８．

　一瞬の暗闇に包まれて、光の中に浮かんでいたわ！
　さっきより凄い！
　どう云えるの？
　絶対の幸福感！？？？
　さっきと、チョットだけ違っていたの。

　おじさんがいるの！・光の中にわたしと一体の侭で・・・。
　言い様の無い幸福わせ・・・。
　欲しかった物の総てが満たされている・・・。
　全裸の・おじさんとわたしだけ・・・。

　この光・・・幸福わせの光なの？
　・・・天国の光？
　辺り一面、輝く光にうめ尽くされていました。

　変な感じです。
　むしろ小さな声で、・静かな調子だったのに・・・。
　直ぐ傍にいるおじさんの声が、遠くで云っているようなんです。
　しあわせ・・・・。
　ァア・。
　全身から力が抜けて行きます・。
　おじさんも光に呑み込まれて行きます。

　こんなエクスタシー、・始めて・。
　こんなに豊かな満足感が得られるなんて！
　始めから終わりまで・、おじさんを襲っちゃった・わぁ・よぉ・・・！
　一瞬に、意識が薄れて行きました・・・。
　　・
　　・
　　・
　薄い眠りから目覚めると、おじさんも微睡んでいました。
　おじさんに、・乗ったまま・・・。！
「・だいじょうぶ？」その声は優しくて、わたしは耳だけでは無く、総身で聞き取った
気がしたんです。
　そしてまだ、おじさんと繋がったままでした！

「おじさん凄いぃ！・・・わたしおかしくなりそう・・・。」 あんまりセックスには気
の乗らない筈のわたしがこんなになったのよ。
「・・・何云ッているんだい！・承知で、引っ張り込んだんだろ？」おじさんだって、黙っている訳・無いわよね。
「ウフッ・・・。でもおじさん、あの時と今日じゃぁ随分違う感じだわ。」そうよっ！あの時も意識を失った瞬間があったんだわ。

　凄く窮屈だった！
　内壁の皺の一本一本がみんな伸びてしまった気がしていたもの。
　これじゃァ奥さん大変そう！
「凄く締め付けて来ていたんだぞ！」おじさんたらニヤニヤしながら云うの・。
「おじさん・悦ばせたかったんだもの・。」わたしの精一杯の思いでした。
「こんなにわたしを悦ばせて、どうしようって云うんだ？」
　おじさん良い気持ちにはなってくれたんだ！・おじさんが悦んでくれたのなら良いの。

　どうしたらおじさんが悦ぶのか？だけ考えていたんだもの。
　それでも、こんなに毎晩疲れてしまったら、毎日、太陽が黄色く見えてしまうわ。
　わたしだって体力、続かなくなっちゃうじゃない！
「ァア〜ッ、凄かったぁ！・こんな凄いの、おじさんって？」
「何云ってんだい！・・・レイちゃんの方が誘い込んだんだぞ！」
「だってぇ・。こんなに腰が痺れちゃって・・・。痛いくらいよ。」
「そりゃぁ、あんなに腰を振るんだもの！・フラダンスだってあんなに振らないよ。」
「振る積もりなんて無かったのよ。・・・それもこれも、おじさんが凄いから動いちゃったのよ！」
「何だか悪い事したみたいだなぁ？」
「ええ・、しているわ。・・・わたしを虜にしたんだもの！」
　この遣り取りだけだと、セックスだけでおじさんに参ったみたいだけど、本当はあの、わたしの写真を見せて貰った時に、わたしの気持ちは決まってしまっていたの。

　あんなに温かい目でわたしを見てくれる人がいる？・・・あんな思いをした事は無かったんですもの。・・・そりゃぁ、見詰めてくれた人は何人もいたわよ。・でも、わたしの自慢だったボリュームとスタイルを誇るバストに惹かれていたり、ボディコンの様な皮つなぎに、『女』を見ている目でしかなかったわ。

