１．

「お疲れ様でしたー！」
　体育館内に、少女たちの声がいっせいに響くと、一列に並んだ少女たちは、緊張した空気から解き放たれた。
「あー、今日もつかれたー！」
「ほんと、もうクタクタだよ。汗ビショビショだしー」
　ｔシャツにハーフパンツ姿の少女たちは、次々と更衣室へと散っていく。
　私立園が丘学園。もともとは、お嬢様学校だったのだが、近年生徒の数が減ってきてしまったことから、昨年から共学の普通高校へと転進した。
　しかし、共学になったとはいえ、学校自体がそう急に変わることは無く、去年、今年と入学した男子生徒も５０人に満たない程度で、校内にはまだまだ女子校という雰囲気が多く残っている。
　また、お嬢様学校だったということもあり、部活動も、文化部や運動部でもテニスであったり、弓道といった部活に人気があり、激しいスポーツ系の運動部は人気がなかった。
　むろんそれは、今練習を終えたバレーボール部も例外ではなく、全学年あわせて１５人と、小規模なものだった。
「あれ？ナツ、シャワー浴びてかないの？」
　更衣室で、少女たちがシャワーの順番を待ちながら雑談している中、周りより頭ひとつ背の高い、ショートカットに丸顔の少女が一人、汗をたっぷりと吸い込んだＴシャツとスパッツを脱ぎ、白い素肌と水色の下着の上に、ブラウスを羽織り、ボタンを閉めている。
「うん。今日ちょっと急いで帰らなきゃいけなくって」
　ナツと呼ばれた少女――桑島奈津子は、着終えたブラウスに、赤いリボンを結ぶ手を休めずに、振り返って答えた。
「もしかしてデート？」
　声をかけてきた少女は、少し大げさな声をだし尋ねる。その声に、ほかの少女たちが振り返る。
「違う違う！そんなんじゃないよ。家の用事でね」
　周りの視線に気づき、ナツは慌てて手を横に振る。
「なーんだ。でも、だったら部活休めばよかったのに」
「ううん。それほどの用事でもないし、部活は休みたくないから」
　ナツは、長い脚にグレーのチェック柄のスカートを通し、ウエストのところでホックをとめ、チャックを上げる。
「相変わらずナツはまじめだねー」
　少女は、ややあきれた様な口調で言った。
　それもそのはず、人気のない部活に集まる生徒は、それなりにそのスポーツが好きだから集まっているわけだが、レベル的には決した高くないし、「勝つ」ということよりは「楽しむ」ということを大切にしていた。バレー部もしかりだったが、ナツだけはいつも熱心に練習をしていた。
　中学からバレーボールを始めたナツだったが、もともとの運動神経に加え、スクスクと伸びる身長のおかげで、中学三年の時には、スポーツ推薦が取れるほどになっていた。
　ナツとしても、バレーボールの強い高校に入り、思う存分自分の力を発揮したかった。しかし、彼女にはそうできない理由があった。
「じゃあ、お先に失礼します！」
　ナツは、汚れたシャツやタオルを丸めて、無理やり学校指定のバッグに押し込むと、ひょいと担いで更衣室を後にした。
　ふと腕時計に目をやると、もうすぐ六時になろうとしていた。
「まいったな。急がないとお母さんに怒られちゃう」
　ナツは、母親と二人暮しだった。父はナツがまだ小さい頃事故で亡くなっていた。母は、それから再婚するでもなく、一心に愛情をナツに注いできた。その理由のひとつが、この園が丘学園だった。
　母は、高校受験の時にこの園が丘学園に憧れ、必死に勉強をした。しかし、当時の学園は、全国にその名が知れ渡るほどの有名校であり、同時に難関校でもあった。母は死に物狂いの努力をしたそうだったが、その夢あ叶うことはなかった。
