その１．　テラスで

　それは彼女の所為ではなかった。
　奇跡とも思える偶然が、３回も重なった所為だ。
　その偶然を通じて、彼女はある人と出会う。
　それは運命だったのかもしれない。

　最初は、ある日曜日の出来事からだった。
　休みの日の午後、娘と二人暮らしの静香は、久しぶりに一人きりで、何もしない贅沢を愉しんでいた。
　ここは郊外の保養地にあるレストランのオープンテラス。
　仕事を忘れ、ゆっくりとした昼食を愉しんだ静香は、のんびりと食後のお茶を味わっていた。
　娘の香織は、昨日から友達数人と旅行に出かけている。
　静香は心の中で、今日のこの計画にとても満足していた。
（「来てよかったわ。幸せ・・」）
　最近彼女は、何気ないいつもの生活に、幸せを感じることが多くなった。
　充実した仕事と心安らぐプライベート。家もあるし、子供もいる。
　そしてなにより、何をしても咎められない、かけがえのない自由があった。
　以前の夫と別れてからの１０年間、静香は色々な恋を愉しんできた。
　相手は、若い男の時もあったし、年上の優しい人の時もあった。時には、美しい女性の時も・・
　その時は夢中だったそのどれもが、今振り返るといい思い出だった。
仕事をしながら育てた娘が１７才になった今、やっと人生を愉しむ余裕が生まれた静香は、今までの人生を懐かしく振り返っていた。

　だが、そんな静香のすぐ近く、右斜め後ろの席から、彼女の美しい横顔をじっと見つめる一人の少年がいた。
　少年の名前は浩一。
　中学１年生で、今日は両親と一緒に、この近くの美術館に来ている。
　両親はまだ建物の中だが、画に飽きてしまった浩一は、一足先に昼食の席についていた。
（「うわぁ〜・・スゲェ。見蕩れちゃう。」）
　斜め後ろから静香の事を見ている浩一は、気づかれないと思ったのか、大胆かつ執拗に彼女の身体を観察していた。
　血走った視線が、静香の大きなバストから張り出した腰、それから滑らかな曲線を描く、豊かなヒップへと、身体のラインを舐めるようにして移動してゆく。
（「こんな綺麗な人がいるんだ・・」）
　暫くそのまま、静香の美しいプロポーションに見蕩れていた浩一だったが、そのうちに、その中の一部分に目を奪われてしまう。
　静香の胸元にあしらってある、レースの刺繍飾りから目が離せなくなっていたのだ。
　それは本来、着る人に清楚な印象を与えるはずだが、静香がそれを身に付けると、どうしてもその下に隠されている、ふくよかな胸の膨らみを意識してしまう。
（「あぁ、揺れてる・・堪んないよ。」）
　身体を動かす度に、綺麗な服の中で弾むように揺れる、静香の豊満な乳房を眺めながら、浩一の股間は徐々に膨らんでいった・・

　静香は、その男の子の視線に最初から気がついていた。
（「中学生ぐらいよね・・女の子みたいにかわいい顔をしてるけど、やっぱり女性の身体には興味があるのかしら・・」）
　舐めるようなその子の視線には気付かないフリをして、さり気なく後ろの様子を探る。
（「胸を見てる。・・今度はお尻。まぁ・・凄い目つき。」）
（「何を考えてるのかしら・・私の裸？・・それとも・・」）
　若い男の子に、身体の各部をじっと見つめられた静香は、内心悪い気がせずに、逆に浮き浮きした嬉しい気持ちになっていた。

　少年と熟女が、お互いに相手の仕草に夢中になった頃、ウェーターが、静香の隣の席の客に食事を運んできた。
　静香の横に立ち、手を伸ばして、テーブルに皿を置いてゆく。
　その時、男の子に気をとられていた静香が、周りを全く見ないで、いきなり右手を水に伸ばした。
　次の瞬間、ウェーターの手と静香の手が交錯し、料理を盛った皿が大きく揺れて、中の液体が下に溢れる。
「きゃあ・・」
　素早く椅子を引いて、それを躱した静香だったが、その拍子にスカートの裾が大きく捲れ上がり、開いた脚の間の白い太股が顕になってしまう。
　よく見ると、皿から溢れた液体の一部がその太股にかかっている。
　しきりに謝るウェーターからナプキンを受け取って、汚れを拭う静香。
（「やだ・・見えちゃったかしら・・」）
　すぐに、あの男の子の事が気になった静香は、斜め後ろを振り返った。

（「わぁ〜・・真っ白。・・うっ、痛い！」）
　この時、浩一は、静香のスカートの奥を一心不乱に覗き込んでいた。
　すでに、ズボンの中で大きく勃起している彼のペニスは、皮と亀頭の間に陰毛が挟まっていて、我慢できない痛みを彼自身に与えていた。
（「どうしよう・・治まらない・・」）
　太股の内側を拭う無防備な静香の姿と、スカートの奥の妖艶なショーツを目撃してしまった浩一は、自分ではどうしようもないほどに激しく興奮していた。

　その子は、静香がみている事にも気付かないで、じぃーッと彼女の太股の奥を凝視している。
　驚いた静香が、そのまま男の子の様子を眺めていると、やがてその子は静香の視線に気が付き、顔を上げる。
　見られていた事を知ったその子は、慌てて静香から視線を外して、暫く俯いていたが、そのうちに立ち上がって、急ぎ足で建物の方に向かった。
（「逃げなくてもいいのに・・やだ、もしかして・・」）
　ある予想が頭に浮かんだ静香は、憑かれたように椅子から立ち上った。
　そして、男の子に気付かれないように、少し遅れてその後を追いかけてゆく。
　男の子はそのまま、トイレの中に入っていった。
（「やっぱり・・」）
　静香は、周りに人目がない事を確認してから、男子トイレの中に足を踏み入れた。
　彼女が誰もいないトイレの中を見廻すと、右側に並ぶ個室の一番奥の一室だけ、扉が閉じている。
　足音を忍ばせながら、奥に進む静香。
　やがて彼女の耳に、ハァ、ハァという男の子の荒い息遣いと、クチュ、クチュという濡れたものを擦る音が聞こえてくる。
　無意識のうちに生唾を飲み込んだ静香が、さらに扉の中の物音に耳を澄ましていると・・
　ガラガラと、トイレットペーパーを急いで引き出す音が聞こえて、その直後に、「んっ！・・くっうぅんっ〜・・」という、押し殺した男の子の小さな声がきこえてきた。
　その、なんともいえない絶頂の声を聞いた瞬間、静香の胸の奥に、キュンとするような甘酸っぱい不思議な感覚が走る。
　その後、漂い始めた濃い栗の花の匂いを後に、そっとトイレを抜けだした静香は、いつまでも胸のときめきを押さえられずにいた。
（「なぜかしら・・すごくドキドキしてる・・」）
　この時、静香は、（遠い昔、初恋の人が自分の事を褒めている様子を、偶然、盗み見てしてしまった時と似ている。）そんな風に感じていた。