９．

「・・・はい。『ライフ・メイト』編集室です。」
「もしもし？・高樹レイさんのお電話で宜しいでしょうか？」
「・・・？？？・はい、高樹レイはわたしですが・・・？」
「真咲と申します。・義美の家内です。」飛び上がりました！
　ガタガタガタッ！・机の上に積み重ねられた資料や原稿が崩れ落ちてしまいました。
　ビックリして立ち上がって、机を跳ね飛ばしそうになったの！
　どういうことなの？・何が起こったって云うの？
　頭の中、真っ白！
　そりゃぁそうでしょ！
　わたしが愛してしまった、おじさんの奥さん・・・？！

「失礼致しました。・・・」ビックリして言葉を失い、間が空いてしまったのです。
「突然の電話を差し上げたので、びっくり為さったのね？」
　優し気な声がわたしを落ち着かせよう。として下さっている事を示していましたが、電話の相手がおじさんの奥さんからだなんて・・・落ち着ける訳無いじゃ無い！
「エッ・ええっ。」自分で唇が震えているのが分かりましたもの。
「実はね、少しお時間頂きたいのですが、宜しいかしら？・・・今直ぐでなくて宜しいのですけど・。お仕事中でしょう？何時頃終わりになりますの？」ええと？今日の予定、今日の予定は・？・・・ゴキ先生の原稿取りかァ！・電話入れて伸ばしちゃェ！
「はっ、はい、・・・５時半には・・・。」
「レイさん、中華料理はお好き？」
「は？・なんでも・。」
「じゃぁ、銀座２丁目の『マスター』に６時に・、宜しい？」
「はいっ。伺います。」
「では、６時にね。」
「はい。」
　受話器を置いたら、編集室の雰囲気が変わっていました。
　周囲の視線が全てわたしに集まっているんです！

「や・やだぁ、みんな何見てンのよぉ！・・なんでもないわよぉ。」自分でさえ余韻が残っているのが分かるんだもの。みんなが『なんでもない』を信じるなんて思えなかったわ。・・・ここは知らんぷりをする一手しか無いわ！
　机から零れた資料と原稿を拾い集めて、机に齧り付くのよ。
　仕事に集中している格構よっ！
　これで、見えない壁を作った様なものだわ。

　ああ、・奥さんから電話だなんて・。『お時間頂きたい』だなんて！・・・何を云われるんだろう？・・・今日はバイクじゃ帰れないわね。『マスター』じゃ、つなぎでは入り辛いもの。ロッカーに置いてあるのは・、原稿取り用のエンジのワンピースかァ！・あれでしょうがないわ！
　メイクぐらい直さなけりゃならないわね？

　ああ〜！・校正が進まないぃ・・・！
「レイチャン！・シモン先生のトコどうなってる？」編集長めェ！こんなに頭がこんがらかってる時にぃ。
「チャン付けは止めてって云ってるでしょ！・３０女に無礼よ。・・・原稿貰って来て、昨日渡したでしょ？」・・・言い過ぎた！・やっぱりわたし、カリカリしちゃってるわ。
「ぉお恐！・・・」・・・これは『響いてないよ。だけど自重しろよ。』って、ことね？・ありがとう編集長！

　茶化したような言い方が、編集長流の示唆なんて事はとっくに分かっているわよ！
　でも、今は回り諄い遣り方は止めてっ！・・・頭ン中、おじさんの奥さんとの事で一杯なんだからァ・・・ん、もう。
　ァァア〜！・もう、本当に駄目っ！
　わたし、なんにも考えられないじゃない！

　一日中、ミスを重ねた日だったわ。
　参った一日になっちゃったじゃない！・・・気の思い一日だったわ。奥さんの話って、やっぱり、「別れてください！」なのかなぁ・・・？
　誰が考えたって、わたしが悪者よね。婦権侵害よねぇ・・・。

　終業の時間になっても、気が重いままだった。
　もっとも、編集室なんて、時間の制約は、有って無きがモノだから、結構、時間は作れるんだけど・・・。
　今日は逆！時間はあるのに、何をして良いのかが全く分からなかった。
　ア〜ァもう５時だから、メイク直して着替えなくっちゃ！

