10．

『俺にとりついているガルヴァスも、今回のことに一枚噛んでいるだろうからな。ヤツは俺、それなら俺が責任を取る必要もある』
『堕天使ガルヴァスが一枚噛んでいる？昨日の夢のこと？…そうか、それで…』
　妙に納得したように魅夜が言う。
『道理で、急に体調が崩れたと思ったわ。ガルヴァス、あなた、真夜からちょっとでも生気を吸ったわね…！』
　怒りに満ちた声だった。声には出さないものの、脩平は『怖い』と思った。魅夜は比較的温厚な夢魔のようだが、それでも今の言葉には、悪魔なりの怖さが込められていた。
『成り行き上のものですよ』
　あわててガルヴァスが弁解をはじめたが、魅夜は聞き入れず次の言葉をぶつける。
『決めたわ。堕天使ガルヴァス。あんたに犠牲になってもらう。わたしがあなたの血肉を喰らい、真夜が生きる糧にする』
『ま、待てよ！どうしてそうなるんだ？』
『わたしはね、自分が住んでいる場所をあらされて黙っているほど、大人しい夢魔じゃなくてよ。出てきなさい、ガルヴァス…！』
　瞬間、真夜の目が見開かれ、突然ベッドから立ち上がった。
「や、弥栄っ！」
『いけない、脩平、逃げなさい。でなければ、死ぬかもしれない！』
『バカ野郎、俺は自分がやったことの責任くらい取るって言っただろ？』
『たとえ、夢魔に生気を吸われ死んだとしてもですか？』
　ガルヴァスが問い掛けてくる。脩平はその場を動かず、立ち上がった真夜を見つめていた。
　その瞳には一切の感情が感じられなかった。生きているのか、死んでいるのかもわからない。ただ、惰性だけで立っているかのような、そんな印象を強く受けた。
『ガルヴァス。お前が、うまくやっていた二人の間に干渉した。だから、二人の力は極端に崩れたんだ』
『そうね。だから、あなたには責任を取ってもらう。わたしが死んだとしても、真夜を助けなければならない』
『…あんた、いい夢魔だな』
　心の底から、脩平は言った。悪魔や夢魔にいい悪いがあるかは分からない。だが、少なくとも魅夜は『いいヤツ』だな、と思ったのだ。
　二人が出会った経緯は知らない。でも、何らかの事故に巻き込んで死んだ真夜を、魅夜は『自分が関わったから』という理由だけで助けた。その後の自分の活動に大きな支障をきたすのを承知の上で。

「…魅夜、か？」
　気付いたとき、目の前の真夜は大きく変貌を遂げていた。いつもの清廉な真夜の姿はそこになく、裸同然の姿をした胸の豊かな、妖艶ともいえる魅力をもった女性がいたのだ。
「…ええ。一時的に真夜を封印したわ。そうすれば、わたしが消えても、真夜はしばらく消えずに済む。本当にしばらくの間、だけど…」
　他の誰のものでもない、夢魔である魅夜の声。妖艶な外見とは裏腹に、その声は高く澄んでいた。
「お前が消えたら、弥栄も消える…二人とも生き残る方法はないのか？」
「言ったはずよ。今現在、真夜が生気を失ったために苦しんでいる。だから、その生気を取り戻す必要があるわ。ただモノを食べればいいとかいう問題じゃないの」
「だから、ガルヴァスの血肉を喰らう、って言ったんだな」
　納得したように脩平が言う。だが、それは脩平の死をも意味する結果なのだ。
「…わたしだって死にたくはない。そして、自分の責任は果たす主義なの」
　魅夜の言う責任とは、真夜を自分の半身としたことだろう。
「…分かった。やれ」
　しばらくした後、脩平が言った。
「弥栄に食われて死ぬなら、本望とは言わないが悪くはない」
　どかっ、とベッドに腰掛け、目のやり場に困る魅夜を見つめる。
「根っからの善人ね、あなたは。おかげで、助かるわ。…痛くしないから安心して」
「お手柔らかに頼むぜ。あとで弥栄に起こられたくないからな」
　そう言うと、脩平は自らベッドの上に身を投げ出した。

