その５．　クローゼットの中で

　それから数日が過ぎて、日曜日の昼過ぎに、静香からその連絡が来た。
　浩一は、地に足がつかない様子で、急いで家を出る。
「こんにちは。」
「いっらっしゃい。どうぞ。」
（「わぁ〜・・」）
　その日、静香はドキッとするような涼しい装いで浩一を迎えた。
　身に着けているのは、柔らかく薄い白のワンピースと、シンプルなアクセサリ類だけだ。
　身体の輪郭をくっきりと写したその服の下には、うっすらと下着のラインが透けていた。
「さあ、どうぞ。入って。」
　ノースリーブの肩から伸びた、白くほっそりとした手で、手招きをする静香。
　浩一がドアの前で挨拶も忘れて、美しい静香の姿に見蕩れていると、彼女は苦笑しながら、再度、彼を中に誘った。
　玄関を入り、静香の後に続いて、家の奥に進む浩一。
　彼の目の前で、ショーツのラインが浮かんだ静香の豊満なヒップが、ゆっくりと左右に揺れている。
（「あぁ、もう・・堪んないよ・・」）
　静香の後ろ姿から目が離せなくなった浩一は、もうそれだけで、股間が大きくなってゆくのを感じていた。
　浩一は、そのまま静香の寝室に案内される。

「じゃあ、ここに隠れていて。」
　静香が、ベッドルームから続く、広いウォーク・イン・クローゼットの扉をあけ、その中に浩一を招き入れる。
　寝室とそのドレスルームの間は、蛇腹に開く薄い扉で仕切られていて、格子状に空いた隙間から明るい寝室側がよく見渡せた。
「これ、いるでしょう？」
　もう既に妄想の中に飛んでしまっている浩一が、静香の方を振り返ると、彼女がティシュボックスを彼に差し出していた。
「す・・すいません。」
　恥ずかしそうにそれを受け取る浩一。静香は何も言わず、ただ、真っ赤になっている浩一の瞳の奥を覗き込んでいる。
「声をたてないでね。」静香がクローゼットの扉を閉める。
　暗闇に独り、身を潜めた浩一は、ドキドキしながら次の展開を待った。

　１０分ほどして、玄関の呼び鈴が鳴る。すぐに静香が応対に出た。
　暫くして彼女が寝室に戻ってくる。続いて、男が部屋に入ってきた。
　歳は３０才ぐらいだろうか、がっちりしていて背も高い。
　男は抱きすくめるようにして、太い腕を静香のウェストに回すと、彼女に優しい口づけをした。
　それから、ベッド脇に移動した二人は、それぞれ相手の服を脱がせ始める。
　男は、ゆっくりと彼女のワンピースを床に落して、その胸元に熱いキスを繰り返す。
「あ・・はっあぁ・・あんっ・・」
　息を殺してクローゼットの中に潜んでいる浩一は、初めて見る女の下着姿と、その甘い喘ぎ声に、完全に舞い上がっていた。
　既に、ズボンの中のペニスは限界まで勃起していて、彼の股間に大きなテントを張っている。
　一瞬も静香から目が離せなくなっている浩一は、焦った手つきで自分の股間をまさぐるが、熱り勃ったペニスは、なかなかそこから取り出すことができない。
　やがて、静香の姿に目を奪われながら、ファスナーを壊しそうな勢いでズボンを脱ぎ捨てた浩一は、ハァ、ハァと荒い息を吐きながら、反り返るペニスを夢中で握った。
　この時、寝室では、オールレースの薄いショーツに包まれた、真っ白な静香の尻の上を、男の二つの手が這い回り始めていた。
　静香が自分の背中に手を回して、細いブラのホックを外す。
　弾むように溢れ落ちた豊かな乳房に、すかさず、男が顔を埋める。
「あぁ・・はぁ〜〜・・」震えながら男の頭を抱き締めた静香の唇が半開きになり、そこから官能の嗚咽が漏れた。
　それと同時に、浩一のペニスの先端からは、最初の精液が迸り出ていた。
「うっ！」ティッシュは間に合わなかった。
　下腹部から伝わる強烈な快感に我を忘れた浩一が、跳ね上がったペニスを、そのまま激しく扱きたてる。
　ビュー、ビューと勢いよく噴出した精液は、クローゼットの中に飛び散り、扉の内側を汚してゆく・・

「例の男の子、見てるの？」男が静香を抱き寄せるフリをしながら、彼女の耳元で囁く。
「ええ、きっともう夢中で扱いてるわよ。」静香はにっこりと微笑みながら、小さな声で返事をした。
「ふふ・・悪い人だな。」
「なによ、自分だって興奮してるくせに・・本当は、嬉しいんでしょう？」
　静香が男のシャツの前を開けると、男は誰かに見せつけるように、下腹部にかかるシャツの裾を捲り上げ、血管の筋を浮かべた図太いペニスを前に突き出す。
　全てを心得ている静香は、嬉しそうに微笑みを浮かべながら、男の股の間に跪き、上向きにそそり勃っているペニスの裏側に吸い付いた。