　そしてその夢は、ナツへと受け継がれた。正直ナツは、園が丘学園には行きたくなかった。今の園が丘学園には、昔のような地位も名声もなくなっていたし、何よりそんな高校で思い切りバレーボールができるとは到底思えなかった。
　しかし、そうはいっても、ここまで女手ひとつで一生懸命に育ててくれた母親の唯一の我が侭を裏切るようなことは、ナツにはできなかった。どんな学校でも、バレーボールができればいいじゃないかと自分に言い聞かせ、一人真面目に練習に取り組むことで自分に折り合いをつけている。
「だいぶ日が延びたな・・・」
　ナツが体育館をでると、外はまだ夕方かと思うほど明るかった。それもそのはず、もうすぐ七月に突入する。
　ナツは、体育館を出て、本校舎の横を通り駐輪場に向かおうとしたが、校舎前でふと足を止めた。
「帰る前に・・・寄っておこうかな」
　ナツは、小走りで校舎の昇降口に入っていく。靴は脱いだままにし、上履きだけを履き校舎内に入っていった。
　ナツは、昇降口に一番近いトイレに入ると、一番手前の個室に入りドアを閉める。
「ふぅ・・・」
　小さく息をつき、和式の便器を跨ぐと、スカートを巻くりあげ、ショーツに手を書け膝まで下ろす。手には、しっとりと湿った感触が伝わり、ぴったりと肌に張り付いたショーツを下ろすのに若干手間取った。
（やっぱり軽くシャワー浴びて着替えるんだったな・・・）
　そんなことを思いながらスカートをたくし上げ、しゃがみ込む。
　目を瞑り少し神経を集中させると、身体の芯がキュンと厚くなり、体内に滞っていたものが開放されていく。自然と光悦の表情になり、頬が熱くなるのを感じる。静かな空間に、チョロチョロと水が注がれる音だけがやけにはっきりと聞こえて、なんだか恥ずかしさを感じる。あと少し・・・。ナツは目をつぶり、下腹部がすっきりとしていく気持ちよさを味わう。
　コンコン！
　不意にドアがノックされ、驚きに身体がビクッと震えた。振り向いてデアを見るが、わかるのは、下の隙間から見える上履きだけだった。
（他のところいっぱい空いてるじゃない！）
　ナツはそう罵りながらも、はやく出なければと妙にせかされた気持ちになる。しかし、そんな時にかぎって、勢いの弱まった尿は意外に粘る。
　隙間から見える上履きは、動く気配がない。それどころか、再びノックをしてくる。
「・・・。入ってます」
　ドア閉まってるんだから、入ってるにきまってるじゃない！と怒鳴りたいのをこらえ、ナツは上ずる声で答える。
「やっぱりナッちゃんだ」
　ドアの向こう側から、うれしそうな声が聞こえた。
「た、環？」
　その声から思いつく、人物の名前を呼んでみる。
「あたりー」
　再びうれしそうな声が帰ってくる。ナツは、一気に気が重くなりため息を漏らす。
　八重洲環。ナツと同じく園が丘学園の一年生で、クラスメイトでもある。
　入学して三ヶ月も経つと、クラスの中ではいくつかの仲良しグループが出来上がっていた。ナツにしても、なんとなく気の合う子のいるグループに身を置いていた。そんな中、環だけは、どのグループにも入ろうとしなかった。最初は、単なる変わり者程度に見られていた環だったが、最初の中間試験であっさりと学年トップの成績をうちだした。
　普段はオドオドしていて、どこか何を考えているのかわからない。しかし、成績は学年トップ。そんな環を数人のクラスメイトは疎ましく思った。環にとって運が悪かったのは、その数人の生徒が、クラスの中で一番大きなグループの中心にいる女生徒だったことだ。
　無視、物を隠す、陰口・・・徐々に陰湿ないじめが始まった。
　ナツは、別に環が嫌いだったわけでも、特別同情していたわけでもなかった。ただ、なんとなく頬って置けずに、たまに話し掛けたり、さりげなく助け舟をだしたりしていた。