　わたしのプロポーションだって、わたしを良く見て貰うための努力の賜物だわ！
　だれに？って、もちろん広い意味では男性達によ。・だって、たまたま出会った人しか知らなければ、その人が良い人なのか悪い人なのかなんて、判断できるはず無いでしょう？
　色々な人と知り合わなければ、どういう人がわたしに向いているのか？なんて分からないわ！・・・当然でしょう。
　この「無茶」を年長者は当然の様に云うのよ！
　何回か恋をしなければ、恋が何であるかも分からない筈？・・・
　恋を重ねる人を悪く云う人が多いけど、最良の連れ合いを見つけようと思ったら、偶然の出会いに任せたのでは無理だわ。
　その人ごとにお相手を見る眼を鍛えていなければ、騙そうとする人には簡単に騙される事になるのよ。

　よく、多くの女性が口にするでしょう？・・・・『ありの侭のわたしを受け入れて欲しい。』って・・・。あれはね、自分勝手だと思うのよ。だって、ありの侭のわたしを受け入れて貰うのだったら、相手の方をもありの侭、受け入れてあげなければならないのが当然でしょう？・・・でも、この言葉を言う女性って大概、相手の方には矯正を強要するのよ！・・・相手の方を受け入れられる人は先ず、そんな言葉を口から出さないモノだわ！

　生まれてからお互いが出会う迄には、培って来たモノがみんな違うのよ。それは価値観だって違う事を示していると思うの。まるっきり違う人生を歩んだ人達の価値観が完全に一致するなんて、とても考えられない事よ。そこのあるのは、お互いの思い遣りよね。
　若い時には見掛けがとても重要に思えるの。男女ともに上品さは大事だと思うけれど、これは大凡の場合は人生の積み上げで変わるでしょう？
　美醜は人の好みにも依る処があるわ。プロポーションはスポーツや特別なジム等でのトレーニングで努力すれば変える事は出来るのだけど、いくら努力を重ねて鍛え上げたからって、折角鍛えた容姿だって歳を取れば消えていってしまうモノなのよ。・それは、『不細工！』って云われるよりは良い。・・・その位の意味しか持たないわ。
　お付き合いの取っ掛かりには意味が無い事は無いけれど、人間の本質はやっぱり心じゃない？・心の最深部にあるモノ・・・それがその人の生き方を決めていると思うの。
　卑しい心の持ち主は絶対嫌だし、価値観に大きな相違があったら年中喧嘩ばかりになってしまうモノよ！
　それは、価値観の異相は簡単に埋められるものでは無いからでしょう？
　
　さっき見せて貰ったおじさんの写真は、その、わたしの心を捉えている気がするから暖かく見えるのよ。
　瞬間的に『おじさん、わたしの心を見てくれている！』って、理解できたわ。おじさんの価値観はわたしと近いんじゃぁないかしら？・そういう感覚がわたしの安心感に繋がるの。・・・安心感が無かったら「愛」なんて存在できないもの！
　・・・「スリルが堪らない！」と云う人達だって、普段が安心できる生活の中に居るからこそ、だと思うのよ。・・・
　
「おじさん、さっきの写真ね、わたしの好きそうなのを選んで焼いたの？」思い出したのを隠さずに、そのままの気持ちでおじさんに聞いたの。
「一応プロだからね。・君に見せたくて持ち歩いていたんだから、君ならどんなのを好むか位は考えたよ。」当然の様な口振り！『プロだから・・・』って、そう云う事？
「アマチュアだって、考える人はいるだろうけれど、誰に見せるべき写真なのか？が大切な事なんだ。見せる相手がレイさんで無かったら、違うカットをプリントしたかも知れないよ。」何か悪戯っぽい眼をしていたから、この台詞はおじさん流の心の悪戯だわ。
　・・・多分「違うカットをプリント・・・」ってトコね？
　・・・ちょっと待って・？・・・って事は・、おじさん１人で何人もの人の嗜好を意識して撮影しているって事？・・・そんな事が出来るのかしら？
　・・・いずれ問い詰めてみたい事だわ！