「あぁ〜・・はぁ・・うっうぅ・・」
　慌てて宛ったティッシュの隙間から、白い精液が溢れ出し、浩一の細い指に流れ落ちる。
　だが、まだ彼のペニスは下を向かない。
　水平に近い角度を保ったまま、ビクッ、ビクッとその先端を震わせていた。
　浩一の目は大きく見開かれ、その視線は、ベッドの上で重なり合っている、二つの裸体にじっと注がれたままだ。
　ベッドの上では今、仰向けに寝た静香の上に男が覆い被さり、その腰を一心不乱に振り始めたところだ。
　男が腰を突き入れる度に、ベッドが大きく撓み、静香の腰が深く沈み込む。
　それまで顎を後ろに反らし、瞳を閉じて気持ちよさそうに喘いでいた静香が、急に、腕を男の腋の下から肩に回して、相手の身体にきつく抱きついた。
　それから、口を一杯に開けて「あっ・・あっあぁ〜〜、いぃ！・・」と、大きな声をあげながら、美しい両脚を相手の逞しい腰に絡める。
（「凄い声・・あんな上品な人が、こんなになるなんて・・」）
「あんっ・・ハッ・・ん゛っん〜〜」
　浩一がじっと見詰める中、静香が男の身体をさらに深く銜え込むように、彼の腰の後ろで自分の両足首をロックさせ、男の首に吸い付いた。
（「わぁ・・夢中になってる・・」）
　浩一は無意識のうちに、射精を終えたばかりのヌルヌルのペニスを、再び扱き始めていた・・

　休憩をはさみ、いつもよりも長く静香の身体を堪能した男が、名残惜しそうに帰った後、静香はクローゼットの扉をゆっくりと開けた。
　クローゼットの中には、丸められた沢山のティッシュの屑が散らかり、ムッとするような強い精液の匂いが漂っていた。
「愉しかった？」
　静香は、興奮を悟られないように、努めて明るく話しかける。
「ごめんなさい。部屋を汚しちゃって・・」
　浩一はぐったりと疲れ果てた顔で床に座わり、静香の事を見上げながら、そう謝った。
「・・いいのよ。気にしないで。」気づかれない様に、眼でティッシュの数を調べながら、浩一の様子を窺う静香。
（「１回、２回、３回・・まぁ、４回も？、ずいぶん何回もしたのね・・刺激が強過ぎたかしら。」）
「シャワーを浴びてゆく？」
「いえ、結構です。もう帰らないと・・」
（「もう疲れちゃったの？、残念ね・・」）静香は内心ちょっとがっかりしながらも、そんな気配はまったく見せずに、
「そう・・じゃあ、今度は、香織の居る時に来てね。憶えてるでしょう・・この前の約束。」と、まるで何事もなかったかのように、浩一をより強い快楽に誘う。
「はい。」と、答えた浩一がゆっくりと立ち上がると、静香は床に落ちたティッシュの屑を、拾い始めた。
「あっ！・・それは・・」驚いた浩一が、慌ててそれを取り返そうとすると、やんわりとそれを押し止めた静香は、
「今さら、なにを恥ずかしがってるの・・大好きよ。浩一君の匂い。」と言いながら、丸めたティッシュを自分の鼻に近づける。
　それから、うっとりとした表情で、その匂いを吸い込んだ静香は「ハァ〜・・ぞくぞくする・・目眩いがしそうよ。」と深い吐息を漏らした。
　これを目撃した浩一の股間は、いつの間にか、またカチカチに勃起してしまっていた・・


