18.

「…なぁ、あの先生、こんな時間に何をやっていたんだ？」
「それを言うなら俺たちもだろ。宿直だったみたいだから、見回りでもしていたんじゃないか？」
　暗い校舎に取り残された三名の生徒がとぼとぼと帰途につこうとしたとき、後ろの教室が不意に光った気がして振り返った。
「…気のせいかな？」
　振り返ってみると、何があったわけでもないように思える。目を擦ってみても何も無い。先ほどと同じく、後ろにはただ見慣れた校舎があるだけだった。もちろん、暗いせいでいつもより数段威圧感やら恐怖感やらを漂わせているのだが…。

「…なんて、強力な魂だ…！」
　ようやく見つけた魂に逃げられ、ガライは舌打ちしつつも驚愕していた。普通は死神が迎えにいけば、魂は大人しくついてくるものである。だが、前校長の魂はどうやらこの校舎に普通の魂以上の怨念を込めているらしい。
「骨が折れそうだな…」
　気を取り直して探そうとするも、気配が完全に消えてしまった。
（少し様子を見るべきだったか…だが、あの怨念の強さ。ただごとではないようだ）

　ばたん、と真夜の部屋の扉が閉じられ、二人はやっともどってきた。今まで生きた心地がしなかったのである。
　物的証拠はなかったものの、不法侵入までやらかして自供をテープに取った二人は、ここまできてやっと安心感を得られた。
　『二回目』に没頭しつつあったあの二人は、恐らく気付いていないだろう。
「…あのさ。このテープ、どうする？確かに自供だけど、俺たちが不法侵入したこともバレちゃうぜ？それにあんな声入ってるし…」
「言われてみればそうね。どうしたものかしら…」
　テープを撒き戻し、再生してみると、あのときのセリフがそのまま入っていた。これならば、確かに証拠となりえるだろう。
「それよりもさ…まさか、不法侵入した先が、あんな事やってる最中だなんて、思わなかったよ」
「本当よね。間が悪いっていうか、なんていうか」
　思わず胸が高鳴ってくるのを、真夜は気付いていた。理由はともかくとして、男女が交わるシーンを、この二人は盗み聞きしていたことになるのだ。
「…弥栄」
「…脩平」
　互いに名前を呼び合った二人は、自分たちを抑えることができずに抱き合っていた。まだ高校生であるはずの二人は、魅夜やガルヴァスのせいもあってか、自分たちに湧き上がる情欲に対して敏感になっていた…。

「うわ、何もしてないのにぐちょぐちょになってる」
「そんなに驚かないでよ…あんなのを聴かされたら、こうなる」
　言い訳がましいかな、と思ったものの、真夜の正直な気持ちだった。まだどこも触れられていないうちから、彼女の雌蘂は潤いを見せていた。
　脩平の指が下着の内側に入り込み、雌蘂に直接埋没していく。
「ん…」
　まるで抵抗もせず、指が彼女の雌蘂へと埋まっていく。少しずつ、ゆっくりと…。
『いつのまにか、テクニシャンになったわね。侮れないわ…』
　茶化すように魅夜が言う。こういうとき、常に『傍観者』がいるのが、この体の不便なところである。
　あの時、『あの二人』は何をしたのだろう？自分たちとはちがって『大人の男女』なのだから、当然自分たちから見れば一歩進んだことをしていたのかもしれない。
「…相変わらず、胸、大きいな、弥栄」
「前と、変わらないわ」
　ブラウスの前を開かれ、乳房が揺れる。瑞々しい果実のような二つの山を、脩平は手でわしづかみにしてやる。
　「うん…」
　心地よい脩平の指の感触に、真夜は小さく声を上げた…。

