１．

「アイドルなんてさ、どうせ、いろんな奴にやられているに違いない。プロデューサーと作曲家とかさぁ…」
　田中は、部屋に貼ってある、まやや　のポスターを見て吐き捨てるように言った。
「この、まやや　っていうのは、いかにもやっていま〜す！って感じだよな〜。」
「ヤンキーだろ。やりまくって芸能界を生き延びているに違いないな。」
　これ以上、悪口が続くと俺が暴れると思ったのだろう。杉浦部長が田中にいった。
「まぁ、いいじゃん。どうせ俺達は幻想を求めているんだから。」
「なにいってんだ。おまぇら、きもちわるいな〜」
　そういって田中は部室から出ていった。
「なにしに来たんだ？あいつ。」
　杉浦部長はドアを閉めながらへらへら笑った。
　ここは、アイドル研究会。学校の隅のほうに部室をもらって細々と活動をしている。アイドル全盛時代には結構な部員数もあったらしいが、今はアイドル不毛時代。
　アニメキャラクターのほうが人気があったりする。部員は杉浦部長と俺の二人だけなのだ。
　杉浦部長はすごい男前で、女生徒にはすごく人気がある。スポーツも万能であっちこっちから誘われている。なぜアイドル研究会にいるのか理解しがたい。
　俺?　俺はといえば、いかにもって感じのダサ男だ。アイドル研究会にピッタリというキャラクターだ。
　俺は普段はおとなしいが、一番好きな　まやや　を貶されると暴れてしまう。この前なんか、郵便局の　まやや　のポスターに落書きしていた男をボコボコにして警察にやっかいになったくらいだ。
　まやや　のどこがいいって？　それは俺にもよくわからない。　ただ、アイドルらしいってことかもしれない。
　俺は　まやや　をオナニーのおかずにはしない。　だって、アイドルなのだ。穢してはいけないのだ。
　一度だけ、サイン会で握手してもらったことがある。デビューしたばかりで、今ほど人気がなかった頃のことだ。
　とてもちっちゃくて157cmには見えなかった。透き通るように肌がきめ細やかで白くて細くて、頬の部分だけピンク色で…クラスの女達とは比べ物にならなかった。
　髪の毛なんかサラサラで薄い茶色なんだけど、決して染めたものではない。地毛なのにあんなきれいな色をしているのだ。
　そうそう、学校で一番可愛いと評判だった女子も　まやや　の前では豚だ。化粧で誤魔化しているって？　ちがう。まやや　はスッピンだった。純真で清楚で清潔で無垢で…とにかくアイドルなのだ。
　アイドルは次元が違う存在なのだ。　まやや　が「ウンコなんてしません〜」って言えば、それはそれで真実なんだ。

　と、まぁ、そんなくだらない事を放課後に二人で話しているわけだ。現実逃避をしているといわれればそれまでだが、この時間があるから生きているといえる。
　俺は毎日のように　まやや　の素晴らしさや美しさを賛美していた。杉浦部長は　ふんふん、と興味深そうに話を聞いてくれていた。

