最終章

　ガス釜に点火した僕はパトリシアのところまで戻った。
　彼女はちょっと恥ずかしそうな顔をして笑い、手を差しのべてきた。
　これから起こることを考えると喉がカラカラになった。
　ほんとうに彼女は僕に手伝わせるつもりなんだろうか。
　なんだか夢の中にいるようで現実感がない。
　肩を貸して脱衣場まで行くと、彼女は躊躇なくワンピースのジッパーをおろす。パサッと布が落ちる音がして、僕の目の前に下着姿の彼女がいた。シンプルな白の上下。思わずゴクッとツバを飲み込んでしまう。そんな僕が可笑しいのか、まるで母親のような慈愛に満ちた目をしながら、パトリシアはブラジャーを外す。ピンク色の乳首に目が釘付けになる。
「なんてきれいなんだ‥‥」
　無意識に僕はそうつぶやいていた。
　よく見ると、彼女の肌は細い産毛に覆われていてシルエットのエッジが光って見えるんだ。後光が差しているような感じでため息が漏れる。
　間近で見るパトリシアの裸は文句なく美しい。そして、股間のものが瞬時に反応するくらい色っぽかった。
「タケシ‥‥」
「‥‥なに？」
「足が痛くてかがめないの‥‥」
「う、うん‥‥わかった‥‥」
　手を伸ばして小さな布地の縁に指をかけたんだけど震えてしまって上手くおろせない。おまけに、ヒップの盛り上がりが邪魔をしているから、なおさらだ。
　そんな僕に助け船を出すように、彼女は自分の手をヒップの方へやり、バナナの皮を剥くようにパンティをおろした。
　障害物がなくなった小さな布きれは一気に膝のあたりまでおりた。そして、僕の目の前にはブロンドとも違う淡い栗色のヘアーがあった。
「そんなに見つめないで‥‥」
　きっと僕はすごい目をして凝視してたんだろう。
　彼女の顔を見上げると頬がピンクに染まっている。でも、怒っているふうではない。
「ごめん。見ないでいられなかった‥‥ごめんね‥‥」
「ううん‥‥いいの‥‥」
　手のやり場に困りながら、僕は全裸になったパトリシアを抱えながら風呂場に入った。実際、脇の下に手を入れると、どうしても指先がバストの方へ行ってしまう。その柔らかく弾力に満ちた感触、そして密着した肌、このまま彼女を抱きしめられたらと思うと気が狂いそうだった。
「パット‥‥座れる？」
「無理みたい‥‥立っているだけなら何でもないんだけど‥‥」
　小さな風呂場の椅子は足首に負担がかかるみたいだ。
「じゃあ、立ったまま洗うしかないね」
　そう言いながら僕は石鹸を彼女に渡す。
　パトリシアは素手で泡立てて首筋や腕を洗い出す。でも、しゃがむと痛むらしく脚から下には手が届かない。
　僕は彼女の真似をして石鹸を手のひらで泡立て、両手で挟むようにして痛まない方の泥だらけになった脚をこすった。
　なんて表現したらいいんだろう。柔らかくって、そのくせ弾力があって、いつまでもこうしていたいって思った。
「パット‥‥こっちも洗って大丈夫？」
「ええ、お願い。強く押さなければ大丈夫だと思うわ」
「わかった」
　太ももの上の方からそっと洗いはじめる。
　そのときパトリシアの身体がヒクッと痙攣した。
「痛かった？」
「ううん‥‥そうじゃないの‥‥ちょっとくすぐったかっただけ‥‥」
　そう言うパトリシアの白い肌が心なしか赤くなっているように思えた。
「じゃ、洗うよ」
　僕は、さっきより丁寧に洗う。楽しんじゃいけないって思ったけど、手のひらに伝わる感触はすごくエッチな感じで夢中になってしまう。
「ちょ‥‥ちょっと待って‥‥」
　パトリシアは僕を制して風呂桶の縁に手をついた。
「いいわ、続けてちょうだい」
　この体勢だと後ろの方から洗うしかない。
　僕はしゃがんで、こんどはふくらはぎの方へ手をやる。
　ちょっと見上げると彼女のヒップが目の前にあった。
　行水を覗いてたときに見えた光景がこんどは手を伸ばせば触れられる距離にある。それに脚を開き気味だから奥の方までよく見える。
　柔らかそうな膨らみの間から縮れたような肉襞がはみ出していて、ぴったりと合わさっている。昨日、無毛に見えたそこが細い産毛に覆われているのまで分かる。
　僕は視線をそこに向けたまま手は休めなかった。すると、僕の動きに合わせるようにアヌスがすぼまる。