　ベッドの上に正座するような感じで座る脩平。
「…弥栄」
「ん」
　脩平が呼びかけてやると、真夜は小さくうなずきながら、脩平の上に座り込み、それから腰を上げて中腰になる。
「下ろすぞ、弥栄」
「…ダメよ、真夜って呼んで。わたしたち、もう、幼馴染以上の関係なんだから、ね」
　幼馴染以上の関係。今思えば、二人が今のように体で交わるようになったきっかけを作ったのは、魅夜である。そう考えると、彼女やガルヴァスに対して『運命的な何か』を感じずにはいられないのだ。
　目の前にきた真夜の乳房を、脩平は貪るように吸った。もう片方は手で揉みほぐしながら、時折頂点を指で弾いてやる。
「うぅっ！」
　声を上げるものの、拒絶する様子は無く、むしろその愛撫の優しさに悶え、受け入れているような表情の真夜。
「…好きよ、脩平」
「…ん。俺、まだ学生だし、『愛してる』なんて言えるほど人生経験も多くないけど…」
　手を乳房から下着の中へと移し、濡れそぼった雌蘂を指で激しく刺激してやりながら脩平が言う。
「…真夜のこと、すごく好きだ」
　脩平がそう続けると、真夜が彼に抱きついてきた。脩平も、そんな真夜を抱きしめる。力強く、真夜の小柄な体を…。
　しばらくして、真夜は自分から下着を下ろす。真っ白だった下着は真夜の蜜によって艶かしく濡れていた。
　が、顔を赤くして恥ずかしがる真夜は、足から通し終わり体から離れたそれを、すぐに脩平の視界の外へと投げてしまった。
「…脩平、我慢、できない」
「ん、俺も」
　真夜が脩平の『それ』を取り出す。以前とは違って妙に積極的に思えるのも、魅夜のせいなのだろうか？それとも、彼女自身に何か心境の変化があったのだろうか？
　幼馴染とはいっても、性別も性格も異なる脩平には、分からなかった。

「…固くなってるね」
　そっと両手で包み込みながら真夜が呟いた。
「…あまり撫でないでくれよ。挿れる前に出そうだ」
　真夜に両手で撫でられている感覚が心地よい。彼女からの愛撫によって、すでに固かったそれは、より固さを増して立ち上がっていく。
　やがて、真夜が腰を持ち上げた。脩平は彼女の体を片腕で支え、『それ』を余った手で支える。真夜が座り込みやすいように。
　スカートに隠されて、真夜の下半身は見えないが、感触によって『それ』が真夜の下腹部に触れたことは分かる。よく濡れていて、温かい。かすかに恥毛の感触もする。
「…ん」
　ゆっくりと、真夜が腰を落としてくる。脩平が真夜の太腿を両手で支えると、真夜は『それ』に当てていた手を離して脩平の首の後ろへと巻きつけ、抱きしめた。
「ううーーーーっ！」
　挿入の激痛と快感を、声を上げて訴える真夜。白熱灯が照らす彼女の体が美しい。
「真夜、真夜、すごく濡れてて、締まってる」
　脩平が素直な感想を述べた。下半身から上ってくる快感も心地よいが、座ったまま強く抱きついてくる肌の感触も柔らかい。彼女の背中を思い切り抱きしめ、胸を自分の体へと押し付けてやると、真夜が自分から腰を動かし始めた。
「…脩平っ、わたし、狂いそう、狂っちゃう！」
　スカートに隠されて見えないものの、もう奥まで突き刺さった『それ』は、動くごとに彼女のなかで角度を変えて刺激していく。
　抱きしめられたまま大きくのけぞる真夜。脩平も、彼女を抱きしめでもしなければ、あっという間に彼女の中へすべてを放出してしまいそうなのだ。
「ああっ、ああっ！」
　真夜が自ら打ち付ける腰の動きが、徐々に速くなってきていた。
「真夜っ！」
　たまらず、脩平が真夜をベッドの上に押し倒した。結合したまま二人は倒れこむようにもつれ合う。
「あっ、ああっ！は、激しすぎるうっ！」
　ぱん、ぱん、と音がするほど勢いよく突き上げられ、真夜が快感に体を捻って応える。
「で、出るッ、真夜、出るッ！」
「ああっ！だ、出して！もう気持ちよくてワケ分からないの…っ！」
　お互いに絶頂を訴えると、互いの体を強く抱きしめあう。