　すると環は、今までほとんど誰とも仲良くしたりしていなかったが、ナツにさけは積極的に話し掛けたり、寄ってきたりするようになっていった。
　善意でやった行為ではあったが、その結果にナツは少々うんざりしていた。一度話しだすと環は異常にしつこく付きまとってきた。そのこともそうだが、その結果クラスで環と共に孤立しつつある自分にも不安を抱き始めていた。
　そんな環が今、扉一枚はさんだトイレの外側にいる。目的は明らかに、排泄行為ではなくナツ自身だ。
「やだ、もう・・・。すぐ出るから待ってて！」
　ナツは、苛立つ気持ちを押さえ込むように、ドアの向こうの環に言う。下腹部から残尿管がなくなるのを感じ、トイレットペーパーに手を伸ばそうとしたその時だった。ガチャガチャという音がしたかと思うと、鍵のかかっていたはずの個室のドアがゆっくりと開き、細身で、ショートヘアーの気の弱そうな少女が、悪戯っぽい笑みを浮かべ立っていた。
「え、ちょっ・・・」
　ナツは、とっさに何かをしようとした。しかし、何をどうしてよいのか、混乱して後ろを振り返ったり手をバタパタと動かすだけだった。
　環は、たくし上げられたスカートから、白い尻を突き出ししゃがんでいるナツの姿をみてクスクスと微笑み、後ろ手に再びドアを閉めた。
「コツがあってね、こういうのって簡単に開けられるんだよ」
　環は、そういうと後ろからナツに覆い被さり、首の脇から両腕を伸ばし、ナツの耳にフゥと息を吹きかけた。
「ヒャッ！」
　全身に鳥肌がたち、ナツは環を押しのけるようにして立ち上がり、トイレの脇に逃げる。すぐにでも個室から逃げようと思ったが、内開きのドアは、環が邪魔で開けないし、膝の所で丸まっていたショーツが、立ち上がったことで、足首のあたりまで下がり、うまく身動きを取れない。
　とりあえずショーツを穿かなければと、手を伸ばそうとしたとき、ナツに吹き飛ばされ尻餅をついていた環が、ナツの前にしゃがみこんで、それを邪魔した。環は上目遣いで、ナツを見上げる。
「まだ拭いてないよ？」
「じゃあ、拭くんだから出てってよ！」
　半分叫ぶような声で言う。しかし、環は動じる様子もなく、ニコニコと笑いながら、ナツを見上げる。
「私がキレイにしてあげるよ」
　しゃがんでいた環は、身体を伸ばすようにして、ナツの長い脚の付け根を覆う灰色のスカートの中に顔を埋める。同時に二本の腕は、それぞれナツの太ももを抱きこむようにして、脚を広げさせた。
「ヤッ！」
　ナツは慌てて両腕でスカートの上から、環の頭を抑える。しかし、次の瞬間全身に電気が走り、そして全身から力がふっと抜けていった。
　後姿など、その身長と髪型からたまに男性と間違われるナツの、確かに女だと証明するその部分に、熱くザラザラとしたものが触れたのだった。その感触が離れると、今度はふっくらとしたものがナツの陰部を覆う。そして、一気にそこを吸いあがられた。それが環の唇だと解る前に、それはジュルルと卑猥な音をたて陰唇ごとしゃぶりあげた。
「いやぁ・・・」
　力ない声が漏れる。スカートの上から環の頭にあてがわれた両手は、それを抑えるのではなく、自分自身を支えるために置かれている。
「いやなの？ナッちゃん」
　再びザラリとした舌が、裂け目に割りいるよう進入していき、にナツの膣や尿道の入り口を執拗に舐め上げる。
「だめ！お願い、やめて！」
　再び腕に力を入れようとした。しかし、この狭い密室で環を突き飛ばせば、まだ流し終えていない和式便器の中に突き落とすことになりかねない。