　ひょっとしたら彼女は感じてるんじゃないか、そう思って、僕はもういちど太ももの内側を撫でるように洗った。
「オゥ‥‥」
　軽く声を上げてアヌスがキュッとすぼまる。同時に背中がビクンと動いた。
　やっぱりそうなんだ。
「痛いの？」
　僕はわざとらしく聞く。
「タ‥‥タケシ‥‥もういいわ‥‥」
「だって、まだこっちにも泥が付いてるよ」
　僕は反対側の内腿を撫でる。
「だめ‥‥タケシ‥‥しないで‥‥」
　その声を聞いて僕の中の何かが弾けた。
「パット、好きだ！」
　そう叫んで僕は彼女の尻の間に顔を埋めてしまった。
　そして、無我夢中であそこへ舌を這わせた。
　途端に生暖かくてヌルリとしたものが舌先を覆う。
　少し生臭く酸味のある味がする。
　それは初めて経験する蜜の味だった。
　パトリシアが感じている、そう思うと、もっと感じさせたいという欲望が湧き上がってくる。
　僕は舌先に神経を集中させて肉襞をなぞる。
　彼女が何かを叫んでるみたいだったけど、それを理解する余裕が僕にはなくなっていた。
　僕は夢中であそこを舐め続けた。
　やがて、彼女の動きが変わってきた。最初は抵抗している感じが強かったのに、僕の方にヒップを軽く押しつける感じになり、脚も心持ち開いているような気がする。
　僕は、そっと顔を離してパトリシアのあそこを間近で見た。
　両手でヒップの盛り上がりを開く。
　複雑で美しい肉の競演。
　前の方で合わさった肉襞の間はすごくきれいなピンク色をしていて、夢にまで見た神秘の穴からは僕の唾液ではないと分かる白濁した蜜が溢れ、濡れて光っていた。
「すごいや」
　思わず賛嘆の言葉が出てしまう。
　そこはとても美しい場所だった。
　すでに経験を済ませている悪友から、女のあそこはグロテスクだという話を聞いていたんだけど、そんなのは嘘だと思った。
　僕は舌の先を尖らせて入り口に差し込む。
「アウッ‥‥」
　パトリシアが悶えている。
　その反応がうれしくて内部の壁を舐めまわす。僕の舌の動きに合わせて彼女の身体が痙攣する。
　僕は決心した。
　立ち上がってパトリシアの身体を抱きしめる。
「パット‥‥好きなんだ‥‥君が欲しい‥‥」
　裏返った声でそう言い終わると、彼女の首筋にあるソバカスにキスをした。
「アァ‥‥」
　ため息のような喘ぎ声が漏れる。
　その反応に気をよくした僕は彼女のバストを握りしめた。
「い‥‥痛いわ‥‥」
「ごめん‥‥」
　思わず力が入ってしまった。
「ごめん‥‥初めてなんだ‥‥」
　急に恥ずかしくなる。
　僕はなんて大胆なことをしてしまったのだろう。
「どうして謝るの？」
　パトリシアは意外なことを聞いてくる。
「だ、だって‥‥パットが怪我をしているのに‥‥逃げられない君を‥‥気が付いたら‥‥だから、ごめん」
「あなたのそういうところが好きよ。それに‥‥」
「それに？」
「ううん‥‥なんでもないの。それより、キスして‥‥」
「う、うん‥‥」
　こんなときに躊躇するのはバカだと思いながら、僕は身体が動かなくなってしまった。
「どうしたの？」
「わ、わからないんだ‥‥身体が動かないよ‥‥」
「ほんとに初めてなのね。いいのよ。あなたがしたいようにして‥‥」
「パット‥‥」
「なに？」
「ここじゃなくて、僕の部屋で‥‥ちゃんと君を抱きたい‥‥」
　英語の意味を頭の中で考えながら、やっと、それだけのことが言えた。
　少しだけ間があった。
「いいわ。連れてって」
　そう言って僕を見つめるパトリシアの目は今まで見たことのない、ちょっと怖い感じがするものだった。
　僕はくじいた足の方に立って彼女の身体を支える。
　パトリシアが生まれたままの姿で僕の手中にある。これから起きることを想像すると夢の中にいるようだった。

　部屋のドアを閉める。
「パット‥‥」
　僕が彼女の名を呼ぶと、またあの視線で見つめられた。そして、肩越しに彼女の手がまわされ引き寄せられた。視界が彼女の顔でいっぱいになったとき唇が重ねられた。その柔らかい感触に陶然となる。口を少し開くと、挑みかかるように彼女の舌が侵入してきた。それに応えていると頭の中で火花が散っているような感じになり、僕は夢中で彼女のことを抱きしめる。
