２

　着替えて階段を降りていくとパトリシアがいた。
　さっきとは違う、大学のマークが入ったＴシャツを着ている。
「ありがとう。リフレッシュしたわ。ところで、私の部屋はどこ？」
　彼女の笑顔を見ていると罪悪感が一層のものになる。
「あ‥‥こ、こっちだよ」
「どうしたの？　元気がないみたい」
「ううん‥‥なんでもない。ついてきて」
　僕はスーツケースを持って離れに向かった。
　離れに通じる屋根のついたスノコの廊下を彼女は珍しげに見ている。
「ねえ、日本の家ってみんなこうなってるの？」
「全部じゃないけど、田舎では珍しくはないよ。離れと台所は自由とにホッとした。
「ここにいる妖精みたいな女性がすてきね」
「そんなに気に入ったんだったらあげるよ」
「ほんとう？」
　パトリシアはほんとうにうれしそうな顔をした。
「だって、それは君を思い浮かべて描いたんだ。だからパットが持っていた方がいいよ」
　バレないと分かったら調子に乗ってほんとうのことを言ってしまった。
「うれしい！」
　パトリシアは、そう叫ぶと僕を引き寄せて頬っぺたにキスをした。
　すごくいい匂いがした。
　このまま彼女を抱きしめることができたらどんなに幸せだろう。でも、そんなことできっこない。
「ごめんね」
「えっ？」
「裸にしちゃって‥‥」
　お風呂を覗いてしまったこと、そして彼女の裸を見て、いや、あの最も隠された部分を見て射精してしまったことへの罪悪感をオブラートに包んで謝った。
「だって、これは‥‥」
　パトリシアもなんて答えたらいいのか迷っているらしい。
「とにかく、この絵は君にあげるよ。パットが持っていた方がいいと思う」
「ありがとう。うれしいわ」
　彼女も少し恥ずかしいらしく頬がピンク色に染まっている。
　僕らは無言のまま並んで歩いた。

　母屋へ戻ると親父が帰っていた。
「おお、豪。手伝ってくれ」
　資料の束を居間に運んでいた親父は僕を見つけてそう言った。
「○○大学に呼ばれてしまってな。明日から三日ほど留守にしなきゃならん。その間、パトリシアさんの作業のフォローをしてやってくれ」
　親父は分厚いファイルや古い本を僕に手渡す。そして、いま言ったことを英語でパトリシアに説明している。
　明日からの三日間、パトリシアと二人っきりで過ごすことになった。それに、彼女の手伝いをすることになるんだからずっと一緒にいられる。なんてラッキーなんだろう。
　僕は心の中でニンマリしながら、親父がパトリシアに資料の説明をしているのを眺めていた。

　夕食が済んで部屋に戻った僕はスケッチブックを開いてパトリシアの裸体を思い出しながら鉛筆でスケッチをはじめた。
　ざっと形をつけた後、バストの部分を丁寧に書き加える。
　その質感を想像するとジーンズの中のあそこが痛いほど大きくなってきた。
　我慢できず、ジッパーをおろし猛り立ったものを手でしごく。
　出してしまった後も彼女のことが頭から離れない。
　もっと見たい。
　気が付くと僕は庭に出ていた。
　離れは昼のままガラス戸と障子が開いていて、まだ灯りが点いていない。きっと、親父のところで資料を調べているのだろう。書斎の窓から覗いてみると、思った通りパトリシアと親父は資料と格闘中だった。
　そのとき思い出したのは、あの紙袋のことだった。急いで離れに向かい、暗い部屋の中を見渡す。
　あった。
　サンダルを脱いで部屋に入り紙袋を開ける。
　パトリシアの匂いがした。
　無造作に突っ込まれたＴシャツ、そして白いブラジャーとショーツ。
　喉がからからになる。
　激しい鼓動で胸が張り裂けそうになりながら僕はショーツを取り出した。
　プレーンなコットンのそれは、しっとりと湿っていた。
　パトリシアのあそこを覆っていた部分に鼻をあてて息を吸い込むと、かすかに生臭く饐えたような匂いがして、たまらず僕はその部分を舐めた。
　さっき出したばかりなのに、もう暴発寸前になった僕は空いた手でジーンズの上から股間をこする。
　今日一日だけで何度放出してしまっただろう。
　止まることを知らない欲望にちょっと怖くなった。
　あわてて紙袋を元に戻して自分の部屋に帰る。
　さすがに疲れたみたいで、横になったらすぐに眠ってしまった。

　目が覚めたのは夜明け前だった。窓から藍色に染まった空が見える。
　パトリシアのことを思い浮かべたら一気に目が冴えてしまった。
　彼女はどうしているんだろう。
　僕はパトリシアの寝姿が見たくて仕方なくなって寝間着にしているスエット姿のまま表に出た。当たり前だがガラス戸と障子はぴったりと閉まっていた。豆電球が灯っているらしく障子が赤っぽく染まっている。
　足音を忍ばせて離れに近寄ると障子の破れ目を見つけた。
　そっと目をあててみるとぼんやりと中の様子が見える。
　布団の上にパトリシアがいた。
　Ｔシャツとショーツだけで寝ている後ろ姿が見えた。
　スタンドの豆電球に浮かび上がる彼女のヒップは丸くてドキドキするほどエロティックだ。柔らかそうなコットンの生地が狭くなる部分に目がいく。翳りになったそこは妖しくしわが寄っていて、風呂場で覗いた光景とオーバーラップする。
　どれくらい覗いていただろう。気が付くと空が白みはじめていて、障子に僕の影が落ちていた。このままでは僕がここにいることがバレてしまう。それに親父は朝が早いんだ。ほんとは、もっとこうしていたかったけど、諦めるしかなかった。
　部屋に戻った僕は未練がましく窓から離れを眺め続けていた。