「くぁっ！」
　いきなり咥えられ、脩平は声を出さずにはいられなかった。
「ちょ、ちょっと待て、いきなりそれかよ！」
　慌てて両手を振って抵抗するものの、魅夜は離してくれない。それどころか、徐々に大きくなり始めた脩平の先端を締め付け、執拗に舌の愛撫を繰り返してくる。
（な、なんだ、弥栄にだってこんなことされたことないし、それに…）
　入れた時でさえ、これほどまでの快感を感じたことはない、と脩平は思った。
　無理もない。前に交接したのはあくまでも真夜だ。ここにいるのは、魅夜。男に夢を見せてその中で交わり、生気を奪い取るという悪魔なのだ。
　そして、脩平は今、夢の中ではなく、魅夜とじかに交わろうとしている。
「あああっ！」
　どくんっ、と脩平の先端がはじけた。あまりの快感に我慢が効かなかったのである。吹きだした脩平の精液は、すべて魅夜の口の中へと流し込まれていく。
「ん・・・もう出ちゃったの？仕様のない子ね」
（あ、あれ…？魅夜の髪、こんな色だったっけ…？）
　流れるような黒髪だったはずの魅夜の髪が、いつのまにか仄かに赤く光を放っているように思えた。それは、もしかしたら魅夜が脩平と交わることで、本来の力を取り戻しつつある証拠なのかもしれなかった。
「ほら、ここを触るのよ？」
　魅夜は脩平の手をとって、自分の乳房に押し付けた。柔らかい感触が脩平の手を包んだ。
「あ…」
　見とれたように顔を火照らせ、ぼっとしている脩平に、魅夜がさらに言葉を投げかける。
「触るだけじゃダメよ。揉んで…、乳首にも指を這わせて、摘んで欲しいわ」
　目の前にいるのは魅夜だ。だが、脩平にはどうも真夜がいるように面影がダブる。この前まで、真夜は真夜の姿だった。夢魔と生活を共にしている間だって、真夜のままだった。ここにいるのは、真夜と似た外見をもちつつも、まったく異なる性格を持った、魅夜なのだ。
「あ、はぁん、そうよ、もっと強くしてもいいわ…ううん、してほしいの」
　魅夜の言葉のままに、脩平は両方の乳房を弄ぶ動きを早める。魅夜は、その動きに熱っぽい声と吐息で敏感に答えてくれた。
（まさか、俺が夢魔とヤることになるとはなぁ…）
　魅夜は、脩平の愛撫に応えながらも、彼のそれを手で弄び、情欲を促進してやる。魅力的な女性というだけでなく、夢魔である魅夜の愛撫により、脩平はすぐにまた体力を取り戻してしまった。
「ほら、こんなに大きくなったわ」
　魅夜の言い方が嬉しそうに見えるのが、脩平にはなんとなく妙に思えた。目の前にいるのが、雰囲気を違えつつも真夜と同じ姿をしているからだろうか？
「ほら、次はココよ」
　乳房を捉えていた脩平の手を再び掴んで、今度は足の間へと導く魅夜。
『まさに、夢魔の真骨頂といったところですね…』
『お前、大丈夫なのか？』
『私も一応そっち系の種類なので、ある程度は。とはいえ、これは凄まじい…』
　脩平の中にいるガルヴァスも、等しく快感を覚えているはずだ。
「くぁっ、あっ、上手よ、あなた…」
　脩平が指を動かしてやると、魅夜はのしかかるようにして彼の顔に乳房を押し付けてくる。指の動きが紡ぎだす快感に応える形で、胸が揺れて顔を塞ぐ。息が苦しいくらいに。
（うわ、なんつー柔らかさだ！息できねえ）
　顔を真っ赤にして抵抗するものの、力が抜けてしまってどうにもならない。唯一できる抵抗である、魅夜の雌蘂への愛撫を続けるうちに、彼女のそこからはねっとりとした愛液が滴ってきた。
「ああ、そうよ、もっとかき回して…」
　狂ったように声を上げる魅夜。脩平はなぜか従うしかなく、魅夜の雌蘂の奥へと指を差込み、思い切りかき回してやる。
「あーーーっ！」
　そうしてやると、余計に声も高まり、愛液の漏出も促進されていく。

