14．

　体の火照りも、湧き上がる情欲、情熱も、今までに抱かれたどんな男よりも強烈だった。数々の男たちによって『金の力』で抱かれ、最早普通の愛撫では感じることもなくなった体に、まるで活でも入れられたかのように、乙女は男の責めに応えた。
　指で撫でられるだけで四肢が震え、汗が無意識に噴出していく。
『あなたは…誰？』
『私は…貴女のために全てを捨てに来た者です』
　それはもしかしたら、『金を払う』という一種異様な儀式がなかったからかもしれない。ただ単に、それが新鮮だっただけかもしれない。だが、乙女は歓喜と悦楽に包まれていた。真夜中の闇と、男の肌、腕に包まれながら…。
『…あ、ああっ、ああっ…』
　いつもは涙を流し、自分が『蝕まれている』という感覚、そして罪悪感に包まれながら抱かれる自分だが、今日は違った。目の前にいる人間は間違いなく初対面だった。だが、彼は自分のことを『助けに来た』と言う。しかも、全てを捨てて、と。
『…嫌がらないのですか？』
　突然、男…天使が聞いてきた。乙女は『慣れているの』と言葉を返した。が、いつもと違うことは充分に分かっていた。
　快く、心地よい。男の『責め』には違いないその儀式は、彼女の体を喜ばせた。今までの男相手では出せなかったものを爆発させた。
『ああ、いい、いいの！』
　『聖女』らしからぬ猛りの満ちた言葉を、彼女は吐きつけていた。
　天使は彼女の体を力の限りに抱きしめた。一つ一つの行動は、いつも別の男にされていることだった。しかし、この天使は明らかに空気も雰囲気も違う。そして、体のほうもそれに気付いており、ただひたすら彼の責めに対して『歓喜』という形で応えを出す。
　雌蘂は蜜で溢れ、男はそれを舌を這わせて舐め取る。ゆっくりと、決して激しくせず、焦らすかのように。
（きっと、これ以上の快感は、どうやっても得られない…明日から、わたしはまた男たちに汚されて生きるのね…）
　『聖女』に与えられた宿命はそれだった。物心ついたときから『性奴隷』として育てられた彼女は、その美貌を買われて、あろうことか宗教的に利用された。
　金を払い彼女を抱けば、死後の幸福をも約束される、というのである。

　大半の男たちはこれを笑いながらけなし、それでも『聖女の美貌と肉体』に惹かれて、まるで蜜に群がる蜂のように彼女を求めた。
　ある男は乳房を食み、ある男は肉芽に歯を立て、そしてある男は彼女の穴という穴を白濁で汚していった。
　中には、犯しても快楽の声を決して上げない彼女を、暴力で分からせようという輩すらいた。その後、失神するまで彼女は汚された。
　孕むたびに産み落とし、誰が親かわからぬ子供は売られていく。実に、十五歳から、その倍の歳をとるまで、彼女はそんな生活を余儀なくさせられた。

『ああっ！もっと！もっとよ！もっとして！』
　心の底からの快楽の声を、『聖女』は初めて上げていた。天使は金の力で聖女を抱いたのではなく、自らの愛によって抱いた。その証拠に、終始彼は彼女の体を気遣い、労わるような愛撫、責めを続けた。痛がれば動きを緩め、動きに慣れるまでだましだまし侵食していった。
　彼女のほうから男を求めるに至るのに、あまり時間はかからなかった。
　口の端から涎を垂らし、目には涙を浮かべ、美貌の聖女は絶頂に達した。まだ、挿入する前だった。
『…来て。ここまで、わたしを責め立てたのです。最後まで、してください』
　その言葉に、天使はためらいつつもうなずいた。すべてを捨てる覚悟だ、というのに偽りはなかったのである。
　ゆっくりと、聖女の体を男が貫いた。と同時に彼女は快感の声を上げた。夜空を突き抜けるような、透明かつ熱っぽさのこもった声だった。
『くっ・・・！』
　天使のほうも締め付けに耐えられずに声を上げた。一瞬で達してしまいそうになるのをこらえ、なんとか持ち直し、彼女の体を突き上げる。
　律動にあわせて揺れる乳房を丹念にこね回し、凝り固まった乳首はときどき指で弾いて愛撫してやる。
「ああっ！」
　顔を乳房の谷間に埋め、さらに激しく腰を動かしてやる。最早自分自身の快感に耐えられそうもなかった。
『ああ、イく、イくのぉ…！』
　聖女と男が同時に達した…。

　その後男は、あらゆる体位を用いて、聖女を犯しつづけた。彼女は決して拒むことなく、数時間に及ぶ責めを夜明けまで受けつづけた…。

『…また、会えたな』
『…お互い、苦労したものですよ』
　『夢の中』で互いに語り合う二人は、すでに別の存在となっていた。
『あのあと、私はお前との不義がばれ、さんざん『持ち主』にいいようにされた挙句殺された。が、こうして死神として転生させられることになった…』
『おそらく、私が関わっていたせいでしょうね』
　ガルヴァスが言った。聖女を助けるためとはいえ、人間の女性との不義密通などあってはいけないことである。彼は隠すことなく天使の長にすべてを告げ、自ら天使の世界を去った。
　彼のことを許さなかった一部の神々が、ガルヴァスを『性欲を満たさねば生きていけぬ体』に変えた。そのため、ガルヴァスは十数年に一度、誰かを犯して生気を奪わなければならなかった。
　それを苦痛に感じ、やがて拒む。そうすれば、体は次第に衰え、力も発揮できなくなる。
　もはや力尽き、朽ちるのを待つのみ、というときに自分の存在に気付いた稀有な人間がいた。
　ガルヴァスは脩平と契約を交わした。

　きがつくと、ガルヴァスの前にいた『彼女』が一糸纏わぬ白い肌をさらけ出していた。
『…今は、構わない存在なんだろう？ もう一度私を抱いてくれないか…？』
　ガルヴァスは少し考えたのち、彼女に告げた。
『…私は、天使としての生涯を貴女のために捨てた。だから、以前の私ではありません』
『それは私も同じさ。…そうだな。『はるか昔』のことなんだな。だから、…こうしようか。私たちは今日初めて会った。そしてお互い…』
『お互い、一目で、恋に落ちた…』
　ガルヴァスの腕が死神を包んだ。ガライは口づけを拒まなかった。ここが夢の中であることを知っているせいだろうか、あるいは…？
『…ふふ、変わっていないな。名前以外は…』
　乳房をまさぐられる感触に酔いながら、ガライは微笑んだ。まるで死神らしくない微笑だった…。
『貴女も、変わっていませんね、口調以外は…』
　ガライの肌の柔らかさを直に感じながら、ガルヴァスも言った。