　そんなある日のことだった。
「ねぇ、もし…　もし、万が一だよ…　まやや　とデートできるとしたら、君はどうする？」
「え〜　そんな、あり得もしないことには答えられないですよ。部長〜」
「いぁ、だからさ、架空の話。もし、まやや　が君とデートしたいといってきたら…君ならどう答える？」
「ないですね。もし、まやや　が何かの間違いで俺とデートすることになっても、それはないですね。」
「どうして？」
「だって、考えてみてくださいよ。俺なんかとデートしたら　まやや　はアイドルじゃなくなっちゃうじゃないですか？」
「どういうこと？」
「つまり…　アイドルは手の届かない存在だからアイドルなんです。手が届いたらアイドルじゃなくなっちゃう。それは、もう　まやや　じゃないんですよ。」
「ほーそういう考え方ってあるんだ。」
「そうですよ。それにですよ…」
「それに？　なに？」
「いえ、べつに…」
「おいおい、気になるなぁ〜なんだよ？」
「そりゃ、　まやや　がデートしてくれるなら、死んでもいいってくらいうれしいですけど…」
「けど？ってなに？」
「だって考えてみてくださいよ。俺みたいなのが　まやや　とデートしたとしたら　まやや　に迷惑じゃないですか。」
「なんで？」
「そりゃ、アイドルもいつかは恋人もできたり結婚もするだろうし…そうするとアイドルじゃなくなるわけですよ。でも、その相手はIT関連とか芸能人とか野球選手だったらいいわけですよ…」
「なんでさ？」
「手の届かない存在が、誰から見ても凄い！って男と付き合ったり結婚したりするから納得できるんじゃないですか…まぁ、最近は若手の漫才師とかに食われちゃうみたいだけど…
　でも、　まやや　は本当のアイドルだから、俺みたいな男とつきあうなんてありえないんだ！」
　俺は興奮して部長の襟首をつかんでいた。
「おい、おい、気を静めろ。おい！」
「あ、すみません…つい…」
「よし、お前の気持ちはよくわかった。つまり、デートはしたいけど　まやや　のことを考えるとそれはできない。まやや　に迷惑がかかるからということだな。」
「だいたい、そういうことです…」
「ファンである以上は、アイドルとは付き合えないということだな。」
「はい。そんな感じです。」
「伝えておくよ。」
「は？」
「じゃぁな！あと、戸締まり頼むわ。」そういうと部長は部室を出ていった。
　あの人、変な人だと知っていたけど、本当に変な人だ。俺はそう思いながら、　まやや　のポスターを見上げた。
　このポスターは初主演映画の限定ポスターだ。
　このポスターを手に入れるために学校を休んで徹夜で並んで整理券を手に入れたのに、抽選ではずれてしまった。すべてが無駄だったと落ち込んでいたときに、声をかけてきたのが杉浦部長だ。
「きみ、僕と一緒の学校だよね。　まやや　のファン？」
「そうです。」
「このポスターを手に入れるために並んでいたんだろ。」
「あ！」
「このポスター欲しい？」
「え、いくらですか？俺あんまりお金持ってないんですけど。」
「いいよ、あげるよ。ただし、入部して欲しいんだ。アイドル研究会に…」
「はぁ？」
　これが部長との出会いだった。
　でも、なんでこんなレアなポスターを部長は持っていたのだろう？。
　入手困難なコンサートのチケットも手配してくれる。もしかしたら部長は　まやや　の関係者なのかも知れない。
　だとしたら…さっきの話も…　そんな妄想が浮かんだが、すぐに否定した。
　ファンクラブ会員数は３万人を超えるという国民的アイドルだ。俺は鏡に映った自分の姿を見てため息をついた。
　俺も、もう少し格好良ければなぁ〜
　まやや　が極度の近視なのが唯一の希望かな…

　その夜、俺は　まやや　とデートする夢を見た。緊張してひと言も話すことができない。
　周囲の人達がヒソヒソ声で後ろ指を指す。
「　まやや　も悪趣味だなぁ。幻滅しちゃうな。」
「あんな奴のどこがいいんだ。　まやや　はバカだな〜」
　まやや　は真っ赤になって俯いてしまう。　それなのに俺は何も声をかけてあげられない。
　そのうち、まやや　は泣きながら走り去っていく。
「やっぱりな！」「いいざまだ！」「お前なんかには手の届かない存在なんだよ。」
　周囲の人が石を投げてくる。その顔は全員が昼間の田中の顔をしていた。

　悲鳴を上げて目が覚めた。寝汗でびっしょりだった。
　夢だけど情けなかった。俺はいい年なのに泣き声をあげた。情けない…。
　見上げると　まやや　のポスターが貼ってある。　紅茶のＣＭポスターだ。
　真っ赤なドレスを着て大人っぽい　まやや　。
　彼女は１４歳でデビューして今年で２０歳を迎えた。　俺はずーっとファンだった。

　まやや　はブリッコだとか、ヤンキーだったとか、いろいろと中傷されるアイドルだった。
　誰しも彼女の年齢にそぐわない美しさとしっかりした口調に違和感を感じたのだろう。
　でも、俺は知っている。ある、ライブの時に同じ事務所の先輩のグループたちに虐められたときに、唇を噛みしめながらもボロボロと涙を流していた。
　偶然、覗くことができた楽屋裏でのことだ。
「なによ、あんなばっかり贔屓されて。どうせ、身体を売ったんでしょ。」
「そうよ、どうせすぐに飽きられちゃうわよ。」
　ステージ上ではニコニコと笑顔で仲が良さそうにしていた、そのグループ全員から虐められていた。
　１４歳の少女の瞳からボロボロと落ちる涙を見たときから、俺は一生この娘のファンでいようと決めたのだった。
　彼女のプロ根性は凄かった。司会者や雑誌記者から虐められても笑顔で耐えていた。