その６．　いつもの場所で

　その日、学校から戻った香織を、静香が説得しようとしていた。

「浩一君は、あなたに対して自信が持てないのよ。」
「えっ？・・それ、どうゆうこと？」
「年下で経験がないから、不安なのよ。あなたに嫌われてしまうんじゃないか、て・・」
「セックスのこと？」
「ええ・・慣れていないから、あなたを歓ばせることができない、そう思ってるんだわ。きっと・・」
「そんなの変よ。経験が無いのは、よく知ってるもの。気にしないわ、そんなこと・・」
「でも男の子からすれば、大問題なのよ。本当に好きな人には、恥ずかしい姿を見られたくないだろうし・・」
「そんな・・じゃあ、どうしたらいいの？」
「あなたが初体験の相手じゃなければ、いいのかもしれないわね。」
「それって・・別の人とするってこと？、いやだ・・そんなの・・」
「でも今のままじゃ、浩一君はいつまで経っても童貞のままよ。あなたがいくら誘っても、応じないから。」
「・・・」困った顔で黙りこくる香織。
　そのタイミングを見計らっていた静香は、娘の顔を覗き込みながら、要件を切り出した。
「ねえ、香織・・私でよかったら、浩一君の相手をしてあげましょうか？」
「えっ！？・・なにそれ・・」怪訝な顔で、母親の顔を睨む香織。
「知らない人よりはいいでしょう？、浩一君とは顔見知りだし・・」
　母親の性格をよく知る香織は、瞬時にその意図を読み取り、
「もしかして・・ママ・・浩一のことが欲しいの？」と、静香の胸の中を見透かしたように、そう言った。
　図星をつかれた静香は、あっけらかんとした顔で「それだけじゃないわよ。もちろん・・」と、笑って見せる。
「呆れた・・」
　香織は、いつも通りの母の天衣無縫な発言に、呆れながらも、半ば感心してしまっていた。
「いいじゃない・・最初の一回だけなんだし・・本当に好きなのは、香織だけなんだから。」
「変態・・そんなに中学生の男の子としたいの？」
「もう・・人聞きが悪いんだから。ただ、二人を手伝ってあげようとしてるだけじゃない。」
「・・・」
　その後も執拗に説得を続ける静香に、香織もとうとう最後には根負けをして、この提案を真剣に考え始める。
「あの・・少し時間をくれない？、浩一の気持ちを、確認したいから。」
「もちろん、構わないわよ。」
（「確認しなくても、わかってるから・・」）静香は、もう既に、裸の浩一をその胸に抱いたような、嬉しい錯覚にとらわれていた。

　それから、数日後。
　香織と浩一の二人は、よく待ち合わせに使う、ネットカフェのオープンスペースで、向かい合っていた。
「ねえ浩一・・私のどこが好き？」いきなり香織が、浩一に質問を投げかける。
「えっ？・・どうしたんですか？、いきなり・・」突然、大事な質問をされた浩一は、どぎまぎした様子で、答えに詰まってしまう。
「別に。どうもしないわよ・・ただ、訊いてみただけ。ねえ、どこ？、教えて。」
「う〜ん・・・全部かな。」
「なにそれ・・・すごく嘘っぽい。全然答えになってないし・・」
「嘘じゃないですよ。本当に全部好きなんです。」
「・・・」
　黙ったままじっと浩一の顔を見つめている、香織の真剣な眼差しに気がついた浩一は、
「美人だし、頭がよくて清楚だし、明るくてスタイル抜群だし、優しくて大人っぽいし・・」と、ムキになって、彼女いいところを並べたて始める。
　すると香織は、「ふ〜ん、じゃあ、もし私が、清楚でも綺麗でもなかったら、嫌いになるんだ？」と、やけに落ち着いた声で、そう問い詰めてくる。
「まさか・・どうして、そんなこと言うんですか？、少し変ですよ、今日の香織さん。」
　香織の態度の異変に気がついた浩一は、困ったような表情で、彼女の顔色をうかがった。
　一方香織の方は、そのまま、浩一の顔から視線を外し、何気なく店の外を眺めながら、いきなり・・
「私と・・セックスしたい？」と、目の前の浩一にだけ聞こえるような小さな声で、そう囁いた。
「えっ！？」びっくりした浩一は、思わず大きな声をあげてしまう。
（「どうしたんだろう？・・もしかして・・静香さんが、この前言ってたことを、話したのかな？」）浩一の意識の隅に、この前の静香の話が過る。
「したいなら、いいわよ。相手をしてあげても。」
　香織はそう言いながら、浩一にだけ見えるように、そっと、スカートの腰の部分を捲り上げた。
「！・・」驚いた浩一は、思わず言葉を失ってしまう。
　その視線は、たくし上げられた彼女のスカートの下に、釘付けになっていた。
　そこには、香織のほっそりとした腰骨と、ピンク色のスキャンティの紐が覗いている。
　忽ち、浩一の胸の鼓動が速くなり、股間の一物が起き上がってくる。
　だがこの時、浩一の脳裏に、以前聞いた静香の言葉が甦ってきた。
（「勢いに任せてしたら、嫌いになるかもしれないわよ・・」）
　喉から手が出そうになるのを、寸前のところで、抑えた浩一は、
「ごめんなさい・・僕、恐いんです。香織さんを傷つけるのが・・」と、消え入りそうなか細い声で、やっとそう答えた。
「そう・・判った。」香織は悲しそうな顔でそう言ったきり、口を噤んでしまう。

　その日の夜、香織は、静香が浩一の相手をする事を了承した。
　ただし、静香が浩一を誘惑する事を恐れた香織は、最後に一つだけ条件を付けた。
「その様子を私に教えて。変な事をしないか、調べたいから。」
「もう・・信用が無いのね。・・わかった。それなら、私が浩一君に教えるところを、見てなさい。」
「いやよ、そんなの・・恥ずかしい。」
「へぇ〜、いいの？、なにをするか、わからないわよ。」
「もう・・いやだ・・どうしよう・・」
　結局香織は、浩一の初体験を見学する事になる。そして、静香の発案で、直前までその事を、浩一には伏せておくことにした。