『マスター』京橋で地下鉄を降りて新橋方向へ１００m程なのよ。
　学生時代にはいろんなお友達と良く行ったものだったわ。
　ただ御飯食べに行くんなら良いんだけど、こんなに気が重くなるなんて考えなかったわ。
　・・・奥さんのいる人を好きになってしまうと、ショウが無いのよね。
　それもこれも、独身男に良い男がいないからよ！・・・軽薄なのばっかりじゃない。
　あろう事か？・わたしの周りにいる独身男性達を思い浮かべていたの。でも、わたしが頼りたくなる様な人は思い着かなかったの。
　本物の男って感じさせてくれる男の人が居たらなァ・・・。
　こんな事・いくら考えても時間の無駄だわ。・・・いつものわたしなら直ぐにそう思うものよ。・・・なのに、今日はそれが救いだったの。

「あなた・が、レイさんね？・ウチの人の写真通りの素敵な方ねぇ！」地下鉄の出口を地上に出て、まだ２０mも歩いてないの。
「えっ・・・・・？真咲さんの奥さん・・ですか？」 声の主がニコニコしているのを見て、ピンと来たの。だって、待ち合わせているのは真咲さんの奥さん、その人だもの。
「ええ、真咲です。お忙しいのに、お呼び出ししちゃって！」えっ！・何か？フレンドリー・・・？
「・主人の撮っておいたのを全部見て来ちゃった！」嬉しそうな話し方に、何か違和感があるのよ。てっきり噛み付いて来られるって思っていたのよ。・・・そうでしょ？奥さんにすれば、わたしはご主人を寝取った「憎っくき敵」。・の筈？
　なのに今度は右手を差し出してくるの！・握手？？？
　途惑い乍らもわたしも右手を出して握手したの・・・？
　肩を並べて『マスター』に入って行ったのよ。

「・・・何にしましょうか？・お任せでイイ？」
「ええ・・・？」
「じゃァ、適当に見繕ってお願い。」 奥様、メニューに目も通さずにボーイさんに返しちゃったの！

　前菜　秋の前菜の盛り合わせ
　大菜　吉切鮫の尾鰭の煮込み、上海蟹風味
　　　　　海の幸と銀杏ときのこの炒め物
　　　　　北京ダックと蟹の甲羅詰め焼きの盛合わせ
　　　　　鮑のかき油煮込み、飾り野菜添え
　点心　デザートとフルーツの盛り合わせ　　

「実はね、わたし．、女を上がっちゃってるの。・・・更年期よ。」少しげんなりしたお顔付き？
「ハァ・・・？」答え方に迷ったわ。いきなり『上がっちゃてる』って、どう云う事？
「レイさん家の人としたんでしょ？・どうだった？」！！！・わたしとおじさんの事を聞きに来たの・？
「どうって・・・・・、お強いですね・。」
「そうなのよ！・・・もう静かになってくれて良い歳なのに、アレなんだものね。・・・で・、わたしはもう身体が持たないのよ。」わたしの短い答えさえを待ちきれない様に、奥さんの言葉が重なって来たの！
　息を突いた隙に相槌ぐらい打とうかとも思ったんだけど、わたしの一言が出る前に奥さんは続けたの。
「・レイさんの若さでも、ウチの人の相手は大変だったでしょう？・わたしの歳になると、あれでは苦痛になってしまうの！・・・それでも、アレは家の人の活力源なの。クリエイションの元にもなっているのよ。インスピレーションがそこから生まれている。って云うのかしら？・・・だから、断りたい時でもなかなか断れなかったのよ。」・・・何だか変な調子だわ・？・・・てっきり怒鳴り付けられると思って来ているのに・？
「・・・どう云う事なんですか？・・・それって・・・。」
　一瞬まさか？って、思いが掠めて行ったけど・わたしの理性がそれを否定しようとしたわ！・それなのに・・・
「・・・だからね、レイさんがあの人のそっちを引き受けてくれるんなら、堂々と付き合っても良いわよ・。」
「・・・？！！！」どう答えれば良いの？・・・そんな事がある筈がない！・理性が否定しようとする事が、奥さんの口から・・・！
　セックスレスのご夫婦だって、ご主人の浮気となると、頭から湯気出して怒るのが、この世間のご婦人なのよ！・・・常識的にはそれが普通だわ。

