奥様は接待秘書　浩一 作
１　極秘接待の女

　日付が変わり時計は午前３時を回っていた。
　５月２４日、日曜日の未明とはいえ都内の真っ只中と思えぬ静けさだ。

　不夜城六本木からもほど近く、通りを曲がれば入り組んだ坂のある路地。
　港区元麻布、小国の大使館さえ景観に埋もれる古さびた趣のリッチな住宅地だ。
　その一画に木立に囲まれた(株)リソナグループの迎賓館があった。

　人を拒絶するかのような煉瓦塀に鉄格子のはまった窓、不透明なガラスに開いたままの鎧戸。
　車一台がやっとの狭い路地奥にある総門構えの洋館がそうだ。
　その半地下駐車場は構造上外部から完全に隔離され、乗降する者の姿を確認することは出来ない。

　未明にまで及んだ、極秘接待は一段落がついたのか。
　関係者はてんでんに立ち去り、狂宴は静々と幕を閉じつつあった。
　ただ一人の女を除いて。
　光田緋紗子、この夜の主役だったはずの女だ。

「先輩ぃ…！待ってぇ…待ってくださ〜い…！」
　時代がかった建物が醸し出す粛然さからは場違いな声を上げ、パンプスの靴底の音を響かせて、緋紗子に後輩の見習い中の社長秘書、高桑香里奈が勝手口から駈け寄る。

　衣類の一式を持ち、肩下までの髪を揺らせ、オレンジ色の開衿のＴシャツ、白の極端なローライズの短パンから、ヒモパンティの上半分が見えていた。

「急に帰るなんて、なに怒ってるんですか、先輩ぃ…！」
　緋紗子は下腹辺りから引き裂かれた赤地に黒のミニドレスの裾を隠すように、送迎のレクサスＬＳの開いた後席ドアの側に立ち止まる。

　秘書室の先輩として、緋紗子にとって入社前から面倒見てきた新卒の後輩と、この場でまた顔を合わせるのも、さすがに気分穏やかではなかった。

「怒ってなんかないし。ただの、お節介だと言ってるだけよ」
　接待秘書の身で怒りを表しても仕方ない。

　レイプ後の被害者のような身なりのまま、緋紗子はそう思う。
　この迎賓館を支配しているのは、中谷由香利と言う社長秘書室の室長で、この迎賓館を束ねる女帝だ。

「由香利が、これで帰れって、そう言ってたんでしょ…！だからこの格好で帰る。文句なんかないでしょう…！」
　妹分の香里奈に気色ばんでも、仕方ないは分かっていたけど、憤りが押さえきれずつい口に出てしまう。

「だからぁ…！元は先輩が、由香利先輩の言うこと聞かないからじゃないですか…！」
　本当に、香里奈というこの娘は、育ちが良いのか女社会の軋轢が分からない。

「香里奈…！いつからそんなおバカになったの。シャワーひとつ使えなくったって、そんなの気にしなくたっていいの。そう全部ぅ、わたし宛の嫌がらせなんだから」
　そう、度が過ぎた由香利のいたずらと言うよりいじめだった。

　付着した精液が乾燥しこびりついた髪。
　淫らな性行為の痕跡を残した姿、着替えの衣類は捨てられ、脱ぎすてた下着類さえ手元に無かった。
　残された腹部から刃物で引き裂かれたミニドレス姿で主人の元へ帰れとは、いっそ素っ裸で帰ってやれば…。と、緋紗子は思う。

「だから、私の衣類を代えに使って下さいって言ったのにぃ…！」
　気持ちは有り難く分かるけど、それこそ負けを認めることなるし、香里奈を巻き添えには出来ないでしょう。と、声には出さないが、またそう思うのが情けないか。

「ふふふ、香里奈はわたしが腹を立てて、当てつけに素っ裸で帰るとでも思ったの？」

「は〜い、先輩のことですから、なにをしでかすかぁ…妙にハイですし」

「ふふふっ…！例え仕事としてだって男とセックスに満ち足りてる女は、そんなことにいちいちと腹を立てたりしないのよ」
　清河という男と５時間に及ぶ肉体の盛宴に、身も心も燃焼し尽くしたはずなのに。沸々と抑えきれぬ情念、清河と由香利の関係が脳裏をよぎる。

