４

　ベッドの上に移った二人は、『恋人未満』から『恋人同士』に昇格していた。脩平の抱擁を素直に受け止め、胸への指の愛撫も、身じろぎで快感を伝える。
「んぅっ、ん…」
　服の上からでも感じられる柔らかさに、脩平の手、指の動きが徐々に速く、激しく、小刻みになってくる。
　一つ一つボタンをはずしていき、上着を左右に開いた。形のいい乳房が姿を現す。
「…お前、結構、綺麗なんだな」
「じっと見ないで。一応、恥ずかしい」
　自分の裸に、幼馴染は満足してくれるだろうか？真夜はそんな風に思う。子供のころいつも傍にいた仲であるからこそ、大人になると分かり合えない部分だってある。もっとも、二人はまだ『子供』の範疇である年齢なのだが。
「ひぅ・・・っ」
　ぴちゃっ、と乳房の頂点に舌をあてられ、真夜は小さく声を上げた。それを聞いた脩平は、まるで赤子が母親の母乳を飲むかのように、綺麗なピンク色の頂点に吸い付く。
「う〜〜っ、やっ、ダメ、そこ、気持ちいい・・っ」
　予期せぬ快感に喘ぐ真夜。脩平とて慣れているわけではないだろう。だが、自分を快感に導こうと一生懸命になってくれている。
　つい先日、自分で慰めていた場所に指が触れる。下着の上から優しく撫でられ、思わず声が出てしまう。
「…濡れてる」
　脩平の声が震えていた。
　断りもなく、スカートがめくりあげられ、下着に手がかかる。そして、下まで一気に下げてしまった。
「あっ！」
　驚いて声をあげたものの、真夜の雌蘂はもう脩平の目の前にあった。薄い恥毛に包まれ、いまだ自分以外の誰にも触れられたことのないその場所が。
　見られた、という恥ずかしさもあったものの、真夜の頭はぼーっとしていた。今までの快感のせいだろうか？
　不意に堅いものが当たって、真夜が体を起こす。
「やっ、そんなの、どうするの！」
　ズボンを下ろした脩平が、自分のそれを押し付けてきていたのである。
「…保健の実習」
　冗談のつもりで言ったのだろうが、冗談になっていない。
「ゆっくり入れるから、少し我慢頼むぞ」
「…うっ…！」
　言うが早いか押し付けられ、真夜は痛みに喘いだ。雌蘂を押し開き、裂けるのではないかというほどの激痛が走る。手が無意識にシーツを掴み、切れる寸前までに爪を食い込ませて耐えた。
「はああああぁぁっ！」
　膜を貫き、脩平が入ってきた。
「やあぁっ！痛い！痛い、抜いてッ！」
「だ、駄目だ。今抜いたら、抜ける前に出るッ！」
「ええッ？が、我慢してよッ！」
「我慢するのはそっちだろッ！」
　押し問答しながらの初体験というのも珍しい。それでも脩平が気を利かせてゆっくりと動いてくれるおかげで、少しずつ痛みに慣れていく。そして、快感へと変化していく…。
「あっ、あっ、あっ、脩平、気持ちよくなってきた…っ」
「お、俺、最初から気持ちよくて…お前、すごすぎ」
　あまり激しくすると自分のほうが我慢できなくなってしまうのでゆっくりとしているのかもしれない。しかし、今の真夜にはかえってそのほうがありがたかった。
　確実に奥まで貫き、それに伴って痛みを交えた快感が襲い掛かってくる。脳まで突き上げてくる。
「あっ、ダメ、我慢できない、いいのぉ…！」
　ずっ、じゅっ、と愛液と脩平がこすれる音が響く。
「もう少し力を抜いてくれ！狭くてきついんだ」
「ダメ…そんなの無理ッ！」
　突き上げてくる腰の動きから来る快感は、もはや真夜のすべてを突き動かしていた。いつしか脩平の指が乳房に絡み、さらに腰の突き上げの早さが増していく。
　自然に体がのけぞり、乳房に当てられていた手が腰へと伸びる。結合が深くなり、突き上げももっと激しくなっていく。
「ひいいぃぃっ！」
「お、おい、あまり大きな声を出すな。隣に聞こえるだろッ！」
「そんなこと、無理だってばッ！こんなに気持ちがいいんだから、無理ッ！」

