４．

　でも、ハッと気付いたわ！
　おじさんの写真。どんなに素晴らしい写真を撮っても、その元になった現実のものが存在するんだって！
「おじさん、・模型と写真ってどう繋がるの？」わたしの疑問をおじさんに聞いてみたくなっていたわ。
「・・・う〜ん！・・・・」おじさん、チョット考えてしまったわ。
「そうだなぁ、レイさんはここにいるだろう？素晴らしい女性だ。・・・でも、素晴らしい女性は他にもいる。・・・欲張りだからねぇ、人間はぁ・。」
「えっ？・それ、どういうこと？・どう関係するの？」
「だからね、素晴らしいと思う人をみんな傍に置くことは出来ないだろう？・・・風景だって素晴らしいところが沢山あるよ。・・・その全ての傍に住むことも出来ないよね。」
「それはそうよ！」そんなの当たり前の事じゃない！なんで今更・・・。

「模型の元になった実物だって、戦車や飛行機、戦艦なんて持つことも出来ないでしょう。・・・そう言うモノは、物理的に持てないモノもあるし、道義的、法律的に持ってはならないモノだってある。だから、簡単に棚に飾ることの出来る模型で我慢するんだよ。・風景や人物だって同じ事が云えないかなぁ？・素晴らしい人達といつも一緒にいたくてもそれは出来ない相談だよね。法は順守しなければならないし、道徳に反することも慎まなければならない。権利を行使するには義務を果たさなければならないし、人間には遣って良いことと遣ってはいけないことがあるからね。それでも人の欲求は留まらないんだよ。 ・・・模型で持つなら、大抵の場合は法や道徳に背くことはない。写真で風景を持ったり、大きな大きなの船や宇宙ロケットだって部屋に飾ることも出来る。・・・本物は法的に持つことの出来ないモノでも模型なら持てる。そんな代替感覚ナンじゃぁないかな？」
「・・・ナンじゃぁないかな？。って聞き返さないでよ。わたしは模型に興味は無いんだもの。・でも、おじさんの言い方だと、欲しい丈の女性を、写真でなら持てる。ってこと？・・・そんなに素敵な人がいらしたの？」
「そう云うなよ！・今のはわたしの思いだけだけどね。同じ様に模型や写真を好きでも違う思いを持っている人達だって沢山いる筈だもの。・・・映画やドラマ、漫画なんかのキャラクターだって模型化されている物もあるしね。・そういう物は本物は存在しないだろう。人間の物欲をある程度は満足させてくれる物でもあるんだよ。・・・結局はそれぞれの人の夢が詰まっているんだろうね。」
「おじさん、いろんな事を考えているのね？」
「考えてなんていないんだよ。・・・説明を求められたから、頭の中にあるゴチャゴチャしていた物を選んで、整理しながら口に出しているだけだよ。」

「写真を撮っている時もなの？」
「チョット違うけれど、どの部分が一番欲しいところなのかは考えるね。レイさんを撮った時には、その時のメイクや髪型を踏まえて上で一番魅力的に見えるだろうと思えるアングルを探したね。・そのアングルで存在感を高められる光との関係位置を探す。・笑顔、ほほえみ、無表情、・・・それぞれにホンの少しずつタイミングを変えてシャッターを切る。・後で最良の表情のショットをチョイスするんだ。スポンサー、プロデューサー、デザイナー、カメラマンわたしだね、それにモデルさん自身が加わる事もある。」
「そうね。・プロのモデルさんの撮影って、何百枚も撮るんですってね！わたしなんかが考えると、一枚しか使わないなら、『全力で表情の良い時を狙って、それで良いのを撮れるのがプロ。』なんて思うんだけど・・・？他の分野例えば、一番写真と比較される事の多い絵画なんて、そう何枚も制作して数で抑えるなんて事は出来ないでしょう？・・写真は機械が仲介するから厳密に云ったら、一瞬のうちに何百枚も取り押さえることは可能なんでしょうけど、それって『カメラ』って機械に頼り切っているだけじゃぁないの！」
　おじさんと話出すと、いつもは考え様ともしなかった事が、とっても重要な事の様に感じるの。心の表現。・・・そんな事今まで考えた事なんてなかったわ。
「そうすると『より強いメッセージを！』と、望むスポンサーが、最善かどうか？確信を持てなくなるよ。・比較が無い事になるからね。人間は比較するモノが無いと、その一枚が本当に最善なのか？確信を持てないものなんだ。」
「だって、絵書きさんはそんな事出来ないでしょう？」
「絵画だって、下絵の時点で随分色々遣っているんだよ。これはねぇ、クライアントの要望でもあるんだよ。要望って云うとチョット強すぎるかも知れないが、『有り余る中から選びたい。』って願望があるんだよ、無言でね。写真屋も仕事だからお客さんの要望は叶えなけりゃならない。でも、無闇矢鱈と撮る訳にもいかない、良いと思えるタイミングに集中して、多くのショットを押さえなければならない。それがモータードライブのショットなんだよ。」
「それで連続して撮るの？」
「ん、連続はね、スウィチだけなんだよ。・一枚ずつシャッターは戻っているよ。・・・それは、１秒間に１０枚も撮れても、１／１０秒の間隔が開くだろぅ。・この時間は生活上は短かすぎる時間なんだけど、良いタイミングを押さえるには長すぎる時間なんだ。・だから、連続撮りに任せると良く『駒の間が良い！』なんて事が起こっているよ。」
「・・・・・仕事だと大変なんだぁ！」溜まり溜まっていた不満を一気に吐き出したようなおじさんの云い方に、チョット唖然としたけど、仕事だと遣りたくて遣っているばかりじゃぁないのねぇ・・・。