　彼女のバストが押しつけられ、息遣いまでもが僕の胸に伝わってくる。
　絡み合った舌が溶けてしまいそうに熱い。
　僕はパトリシアより10センチくらい背が高いから、キスしたまま抱きしめるには中腰にならないとできない。そんな無理な姿勢のまま頑張ったんだけど時間が経つと身体が震えてきた。
「大好きだよ‥‥パット‥‥」
　両手を肩にかけて身体を離しながら言う。
「高校のとき絵を描いていたの」
「えっ？」
「デッサンの段階であきらめたわ」
「どうして？」
「質感を描き分けることが出来なかったの。柔らかいものは柔らかく、硬いものは硬く、簡単に思えたんだけど。モチーフをよく理解することが大事だって分かったんだけど、わたしには才能がなかった。あなたの絵は線一本が生き生きして‥‥もし、あなたの役に立てるならわたしを描いて。感触を確かめながら‥‥」
「それって‥‥」
　頭の中で意味を考える。
「いいの？」
　彼女がうなずく。
　僕は肩にかけていた手を滑らせながら下ろしバストの位置で止めた。そして、重みを確かめるように持ち上げ、指先に力を入れる。
「きれいだ。すごくきれいだ」
　肌がしっとりと手のひらに吸い付くようで、そのくせ弾力があって、指先でつまんでも押し返してくるような感触がある。
　しばらくそうしていると、パトリシアの息が荒くなってきた。
「タケシ‥‥もう、立っていられないの‥‥お願い、ベッドへ‥‥」
　僕は渾身の力を込めて彼女を抱き上げた。お姫様抱っこっていうやつだ。そして、ベッドに彼女の身体を横たえる。
「女神みたいだ‥‥」
　陳腐なセリフだけど英語だとすんなり出てしまうから不思議だ。でも、彼女の身体がオーラというか、そんなもので輝いて見えたのは事実だ。
「そんなに見つめられると‥‥」
　ずいぶん長い間、パトリシアのことを眺めていたらしい。時間の感覚が吹っ飛んじゃったみたいだ。
　シーツの上で乱れたプラチナブロンドの髪。スミレ色の瞳が僕を見つめている。横になったので、やや左右を向いた感のある乳首、でも張りのあるバストは潰れてはいない。それは何かの果実を連想させる。細いウエスト、かわいらしいおへそが上下に動いている。そして、スリットがはっきり見えるくらい淡く生えたヘアー。
　自然に手が伸びて、彼女のフォルムをなぞるように手を滑らせる。
　途端に彼女の身体がビクンと痙攣した。
「大丈夫？」
「あなたが、わたしをおかしくしたのよ」
　そう言うと、パトリシアの頬が桜色に染まった。
「あなたも服を脱いで‥‥」
「うん‥‥」
　大きくなったあそこを見られるのは恥ずかしかったけど、勇気を出して一気に脱いだ。
　天を向いた僕の屹立に彼女の視線が注がれているのが分かった。
　僕は黙ったままベッドサイドにひざまずき彼女にキスをした。
　彼女の手が背中にまわり引き寄せられる。
　そのまま這うように彼女に覆い被さると、僕の胸の下で柔らかいバストが潰れる。
　天国だと思った。
　僕は全身で彼女を感じていた。
「パット‥‥好きだ‥‥好きだよ‥‥」
　耳元で囁くと、彼女は喘ぎながら身体を硬くした。
「き‥‥来て‥‥」
　熱い息とともに彼女がそう言った。
　僕は腰を動かして遮二無二突いた。
　けど、なかなか入らない。
「そこじゃないわ」
　パトリシアがそう言って僕の屹立に手を添えた。
「ああっ‥‥」
　さっきから興奮しっぱなしだった僕は、彼女の指をあそこに感じた瞬間、情けないことに思い切り放出してしまっていた。

「ごめん‥‥我慢できなかった‥‥」
　僕が出したものでパトリシアのあそこがべっとりと汚れていた。
　恥ずかしさで、あっという間に僕は萎えてしまっていた。
「‥‥いいのよ‥‥気にしないで‥‥」
「ごめん‥‥」
　僕はそう言いながらティッシュで汚れた部分を拭いた。
「気を楽にして‥‥」
　慰めの言葉が余計僕を辛くさせていた。
「タケシ‥‥」
　彼女の手が優しく僕を引き寄せ、僕は彼女の胸に顔を埋めた。
　そこは暖かくて柔らかで全てが癒される感じだった。
　しばらくそうしていると、とても安らかな気分になってきた。
「パット‥‥」
　エッチな気持ちからではなく、僕は彼女のバストにキスをした。
