１．

　真夏の容赦ない日射し。街路樹の緑と青い空。ハレーションを起こして白く見える道路とのコントラスト。ほんの少し離れている場所でも陽炎のせいで景色が歪んで見えていた。

　ひなびた駅前。小さなロータリーの反対側で看板になった地図を見ている女に目がとまる。
　パステルカラーのワンピースの裾からすらりとした脚が伸びている。
　たぶんコットンなんだろう、ふんわりとした生地を持ち上げながら突き出しているヒップについ視線が行ってしまう。
　茶髪や金髪にしている女など珍しくもないが、プラチナブロンドの髪は見たことがない。でも、肩より少し下まで無造作におろした髪の輝きは自然で美しかった。
　僕はもう少しそばに寄ってその女を見ようとした。
（あれ‥‥本物の外人じゃん‥‥こんな田舎に何しに来たんだろう‥‥）
　そこだけ花が咲いているようだった。彼女は、しきりと手に持っているメモと地図を見比べている。
「なにかお手伝いできますか？」
　小学校のときから英会話学校に通っている僕はためらうことなく彼女に声をかけた。別に下心があったわけじゃない。いや、半分くらいはあったかな。でも、ヘンな気持ち抜きで華やかなその女性を放っておくなんてできなかった。
「ありがとう。あなた、英語話せるのね」
「ええ、少しなら」
「よかった。誰に聞いても逃げられちゃって困ってたところなの。わたし、橘神社へ行きたいんだけど」
「ええっ？　それって僕の家だけど‥‥」
「ほんと‥‥」
　青い瞳に驚きの色が走る。
「なんてラッキーなのかしら。わたしは大学で日本文化の研究をしてるんだけど、夏休みを利用して民話の故郷を訪ねることにしたの。橘神社には資料があるって聞いて、ここへ来たんだけど‥‥」
　僕の親父は郷土史の研究家として有名なんだ。先日の新聞の文化欄にも小さく紹介されていたので、それを見てやって来たんだろうと思った。
「じゃあ、僕が案内してやるよ。ついてきて」
「ねえ‥‥」
「なに？」
「神社があなたの家ってどういうこと？」
　僕は答えに詰まった。宮司をどう訳していいか分からなかったからだ。かろうじて牧師、ミニスターという単語が出てきて説明する。
「親父は家にいるはずだから資料を出しておくように頼んでやるよ」
　僕は携帯電話を取り出して客を連れて行くと親父に伝えた。
「ありがとう‥‥本当にラッキーだわ‥‥」
「僕はタケシっていうんだ」
　電話をかけ終えた僕は右腕を差し出した。
「わたしはパトリシア、パットって呼んでね。昨日、ステイツから着いたばかりなの。さっそく知り合いができてうれしいわ」
　パトリシアは握手に応じながら、本当にうれしそうに微笑んだ。
「オーケー、パット。その荷物、重そうだね。僕が持ってあげるよ」
「ありがとう。タケシ」
　パトリシアが言うと「タケシ」が「タ、ケーシー」に聞こえるんだ。
　資料が入ったバッグを受け取るとき触れた手の柔らかさにドキドキした。
　慎重は１６５センチくらいだろうか、まるでモデルのような体型をしていて、美しい顔立ちをしていることに今更ながら気がついた。
　しばらく見惚れてしまう。
「どうしたの‥‥」
「あ‥‥うん‥‥きれいだなぁって思って‥‥」
　英語だと恥ずかしくて言えないような言葉がスラスラと出てしまう。
「そんな‥‥でも、うれしいわ」
　いかにもアメリカ人らしく、パトリシアは明るく笑って答える。
「それにタケシは若いのに英語が上手ね。どこで覚えたの？」
「小学校のときから英会話学校に通ってたんだ。いま１８才だから、もう十年以上やってるんだよ」
「ええっ、ほんと？　もっと若いと思っていた」
　たしかにアメリカの高校生に比べると、日本の高校生は子供に感じてしまうのかもしれない。
　答えようがなかったので黙って歩きはじめる。
「ごめんなさい。日本人の年齢ってよく分からなくて。もし怒ったんだったら許して欲しいわ。だって、あなたみたいな紳士を怒らせちゃったのは、わたしのミスだから‥‥」
　ちょっと焦った感じでパトリシアが追いかけてきてそう言った。
　僕は振り向いてニッと笑った。
「怒ってなんかないよ。ちょっと遠いけど大丈夫？」
「ああ良かった。平気よ。でも日本がこんなに暑いなんて知らなかった‥‥」
　ワンピースの薄手の生地が汗をかきはじめた肌にまとわりつき下着の線が丸見えだ。それに形のいい身体のシルエットがはっきりと見えるので心臓がドキドキした。