　心に住み着いた魔物が騒ぐのか。
　いっときの由香利への対抗心に、全裸でも構わないという露出性衝動はなんだったのだろうか。
　昨夜からのアルコールは遠に抜けるほど時間が経っているはずなのに。

「そうですよね、お家であんないいご主人が待ってるのに、由香利先輩への当て付けに素っ裸じゃ帰らないですよねぇ…？」

「おバカ…！女の意地ってのが香里奈にゃ分からないの。それに替えのパンティくらい持ってるわよ」

「へへエ…でも、その先輩のパンティは…と、呼べない代物じゃないですかぁ〜？」

「だから、シースルーの下着のどこがいけないの…？。たかが接待秘書に身に、セクシーなドレスや下着など、裸身を被う包装紙のような物でしょ。それをいちいちと…！」

「だからって先輩もぉ、ゴタゴタともめ事、起こすことないと思いますけど」

「女子大出のお嬢様育ちには分からないのよ。なにが一流企業の対面よ。
　権威や堅苦しさが良ければ、銀座の超高級クラブか祇園の揚屋で良いだけの話しでしょ。
　顧客様がなにを求めてるか由香利には分かってないのよ」

「もう、分.か.り.ま.し.たぁ…！先輩の意地っぱり、社長だって困ってらっしゃいますよ。
　これ今回６時間の実務給２４万円と社長功労賞の５万円、いい絵が撮れたってご満悦でした。
　それにこれ、私からご主人に先日の御礼でぇ〜す」

　手渡されたのは現金封筒とは別に３２ギガのＳＤカードだった。

「なにこのＳＤカード…？」
　緋紗子が尋ねる。

「先輩の、ご活躍が録画されていますから、社長にはご内聞にお願いしま〜す」
　香里奈は妖しげな微笑を浮かべそう言った。

　なにがご活躍だ、余計なお世話だ。
　枕営業で一晩３０万円も稼ぐ何とか言うＡＫＢの小娘にも負ける金額だが、労働に対する正当な報酬だ。
　緋紗子は接待秘書のならいに笑顔で受け取り、バッグの中に忍ばせた。

「あっ、先輩すご〜い…！その胸のオッパイのとこ、キスマークですよね。そんなの付けられて帰っても、ご主人、なにも言わないのですかねぇ…？」

「な分けなんてないわよ。香里奈ちゃんに録画データ、頼んだの主人でしょ…？言っておくけど、決して、してはいけないことなのよ」

「ヘヘッ…！分かってますけど…先日、ホテルのディナーをご馳走になっちゃって」

「なっちゃって、てぇ…！うちのと…？」
　思わずその人懐っこい香里奈の顔を凝視した。

「先〜輩ぃ、怒ってらっしゃいます。ホテルっても食事だけですから、本当に食事だけなんですから。
　酔ってたからマンションまで送ってもらっても、怒らないですよね」

「それくらい、主人も自由にしてるわよ」

「ご主人を部屋に上げてもですかぁ…？」

「もう、からかわないで。主人なら女性一人の部屋なんかに入らないわよ」

「ご主人ならそうですよねぇ先輩ぃ。この録画、最初のところの顔射に精液ゴックンとか刺激的なとこ切っちゃてますから、見て下さいね。
　ご主人とご一緒にぃ…！」

「そう、そうよね。あんなの見られたら、主人になにが仕事だって疑われるわね」

「フフッ…由香利先輩には秘密ってことで、よろしくで〜す」

　この小娘がと暗澹たる気分だった。
　主人も主人だ！ひとが肉体を相打っての接待の最中に、後輩秘書を誘ってディナーだと、なにが録画データだ。
　脳天気な夫にも言えぬ陰湿な女社会のいじめ、今回の件も由香利が仕向けたことだ。

　社長の愛人としての寵愛、高卒というしがらみ、確執から社長秘書を辞したが、由香利の仕打ちは収まらない。
　美女軍団と呼ばれる社長秘書室の主任で、年齢は２７と緋紗子と変わらないが有名お嬢様大学出身の先輩秘書だ。

「先輩のご主人って、いいですよね。優しくって、包容力があって。
　先輩のこと分かっていて自由にさせてくれて、日本人にいないですよ。
　あっ、そうだ…！先輩のあのウワサ、先輩の元愛人ってやっぱし黒人だったんですね。
　それも複数、やりますよね。
　ご主人にそれとなく聞いたとカマ掛けたら、由香利先輩が教えてくれたんです。
　大学も出てないくせにって、でも先輩の方が英語お上手ですよ。やっぱし実戦英語って違うし…」