　そんなことを考えて、環の愛撫を受け入れている自分に情けなくなったが、環の舌や唇は、そうしたナツの理性を徐々に奪っていった。気がつくと環の両手は、ナツの引き締まったおしりをほぐすように揉みしだいている。
「ナッちゃん、ここ舐めてもらった事ないの？気持ちーんだよ」
　相変わらずのトロンとした甘えるような声が、スカートの中から聞こえる。
「そんなこと・・・したことないよ」
　ナツは、まだ男性と付き合ったことはなかった。中学はずっとバレーボールに明け暮れていたし、クラスの男子とは友達感覚で特にお互いの性別を意識せずに遊んだりしていた。最近になってこそ、女らしさや恥じらいを感じ、着る物や身だしなみを少しずつ気にするようにはなったが、それはあくまで自分が女であるということを自覚しだしただけであって、女として男を意識するというところまではいっていなかった。
「そうなんだ。じゃあここはまだバージンなんだ」
　不意に、今までとは違う感触が膣の入り口に加えられた。おそらく環の指先であろう。思わず鼻にかかった短いあえぎ声を上げてしまう。
「じゃあ先輩からひとつアドバイス。バレーの練習のあとエッチするなら、シャワーはちゃんと浴びてからの方がいいよ」
　環の指先が、膣から一直線に後ろへと裂け目を撫で、アナルに達すると再び前へつたっていく。ナツはたまらず腰をくねらせた。
「ナッちゃんのお○んこ、汗で蒸れててすごい匂いだったもん。私思わずむせそうになっちゃった」
　自分の性器を名指しで呼ばれたことに顔が赤くなったが、その後の自分の性器を辱めるような発言に顔から火が出るほどの羞恥心にかられ、叫び泣き出しそうになる。
「でもね、こういうのが好きな男の人もいるみたいだよ。あ、それに・・・だんだんエッチないい匂いもしてきた」
　環は、ナツの心理を察したのか励ますような言葉をかけてきたが、それにしてもナツの羞恥心をあおるだけだった。だが、環の言ってることは確かである。身体の一点が熱く濡れているのがわかる。
　そして、それが陰部に与えられた愛撫によるものだということを、たまの自慰行為の経験から知っていた。
「んっ・・・はぁ・・・お願い。環・・・」
　自然と声が、甘えるような口調になってしまう。なんとか喘ぎ声がこぼれるのだけはこらえていたが、抵抗する手には殆ど力が入らなかった。
（もう、このままされるがままに・・・）
　意識がふわふわと浮いたような気がして、ついそんなことを考えてしまう。ナツは、完全に、裂け目に割り行ってまるで別の生き物のように這い回る環の舌によって、完全に支配されようとしていた。
　バンッ！
　その音に、ナツは一気に現実に引き戻される。身体がビクンととびはね、思わず後頭部を個室の壁に打ち付けてしまう。
　パタパタと、何人かの足音が聞こえた。間違いなくこのトイレに誰かが入ってきたのである。一気に緊張が高まり、全身に冷や汗がでる。心臓の鼓動が外に聞こえてしまうのではと思うほど、早く大きく高鳴っている。さすがの環も、ナツのスカートの中ではあるが、ピタリと動きをとめ、外の様子を探っているようだ。
「もー、ジュンのせいでこんなに遅くなっちゃったじゃーん」
「ごめん！帰りに何かおごるってば」
「でも、ケータイ音楽室に忘れるなんて、信じられない」
　ナツは、その声を聞いて、さらに背筋が凍りつきそうになった。環も同じ気持ちなのか、ピクリとも身体を動かさない。
　おそらく外にいるのは三人。そしてナツの耳が間違っていなければ、それは、クラスの中でももっとも大きなグループの中心、そして同時に環いじめの中心でもある、三人の女生徒だ。
　そして、無常にもその見解は間違ってはいなかった。