして、少し圧倒されたわ・。
　そうなのよねぇ・。旦那様を持った女性は、朝のお仕事が大変ですもの！

「ただいまぁ！・おぅ！・レイちゃんも起きていたのかぁ・？」後ろからおじさん！
『ただいまぁ！』って・？不思議な思いで振り返ったわたしを見ておじさんが続けたの。
「家に居る時は、朝はひとっ走りして来るんだよ。・若い時程速くは走れないけど、体力を維持しておかないと、撮影がキツくなっちゃうからね！・」
　おじさんの顔には汗がいっぱいだった・。
　そうかぁ・、体力維持・・・・、男の人も大変なんだぁ・。
「なんだよ！・そんな顔してぇ・？」
　明るさいっぱいのおじさんに、ベッドでギリギリ迄寝ているのが当然だったわたしの生活を恥じなければならない様に思ったわ・。
　プロの生活って甘くないのは知っていたけれど、朝一番に走り込みをしていたなんて、想像もしていなかったもの！
「だって、スポーツ選手並に走って来たんじゃぁないの？・その汗・・・」
「スポーツ選手達にはしっかり置いて行かれちゃうよ！・もう歳だからねぇ。とってもじゃぁないけれど、若い人達とは並んで走れないものぉ！」
　必死で走って来たことは、そんな短い言葉の遣り取りだけで伝わって来ます・。
　・・・なんか、『プロのあり方』を身を以て教えてくれているような思いがしました・。

「スクランブルエッグ・、ハムも入れちゃったけれど宜しかった？」奥さんの言葉はわたしに聞いたのか、おじさんに聞いたのか分からなくて、黙っていたら・。
「おう！・レイちゃん若いからなぁ。少しカロリー取っとかないとお腹が空くだろう！」って、おじさん・。
　それだけの言葉から、奥さんもおじさんも、わたしの為に、いつものメニューにハムを足したことが分かりました。
　食器棚から奥さんがお皿を取り出してくれましたので、そのお皿を夕べの席位置に並べて行きました・。
　大皿はスクランブルエッグとサラダを置くお皿でしょう？中皿はトースト・、それにカップを置くお皿にはスプーンを・・・。
　コーヒーカップにはカフェオレ・・・・それぞれのカップにミルクパンのミルクとコーヒーを等分で注ぎました・。

　サラダはさみを使って、スクランブルエッグとサラダがササッと大皿に装われました。
　大きなトースターから、わたしがトーストを出して中皿に分けて盛りました・。
　一人だけではなく、一緒に食べてくれる人のいる幸福わせ・・・・・こんな・ホテルの朝食のようなメニューで、・わたしには素晴らしいごちそうでした・。
　普段は朝マックが多いんですもの！・・・・

　学生時代、母に起こされてバタバタして学校へ向った時代を思い出しました・。
　いつも母に起こされても直ぐには起きられなくって、ぐずぐず良いながらの朝食。
　毎朝時間が足りずに残す方が多かった・・・・
　あれがこんなにも幸福わせなことだったなんて・。
　こんな・・・、わたしの生活って、一人暮らしって幸福わせに背を向けていた様な気がします・？

　こんな気持ちが湧いて来るなんて、わたしには思いも寄らないことでした・。
　英文科を卒業後、ズゥッと一人で生活して来たのですもの！
　同棲なんて、全く頭にも浮かびませんでしたしぃ・、友達の同棲している人達を何か、薄汚い気持ちで見ている部分さえあったのです・。
　それなのに、もしこちらにお世話になったら、おじさんと同時に、奥さんとの関係も続く事になるのかも知れないじゃない！
　何か変な感じぃ・・・・

　いままでは、幾ら何人かと肌を合わせた事があったからって、気持ちが膨らんだ事なんてなかったわ・。
　そうでしょう？
　・セックスなんて、その時の流れでお相手してしまう事もありますもの・。
　それは雰囲気と遊んでいるのよ。
　その時の男の人・・・・、雰囲気を保ってくれる人・・・・
　愛している・・・・とは云えない事だって・・・・
　でもね、一緒に暮らすって云うのはそうは行かないわよ！
　表の顔だけではなく、裏まで見せてしまう事になるのですからねっ！
　たかがセックスだけで同棲に踏み切る人がいるなんて！
　わたしには考えようも無い事なのです！

　奥さんはそれを勧めているのよ！
　わたしに・。
　・・・旦那様の愛人に・・・・