「それにね、レイちゃんだってあの時、シャッターの音が連続する中で気持ちが乗って来ただろう？思い返してご覧？・無駄を承知でモデルさんに乗って貰うためのシャッターでもあるんだよ。」さっきは少し怒った感じだったけど、今度は優しい眼をして云っていたの。
「おじさん、写真の事となると熱いわねぇ！」
「カメラの能力に頼り切っている。」なんて云ってしまったからおじさんが真剣になり過ぎて、重くなりそうな雰囲気を壊そうと、茶化すことにしたの。・・・だって、わたしの本心は、おじさんとわたしの事を話したかったんだもの。・でも、これがおじさんの本
体なのね。自分の為すべき事に一生懸命な・・・。同時に、あの時の気持ちが蘇って来ていたの・・・。

　あの時は、おじさんがシャッターをきる度にジャッ、ジャッって、音がしていたのよ。
　シャッターを切った音だったの。
　さして大きい訳でも無いその音がする度に、わたしは貫かれる気がしたのよ。
　初めの頃はそんな事は無かったの。
　まだ夜の明け切っていない湖のほとり。徐々に明るさを増して行く風景の中で、おじさんの構えたカメラのレンズがわたしを追い掛けて、おじさんに云われるままに振る舞ったわ。
　正反対を向いて大袈裟に振り返らされたり、正面を向いたら
「斜に構えて！」なんて云われて、手の置き方と足の向きまで視線やまぶたの開き具合まで云われるままに振る舞ったら、いつの間にかダンスしている気分になっていたの！
　膝間突いて、片膝立てて、立てた右膝に左手を置いて・・・。
　両手を後ろで組んで背伸びして・・・。
　身体を反らしてターンして・・・。

「もっと優雅に！・・・しなやかに・・・優雅が似合う君だから・・・。」
「そうそう・、登る太陽みたいだよ！・・・君は輝いているね！・・・いい・・・！まるで光の精だ！・・・そうそう良い顔になってるよ！」
　ポーズの間におじさんの口を突いて出て来る賛美・・・。
　あの台詞・・・恋人にも云われた事のない云われたかった言葉。
　次々に飛び出して来た女性に生まれて良かった！と思わせた言葉・・・！
　言葉の魔法に、わたしが女性である事にトロけてしまったわ。

　一言も返す言葉が見付からないで、踊る様に次々ポーズを取ったわたし・・・。
　シャッター音がする度にわたしを貫く「言い様の無い喜悦」の感覚。
　わたしの知らないわたしが捉えられて行く感覚。
　思いが間違っていなかった事は、カフェで見たプリントに焼き付けられていたわ。