「レイさんがアレを引き受けてくれるなら、わたしは苦痛から解放されるの。全てでは無いでしょうけれど・・・。」心なしか上目遣いになった奥さん、わたしの機の所為だろうけれど、すま無そうに思っている様な？？？
「・・・。」ウレシイ！・・・他の人からは得られない様なあの感覚毎、おじさんとお付き合いできるの・・奥さん公認で？・・・簡単には信じられないわよ！・カマ掛けかも知れないわ！
「・わたしはね、女を上がっちゃってるのよ。・更年期・って云われるけど、レイさんなら、まだ間があるでしょう？・個人差はもちろんあるんだけど、わたしは早かったの。・それからはね・主人を受け入れるのが辛いのよ。・・・主人の全ての元ともなっているセックスが・・・。」

　なんて事なの！・・・あんなに夢見心地にさせてくれるおじさんのセックスが拒否されているの？・・・でも、更年期になると、女の人って男の人を受け入れられなくなるの？
　なんか他人事の様な気がするんだけど、わたしだって女性なんだから更年期は避けられないのよねぇ・・・。
　男の人のお相手が出来なくなる人って。どの位いるんだろう？
　・・・！・アッ！・今度の企画会議はこれで行こう！
　さて、どうやってデーターを集めようか！

「レイさん？・・・？」奥さんの声？・いけない企画の事じゃなかったんだ！
「お声掛けていただいて良かったわ！・・・次の企画を考えてしまいました。」こう云う処は正直に言うのが、わたしの良い処であり、悪い処なのよ。
「なにかお忙しい時にお呼び出ししちゃいました？」わたしが虚ろな目をしていたからでしょうか？・奥さんのいぶかしげな顔は『悪いことをしましたか？』と、聞いている様でもあったのです。
「いいえ！・いま奥さんが仰った事が企画としてどうかな？って、考えちゃったんですよ。」
「今、わたしが云ったこと・？」怪訝そうな顔を隠そうともしない奥さん、どうして、こんなに開けっぴろげに話せるの？
「ええ、わたしの関わっています雑誌は、これから更年期を控えた人達向けですから。」
「ライフメイト・でしたわね？・・・銀行などで眼にした事がありますわ。」そりゃそうでしょう！・毎月７０万部の発行なのよ。トップではないけれど、大概の女性は知っている筈だわ。・・・女性誌だから男性にはこの限りではないけれど、それでも誌名位は大
抵、知ってくれているの。第一そこへ電話して来たんじゃない！
「ええ、・ご存じでした？・何か気になりました記事はございましたか？」読んだ事も確かにおありでしょうし、何か記憶に残されなかったか？気になったの。
「そうねぇ・、粉吹き芋のコツは助かったわ。・分かってみれば、簡単な事なんだけですけどねぇ。分からないと、なかなか巧く行かないじゃない！」
「お料理記事ですかぁ・。」わたしの担当じゃない記事だって事だけは確かだわ。
「アラッ！・お料理を軽く見たらいけませんよ。・って、まだ・独身でした？」
「そうですよ・。主婦業ですと、興味が変わってきます？・独身時代と・？」
「・・・そうねぇ・、やっぱり主人第一ですものねぇ！・でも、わたし専業じゃないわよ。」
「え・？」
「専業主婦だと思っていらしたでしょう？・・・わたしもお仕事をしていますの。」
「えっ・・・！」おじさん、そんな事教えてくれなかったわ・。一体、どんな仕事なんだろう？お見掛けした処では、ノン・デザイナーをブランドよりすっきりとコーディネートしていらっしゃるからファッションにも強そうだし、ごく自然にしか見えないメイクにも意志の強さとビューティー・ポイントの強調が確かなものを見せてくれているわ！
　ただのフツーのおばさんで無い事は直ぐに分かったけれど、何の仕事？って考えると、皆目見当が付かなくなる出で立ちなのよね。

