８．

「やはり、特におかしいところはない、か…」
　同じような事件が多発し、そして四件目にして犠牲者が男性から女性に変化した。影村警部はこの事件に頭を抱えていた。
　そもそもありえない事項である。つい先日まで生きていた人間が、発見されたときはすでにミイラになっている、などとは。
　体中から養分や水分、血液までも吸い取られ、骨と皮だけになった人間を、影村自身目にしている。それでも、俄には信じがたい話なのだ。
　目下のところ、『本』を持っていた少女のことを監視するよう、知り合いの氷室に頼むくらいしかできなかったのだが、それすらもおかしいところは何一つないというのである。
（いや、女子高生がこの事件に関わっていること自体、妙だろうな）

「…えっ！」
　夜になって、『魅夜の食事タイム』が始まるころ、真夜は一つの異変に気づいた。
　夢の中のはずなのに、魅夜ではなく、自分が夢を見ている…。というより、ベッドの上にいるのが確かに自分で、『魅夜』ではないのだ。
「魅夜、どこ行ったの？」
『魅夜。それが『彼女』の名前か』
　パジャマ姿でベッドに横たわっていた真夜の腕を、誰かが掴んだ。
「誰なの？」
　真夜が呼びかけると、腕を掴んだ『誰か』の姿が少しずつ明らかになっていく。まるで、闇から光へと溶け込むように。
『私はガルヴァス。貴女にほれ込んでしまいましてね。拠り代を交えての交接では満足かなわず、ついここまで呼び出してしまいましたよ』
　目の前に現れたのは、金の長髪を靡かせる、青い目の男だった。
「ガルヴァス…？」
『左様。貴女に取り付いている『魅夜』と同じようで違う存在』
「それじゃ、脩平に取り付いたというのは、貴方なの？」
「ええ」
　簡単にうなずいたガルヴァスを見据える。腕はまだつかまれていて、抜け出せそうにない。そして、今、夢の中で真夜の体にいるのは、魅夜ではなく真夜自身なのだ。
『…貴女を夢の中で悦楽へと導きましょう』
　金髪の美青年…ガルヴァスの左手が、真夜の足の間へと分け入っていく。そのままゆっくりと内腿を撫でるように触れると、少しずつ上へと這いずっていく。
「ひっ…」
　パジャマの上から、真夜の雌蘂に手が触れてきた。
『ほら、ここをこうすると…』
　ガルヴァスはそう言いながら、真夜の雌蘂を指でなぞり、少し強く押す。それからくすぐるように円を描いて撫で回す。
「あぁ…」
　目を閉じて息を洩らし、快感を訴える真夜を見て、ガルヴァスは掴んでいた真夜の腕を離した。もう、掴んでいる必要はないだろう。
『綺麗ですよ、真夜。私が取り付いている八坂脩平君に渡したくないくらいにね』
　右手が真夜の胸の上を這いずり回る。やがて服の上からわしづかみにすると、優しく揉んでやる。
（何…？この感じ、何なの…？ただ、おっぱいを揉まれてるだけじゃないの…。それが、何でこんなに感じるの…？）
　胸のうちから湧いてくる、ありえない欲情。
『私は魅夜…あの夢魔と同じベクトルですのでね。当然、普通の人間と交わるよりはるかに快感を得ることができるのですよ。そして、こうして触れているだけでも』
　服の中に手が入ってきた。
「きゃあああ！」
　悲鳴が上ったものの、なぜか逆らうことができない。まるで、縛られているかのように手も足も動かすことができない。
　いや、多分、動かすことはできる。その意思が湧いてこないのだ。手や指の動きだけで快感を与えられ、体がそれを求めるがゆえに拒めないのだ。
『さぁ、固くなってきましたよ。体はどこまでも正直です』
　ガルヴァスの指が、乳首を挟む。左手はズボンの中に入り込み、雌蘂を直接愛撫してくる。
「あぁっ、ああっ、あぁっ」
　指が少し亀裂に差し込まれ、徐々に中に入ってくるのが分かる。
「あ、ああ、入ってるぅ…き、気持ちいいのぉ…」
『そうでしょう、そうでしょう。ほら、こんなに濡れているんですよ』
　ぐちゅ、ぐちゅ、とガルヴァスがわざと激しく真夜の中をかき回す。
「ひいいぁっ！」
　顔を赤くし、汗を滴らせ、真夜は自分の中に湧き上がる快感を吐き出していく。
『さあ、その裸体を私に晒しなさい』
　ガルヴァスの声と同時に、ズボンも下着も下ろされた。
「ううっ…だ、ダメ、そこだけはダメなの…ダメなのぉ…」
　理性と本能が相反する中、真夜は残った理性のかけらを振り絞って声を出す。が、ガルヴァスはそれを無視する。
『綺麗だ。さぁ、快楽の時です』
　同時に、視界が塞がった。
「な、何を…？」
　ガルヴァスが、真夜に目隠しをしたのである。突然塞がった視界に、どこから訪れるか分からない快感に、真夜は怯えの声を出さずにはいられなかった。
　ちゅる、と何かが真夜の雌蘂に触れたとき、彼女は高い声で喘いだ。