　パトリシアの身体がまた震えた。
「嫌じゃない？」
「ううん、素敵よ‥‥」
　彼女の喜ぶことがしたい、純粋にそう思った。
「これは？」
　乳首にそっと舌を這わせる。
「アア‥‥」
　彼女が熱いため息を漏らすのを聞いて元気が出てきた。
　こうなったら徹底的に彼女に奉仕したい。僕は悪友と隠れて見ていたエッチなビデオのシーンを思い出しながら、彼女の身体を舐めたり触ったりした。
　バストからウエスト、そして下腹部へと僕は舌を這わせる。
　ヘアーのあたりは、まだ僕の匂いが残っていた。でも、そんなことを気にせず、僕は痛くないように気を遣いながら彼女の脚を開きあそこにキスをした。
「オゥ！」
　彼女の身体が跳ねた。
　舌で探っていくと硬くなっている場所を見つけた。その周りを丁寧に舐める。
「アァァ‥‥アァァ‥‥」
　パトリシアは身をよじらせながら喘いでいる。そして、逃れようとするようにベッドの頭の方へ身体をずらす。僕はしっかりと彼女の太ももをホールドして引き戻した。
　僕の舌は割と長い。それを利用して入り口を探り当てる。挿し込むと押し返してくるような感触があって彼女の反応が激しくなる。でも、一番感じるのは穴の入り口からクリトリスまでを舐め上げるときみたいだった。そのときだけ彼女の声が高くなるんだ。だから僕は子猫がミルクを飲むときのように何度もそこを舐め上げた。
「ああっ‥‥来る‥‥来るわ！」
　パトリシアはそう叫ぶとビクン、ビクンと痙攣を繰り返す。
　それでも僕は舐めるのをやめられなかった。
「だめよ‥‥だめ‥‥ああっ！」
　ものすごい勢いで彼女の身体が硬直した。
　アンダーヘアー越しに見えるパトリシアの姿を見ながら、言葉にならない喘ぎ声を聞いていると、僕のものが蘇ってきた。いや、これ以上は無理だというくらいに膨れあがり硬くなっていた。
　こんどこそ大丈夫だろう。
　僕は彼女の脚の間に座り、痛いほどになっている屹立を手に取ってあそこへあてがう。
　腰を動かすとズルリと先端が潜り込んだ。
「アウッ！」
　パトリシアの身体が震える。
　そこはあったかくて柔らかい最高の場所だった。
　僕は腰の位置をずらせて根本まで挿れた。そして、のけぞりながら悶えている彼女の身体を抱きしめる。
　肌の感触と体温が伝わってきて最高の気分だった。
　思いを遂げた感激で頭が痺れる。
「パット‥‥愛してる‥‥」
　耳元でそう言いながら僕は抽送をはじめた。
　最初はゆっくりだった。蜜と肉の擦れ合うエッチな音がする。
　彼女は喘ぎながら下から僕を抱きしめてきた。指先が背中に食い込む。
　まるで、それがスイッチだったように僕は抽送の速度を速めた。意識したわけではなく本能のようなものだった。身体を浮かさないと上手くできないので、僕は両手をついて杭打ち機みたいに腰を動かした。
　パトリシアが僕を見ている。痛みに耐えるような表情で。
　僕の動きにシンクロしてバストが揺れている。
　灼熱した肉棒から感覚がなくなっていく。
　もう勃っているのかどうかすら分からない。
　それでも僕は激しく腰を動かし続ける。
　このまま死んでしまってもいいと思った。
　パトリシアの喘ぎ声が段々高くなって、僕のものの先がグイグイ押される感じがする。僕の背中にある指先の力がいっそう強くなる。
「ああ‥‥神様‥‥溶ける‥‥溶けちゃう‥‥アウッ！」
　そう言い終わると、彼女は背中をのけぞらし、脚を伸ばした格好で硬直してしまったままブルブルと震えている。その振動があそこからも伝わってくる。
　僕がパトリシアをいかせたと思った途端、勢いよく射精してしまった。
　放出の快感が頭の中を真っ白にさせる。まるで僕自身が彼女の内部へ飛び込んでいくような錯覚に陥った。一人でするのとはまるで違う充実感に僕も震えた。
　中で出したのが彼女にも分かるのだろう。放出の瞬間、彼女は今までにないくらい高く叫んでいだ。

　脱力した僕はパトリシアの上に崩れ落ち余韻に浸った。
　ずっと、このままでいたいと思った。

　そして、僕は今、L.A.の大学で美術を専攻する学生だ。

　あの強烈な初体験の後、僕らは数え切れないくらい互いを求め合った。