　そんな彼女とデートなんてできるわけない。俺は、ずーっと遠くから彼女の幸せを願うんだ。
　そのうち結婚したりするだろうけど、俺にとっての　まやや　は、あの時から少しも変わらない存在なんだ。
　でも、どんな奴と結婚するんだろう。どうせ俺なんか…

　次の日、部室に寄ったけど部長はいなかった。ドアを開けて鍵を締めた。部長は鍵を持っている。昨日みたいに開けっ放しにしておくと、田中みたいな奴が勝手に入ってくる。
　俺は明かりをつけて、いつものように　まやや　のポスターを見た。
　いつもと変わらない笑顔だった…　いや…　違う。
　俺はメガネをとって丁寧に拭いて、もう一度見た。
　ニコニコと　まやや　がこちらに向かって微笑んでいる。
　あー俺はやっぱりダメだ。　まだ、あの悪夢をひきずっている。
「こんにちわ。」
　ほんのちょっぴりハスキーで、それでいて可愛らしい声で　まやや　は話しかけてきた。
　俺は、どうやら本格的に頭がおかしくなったみたいだ。
「聞こえないの？　こんにちわ。」
「え、あ、はい。こんにちわ。」俺は急いで返事をした。夢でも　まやや　に失礼な態度は良くない。
「はじめまして。私のことは知っているよね。」そういって真っ白で小さな手で俺の手を握ってきた。
　少しひんやりとしているが、柔らかくて可愛らしい手が触れた。
「あ、はい。知っています。　まやや　さんです。」
「ピンポン！正解！　杉浦麻弥で〜す。」
　いつもＴＶで観ている感じで　まやや　は喋った。
　俺は膝をたたいたり頬っぺたをつねったりした。しかし、目の前の　まやや　は消えない。
　本格的に頭が変になったようだ。
「あなたの名前は知っているの。でも、あなたって呼んでいい？」
「え、あ、はい。」
「私のことも本名の　麻弥　って呼んで。」
「わかりました　まやや　さん。」
「ほら〜　また〜　麻弥　って呼んで。」
　満面の笑顔を俺に近づけてきた。
　ふんわりと桃のような香りが漂ってきた。
　夢でも頭が変になったのでもいい。まやや　がこんなに傍にいるのだ。
「麻弥　さん…ですか？」
「麻弥　さんじゃなくて　麻弥　」
　少し頬っぺたをふくらませて怒ったような表情をする。ＴＶと一緒だ。
「ん、じゃ…　麻弥…。」
「うゎ〜うれしい！」俺の首に手を巻き付けて飛び跳ねて喜んだ。
　２０歳になった　まやや　の胸はプリンプリンと揺れた。
　まやや　はポスターと一緒でセーラー服を着ていた。
　はち切れそうなセーラー服の胸と、少し短めのスカートが悩ましかった。
「この格好、おかしいでしょ。もう２０歳なのにね。似合っていない？。」
「いえ、ぜんぜん。完璧です。美しいです。可愛いです」
「うれしい〜。」
　まやや　は頬っぺたを俺にくっつけて喜んだ。
　俺は幸せな気持ちに浸りかけたが、意を決した。
　抱きついている　まやや　を腕で引き離し、言った。
「　まやや　俺、うれしいけど、勘弁してください。つらいです。」
　まやや　は冷静な顔になって小さな声で言った。
「なにが？」
「まやや　さんは無理しています。俺みたいなダサイ男に一生懸命にアイドルとして接してくれている。でも…つらいんです。」
「…」
「これが、夢なのか現実なのかはどうでもいい。　まやや　が俺の傍にきてくれた。それだけで充分です。無理しないでください。」