　今日はおじさんの事が大収穫！
　あんなに捜し回ったのに出会わなくて、出雲さんにお祈りした途端に出会ってしまったなんて、・・・・・本当に神憑かりだったわ。
　おじさんがプロのカメラマンだって事も分かったし、・・・・ととっ！・いけない！
　わたし今日は早引けしちゃったんだっけ！
　アア〜ッ！・・・締め切りの近いのもあったッヶ！
「楽あれば苦あり！」だわ。明日は遣掛けの仕事を片付けてしまわなければ・・・。
　原稿の遅れている先生にも催促しなければならないし・・・。ア〜ァ、本当に忙しくなりそうだわ。

　わたしはさっきのレストランの前にＣＢＲを止めておいた。
　おじさんはその先のコインパーキング・・・。
　近頃のこの街の２４時間駐車場は、みんなコインパーキングなの。
「何処まで帰るの？」メットホルダーのキーを開けようとしたわたしに聞いて来たの。
「わたしの家？・上原よ、代々木の。」
「やっぱり反対方向か！・良い処に住んでいるなぁ！・結構稼いでいるんだね？」
「そうよ。多分おじさんよりも・・・。」
「えっ！・何をしているんだい？」
「何だと思う？」わたし、良い歳している筈なのに、まるで小娘の様な茶目っ気の方が先に飛び出しています。
「バイクに乗っていられるって事は、普通のＯＬでは無いなぁ・。ライターさんか？・ひょっとしたら、イラストとかデザイン関係？・・・違うな？・記者か編集だ。」
「どうして分かるの？」最初から仕事を云い当てられて、チョット狼狽えました。
「どうやら図星？・・・云った中のどれかなぁ？」
「編集部よ。・・・女性誌だけど、一応・任されているわ。」
「エッ！・編集長？」
「違う違う！・まだ一部だけよ。ライティング部分だけ。・それ以上は云いたく無いわ！で、おじさんの方はどう？広告関係は復活して来ているでしょう？」
「あんまり良い感じじゃぁないなぁ・。写真関係はどうしても若い人が主体になり易いんだよ。・・・でも、『老兵は死なず・・・。』立ち去るのも嫌だ。・・・。何でも仕事となると難しいよ。」
「そうねぇ・。わたしの処のカメラマンさんも若い人ばっかりだものねぇ。」
「フットワークが違うからね・若い人は。」
「だって、おじさんだってあんな良い写真撮っているのに・・・。」
「デジタル世代の感覚って、ちょっと違いがあるんだろうね？・女性誌なんて新しい流行りそうなモノには凄く敏感じゃ無い！・ちょっと歳取ると、どんどん外して行くのは、『前の世代の人を使っては・・・。』って、気になるんだろうね・。」
「良いものは時を超えて・・・。って行かないの？」
「レイさんだって、仕事している時は同じ感覚だと思うけど・・・？」
「そうかも知れないわね？・・・仕事だとねぇ・。」そうねぇ・・・。仕事で撮影を頼む時は、急に『ドコソコへ行って！』なんて事が多いから、若い人の方が云い易いわ。頼む相手が歳上だと思うと、軽い気持ちでは云い難いものねぇ。
　・・・そうかぁ・。
「確かに、年輩の人には仕事を出し難いわ。・・・それだけの必要が無ければ・・・。」

　？？・・・必要ってなんだろう？
　・・・その人で無ければ出来ない事よねぇ。
　・その人だけができる事。・・・・・クリエイティブの世界ではとんでもない宿題だわ！
　おじさんの撮り方って暖かいわ。でも、・・・今の社会が求めているのは冷たさなのよね・。・・・撮られた人は暖かい方を求めるでしょうけれど、周りから写真を見る人達は、そうじゃ無いのよ！
　・・・他人の不幸を笑い飛ばして、自分が優位にあると、思いたがっているんだわ！

　・・・な・んだか・・・寂しい世の中だわぁ・・・。
　ァアー！・また頭が忙しくなっちゃウ！

「じゃぁね．！」わたしがチョット考えている内におじさんはサッサと、駐車場の方へ歩いて行ってしまっていたの。
「またねえ〜！」ハッとして、返すだけ・・・。
　わたしは本店の脇道へバイクを向けたわ。
　おじさんはまた反対向き・・・
　でも、やっと会えたおじさん・・・また、暖かく受け入れてくれたわ。

　わたしの事どう思っているんだろう？