「わ、分かったわ…！ありがとう。で、香里奈ちゃん、社長は…」

「先輩、聞いて下さい。社長ってひどいんです。
　先輩のをモニターで確認するんだって、バックからですよ。
　それもよほど先輩のを見て興奮したのか、早漏の５分だから５万円のお小遣いでいいだろうって、クソな親父ギャグに不満プンプンです。

　だから仕事とはいえ、先輩の熱い肉体の交わりをバッチシ拝見させてもらいました。
　清河さんのあの肉体に５時間も責められ、やられまくりって、私、先輩が満ち足りている気持ちって分かるんです」

「香里奈ちゃん分かった。そう、イヤになるほど満ち足りてるの。だからどうなの？」
　香里奈は話し出すと止まらない。

「だから、満ち足りてるって、うらやましいなあって言ってんです。
　先輩、清河さんの中出し、凄かったですよね。先輩を両手で掻き抱き、お尻の肉がこう小刻みに上下に動いて」
　香里奈は両の手でさも人を抱くように輪を作り、男が抽挿のときの腰の動きを真似ていた。

「もほう…っ、なによ…！ふふふっ…その腰の動かし方は…」
　緋紗子は苦笑するしかなかった。

「先輩ぃ…！でも、満更でもなかった…！んでしょ…？言っちゃえ、このぉ…！」

「ん、まあね。…てか、そのときはもう…」

「先輩が清河さんの隆々の厚い胸に抱かれ、中に射精されたそのときに、熱い精液の噴射に身をのけ反らし、逝くときの先輩の顔って…！」

「ふふふっ…やだぁ、香里奈って」

「ああっ、接待秘書っていいお仕事ですよね。
　清河さんてどうしたらあんなに長く激しく出来るのか、やっぱりシャブ…あ、隠語っていけなかったんですね。
　…中枢神経系の活動を増加させる薬物の…メタンフェタミンのおかげですかね」

「だから、香里奈ちゃん、社長は」

「先輩ってぇ…！まだ愛人辞められても、社長のことが気になるんですね。
　それ、ご主人にも失礼だと思います。
　別れた男を心に残すなんて、先輩の女としてのだらしないとこだと思いますよ。
　だから由香利先輩も…」

「香里奈ちゃん、由香利のことはどうでもいいの…」

「分かってま〜す。社長はあんな男に付き合えるかって、さっさと由香利先輩と帰っちゃいました。きっと今頃は由香利先輩相手に…」

「変に勘繰らないの。分かった」

「でも社長、やっぱし先輩のこと、超、絶、気にしてた見たいで〜す。
　先輩の接待って見ていても好き者同士が、本気になるのがよく分かりますから、だから社長もたまらないんだとおもいますよ」
　好き者同士ってなにを言うのよ、この訳知り顔の小娘が…。

『主人かぁ…』社長なんかもう、なんとも思ってやしないのに、清河相手だと我を忘れたのが情けなくもなる。
　話の途中になんだか体の中のバッテリーが切れかけたのか、香里奈の一言に由香利への苛立ちやハイな気分がすっ飛んでしまった。

「そう、じゃ…後、頼むね。
　清河さん、夜まで目は覚まさないと思うけど、何かあれば警備の人にね」
　緋紗子はもう逃げるように話を切った。

「は〜い、分かりました。
　お気をつけて…ご主人とは、仲良〜くお願いしま〜す。
　次は香里奈にもご乗車下さ〜いって…」

　なんだろあの娘、ホントにうちのと、なんにもなかったのだろうか、考えても仕方ない。
　下らない話に付き合っては遅くなるばかりだ。緋紗子はレクサスの後席に乗り込む。
　昨夜から食事もろくに取ってはいないからか、疲れがどっと出てきた感じだ。

「先輩っ、お疲れのところ申し訳ありませんが、２日の休みで次はいよいよあの大物です。
　体調管理、くれぐれもお願いしますね」

「言われなくても分かってるわよ」

「やり過ぎにご注意下さ〜い。ご主人には、バットさばきも元野球選手に負けないでって、お伝え下さいね」
　香里奈がまだ閉じられてないドアから顔を入れ、緋紗子に妖しく微笑む。

