鞭を執れ
はちみつ太郎 作
７

　深大寺の駅裏から一歩踏み入れた路地の奥。袋小路になった細い路地を迷い、小春は周囲を見回しながら「チャペルスイート」を目指す。

　大通りに出た小春は、人に聞くわけにもいかず、ネオンサインを頼りに歩みを進めると、想像と違ったネオンサインを目にした。

　結婚式でも開かれそうな玄関のホテルには、賑わいを沈めるようなクラシックの音色が流れている。フロントに出向いた小春は、７０９の番号を告げると、フロントから電話をいれ御連れのものが来た旨を伝えた。

「お部屋で、お待ちとのことです。カードキーをお渡しいたします。・・・では、ごゆっくり。」
　フロントの女は、柔らかい笑顔で小春をエレベーターへ案内する。ＭＡＤももらった筈で、二つ目のカードキーを渡されたことで、小春は部屋の大きさを想像した。ダブルルーム程度か、ツインルームでベッドが二つか、ホテルの人間には、ＭＡＤの性の相手ではなく、連れ合いと想像されたようだった。

　エレベーターホールから一番突き当りが７０９だった。他の部屋より豪華であるような雰囲気だった。

「コンコン」

「どうぞ、お入りください。」

「ガチャッ」

「小春さんっ？」

「は、はい、ＭＡＤ・・・さん？」

「えぇ、どうぞ。」
　首を少しすくめ、小春は部屋の中に入る。ガチャッとドアが閉まると、オートロックのドアは鍵が掛かった。ＭＡＤは、チェーンキーを施すと、密閉された空気がよりいっそうつまった。

　部屋の隅に大きなキングサイズのベッド、そこが舞台だった。

「緊張してるよね、旦那さんから聞いてる・・・よね。」

「はい、・・・恥ずかしいけど、来ちゃいました。」

「ハハハ、どうぞ、掛けて、飲み物でも出そうか。」

「あ、私、します。・・・冷蔵庫、開けちゃっても。」

「あぁ、いいよ、支払いは、僕が済ますから、何でもとって。」

「じゃぁ、ビール。」

「え？イケル口？」

「いや、緊張のごまかしって感じで・・・へへへ。」

「だよね、じゃ、僕ももらおう。・・・ブシュッ。」

「じゃ、いただきます。」

「ゴクゴクゴクッ。」

「良いのみっぷりだ。小春さん、っていうより、小春ちゃんの方が似合うかな。」

「そんなに子供っぽいですか？」

「いや、華奢な体が、・・・さん、よりも、ちゃんって感じで、まぁ、４５の爺からしたらさんより、ちゃんかと。」

「ＭＡＤさんって、４５、見えないですね。３８位に見えますよ。」

「ありがとう、７つも若く見られるって、ないからね、小春ちゃんは？」

「いくつにみえますぅ・・・。」

「なんか、合コンみたいだ・・・えぇ、２３。」

「おしいぃ、２４なんです。」

「そっか、旦那さん・・・ブラックさんは？」

「そ、そんな名前なんですかうちの旦那、２８です・・・去年結婚して・・・１年半かな、そろそろ。」

「じゃ、新婚って感じでもなくなってきた。」

「うぅん、大好きですよ。」

「うらやましい、・・・ところで、ほんとで、・・・良いの？」

「う、うん。・・・計くんが・・あっ、旦那が、して欲しいっていうんなら。」

「動画のことも聞いてる？」

「大体のことは、なんか、あとで、変なことされなかったか、確認したいって。」

「変なことか、旦那さん以外の男とＳＥＸってそれだけで、変なことなんだけどね。」

「そうですね・・・。」
　頭をかきながら、ＭＡＤは、小型のＨＤＤビデオカメラを三脚に固定する。固定し終えると、小春の座った椅子の横に膝をつき、視線を同レベルに押し下げた。

「もう、録画・・・？」

「あぁ、してるよ、・・・キスしていい？・・・チュッ。」

「チュッ・・・返事のまえにぃぃ。」
　２人は唇を離すと、照れ笑いをし、再び真顔になると舌先を絡ませ始めていた。膝を伸ばし、座ったままの小春の唇を顎をもち吸い上げるＭＡＤ。

　吸い上げられるように立ち上がった小春は、頭一つ身長差を感じ顎を上げる。ドット柄で栗色の７分のワンピースは、胸元が甘く、ブラカップのレースがＭＡＤの視線に飛び込む。

　腰を引き寄せ、小春の背中から双臀のラインを忙しくさすり、ワンピースの裾を軽くめくる。

「ショートパンツ、穿いてるよ。」

「ハハ、だよね、これだけ短かったらパンツ丸見えだよね。」

「最近は、ショーツって言うんですよ・・・ワカメちゃんじゃないんだから。」

「年の差を感じるなぁ。・・・チュゥゥゥゥ・・・チュッ。」

「良かった・・・ＭＡＤさん、やさしそうな人で・・・。」

「わかんないよ、豹変するかも・・・。」

「こわいぃぃ。・・・チュッ・・・チュゥゥゥ。」
　ＭＡＤは小春を抱き寄せたまま後ずさりすると、キングサイズのベッドの縁で体を変える。浴びせた押すように小春を押し倒すと、重なるようにして、クッションのいいベッドに沈み込んだ。

　舌先を離さないでいいる２人は、ＭＡＤは小春の体のラインを、小春はＭＡＤの顎のラインを手でさすっている。

　バッグの中に備えられた盗聴器の音は、ノイズと共にあずさの鼓膜に届いていた。７階の同じフロアーに陣取ったあずさは、２人の甘い会話を楽しんだ。

「上手くいってる、怪しまれてはないようね。」

「ジャァァァァァァァ。」

「ん、？シャワー・・・声は聞こえなくなりそうね。ルームサービスでも頼むか。」
　ヘッドホンの片側を外したあずさは、ルームサービスにコールする。サンドイッチとコーヒーを頼むと、再び両側の耳を小春とＭＡＤの聞こえないシャワールームの音に集中する。
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2012年11月17日掲載
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