　パトリシアをモデルにして絵を描いている最中、気持ちが高まって獣のように襲いかかったりもした。あるときは、彼女の方から僕を求めてくるときもあった。悪戯心を起こして、パーツを描きたいと頼んであそこをデッサンしているときなど、みるみるうちに濡れてきて絵どころじゃなくなっちゃったんだ。
　親父が帰ってくるまでの三日間、いったい何度交わっただろう。もちろん、帰ってきた後も、親父の目を盗んであわただしく抱いたりもした。
　夜這いをかけたこともあったっけ。
　僕にとって謎だったのは、あのときパトリシアが身体を洗うのを手伝わせたかっていうこと。僕の絵に好意を持ってくれていたのは分かっていたんだけど、それだけじゃ理解できなかったからね。その理由も寝物語で聞いた。僕が彼女の顔をデッサンしたとき、僕を男として意識してしまったらしい。どうやら、僕の視線が彼女を女として燃え上がらせちゃったみたいなんだ。それを聞いたときから、彼女を抱くとき意識して見つめることにした。そうすると余計感じるみたいで、パトリシアは何度も身体を震わせて僕の名を呼びながら達した。そうそう、くじいた足もたいしたことはなかったんだって。
　とにかく、僕らは文字通り蜜のような関係になった。
　でも、そんな日々が続くはずもなく、別れはあっけなくやってきた。
　彼女を日本へ運んできたチケットは三週間オープンというもので滞在には限りがあった。それに、向こうでの新学期（新学年かな？）がはじまるし、それまでにレポートをまとめなきゃならない。
「辛いけど、わたしには帰るしか方法がないの‥‥」
　彼女が僕に別れを告げたのは出発の前日だった。
「大事な女性を失うのは二度目だ‥‥でも、僕は君を諦めない。遠く離れてしまっても、僕の気持ちは変わらないから」
　たしか、そう言ったと思う。
　僕がアメリカへ留学したいと言い出したとき親父は驚かなかった。どうやらセツさんが、僕とパトリシアの関係に気付いて報告していたらしい。親父は一言「夢を追ってこい」と言った。
　年が明け、卒業と同時に僕はアメリカへ渡った。新学期は九月からだったが準備という名目で早めに出発した。もちろん、本音は一日でも早くパトリシアに会いたいからだった。
　再会したときの僕らのことについては説明するまでもないだろう。遠距離恋愛と言うにはあまりにも遠すぎたがメールという便利なものがあったし、インターネット経由のテレビ電話も試してみた。頼み込んでテレビ電話エッチしたんだ。モニターに映るパトリシアの裸体を見ながら。けど、生の彼女に触れたいという欲求を余計募らせるだけだった。
　空港に出迎えてくれた彼女を抱きしめたとき、その場で押し倒したくなるほどだった。
　彼女のアパートで、僕は自分でも大丈夫かと思うほど続けて彼女を抱いた。
　僕らは、また幸せな恋人同士になった。
　でも、紆余曲折はあった。
　大学が始まると、同じように留学してきた日本人の女の子がいた。彼女はホームシックにかかり、何かと僕に近づいてきたんだ。肉体関係になったわけじゃない。慰めようと思って、なるべく一緒にいる時間を増やしただけ。でも、パトリシアはすごいヤキモチ妬きだったんだ。怒った彼女は僕との連絡を絶った。
　自棄になった僕は女漁りをはじめた。
　例の日本人の女の子を皮切りに何人も関係を持った。
　パトリシアと別れて三ヶ月も経つと、他の女を抱くのは彼女の面影を追い求めているだけに過ぎないってことが分かった。僕を理解してくれるのは彼女しかいないってことも。だから、それまでのことを正直に告白した上で、もう一度やり直したいってメールを送った。きっとダメだろうと思っていたんだけど、すぐに返信が来た。
　彼女は僕の子供を身籠もっていたんだ。
　当然のこと、僕は悩んだ。でも、彼女はもっと悩んだに違いない。たったひとりで。
　去年の、あの夏の日の出来事から一年半くらいしか経っていないのに、ずいぶん昔のことのように懐かしく感じられた。そして、それはとても美しい思い出だった。
　そう、僕は大人になったんだ。
　僕は決心した。パトリシアと結婚して二人でやっていこうって。
　二人とも学校をやめるつもりはないけど、なんとかなるだろう。
　そんなの、このアメリカじゃ珍しいことじゃないからね。