　心地良かったの。・・・おじさんに写真を撮られている時。
　でも、どうしてそんな感覚が走るのか？・全く理解は出来ませんでした。
　おじさんの写真に掛けた情熱が、わたしを貫いたの。だって、今は理解できるわ。こんなに熱っぽく写真を語る人なんて初めて！
　・・・いいえ、自分の関わる仕事にここ迄熱を入れている人には逢った事が無かったの！
　ここ迄の熱があれば、生き霊と同じ様に、他の人に影響を与える事も出来るのかも？知れない？って、思えたの。
　・・・あの、写真を撮られていた時には、おじさんの思念にわたしは貫かれていたのかも知れないわ？

「おじさん、写真の事となると夢中なのね！・・・ねぇおじさん？・あのとき、わたしを撮っていた時なんだけど、何を考えていたぁ？」疑問をわたしは放って置けないの！
　どうしてもおじさんに確かめてみたかったわ。
「何って、・ハッキリは思い出せないなぁ！・・・でも、・逆光に浮かんだレイさんは、女神のエロスのようだった気がするよ・・・。一年も前の事だものなぁ・・・。」おじさんの眼には、あの時の気持ちの総てを思い出していて、途恍けている気持ちが映し出されていたわ。
　そうかぁ！・・・出会った時点でわたしは貫かれていたんだわ。

　そんな風には考えても見なかったけど、それで喜悦を感じていたの？・・・わたしもなんかエロティックな気分になって行ったんだもの！・・・出会ったばかりの冴え無さそうなおじさんに、そんな事ができるなんて思えないもの！
　当然、実際には指先さえも触れていないのよ・・・。

　多くの女性は、一度肌を重ねた人を特別な見方をする様になるものだわ。
　それは、精神的なものだけかも知れない、わたしも例外ではない。って事なの？
　おじさんは本物の漢(おとこ)・・・。って、思ったわ。

　あの時のエロティックな感覚が、次第に戻って来るのを感じていたわ。　
　とっても不思議！
　・・・だって今も、おじさんはそれらしい仕種さえしていないのよ！
　あれは・わたしが何かを感じ取った・の・？

　多分、おじさんの鍛え上げられた感性・。写真やライディングで本当の技量を上げる為に獲得して来た内面、精神の充実を、わたしが無意識に感じ取ったのよ！
　そうで無ければ説明が付かないじゃない！
　それが何かも分からないで、恋い人に求めて求められなかったモノを「おじさんが持っている。」って感じたんだわ！

　今のわたしには少しは分かるの・・・。
　いいえ、それはわたしの中にあったの・・・。
　わたしは求めてばかりいた。

　おじさんの撮影を思い返していて、おじさんが口を開く度に、シャッター恩が聞こえる度に、わたしは気持ち良くなって行ったわ。
　おじさんは何も取った訳じゃぁないわ。おじさんが気持ち良く感じた事をフィードバックしてくれた・・・。それに、おじさんの持っていた美的感覚。それをわたしに伝えてくれたの。・・・わたしが上げたもの・・・何も無かった。
　おじさんは持っているものを与えてくれた！
　それでいて、わたしから持って行くものは何も無いの。
　「愛」だって、同じだと思ったのよ。
　「愛」って与えるもの。・・・長い間考えていたけど、やっと分かったわ。
　あの時までのわたしは、彼に期待ばかりしていたわ。
　わたしの気持ちを分かってくれないかなぁ・・・。
　あれやこれや遣って欲しいんだけどなぁ・・・。
　わたしを喜ばせて欲しいんだけどなぁ・・・。
　ＥＴＣ！

　「愛」って、相手に求めるものじゃないんだわ。・・・こちらから与えるものよ。
　何の見返りも期待しないで喜んで与えられる時、そこに「愛」があったからだわ。
　あの時別れた彼だって、わたしはもっと出世して欲しい。もっと優しく抱いて欲しい。って期待ばかりしていたの。
　そこにはわたしの友達に、自慢できる彼を見せ付けたい気持ちが見え隠れしていたわ。
　期待には不純な気持ちが伴うのよ。
　見掛けだってマァマァだったし、優しかったし、一緒にいると落ち着けたわ。
　それなのにわたしは、彼の気持ちも考えないで、ただ出世だけを求めていたのよ。
　それはわたしの見栄だけ、友達に対しての。同僚、上司に対しての。親と兄弟、親戚達に対しての・・・。
　そんなの「愛」じゃない！・彼への思いではなかった。彼の方も、わたしを誉める時は容姿とか能力に付いてだったわ。わたしの価値観とか人間性に付いては、余り感心を示さなかった。
　それでは、御都合主義の見栄の材料ってだけ。・・・それに気付いた途端に、わたし・恥ずかしくなりました。「愛」だと思っていた事が、見栄の為や経済的利益の事だった気がしたのですもの。