「あーーーーーっ！」
　真夜の悲鳴にも取れる声が、部屋中に響いた。それと同時に、彼女の体の中へと熱い液体が注ぎこまれていく。
　射精が終わり引き抜いてやると、脩平は真夜のスカートをめくり上げる。もはや抵抗する気力も無い真夜は、何もいわなかった。
　露になった雌蘂からは、たった今注ぎ込まれたばかりの脩平の白濁が逆流し、滴り落ちてきていた・・。
　やがて、真夜が脩平に恍惚の表情を向ける。

『誰か、来る！』
　が、不意に魅夜がそう言ったため、二人は『えっ』と顔を見合わせた。
『真夜、脩平、早く後始末と着替え！』
『時間がありません、早く！』
　ガルヴァスもどうやら気付いたらしく、二人をせかす。

「…なんだ、いるじゃないのよ」
　部屋の扉を開けて現れたのは、峰岸冴だった。あの、『死神』を学校で最初に目撃した、真夜のクラスメイトである。
「さ、冴、どうしたの？」
　無理矢理ベッドにもぐりこんで布団をかけた状態の真夜は、冴の来訪に間に合わず、下半身はスカートのみ、下着をつけておらず、ブラウスの前は開けっ放しという状態をかろうじて布団で隠していた。
　こういうとき、ズボンを上げるだけでいい男は有利である。
「…あ、脩平。このコ、わたしのクラスメイトで…『峰岸　冴』」
　脩平と冴の面識が無いことを思い出して、真夜が苦し紛れに紹介する。もっとも身を起こすことができないので思い切り不自然なのだが…。
「…いくら呼び鈴鳴らしても出てこないし、ドアの鍵がかかってないし、で泥棒でも入ったのかと思って見にきたのよ」
　冴が言った。
『一応、私たちの力で音声遮断していたので、貴方たちの声は外にまで届いていませんよ。欠点として、この部屋の外の音が一切聞こえないわけですが』
　ガルヴァスが注釈を入れてくる。なるほど、それで呼び鈴の音も聞こえなかったわけだ。
「…ねぇ真夜、具合でも悪いの？大丈夫？」
「う、うん。大丈夫よ」
「顔真っ赤よ？熱あるんじゃない？」
　脩平がいるのを気にもせず、冴が真夜を心配する。熱があるかないかはともかく、顔が赤いのは当然といえば当然だ。つい先ほどまで、二人は交わっていたのだから。
「…ねぇ真夜、脩平君とどんな関係？」
（げっ）
　脩平も真夜も、内心同じ事を思った。
「お、幼馴染よ。だから、こうして見舞いにも来てくれるの」
「本当にそれだけ？」
「やめてよ、本人がいる前で」
　…といってから、真夜は不自然なことに気がついた。
（あれ？脩平と冴って、面識ないはずよね…？）
　たった今、自分が脩平に冴を紹介したのだから間違いない。それなのに、冴のほうは『脩平君』と呼んでいる。
「…脩平、冴のこと知ってる？」
　何気なく尋ねてみると、脩平は即座に首を横に振った。
「…それに、こんな時間にどうしたの？」
「う、うん…それがね、あの…死神先生、まだ学校にいるみたいだったから、変だなって」
（…まだ探していたのね。とりあえず、前の校長が事故に見せかけて殺害されたことは分かったけど…）
「あのさ、こんな時間に、幼馴染とはいえ、男女二人きりで…って、やっぱり…」
「う、うん、だから、わたしも脩平に『早く帰ったほうがいいから』って」
　我ながら苦しい言い訳よね、と自分で思いながら言葉を返す。
「…なんでもなければいいのよ。通りかかったついでに寄っていこうと思っただけだから」
　冴は急に立ち上がると、部屋を出て行ってしまった。

『…好いてるわね。彼のこと。どういういきさつがあったかは知らないけど』
　魅夜が他人事のように言う。
『そうですね。それにほら、何があったか察したと思いますよ。真夜、そこに…』
　ガルヴァスが脩平の右手を借りて指した方向には、先ほど脱ぎ捨てた彼女の下着が落ちていた。
「…やばっ…！」
　真夜が思わず顔を覆ったものの、こうなると後の祭りである。