「どうして…私、無理なんかしていないよ。無理しているように見える？」
「あ、すみません。違うんです。まやや　は俺なんかにはもったいないし、それに、そうやって傍に立っているだけで充分な存在なんです。」
「じゃぁ、私の気持ちは？」
「いえ、俺をファンのひとりとして接していただけるのは、うれしいのですが…俺、ふつうの　まやや　ファンじゃないんです。」
「どういう意味？」
「俺はアイドル研究会なんかにいてるけど…いままで、さんざん、まやや　のアイドルとしての才能を賛美していたけど…」
「…」
「今朝、気付いたんです。俺、本気で　まやや　に恋しているって。だから、アイドルとして無理に笑顔つくったり我慢したりしないでください。俺なんかに気を使わないでください。」
「…」
「まやや　は毎日つらい思いをしている。一生懸命にがんばっている。だから、俺の前では無理しないで、普通の女の子でいてください。それでも、俺、一生　まやや　を応援しますから。」
「…」
「アイドルとしての　まやや　も、本当の　まやや　も大好きです。だから、せめて俺の前では気を使わないでください。」
「うん…」
　まやや　の瞳から涙がこぼれ落ちた。
　俺からゆっくりと離れて、まやや　は椅子に座った。
「実はね、おにいちゃんに頼まれてここに来たの。」
「おにいちゃん？…もしかして杉浦部長？」
「そう、私のものすごいファンがいるから会ってくれって。」
「え…　えぇ〜」
「ずーっと前から話は聞いていたんだけど。あなたのこと。どうしてファンになったかって事も…」
「え…えぇ〜」
「おにいちゃんがね、一度あってみたらいいよって。最初は見ず知らずの人に合うのは抵抗があったの。でもおにいちゃんが無理にでも会えって…その意味がわかったわ。」
「ど…どういう意味ですか？」
「普通のファンじゃなかったってこと。」
「すみません。」
「どうして謝るの？私、うれしいのよ。」
「え？」
「だって、毎日たくさんのファンの人と会うけど、みんなアイドルとしての私を好きなの。もしくは…」
　まやや　も２０歳だ。自分が多くの男たちの夜のネタになっていることも理解できる年齢だった。
「あ、おれ、ちがいます。」
「わかっているわ。おにーちゃんのいうとおり。本当にふつうの私が好きなのね。」
「あ、はい。」
「うれしい。」まやや　は、今までどんなグラビアやテレビでも観たことのない、幼い笑顔を見せた。
「おにーちゃんが、本当に誰かに愛されるってどういうことかわかるか？っていってね。あなたに合えっていったの。その意味がわかった気がする。」
「そんな…」
「ねぇ、私を好きって言って。愛しているって。」
「愛してます。大好きです。」
「違う、もっと心の底からいって…お願い。」
「愛してます。」
　まやや　は１４歳からアイドルとして芸能界にいる。多くの男たちが誘っただろう。多くのファンが気持ちを伝えてきたのだろう。だけど、彼女は孤独を感じていた。
　肉親の愛情には充分に満たされていたけど、女性として愛されることはなかった。商品としては愛されただろう。でも、まやや　は２０歳になって異性に本気で愛されることを望んでいたのだ。
　そりゃ、彼女の美貌と性格だ。多くの男が本気で彼女を愛しただろう。でも、彼女はアイドルだった。近寄ってくる男を信用することはできなかった。