「分かってるだろうけど、宏樹…！先輩に変な気、起こすんじゃないよ」
　運転手を務める長谷川に、香里奈は尊大に声を掛けた。

　なにを言い出すのか、このおバカ、時間がもったいなかった。

　香里奈はＶＩＰ客の送迎のように、うやうやしくドアを閉め腰前で両手を組み、横に立ち優雅に頭を垂れた。

「ヒロ君、お願いね」
　緋紗子は配属されたばかりの、期待なき新人社員にやさしく声かけた。

　煉瓦塀の鉄扉が開き、レクサスはスルスルと動き出し、西大井にある緋紗子が住む会社借り上げのマンションに向かった。

　レクサスＬＳといっても社長の元オーナーカーだったせいか後席は広くない。
　マッサージ機能の付いたセパレートシートが好みなのに、社長は新人の長谷川には運転させたくないみたいだ。

「ヒロ君、足、伸ばしていいかな…」

「は、は、はい…！」
　緊張を隠しきれない返事に、緋紗子は脚を組んだまま、後席のパワーシートをスライドさせた。
　座面が前へとせり出す動きで、裂けた裾がハラリと開いた。
　白いムッチリとした太ももの奥深くまでが露出し、ハイヒールの足先は前席コンソロールまで伸びていた。

「た、た、大変だったすね。ろ、録画って、彼女、なに考えてんだか…」
　長谷川がどもりながら話しかける。
　緋紗子がその声に前に目をやると、バックミラーに足先から太ももに、らんらんと目をやる長谷川の顔が映っていた。

　緋紗子は苦笑を隠し、裂けたミニドレスの裾を指で伸ばした。

　録画、ＳＤカード、偶然耳にした言葉に長谷川は混乱して、脳裏から、清河という男と情交を結ぶ、緋紗子の性接待の映像が浮かんで離れない。
　せっかくの２人きりのチャンスに、とにかく気を引くような話しをしなければ…と。

「ひ、緋紗子さんの接待相手って、ヤツっすよね。マッスルモリモリつう元野球選手の…」
　まずい、長谷川はのっけからこんな話しをするつもりはなかったのだが。
　ただ白い生足に目が行ってしまって。

「緋紗子さんって年齢より若いから、太ももがチラリと、そのドレス似合ってて、風俗だとスリットみたいで、俺、好きっすけど、もう着れないっすよね」
　とりあえず、通い慣れた場末のキャバクラで見るようなミニドレスの破けを褒めてみた。
　バックミラーで確認しても、押し黙る緋紗子の表情は変わらない。

　長谷川は気まずく、なんとか気を引こうと思いつくままさらに話しかけた。

「なんか車内臭うんで、外気入れちゃっていいっすか…！」

「バ〜カ…！男の臭い、気がついても言葉に出さないの…」
　緋紗子の返事があった。
　が、長谷川は口にした言葉を後悔した。
　そういうつもりじゃなかったが、広いレクサスの車内でも意識すればするほど男の精臭がした。

「そ、そんな…！俺の部屋なんかもっと臭いっすし…」

「ふふっ…ヒロ君のバ〜カぁ、フォローにもなってないわよ」
　緋紗子はこの新人のバカっぷりについ笑ってしまった。

「すいません、薬物常習者なんすってね。みんなマスコミに漏れたらって、ピリピリっすし。
　あれ、緋紗子さん帰りノーブラっすか…！」
　苦笑を続けるしかなかった、さすが新人類の長谷川だ。

「そう、下着は勝手にどっかへ消えちゃうし、シームのストッキングなんて伝線でボロボロ…」

「ああっ…！ストッキングを脱がずにやったんすね…？だから、素足にハイヒールなんすか。俺、生唾ゴックンです」

「分かってても言わない。バックミラーで覗かない。着くまで黙ってて…！」
　またしくじったのか、緋紗子の不機嫌な物言いに、長谷川は頚をすくめたが２分と持たない。

「さっき、シースルーって聞こえちゃったすけど、緋紗子さんの下着って、ウワサどおりＴのＧストリングのなんすか、迎賓館にまだ残ってるっすかね」

「残ってれば香里奈が処分してるはずよ！」

「あの、仲間うちの伝説なんすけどね、秘書室の女性って、みんなＴバックのパンティ着用してっすよね…？。
　お尻のライン注視しても分からないすし。ヒモがお尻にくい込む感じって、どうなんすかね」
　地方議員の孫だと聞いた。縁故入社としても、こんなの良く採用したと緋紗子は思う。