　ガルヴァスは舌を這わせていた。わざと音を立てて、激しく、小刻みに。亀裂も、肉の芽も、すべてが彼の舌の支配下にあった。
　漏れる愛液は堕天使の飲料と化していた。
「あーーーーーーーっ！いいっ、いい、いい…っ！」
　やがて、舌の動きだけで絶頂へ導かれた真夜が叫びに近い喘ぎを上げた。ここは夢の中であるはずなのに、真夜はガルヴァスを相手に、求める声さえ上げたのである。
『おや、まだ早いですよ』
　ガルヴァスのその声とともに、真夜は、雌蘂に固いものが当るのを感じた。
「あ、だ、ダメぇ…」
　じゅぷっ、と音を立てながら、真夜は自分の肉体が貫かれるのを感じた。
「あああっ！すごい、すごいのぉ、いいの…！」
　子宮の奥まで入ってくるんじゃないか、という大きさの何かが突き立ってくる快感に身をよじりながら、真夜の嬌声がガルヴァスの耳を突く。
『いい感度ですよ。締め付け具合もいい』
　ガルヴァスは真夜の体を空き放題に突いてやりながら、乳房をわしづかみにして揉んでいく。ピン、とたった乳首を刺激してやると、快感が安定しないせいか、真夜がより一層大きな声を上げる。
「ああ、ああ、もっと、もっと、もっと突いてぇ…」
　真夜が求める声が激しくなると、ガルヴァスは要望どおりに激しく自らを突きたてた。奥深くまで、強く、激しく。
「ああっ！すごい、すごいの！もっと！お願い…」
　腕をだらしなく投げ出し、足をおおっぴらに広げて、あられもない姿をガルヴァスの前にさらしているのも、今の真夜には分からなかった。理性は完全に光を消した。
『さぁ、そろそろいきましょうか』
　ガルヴァスが真夜の腰を抱えた。結合をより深くするためだ。
「ああ、出して！いっぱい中に出してぇっ！」
『ご要望どおりに』
　どくんっ！と、真夜は自分の膣内で何かがはじけるのを感じた。それは不快感ではなく、快感と悦楽へ彼女を誘っていく。
「あああああああぁぁぁっ！」
　熱い精液が大量に溢れ、真夜の体内を満たしていく。心臓の鼓動にも似た衝動が迸り、真夜の体を犯していく。
　今までで一番高い声をあげ、真夜はそのまま気を絶してしまった。

「…っ！」
　目を覚ますと、すでに夜が明けていた。朝の光が目を刺すなか、真夜は魅夜に呼びかける。
『魅夜、魅夜、いる？』
『いるわよ』
　声が聞こえて、ほっ、としたのもつかの間、真夜は
『昨日、どうして助けてくれなかったのよ！』
　と怒った。
『助ける必要がなかったでしょ。あれだけ、『いい』、とか『出してぇ』とか甘い声出してたんだから。ほら、速く着替えたほうがいいわよ。パンツの中とかぐっしょり』
　魅夜に言われ、真夜は慌てて着替えをはじめた…。

『アイツ、堕天使よ、多分』
「堕天使？」
　着替えが終わったあとで、魅夜が落ち着いた声で言った。
『うん。要するに、堕とされた天使。多分、向こうの世界でオンナに手を出して追い出されたんでしょ。そんな感じだったわ』
「危うく、わたしが生気を吸われるところだったわ！」
『それはないわよ。半分が夢魔なんだもの。生気なんか吸い取られるわけがないわ』
　真夜の言葉を受けて、魅夜が返す。
『ガルヴァスのほうも、それを承知でヤったのよ。恐らく。積極的というかイヤなやつというか。あの真夜を、あそこまでヤりこめるなんてね…。なかなか見ものだったわよ、あなたがどこまでも乱れる光景。わたしにとってはご馳走だったわ』
　魅夜の口ぶりに、真夜は大きくため息をついた。

（それにしても、堕天使って…よりによって、脩平にそんなものがついているなんて！）