「うそでもいいから、もっと言って。」
「うそじゃないです。まやや　…いや、麻弥、愛している。」
　まやや　は俺に飛びついてきた。
「うれしい！　もっといって！」
　彼女の柔らかい胸が気持ちいい。だめだ、欲情してしまう。
「だめだって、まやや　俺も男だよ。へんな気持ちになってしまう。」
「へんな気持ちって？」すこし悪戯っぽく　まやや　は言った。
「だって、俺、女の人に抱きつかれたことなんてないし…それに…匂いがして…」
「え、何か匂う？へんだな〜　なにもつけていないけど…」
「いや、とても良い匂いです。」
「へぇ〜」俺の顔を見上げながら　まやや　は恥ずかしそうな顔をした。
「それに、まやや　とても柔らかいし…」
「う〜ん、すけべ！」また、いつものアイドル口調に戻った。きっと身に染みついているのだろう。
　俺は少し笑った。
「なに？　なにかへん？」
「え、あ、可愛すぎて…」
「２０歳だと似合わない？」
「ううん。可愛いです。素敵です。」
「ねぇ、キスして。」
「へ？」
「何度も言わせないの。」
「あ、はい。」まやや　のペースにはめられた。
　目を閉じて顔を近づけてきた。
　俺は急いで服の袖で口を拭って、　まやや　にちゅっとキスした。　一瞬だけど薄くてひんやりとした唇の感触を、俺は生涯忘れないだろう。
「あああ！　唇にしたぁ！」まやや　は真っ赤になった。
「え、だって！」
「頬っぺたに決まっているじゃないの。ばか！」
「え、そんなぁ」
「ファーストキスだよ。」
「だって、映画とかでは…」
「あれは吹き替え。」
「え？　本当？」
「あ、信じないんだ。」
「すみません。」
「生まれて初めてのキスなんだよ。どうするの！」
　テレビで観るブリッコでも大人びた　まやや　でもなかった。　２０歳だけど、あの時のように少女のような　まやや　が耳まで真っ赤になりながら怒っていた。
　いや、あんまり怒っていない。うれしそうだった。
「私ね。ママやパパのように、本気で愛し合わない限りキスとかしちゃあダメだって思っていたの。」
「と、いうことは…。」
「そう、責任とってね。本気で愛してる？」
「もちろんです。」
「じゃあ、ちゃんとやりなおして。」そういって瞼を閉じて唇を突き出してきた。
　俺はそっと肩に手を回して　まやや　を引き寄せた。
　まやや　の肩が小さく震えている。　強がっているけど怖いんだ。
「無理してない？」
「何回もいわせないの…　ちゃんとファーストキスをしてください。」
　俺を見上げて見つめて真顔で答えた　まやや　はやっぱり少し震えていた。
「大丈夫だよ。」俺は　少し身をかがめて　キスした。
　ひんやりとした唇をこじ開けると、熱い唾液を感じた。
　実は俺もファーストキスだった。なにをどうしていいのかわからない。キスなんてＡＶでしか観たことがない。
　小さな顔を押さえるようにして唇をこじ開けて舌をねじ込んだ。
　まやや　も小さな唇を開いて舌を絡み付けてきた。
　舌先に触れると、まやや　の身体がビクッとうごく。
「私はこれでいいの？」
　まやや　の真っ白な肌がピンク色に染まっている。
「痛くない？」
　俺は夢中になりすぎて、　まやや　の舌を思いっきり吸い込んだりしたのを反省した。
「うん、キスって気持ちいいね。」
　恥ずかしそうにしながら、　まやや　から俺の唇を求めてきた。
　ＴＶで唄っている　まやや　の顔を思い出しながらキスをした。
　あの、人形のように真っ白で穢れのない　まやや　とキスをしているのだ。しかも、かなり濃厚なキスだ。
　まやや　の唇の端から唾液がこぼれ落ちる。