「で、お呼び出しのご用って・・・？やっぱり・。」自分で判断が付かなくなった時には、話題を変えてしまうのがわたしの常套手段なの。
「そうよ。ウチの人のこと・。」
「・・・・。」
「レイさん・本気なの？」
「・！・・・ええっ。」おじさん大好きだもの！・おじさんとなら他愛もない話しをしていても、わたしの中の何かが変わっていくの。わたしが育って行く気がするの。周りに居たどんな人も、こんな気持ちにさせてくれた人なんていないわ。
「あの人が本気とは限らなくても？」
「ええ、わたしがおじ・・真咲さんを好きなんです。」
「わたしはあの人を愛してるわ。」
「愛・、って、云えるかどうかは、まだ分かりません・？・でも、堪らなく好きなんです。・・・わたしの人生、奥様より大分短いですけれど、に、こんなに好きになった人はいませんでした。・奥様にはすまなく思いますけど・・・。」
「すまなくなんて思わなくて良いわよ。・さっき云ったでしょ？・続けても良いって！わたしね・、レイさんとお友達になれると思って来たの。」
「えぇっ！・・・？」
「驚いたの？・わたしの考え方ね、一般的じゃないのは知っているわ。・でも、あんなに癖の強い人を本気で好きになる人って、似た様な志向を持っていると思っているの。だから、レイさんとはお友達になれると思ったのよ。若いお友達が欲しいとも思っていましたし・・・。」
　ご主人の浮気相手を友達にしようなんて！・・・仰ることが理解出来ない事は無いけど、この人の思考回路はどうなっているのかしら・・・？・どう考えたって、ご主人の浮気相手に言う言葉とは思えません。女同士の修羅場になるかも知れない！って、思ったから、今日は一日、頭の中がその事ばっかりだったのに！
「わたくしを『変な女』と、お思いになります？」
「滅多にいらっしゃらないでしょうね？・・・ご主人の浮気相手を友達になさろうって、奥様は・・・。」簡単に信じられるとは思えません。・それだけに、心に思った侭話してしまっていたのです。
　普通なら恨み辛みを並べ立てる場面なんですよ。御主人の浮気相手なんて、敵と思って当然です。
「あの歳で二輪車で何処へでも云ってしまう人って、そう多くは無いわ。冬の寒さの中でも、冷たい雨が降っていても、目的地の状況だけで二輪車を選ぶ人って云うのも、殆ど居ない筈でしょう？・しかも求められるクゥウォリティーを超えるクウォリティーで出来上がらないと、納品しないんですもの！」
　何か、話の内容は不満を云っている様なのに、その顔は笑み一杯。
　それは達観しているからこそなのでしょう？・・・おじさんを勝手に飛び回らせていて、それでいて、肝心要な所は抑えているのよ！・・・たぶん？
　この人もおじさんに劣らず、魅力に溢れているわ！

　あっけらからんとおじさんの勝手な振る舞いを話し続ける彼女が、おじさんの行動そのものを愛し続けているのだと思えました。
　多くの女性達は、男の人を雁字搦めにするのが愛だと信じています。
　佳人の全てを掌握して、もし自分以外の女性にチラッとでも眼を移そうものなら、直ちに『わたしを愛していないの？！』と、詰め寄るのです。
　そんな事をしていたら、男の人は窮屈さしか感じないわよ。
『男は蝶・・・』と、歌った歌がありました。女は花だそうです。・・・それなら蝶は戻って来ないかも知れません？
　この奥さんは、おじさんの基地になっている。・・・わたしにはそんな気がしました。
　おじさんがどんなに自由に飛び回っても、フッとした時に帰って行きたくなる・。
　そんな人なんだろうなぁ？・・・心の基地になっている・。

　わたしはおじさんの基地の一つに成れるだろうか？
『男と女の関係は、片方だけが追い続けるものであってはならない。』でしょ？
　強制して抑え付けてもいけないわ。・それでは自由な思索が出来なくなってしまう。
　お互いが自由でなければならない。・それがわたしの考え方なの。
　それでいて、一緒に居たくて戻ってきたくなる様にしておく。・・・それが、わたしの愛のあり方・・・。
　おじさんを見ていて、わたしの考え方が通じる人がいると思ったのだけど、おじさんの奥さんの方が、もう一歩先を行っている気にさせられたのです！