「今度は、わたしが下よ？」
　一度絶頂まで達したあと、魅夜は自分でベッドに横になり、足を思い切り横に広げた。見事なまでに綺麗なピンク色をした雌蘂が、いやでも脩平の目を釘付けにした。
　そこは先ほどまでの愛撫によって十分に潤っていて、まるで脩平を待っていたかのように濡れて光っている。
　思わず、自分のそれを雌蘂に当てようとする脩平を、魅夜が制した。
「まだダメよ。さっきのお返しがまだでしょう？今度は、あなたが口でわたしをイかせるの。大丈夫よ、ゆっくりでいいから」
　誘われるがままに、脩平は魅夜の雌蘂目掛けて顔を沈めていった。

　恥毛のまったくない雌蘂の亀裂に、脩平はゆっくりと舌を這わせた。
「ひっ」
　という、小さな声があがった。夢魔という存在は、何人もの男と交わっているはずなのに、まるで初めてであるかのような感じ方をしてくれる。もっとも、それも夢魔の能力の一部なのかもしれないのだが…。

「あっ、うん、そうよ…」
　舌が這いずりまわり、唾液と愛液が擦れる快感に身をよじりながら、魅夜は真夜の姿を思い浮かべていた。
（…もう少し待ってて…必ず、助けるわ…）
「あぁ…」
舌の動きが激しくなってきて、肉の芽も小刻みに責めてくる。やがて脩平の舌は雌蘂の門を優しく開き、襞を直接舐めとる…。
「ああっ！もう、我慢できないわ！挿れて、お願い！」
　懇願するような声を上げた魅夜の足を、脩平が両手で掴んで大きく広げた。

　ずぷっ！と音を立てて、いっきに雌蘂が突き通される。
　魅夜の大きな嬌声が天を突いた。
「あっ！大きい、すごい！」
　快楽の声を恥ずかしげもなく上げ、魅夜は脩平の責めに体をねじって応えた。
「魅夜、俺、ダメだ、お前の中、すごい…ッ！」
　どくんっ、と魅夜の雌蘂の中で何かがはじけた。
「あーーーっ！」
　注ぎこまれた熱い液体の感触に、魅夜は耐えられずに声を上げる。
「…は、早いわよぉ」
　が、やがてちょっと不満げに言った。

「ん…そのまま動かないでね」
　ベッドに仰向けに寝そべった脩平のそれを両手で支え、足を広げて腰を沈めていく。やがて雌蘂に触れたそれは、魅夜が腰を落とすとスムーズに挿入されていく。
「くぁっ！」
　声を上げたのは脩平だった。同時に魅夜も大きくのけぞった。
「あっ、あっ、あっ」
　腰を深くまで沈めたあと、魅夜は容赦なく上下に激しく動いた。脩平も一緒に腰を前後させて軽く突いてやる。
「あ、下からくるのぉ！」
　やがて魅夜は脩平の腰を支えるのをやめ、自分の乳房をわしづかみにして揉みしだきはじめた。上と下、同時に来る快感を楽しんでいるのだ。
「い、いいっ！」
「どうだ？魅夜、イけるか？」
「うん。もう少し、激しくするわ」
　脩平の言葉を受けて、魅夜はさらに激しく腰を動かした。そして…。
「魅夜、出るッ、出るッ！」
「いいわ、早く来て、何度でもわたしの中に出して！」
　上下運動が激しさの頂点に達し、二人は同時に絶頂を迎えた。
「あぁっ！」
　魅夜の声と同時に、脩平のそれは大きく弾んだ。

　びくっ、びくっ、と魅夜の背筋が震えているのが脩平にも分かった。
「ああぁ・・・出てる、一杯わたしの中に出てるぅ…」
　顔を火照らせ、上を向いて喘ぐ魅夜の姿に、脩平はしばらく見とれていた。もちろん、射精の快感を己の体にしっかりと焼付けながら…。