　おじさんがわたしを見る時、なにか？暖かいものを感じるのです。
　ただ見ているだけなのに・・・。わたしがこんな眼をした事はまず無いでしょう。
　全身を最良のシェラフで包まれたような暖かさです。・・・これは何なのでしょう？
　おじさんの「愛」の様にも感じますし、豊かな価値観からの余裕の様にも思えるのです。
　わたしとしては「愛」の方がズウッと望ましいのは間違いないのですが、わたしを包み込んだ暖かさは、多分後者でしょう。
　それはわたしを見守っていく庇護の心だったのです。・・・おじさんはわたしに何も求めてはいなかったからです。
　それは、わたしの中の女の「感」と云うものかも知れません？
　しかし、これはわたしには大ショックでもあるのです。・おじさんがわたしに求めるモノが、何も無い事になるでしょう。
　それじゃぁ、わたしはどうすれば良いのよ！
　わたしの中に何かしらの求めるモノがあってこそ、おじさんにわたしを愛させる事ができるんだわ。・・・おじさんが探しているモノって何なんだろう？・何かある筈なのよ。
　わたしが何か提示出来なければ、わたしはおじさんの傍には居られないじゃない！
　咄嗟に考え付いたのは、おじさんの年令の人達なら絶対「社会には、腹に据えかねている事があるはず。」でした。

「おじさん、おじさんを認めない社会に強い不満があるでしょう？・どんな事が一番不満を感じる？・もっと良い仕事を・・・。なんて事？」
「気持ちを読まれたか！・そりゃぁ世の中には認めて欲しいさ。・わたしだって男だよ。トラの様に皮は残せなくても、名は残したいよ。それにもっと財布が豊かなら、周りの人達にもっと良い思いをさせて上げられるしね。・・でもそれは、・・・・・不満なんて、レイちゃんにぶつけてもしょうがないものだからなぁ。」
「なによっ。途中で止めないでよ。」途中で口をつぐむって事は、わたしの信頼性がそこ迄って事かしら？・こういう時は後追いしても頑なになるだけだわ。
「おじさんもストレス一杯なんだぁ！」ニコッとしたおじさんに安心して、慰労の気持ちだったわ。

「レイちゃんは何が好きなの？」おじさん、急に話題を変えて振って来たわ。
「おじさん！・・・って、云ったら？」話しを二人の関係に持って行きたかったんだもの！・・・その他の事は、後で分かれば良い事よ。
　わたしの関心は、この後おじさんがわたしを「どう扱ってくれるか？」だけだわ。
「わたしねぇ、おじさんと一緒にいたいの！・でも、誤解しないでね。・・・『奥さん
にしてくれ。』なんて云わない。・云えないわ。・おじさん、奥さんを愛しているんでしょう。だから、時々傍に居させて欲しいの・・・。」自分の想いと常識を秤に掛けながら考えながら云ったの。わたしの想いだけを押し通したら、おじさんを困らせるだけだもの。
・おじさんの事を考えてこそ、わたしはおじさんを愛していることになるの。「欲しいから取る。」だけだったら、エゴイズムだわ。
　エゴイズムは愛する人の根底を揺るがせてしまうでしょうし・・・、今のおじさんを愛したって事は、わたしに出来る限りは今のおじさんの生活を保たせなければならないのよ。
　・・・幾ら傍に居たくても、愛する人の幸福せを壊してしまったら、愛している事にはならないわ。それは単に自分の欲望を求めているだけ・・・。

　人を愛するって事は、相手の方の幸せを望むことなのよ。
　奥さんのいらっしゃる方を好きになってしまったんですもの・。おじさんは奥さんを愛していらっしゃんですもの、わたしは横恋慕しているんだわ。
　おじさんは素敵な奥様に送り出されて素敵な写真を撮り、幸福せに見えます。
　無理矢理にでも一緒に居ようとするのは、愛とは違うのよ。
　・・・それでは相手の方を尊重することにもならないでしょう。愛には「尊敬」と「尊重」が欠くべからざるものなの。それが愛する方の「幸福せ」に繋がるんですもの。

