その２．　電車内で

　それから一週間後の月曜日、２回目の奇跡は、朝の通勤電車の中で起きた。
　この日、偶々早く目が覚めてしまった静香は、いつもより一本早い電車に乗った。
　普段より少し混んでいる車内で、開閉ドア横の隅に場所を決めた静香は、座席の方に顔を向けてそこに立っていた。
　次の駅では、さらに沢山の人が電車に乗り込んできた。
　後ろから押され、車内の中央部にゆっくりと進む乗客たち。
（「あの子・・何処かで見た事があるわ・・」）
　その時、静香は、その人たちの中に、見覚えのある顔があることに気づく。
（「そうだわ・・あの時の・・」）直後に彼女は、つい最近会ったばかりのその顔を、はっきりと思い出していた。
　それは先週、レストランの席で出会ったあの少年だった。
（「すごい偶然ね・・」）
　その子は、手摺りに掴まるために、人ごみを押しのけて静香の方に近寄ってくる。
　そして、彼女のすぐ右隣の手摺りに掴まった。
（「気づくかしら・・」）
　咄嗟に顔を隠した静香の心の中は、期待と不安が混じり合って、まるで荒れた湖面のように、ザワザワと波立っていた。

（「似てる・・」）
　顔はむこうを向いていて、わからない。だが、スーツの胸元から覗いているレースの刺繍飾りは、すぐ目の前にあった。
　上品な服と、白い素肌。それに、大きく張り出した尻と豊かな胸。対照的に、目を見張るほど細く括れたウェスト。
　浩一は、ラッシュで身体をもみくしゃにされながら、横向きに立つ、その女性の姿に目を奪われていた。
　彼の頭の中に、いつか見た真っ白な胸の谷間と、揺れる乳房の映像が甦る。
　次の瞬間、浩一の股間は条件反射のように硬くなっていた。
（「だめだ！、忘れなきゃ・・やめろ・・あぁ、どうしよう・・」）
　それは自分でも、制御ができなかった。
　勃起してしまった股間を前の人につけないように、腰を引いた姿勢で後退りする浩一。
　だが満員電車の中で、後ろから強く押された彼の身体は、否応なしに前に立つ女性に押しつけられてしまう。
　スボンの中で上向きに勃起している彼のペニスは、裏側を女性の右腰のあたりに強く押しつけられ、そのまま電車の揺れに合わせて、強制的に上下させられる。
（「あんっ、ハッ、はぁ〜・・」）
　初めての女の身体の感触に、浩一の背中に電流が走り、痺れたように全身の力が抜けてしまう。
　腰が抜けたようになった浩一が、おもわず女性の肩に凭れ掛かかると、その甘い香りがさらに追い打ちをかけてくる。
（「あぁ、気持ちがいい・・我慢できない・・もうどうなってもいい・・」）
　やがて目眩く陶酔に我を忘れた浩一は、自分から股間を相手の腰に擦りつけ始めた。

　静香はその子の勃起したペニスが、さらに硬くなっている事に気がついた。
　静香の腰のあたり、わき腹に押しつけられたペニスの先端が、徐々に上に向かって伸びてきている。
（「やだ、この子・・夢中になってる・・」）
　電車の揺れに合わせて、さり気なく興奮した股間を静香の身体に擦りつけているその子の息は、既に相当荒くなっていた。
　静香の脳裏に、あの時の男の子の切ない声が甦る。
　どうしても、その子の表情を見てみたくなった静香は、ゆっくりと男の子の方に顔を向けた。
　だが、女の感触に夢中になっているその子は、相手の静香が、以前に会ったことのある人だとは気づいていない。
　そのまま、恍惚とした表情で、腰を動かし続けている。

　やがて、うっすらと目を開けた浩一は、びっくりしたようにその目を見開いた。
　いつの間にか相手の女性が、こちらに顔を向けて、自分の顔を凝視しているではないか。
　驚いた浩一が、硬くなった股間を相手の身体から離して、逃げようとする。
　だがそれよりも一瞬早く、彼の頭脳は、静香の美しい顔と白い太股を、関連づけて思い出していた。
（「あの時の人だ・・」）
　あんぐりと口を半開きにしたまま、硬直したように動きを止める浩一。
　浩一の頭の中に、あの時の出来事が走馬灯のように甦る。
　いつの間にか心臓が激しく高鳴り出していた。
　脈が極端に速くなり、額に汗が噴出す。
　この時、なぜか浩一の股間は、前よりもさらに一層硬くなっていた。
　辿り続けた記憶の糸が、あのトイレでの自慰に行き着いたからだ。
　頭の中が、白い太股と透けたショーツを夢見ながら果てた、あの素晴らしい射精の快感に占領されてゆく。
　逝きたいという衝動をどうしても制御できなくなった浩一は、再び目を瞑り腰を振り始める。

（「我慢できないのね・・初めてかしら？、女性の身体に触れるのは・・」）
　自分に夢中になって、無心に腰をくねらせているこの少年の姿に、いつしか静香もまた、夢中になりかけていた。
（「でも・・だめよ。これ以上刺激したら・・」）
　沸き起こる興奮に、自分でも歯止めが効かないと感じた静香は、敢えてその少年から身体を離す。
　そのままゆっくりと身体を捩って、少年とは逆の方に顔を向けた静香は、少年に背を向けて車両の隅に立った。
　しかしこの時、急に列車が左右に大きく揺れた。
　手摺りに掴まっていない多くの乗客が、ふらつき、隣の人のからだに凭れ掛かる。
　横から勢いよく押された浩一は、手摺りから引き剥がされて、横に流されてしまう。
　そして、車両の隅に立つ静香の背中に抱きつくような恰好で、後ろから押され、そのまま強く圧迫された。
　足が床から浮いてしまうほど強く、後ろから押された浩一は、脚を拡げた姿勢で静香の尻に自分の股間を密着させてしまう。
（「あっ！・・はあぁ〜〜」）
　すぐに姿勢を直した他の乗客の中で、浩一だけは、そのままの恰好で動けなくなっていた。
（「あぁ、大きなお尻・・なんて気持ちがいいんだ・・まるで包み込まれてるみたいだ・・堪んないよ。」）
　静香の尻の感触に恍惚となった浩一は、彼女の身体を跨ぐように股を開き、後ろから手を回して彼女のウェストに抱きつくと、そのままうっとりと腰をくねらせ始める。