　やばい、勃起してきた。　俺は短足だ。まやや　の股間と俺の股間はちょうど同じ位置にある。
　キスに夢中になっていて、二人の股間は近づきすぎている。
　微妙な感じで　まやや　の股間と俺の股間が接触する。
　まずい。　勃起していることに気付かれたら…
　そう考えていたら、　まやや　が俺の背中に手を回してきた。
　貪るように俺の口の中で　まやや　のちいさな舌が動きまわっている。
　まやや　はさらに強く俺にしがみついてきた。
　俺は腰だけ引いた変な格好で、まやや　の唇の感触を楽しんでいた。
　まやや　が顔を引き離し、俺の顔を舐めはじめた。
　俺の分厚い唇を丹念に舐めると顎や頬っぺたを懸命に舐め続ける。
　まやや　の唾液が温かくて気持良さを倍増してくれる。

　じゅるじゅる…　

　まやや　の目がうつろになっている。頬が紅潮して耳なんかは真っ赤だ。
　俺にしがみついている手の力が強くなる。
　微妙な感じで触れあっている股間は刺激が強すぎる。
　俺は誘惑に負けて、　まやや　の股間に俺の膨張した肉棒を押し当てた。
　まやや　の動きが止まった。
　やばい…
「なに？　熱い…堅い…」
「ごめん…」
　俺は急いで身体を引き離そうとした。
　すると、　まやや　は背中に回していた手に力を入れた。
「このままにしていて…」「熱い…　気持ちいい…」
　この娘は、どんな性の知識を持っているのだろう。
　幼いときから芸能界にいて、ある面では早熟であり、ある面では純真無垢なのだ。
　好色でバカな作曲家に、卑猥な言葉を唄わされているのに、男と女の間にどんな行為が行われているのか理解できていない。
　高校にい行っていれば友達から性の知識を教えられるのだろうが、彼女にはそんな話をする友達がいなかったのだ。
「なに？　これ？　温かくて　堅くて…　きもちいいね…」
　まやや　の腰が少し動いた。「あん！」
　俺はスエットをはいていたので、セーラー服のスカートの布地越しに　まやや　の脚の付け根の敏感な部分が擦り付けられているのがわかるような気がする。
「こうしていると気持ちいい…　あん！」
　俺の肉棒に、一番敏感な部分を押しつけようとして　まやや　の腰がクネクネと動く。
　さすが、ダンスのレッスンをしているだけのことはある。　そう、まるであの曲の振り付けのように腰がいやらしく動く。
「そうだったんだ…　この動きって…　あん！　こういうことだったのね…」
「う！」俺は快感のあまり声を出してしまった。
「ごめんなさい…　痛かった？」
「いや…気持ちいいよ。　」
「もっと強くしてもいい？」　まやや　は懇願するような顔で俺を見上げていた。
「でも、この体勢はちょっとつらいな。」
「どうしよう？」まやや　は早く擦り付けたい衝動を我慢しているようだった。
　俺は背中を壁にもたれて床にあぐらをかいて座り、　まやや　の手をひっぱった。
　こくん　と頷いて　まややは俺のあぐらのうえに座った。　ＡＶでみた座位の格好だ。
　まやや　は俺の首に手を回して腰を沈めた。　今度はスカート越しではなくパンティー越しだ。
　薄い布が一枚減っただけで感触が違う。　まやや　の温かさが倍増した感じだ。
　俺は座ったときにスエットを脱がなかったことを悔やんだ。それほど　まややが腰を擦り付けてくる感触は大きかった。
　時折、セーラー服の胸の合間が見える。真っ白なブラジャーにはちきれそうな乳房が包まれているのが見える。
　それが苦しそうに揺れている。
　乳房は真っ白で薄く青い血管がうっすらと見える。玉のような汗が、つーっと谷間を流れた。
　まややは一生懸命に腰を動かしている。髪の毛が汗で湿って額にはりついている。
　息が荒くなっている。
　まやや　の首筋あたりから甘ったるい匂いがむんんむんと発散されている。
「あん！　あん！」すこしハスキーな声が俺の耳元で時々こぼれる。
　これは夢か？
　まやや　の腰の動きが少し速くなった。ぎゅーっと擦り付けて腰が激しく動く。
　倒れてしまいそうなので、　まややの背中に回した腕を引き付ける。
　まやや　も俺にしがみついてくる。
　大きな胸が柔らかく俺の胸に押しつけられる。
　まやや　の腰だけが激しく動く。太ももに力が入って俺を強く挟み込む。
「なに？　あ…　だめ！　なに？　これ？」
　俺のあぐらの上で逃げるような動きに変わった。それでも、股間の一番敏感な部分が離れそうになると押しつけてくる。
「あ…あ…あ…　だめ〜ぇ　えええ…」
　突然、　まややの全身の力が抜けた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」苦しそうな息遣いをしながら、俺の頬に自分の頬を擦り付けてきた。
　俺の唇を探しているようだった。
　ぬちゅ…
　まやや　の厚い唇と舌の感触が襲ってきた。

　実は、何度も射精しそうになった。でも、快感が強すぎた。俺の亀頭はスエットの中でギンギンに膨らんで射精したがっていたができなかった。
　肉棒の先っぽが詰まったような感じで、俺の肉棒はいつもより倍近く太く勃起している感じになっていた。
　あばれた　まややを抑え込もうと動いていたときに、スエットが半分脱げかかった状態になった。
　スエットとパンツから亀頭の部分だけが少し顔を出している感じだった。

　まだ、ゆっくりと　まやや　の腰が動いている。
　パンティーがじゅくじゅくに濡れているようだ。亀頭はさらに大きな快感で射精を抑え込んだ。
　いつものオナニーでは超早漏なのにどうしたことだ？
　そういえばこの一週間はオナニーをしていない。溜まりにたまっているはずだ。なぜ、射精できない？
　でも、射精してしまったら　まやや　に嫌われるかも知れない。俺の精液の匂いは強烈なのだ。