　愛する方の能力をわたしが高めることは出来ません。それは、その方自身にしか出来ないこと・・・。もちろんそのお手伝いぐらいは出来るでしょうけど。
　一人の人の幸福せを手伝うって、大変なことなのよ！・・・
　だって、「何がその人に取っての幸福せか？」って、事から考えなければならないわ。それは、一方的に圧し付ける幸福せであって良いはず無いでしょう。
　・相手の方が納得した上での事でなければならないわ！
　それがわたしの考える「愛する。」って事なの。

　だから、わたしにはお手伝いまでしか出来ないんだけど、それで、おじさんが納得してくれるなら、許される限りわたしはおじさんの傍に居たいの。
　おじさんを繋ぎ止めておけるなら、他の全てを無くしても良いわ。道徳だって理性だってかなぐり捨てるわよ！
　でも、おじさんは奥さんを愛している。

　わたしの愛はいつも不遇だわ。
　もう慣れてしまったけれど、・仕方ないわ。
　落ち着きの無い人は好きになれないし、逆に落ち着きすぎても嫌だわ。ちょうど良い落ち着き具合の人がいると、大概、奥さんがいらっしゃるのよ！
　ひょっとしたら男の人って、奥さんを貰うと落ち着けるのかも知れないわね？・独身の人って、何か物欲しげな感じが見え見えで、それがわたしの身体だけ！・それジャァわたしの心はどうすれば良いのよ！

　おじさんは漢(おとこ)だと思うのよ。・この漢って云うのは、田と力の男とは違うの。こっちは単に性別だけの男。それに対して漢は義の意識を持って、礼を尊び、武と志を持って、その裏付けで優しさに包まれた人。それを実践して行ける人の事なの。
　江戸時代までなら、武士なんでしょうね。本来の意味での。
　最高の武士って云うのは文武両道の達人でしょう？
　武士道が剣の扱いを磨くだけではないのは、誰でも知っている事でしょ。知性、理性をも磨いて、礼節まで持って武士道になるのでしょう？

　今の世の中だって、勉強が出来てスポーツも出来る人がモテるじゃない。どっちか片方だけが優れていてもバランスの取れない人なら、わたしの趣味には合わないの。
　これは女性に限った事でなく、男性も女性に対して、わたしと同じ様に複合したバランスに希望を持っている事も知っているわよ。
　誰でも思いを寄せる人には、たった一つの事だけで望みが満たされる訳ではないんじゃない？
　ですから、多くの人は望みを満たしきれないの。・いくら文武両道でも、乱暴者では嫌だし、エゴイズムでも嫌だわ。優しくしっかり、わたしを包み込んで愛してくれる人が良いの。
　気持ちではいつも、そんな風に思っているの。それはわたしだけではなく、殆どの女の人が同じ思いを持っていると思うわ。
　そんな考え方をして来ると、男の人にも人生経験が必要なのよね。
　それで、わたしの望みを満たしてくれる方がみんな年配者。
　勢い奥さんのある方になり易いんだわ！
　こう遣って考えると、奥さんがいる人を好きになるのは仕方ないのかしら？
　男の人って奥さんを持たないと、わたしが望む様な落ち着きを持つ事ができないのかしら？
　そんな事はないでしょう。と思うんだけど・、独身で落ち着きのある人って、アンマリ遭った事が無いのよ。それに、当然だけど、落ち着きがあるだけでは好きになる訳無いじゃない！
　やっぱり、その人なりの「魅力」が無い人には好感は持てないわ。

「レイさん・、おごり！」急に耳元でマスターが云うんだもの！・びっくりしちゃったじゃない！・近づいて来ていたのも分からなかったんだもの！
　マスターは、白のグラスワインを二つわたし達のテーブルに置きました。
「ありがとう！」応えはしたけれど、マスターの目付きがいつもと違うわ。一緒にいるのが例の『おじさん』だって分かったのかしら？
「でも、ワインはこれ一杯だけだよ。・バイクでしょ？」
　近頃の酒気帯び運転の取締を思っての事でしょうか？・わたしはこのお店に来れば、２時間位は居座ります。それだけ時間があれば、アルコールは許容範囲に迄消化されると考えての事でしょう？酔っ払い運転は、軽い罪ではないですものね。