（「あんッ、いやぁ・・そんなに擦り付けちゃ・・」）
　目一杯に勃起したペニスを、下から刳るように尻の隙間に擦りつけられた静香は、もうどうにも我慢が出来なくなっていた。
（「あ・・カチカチ・・もうだめ・・堪らない・・」）
　後ろを振り返り、その男の子の表情を窺う。
　そして、男の子が歓喜の表情を浮かべているのがわかると、その顔をじっと見つめながら、ゆっくりと身体の向きを変え、男の子と向かい合った。
　それから、自分から男の子の腰に手を回し、猛り狂っている相手の股間に、自分の下腹部を押しつけてゆく。
　さらに、男の子の反応を愉しむかのように、その下腹部を大きく波打たせ始めた。
（「うっとりしちゃって・・嬉しいの？・・ほら、感じさせてあげる・・どう？、興奮する？」）
　顔のすぐ横から聞こえる、男の子のハァ、ハァという喘ぎ声を聞きながら、いつしか静香も、ショーツの裏側をヌルヌルに濡らしていた。

　浩一は、相手の意外な反応に驚いていた。
　身体をこちらに向け、腰を押しつけてくる。
　それから・・なんと、柔らかい下腹部を、勃起したペニスに擦りつけてくるではないか・・
　女性の柔らかい胸の感触。甘い吐息。そして下半身から伝わってくる波のような快感。
「あぁ・・ハァ、ハァ・・ハッ！・・」
　痺れるような快感に、頭の中が真っ白になった浩一は、思わず相手の肩に額をつけ、大きく息を荒げながら女性の身体に抱きついた。
（「どうして？・・どうして、こんな事をしてくれるの？・・アァ、凄い・・我慢できないよ。・・もう、逝っちゃう・・」）
　今までに味わったことのない、包み込まれるようなソフトで甘美な感触に、思わず浩一は、全身を震わせ、つま先立ちになってしまっていた。

（「可愛いわ・・とても・・」）
　自分に抱きついてくるこの少年を、もっと歓ばせてあげたくなった静香は、ゆっくりと右手を二人の間に忍び込ませた。
　そして、自分のジャケットのボタンを外して前を開けると、男の子の制服の裾を捲りあげる。
　眼を輝かせながら、前の子の下腹部をまさぐる静香。だが、男の子の身体は、その快感を味わうまで保たなかった。
「あっ！・・うっ！、ん゛んぅ〜・・」
　静香の指が、ズボンの中で一杯に勃起している男の子の先端に触れた瞬間、その子は、はじけた。
　ビクッと一度、大きく飛び上がったその子は、次の瞬間、静香の下半身を強く抱き締めながら、痙攣する。
　二人の身体の間で、幼い男性自身に強く押しつけられた静香の右手には、ズボンの中で飛び跳ねる硬いペニスの感触と、薄い布を通してじわぁーっと広がってゆく、熱い精液の湿り気が伝わってくる。
（「あっ、逝っちゃった・・出してる・・あ、また・・」）
　何度も、何度も射精を続ける男の子に、呆然としたまま、全身を揺すられ続ける静香。
　暫くして男の子の震えが治まると、静香は子供をあやすように、男の子の背中に両手を回してそっと彼を抱き寄せ、その背中を優しく摩った。

（「はぁあぁ〜・・力が入らない。死ぬかと思った・・」）
　生まれて初めての、他人からの刺激による射精。それは、あまりに強い快感だった。
　股間から拡がった痺れが背中に回って、頭とつま先を除いてまるで感覚がない。
　浩一は今、全身を硬直させたまま、相手の女性にそっと抱きすくめられていた。
　その時、浩一の耳元で、相手の女性が小さく囁いた。
「また会ったわね。」
（「？！・・憶えてたの？、僕のこと・・」）
　びっくりした表情で、女性の方に顔を向ける浩一。
「この前も見てたわよね。私のこと・・」
　まるで親しい友人に話しかけるかのような女性の話し方に、つい、つられて浩一も返事をしてしまう。
「あの・・・ごめんなさい。我慢できなくて、つい・・」
「いいのよ。わかってる。・・もう少し、このままでいましょう。」
　女性の口から信じられないような優しい言葉を聞いた浩一は、安心したように全身の力を抜き、相手のからだに凭れ掛かった。
　女性の大きな２つの乳房が、浩一の胸との間で柔らかく拡がり、夢のように気持ちがいい。
　彼女の繊細な手は、浩一の背中を優しく撫で続けていた。
　この時浩一は、年上の美しい人に抱きすくめられながら、まるで彼女の体内に射精した後のような、満ちたりた幸せな気持ちになっていた。
　だが、この後二人は、名前も告げず、そのまま別れてしまう。
　浩一にはその理由が解らなかったが、もしかすると静香の方が、少年にのめり込む自分を、恐れたのかもしれない。