　２０分ほど歩くとこんもりとした森が現れる。
「あそこが僕の家さ」
　鳥居をくぐって禊ぎをするための泉に手をかざし両手で水をすくって飲んだ。
「試してみる？　冷たくて美味しいよ」
「飲めるの？」
「もちろんさ。本当のミネラルウオーターだからね」
　パトリシアは恐る恐るといった感じで泉に手を伸ばす。
「ワオッ！　すごく冷たい」
　最初は疑わしげなパトリシアだったが、やがて意を決したように水に口をつける。慣れない日本の暑さと、しばらく歩いた軽い疲れのせいだろう、次の瞬間には両手で受けた水を夢中で飲みはじめた。上下に動く喉に艶めかしいものを感じて目を離せなくなった。ノースリーブの脇から白いブラジャーがわずかに見える。
　ズキン、と股間のものが反応しはじめる。
　そのときだった。
「橘神社へようこそ！」
　たどたどしいが、はっきりとした発音の英語で親父がやってきた。
「この神社の宮司をやっている水上です。遠い国からこんな田舎に来ていただいて光栄です」
　逞しく日焼けした顔から真っ白な歯がこぼれる。
「パトリシア・マクリーンです。カルフォルニアの大学で東洋文化を専攻している学生です。日本の民話をテーマにしています。もし可能なら資料を見せていただきたいのです」
「もちろん可能です。よろこんでお見せしますが、何をお探しですか？　なにしろ、集めているうちに大変な量になりましてね。こんなところでお話しするのもなんですから、家の中へどうぞ」
　パトリシアは親父の後について家の方へ歩き出した。
　僕は秘密の宝物を取り上げられた子供みたいな心境になって、母屋へ入っていく二人を見つめていた。

　僕が駅まで行ったのは絵の具を買いに行くためだった。って言うより、描きかけの絵に詰まってしまい、気分を変えるために出かけたのだった。それを思い出してイーゼルをいつも写生している場所に持ち出した。そうでもしなければ、気持ちが落ち着かなかったからだ。
　別に夏休みの宿題ってわけじゃない。子供の頃から絵を描くのが好きなだけ。絵を描いているときだけ心が安らぐんだ。
　どれくらい時間が経っただろう。
「すてきな絵ね」
　描くことに没頭していた僕はいきなり声をかけられてびっくりした。
　声の主はパトリシアだった。
「やあ‥‥ありがとう」
「とても個性的でいい絵だと思うわ。アーティストを目指しているの？」
「ただの暇つぶしさ。描くことが好きなだけ」
「でも、あなたの絵にはひとつの世界を感じるわ‥‥」
「そんな‥‥」
「ねえ、いま思いついたんだけど、わたしのレポートに添える絵を描いてくれないかしら？」
「どういうこと？」
「わたし、明日からここに滞在することになったの」
「ええっ」
「お父さんの資料を全部調べたいってお願いしたら、ここにホームステイすればいいって言ってくれたの。だから、明日からわたしたちはファミリーよ。よろしくね」
　なんだか、ものすごくうれしかった。つまらない夏休みが、いきなり素晴らしいものになった気がした。小さいときに母親を亡くしてから、この家には女っ気がない。毎日、セツさんっていうお手伝いのおばあさんが来てくれるけど、悪いけど、それは勘定に入れられない。どれくらい滞在するか分からなかったけど逆転サヨナラホームランみたいな感じだ。
「おおい。豪、そこにいたのか。パトリシアさんに離れを貸すことになったから、掃除しといてくれ」
　親父が来てそう言った。
　そうか、離れを貸すんだ。年末年始にアルバイトの巫女さんを泊めたり、地域の集まりなんかに使っている建物だ。子供の頃、秘密基地遊びをしていて怒られたこともあったっけ。