『（まぁ、一応わたしが傍にいるから誰にも聞こえないようにしたけどね）』
　真夜が感じている快感を受け止めながら、『悪魔』が語りかける。が、今の真夜にはそんなことはどうでもよかった。理性はすでに崩壊し、快感を求めるだけになっていた。
「で、出るッ！」
「あああぁ、だ、出してッ、わたしのなか、来てッ！」
　二人が密着し、脩平の手が腰から乳房に再びまわって強く掴む。
「ああああああーーーーっ！」
　ぶしゅっ、と雌蘂から白い液体が溢れてきた。大量に放出された白濁は一瞬で真夜の膣内を満たし、溢れかえったのだ。
「あ、あつい・・・すごい、出てるよぉ・・・・」
「うくっ・・・ま、真夜、中、出しちゃって大丈夫だったのか…？」
　急に不安になったのか、脩平が聞いた。
「…一応、安全日…だと思う。心配ないわ」
「そうか…。まぁ、出来たらできたで責任は取るからな、俺は」
　体を離しながら言う脩平。だが、彼は自分が言ったことを深くは考えていなかった。責任を取るとはつまり…。
「…そうね、それでもいいかもね」
　溢れかえってしまっている雌蘂をティッシュでふき取りながら、真夜はなんとなく将来のことを考えてしまっていた。
「…なぁ、その…」
　思惑にふける真夜に、脩平が声をかけた。
「…また、しても、いいか？」
「今のところは、安全日だけ、でお願いね」
　つまり、承諾の合図である。

『あ〜、ごちそうさま。しばらくは人間をミイラにしなくても大丈夫！こんなに興奮したの久しぶりだわ！』
　脩平が帰ったあと、今まで見ていた『悪魔の真夜』は熱っぽい声で語りかけてくる。
「…ちょっと、感謝するわね」
　…、と真夜は素直に言った。なんにせよ、仲が進展したことには違いない。
「でも、あなたは一体何者なの？わたしの命を半分って…？」
『そうね、そろそろ話してもいいかしら。…外国なんかで、オトコの夢に登場して、夢の中でそのオトコとエッチして、魂を吸い取る、って悪魔がいるのは知ってる？』
　聞いたことがなくはなかった。たしか『サキュバス』という類の悪魔だろう。
「『夢魔』ってヤツかしら？」
『そうそう、それ。わたしはアレだと思えばいいわ。実質、オトコの魂を吸い取ってミイラにしちゃってたでしょ？そういう類の『悪魔』ね。だけど、大昔にヘマやっちゃって』
　ヘマをやったわりには明るい口調だ。おそらく、『いいものを見た』ために上機嫌なのだろう。
『エクソシスト相手に『魂食み』をやっちゃったのよね。夢の中でイかせたのはいいけど、現実世界で本に封印されちゃった、ってわけね』
（結構マヌケ…）
　と思ったものの、もちろん口には出さない。出さなくても心を読まれているだろうが。
『でまぁ、幸運にも現代になって、この国であの本を開いた人間がいたわけね。あまりにおなかが空いてたものだから、さっそく頂いちゃったわ』
　一番最初に死体となって発見された、あの男だろう。
『なかなかあの本のなかも居心地がよかったから、もうしばらく同じ手口でオトコを食糧にしようと思ってたら、『ケーサツ』ってやつらにもってかれちゃった』
「…それで、逃げたところをわたしに拾われた」
『そう。でも、あの本はわたしが宿っていたこともあって、強力な『呪い』というか、『魔術』というかがかかっているわけね。その作用で、あなたは一瞬その『魔力』に当てられた。そこが歩道橋の上だったわけよ』
　とすると、『命を助けた』というのは本当のことになる。正しくは、本来の真夜はあのときに死んでいる…少なくとも大怪我をしているのだが、『半分の命』を乗っ取られたことで生存しているということになる。
『オトコはわたしにとっては食糧だけど、女の子を死なせたなんて夢見が悪かったわけね。夢魔が『夢見が悪い』というとシャレ以外のなんでもないけど。そこで、わたしがあなたの途絶えかけの命を半分もらって復活させた、というわけよ。その代償として、『命の共有』という高等技術を敢行しなければならないけどね』
　まったく、無責任なのか責任感が強いのかわからない話だった。

『そうそう、あのオトコに拾われるちょっと前に、可愛い目の女の子に拾われたっけ。しばらくはそのコにくっついてたんだけど、まったくといっていいほどオトコと係わり合いがないのよ、そのコ。だから、こっちから逃げちゃった』
　夢魔にとっての『ちょっと前』がどれくらい前だかはわからないが、少なくともこの夢魔は狡猾なようであまり物事を難しく考えない質であるらしいことははっきりと分かった。
『まぁ、不便でしょうけど利点もあるわよ？』
「どんな？」
『一つ、アノ時の快感が増す』
　聞いていてひっくり返りそうになった。『それ』を糧にしている夢魔が関わっているのだから、快感が増すのは当然かもしれないし、神話や伝承のうえでも『夢魔』と交わるのは通常の数倍の快感を得ることになる、とある。
『二つ、使用済みにならなくなる』
「は？」
　そう聞き返そうとしたとき、玄関のベルが鳴った。
「しばらく話し掛けないでよ！」
　といっておいて、急いで玄関へ走る真夜。
「どちらさまでしょうか？」
「え〜と、『弥栄真夜』さんでしょうか？」
　ドアの前にいたのは、二十代後半か、というところの男だった。背も高く、割と男前だ。
『わぉ、いい男』
　さっそく、『夢魔』が食指を伸ばしてくる。
「『氷室探偵事務所』からやってまいりました、私立探偵なのですが」
「私立探偵…？」
　渡された名刺には、『氷室探偵事務所　所長兼探偵　氷室裕』と書かれていた。