　男と女ってそこに繋がりは持っても、それぞれが独立した存在なんですよ。現代人の多くはその事を忘れてしまっているわ。
　独立しているって事は時々刻々常に変化を続けているの。
　男も変化して行くし、女だって変化して行くのよ。
　だから、お互いがお互いを意識して常に相手を惹き付ける様にしていなければ、お互いの距離がどんどん開いて行ってしまうのは避けられない事なの。
　異性を簡単に引き付ける方法は、異性感を強める事・。
『セクシー』って、そう言う事よね。
　そこには当然、好みの『セクシー』と、厭な感じを持つ『セクシー』とがある筈だわ。
　人間が個性的であるなら、これは避けられないの。
　それに生命としての人間だって考えたいわ。
　人間としての魅力よ！
　それはより進歩的である場合もあれば、全く逆の、より保守的である場合だってあるの。
　世の中は『進歩、進歩・・・。』って、進む方ばっかり云い続けるんだけど、古き良きものを守り続ける事だって、進歩以上に大切な事なんだもの。
　人に拠って魅力を感じる方向が違うのよね。
　両方とも魅力を語る時には欠かす事は出来ない。と、わたしは思っていたの。

　奥さんは、おじさんを手の中に握っている。・言葉では表せない強いモノを感じたの！
　わたしはまだ、おじさんの表面しか知らない。
　おじさんとこの人は、長い時間を掛けて解け合っているんだろうなぁ・・・？
　お互いがお互いを必要として、普段の自由放任を許せるだけの絆が出来ているのかも知れないわ。
　愛を語る時、殆どはそこに混じって来る他者を排除する方向に働くのに、奥さんはわたしを取り込もうとしている。
　そうねぇ、排除の考え方を重ねて行けば、最後に排除するものが無くなったら、そこには自分自身さえ無くなっているかも知れないもの。
　ホンの１・２秒の間に、わたしの頭の中にこんな考えが駆け回っていました。

　奥さんにわたしが呑まれてしまっていたのかも知れません？
「奥さん・観音様みたい・。・・・西遊記の・。」頭に浮かんだおじさんのイメージはお釈迦様だったけど、その侭は言えないじゃない！
「あらっ！・それじゃぁあの人、孫悟空？」
　云いたい事は直ぐに伝わった！・・・この人の頭の回転も早いわ。『西遊記』と、付け加えた事で、全てを理解して下さったんだわ。
「そうですよ！・そんな気がしません・？」
「・・・。」言葉は出なかったんだけど、フッと微笑んだ顔に、この人のおじさん操縦術を見破った。のだと確証を持ったわ。・そうは云っても、この操縦法を目指す人は多いのだけど、上手く実践できる人はホンの僅かなのよね。・大概の人は直接的に向ってしまって、御主人を操縦する方法はあんまり考えないもの。
　操縦方法を考えもしないで、あのおじさんを上手く操縦が出来る筈はないわ。・それとも・直感だけで上手く扱うって云うの・？
　わっ！・これも企画できる！・・・夫の操縦方法は世の中の全ての妻が知りたい事じゃない！
　この奥さん、企画の宝庫だわ・！
「ウチの人は孫悟空って云うより、鉄砲玉よ！」ちょっと間を置いてから奥さんの口から出て来たのは、こんな言葉だったの！
「・・・『鉄砲玉』って、帰って来られない事があるんですか？」
「そうよ。・・・若かった頃からチャンス待ちとなったら、時間なんて忘れちゃうんだからァ・。」
「それはぁ・、クリエーターはしょうが無いんじゃァないですかァ？・それだけクリエイションに気が入っているって事でしょう？」
「家で待っている者がいる事も忘れてね、・ここだけは、少しは考えて貰いたいわよ。」
　これは、純粋な奥さんとしての気持ちだって事よね。・わたしでも分かっているわ。