「香里奈か…聞いてみよっかな。彼女、ゼミの高桑教授のお嬢さんで今年入社の同期なんすよ。
　しかも出世頭、俺、狙ってたんすよねぇ。
　まあ、帰国子女で英語で困ることないすし、ハーフの超美形だから、社長の目に止まりますよね」

「ヒロ君って、ユトリ世代の代表みたい…」
　少しトゲはあったが、暗にその無神経さを、緋紗子は揶揄した。

「俺が、世代の代表すか…！そんな風に緋紗子さんに言われたら、うれしいっすね。
　あっ、そうだ。さっき彼女が言ってたのホントっすか…？緋紗子さんの…っ、元愛人が黒人だって…残念す。
　ご主人は本当になにも言わなかったすか…？俺、許せないっすよ」
　なに言ってんだろ。この男…。よほどのコネ入社か７不思議のひとつだ。

「ヒロ君…！疲れてんの、着いたら起こして…」
　緋紗子はシートを更に倒し体を斜めに、組んでいた脚を下ろして、閉じるようにヒザを合わせた。

「あっ、すいません…！俺、しゃべりだとよく言われっすよ。でも、彼女よりマシっすよね…余計なことは言わないし…」

「ヒロ君、黙ってて…！」
　長谷川はやっと、しゃべりをやめた。

　バックミラーで後方確認のたび、後席に座る緋紗子が、長谷川の視線に入る。
　胸元を大きく開けたエロチックすぎるノーブラのミニドレス。
　豊満な白い乳房にポッチリとピンク色の乳首が目に焼き付いて離れない。
　睡っているのか、疲れからか浅く座りずっと目を閉じている。

　ミラーを下に向けると、緋紗子のヒザは少しずつゆるみ、裂けた裾からチラリと見える下半身は、薄暗い車内にパンティさえ着けていないかのように見えた。

　長谷川は震えた。後席の足もとを広げようと助手席を前いっぱいに動かした。
　徐々にと余裕の出来たヒザ辺りが緩み、運転手席から覗けとばかりに、緋紗子の右足がガクリと崩れた。
　通過する街灯に照らされた、白い、本当に白い太ももの奥に、極細ヒモの黒く透けた小さなパンティが見えた。
　拍打つ鼓動に心臓が飛び出しそうだ。

　未明の走行車のない裏道を時速３０キロを厳守、普段なら止めない黄色信号で停車する。
　マップランプを点灯し、バックミラーで目を覚まさないのを確認し振り返った。

『長谷川宏樹、２３歳、大学卒業後この会社に入社できたことを神に感謝します』
　心の中で叫んだ。太ももよ開け、太ももよもっと開けと、魔法の杖はないがハリーポッターを真似て指を振り念を送る。

　ああ、透けている。
　三角に、本当に小さく三角に手入れされた恥毛が…影のように黒い淫裂、先のあれがクリととりす…？クロッチの部分がほとんど無い。
　伝説のＧストリングのパンティだった。

　ああ、もう前がカチカチで、鈴口からよだれを垂らしていた。
　長谷川に、このまま緋紗子を連れ去って、思いを遂げたいと欲望が疼いたが香里奈が恐い。

『緋紗子さん覚えていますか、１次が通って２次面接の時です。
　秘書だった貴女に声かけられた。
　俺は、俺はそのときから貴女の、貴女の大ファンです…！。
　たとえ、接待秘書として、あんな愚劣な元野球選手に抱かれてもです。
　あの野郎、血液検査を受け診断書まで出して、緋紗子さんに中出しを迫ったんですよね。
　緋紗子さんも緋紗子さんだ…！俺の気も知らないで…そんなことさせるなんて…。
　緋紗子さんから精液のあの臭いがしています。寮で散々嗅いだ臭いだから分かったんです。俺…俺っ…！』

　クラクションが後方から鳴っている。
　信号が緑に変わっていた。狭い一方通行を新幹線の高架をくぐり駅前のロータリーに出ると、その先はもう、緋紗子の住むマンションだった。
【次】
あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2015年8月8日掲載
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