　翌日、パトリシアは大きなスーツケースを持ってやってきた。
　駅までは僕が迎えに行った。親父には世俗を超越したところがあって「我が家には車なんか必要ない」とか言ってすましているもんだから、荷物運びとかは僕の役目になってかなわないんだけど、今回はちょっとうれしかった。
「ハーイ」
　パトリシアは僕を見つけると強烈な笑顔になった。もっとも、強烈なんていう形容詞が浮かんじゃうのは僕だけかもしれないけれど、普段は感情をあまり表に出さない日本人と比べると、やっぱり強烈だ。
　僕はキャスター付きのスーツケースを引き受け、彼女はノートパソコンや、その他諸々が入っているというショルダーバッグを抱えて歩き出した。
「日本がこんなに暑いなんて思ってもみなかった」
　１０分ほど歩くとパトリシアが言った。
　そう、今年の夏は特別暑い。おまけに、湿度の高い日本の夏はパトリシアにはキツイのかもしれない。
　振り返ってみると、汗でびっしょりになったＴシャツからブラジャーが透けて見えている。
　身体の線が丸見えで、僕は彼女の裸を思わず想像してしまった。その途端、ほんとうの彼女の裸が見たいという欲望が入道雲みたいに湧いてきた。家に着いたらお風呂に入ることを勧めて覗いてやろう、そんな悪計がひらめいた。
　僕の家は古い日本家屋で、付け足したみたいな風呂場は物置に面した板壁の隙間から中が見えるんだ。あそこからなら気付かれることはないだろうと思うと興奮で喉がカラカラになった。
　違う理由でパトリシアも喉が渇いていたらしく、家に着くと、昨日の泉に駆け寄って水を飲みはじめる。僕の方に突き出す形になったジーンズに包まれたヒップ。中身を想像するだけで頭へ血が昇り目眩がしそうだ。

「パット。お風呂で汗を流すといいよ」
　自然に言うつもりだったけど声がかすれた。
「うれしい。シャワーを浴びたいと思っていたところなの」
「悪いけど、僕んちにはシャワーはないんだ。日本式のお風呂だからね。でも、使い方を教えてあげるよ。日本では行水って言うんだ」
　都合のいいことに親父は留守にしている。
　僕はガス釜に火を点け、お風呂の使い方を彼女に説明する。
「じゃあ、僕は部屋に戻っているから、ゆっくりくつろいでね」
　そう言い残して物置に僕はダッシュした。
　板の隙間からは思った通り風呂場が丸見えだ。
　磨りガラスの向こうの脱衣場で彼女が服を脱いでいるのが分かる。肌色の部分が多くなるたびに興奮で胸が締めつけられそうになる。
　そして、ついにガラス戸が開けられた。
（す‥‥すっげぇ‥‥）
　僕は思わずつばを飲み込んでしまった。
　真っ先に目に飛び込んできたのはピンク色で少し埋没した乳首だった。巨乳ではないけれど、張りがあって丸い乳房の上にちょっと上を向いた感じで乗っかっている。それが彼女の動きに合わせて揺れる様は感動もんだ。
　それから淡く生えた髪の毛より少し濃い色のアンダーヘアー、その下にはスリットがうっすらと見える‥‥
　風呂桶の蓋を取る短い間だけしか彼女の裸を正面から見ることができなかった。でも、その姿は網膜に焼き付いたようになって頭の中から離れない。
　木の椅子に座って身体を洗うように教えたのだが、どうもなじめないらしく彼女は立って身体を洗っている。そのおかげで、僕はじっくりといろんな部分を観察することができた。
　痩せ形で、いわゆるグラマーじゃないけれど、僕はその方が好みだ。
　真っ白だと思っていた肌には無数の小さなソバカスがある。
　長くすらりと伸びた脚。
　キュッと締まったウエストと張りのあるヒップが艶めかしい。
　水滴が珠になってパトリシアの身体を滑り落ちていく。ヴィーナスの誕生って絵を思い浮かべてしまうくらいきれいだった。
　そして、彼女が石けんを置こうと上半身をかがめたときのことだ。僕の位置から見ると彼女は背中を向けていて、ヒップの割れ目から少しだけ色が濃く窪んだようになったアヌスと縮れたような肉襞が見えた。
　あっという間に僕は射精していた。
　ジーンズの中が気持ち悪かったけど、それでも彼女がお風呂から出るまで覗くことをやめられなかった。音を立てないように、僕は二階にある自分の部屋へ戻る。僕のものはまだパンパンに膨らんでいた。ジーンズとブリーフを一緒におろして、さっきの光景を思い出しながら立ったままオナニーをした。３０秒も経たないうちにものすごい勢いで精液が飛んで壁を汚した。
　続けて二度出してしまうと虚脱感に襲われ、僕はとても悪いことをしてしまったと思うようになった。ティッシュで拭いてもなかなか取れない精液が、そんな気持ちを強くしていた。