奥様は接待秘書　浩一 作
２　接待秘書の女

　６５インチのテレビ画面に映るその室内、古式ゆかしいマホガニー材のソファーを舞台に、我が女房殿と肌を重ね蠢く、肌黒い男の背に彫られた龍の刺青を、黄金光のシャワーが赤裸々に浮かび上がらせていた。

　煌々と耀けるシャンデリアから零れた光の粒が、時代がかった西洋風の室内を黄金色に燦めかせ。
　天井に埋め込まれた電灯色のスポットライトが、由緒ある洋館の客間を模したスウィートルームの一画を、情交に身を重ねた男女の裸体を真昼のように照らしだす。

　ちっぽけなメモリーカードから再生される秘匿録画の４Ｋ画像、
　これが天井モニターカメラの映像なのか、信じられないほど鮮明に迎賓館の室内を、そのゲストルームで行われた性接待の有様を映しだしていた。

　刺青を背負う男との情交に、聞き慣れているはずの女の喘ぐ声が艶おびて聞こえた。
　鍛え上げた筋骨の背にヤクザ者のような龍の刺青を彫り、黒人のように全身をサロンの紫外線に焼いた肌、日本人離れした巨躯の男の、女を責める超絶な抽挿が果てしなく続いた。

　女の快楽に狂う様、絶頂に声を震わせ喘ぎ男の背を掻き抱いた。

　パコパコ、パンパンと男の突き動きに、女と繋げた肉どおしが相打つ乾いた音。
　男は突き入れる調子を変えて女を責めたてる。
　尻をくねらせジュブジュルと、肉柱が女身を捏ねる音までがスピーカーから鮮明に再生された。

　肌黒い男の尻が上下にうねるたび、女は声を嗄らし悦楽に悶えすすり喘いだ。

「緋紗子…ォ」俺は女の名を口にした。

　黒々した屈強の巨体が黒靴下の両脚を割った女を組み敷く。
　力強い両の手は緋紗子の裸体を挟み自身の体重を支える。
　拍々と筋肉質の尻が女身に埋めた肉柱を抽挿すべく、真白き女体に重なり上下に蠢いていた。

　まるで異人種交合のアメリカンポルノと見紛う白き肌と黒き肌の重なり。
　女は黒レースのガーター、サスペンダーに止められた黒靴下に、真っ赤なハイヒールを履いたままだった。

　超高級娼婦としか思えぬ姿の我が女房殿は、エクスタシーに酔いつつ襲いくる絶頂の波に、もてあそばされ狂い続けた。

　恍惚と喘ぎ声を上げる、緋紗子の肉体も肌黒い男に負けてはいない。
　背もたれに投げ上げた脚と座面から落とす片脚は、すらりと足先のハイヒールまで伸び、張りある太ももは白さに耀き、量感のある乳房は重みに垂れ、男の抽挿に大きく揺れていた。

　果てしない悦楽に襲い来る恍惚感に緋紗子は顔をゆがめてはいるが、深田○子を５つほど若くした匂い立つ極上女の美貌が見てとれ、白き手は男の背に彫られた龍の刺青をかき抱き、止め処ない喘ぎを上げ続けた。

　男が緋紗子の奥深くに挿入すべく裸身を反らせたがために、その顔を一瞬カメラに晒した。
　赤黒い顔に坊主頭、筋肉隆々の胸板、まさか元プロ野球選手のあの清河と…。
　天井設置の固定カメラではそれが限度だった。清河なのか香里奈が言った男というのは…。
　覚醒剤疑惑という言葉が頭をよぎった。

　余りにも壮絶な情交に、これが俗に言うシャブマンなのか？。

　聞きしに勝り仕事としての性接待の範疇は超えていたと思う。
　裏切りの確証を得ようと握るリモコン、指先の震えが止まらなかった。
　巧妙に隠された天井設置の防犯カメラの映像の限界か。

　高所から見下ろすアングル、刺青の男が清河だと、清河がコンドームを着用してるかどうかなど目を凝らしても分かるわけない。
　男女が絡み合うソファーをフレームインさせた４Ｋ画像でなければ、ただの防犯設備の一部としか思えなかった。

　外部からの音が遮断され、閉塞した空間に響く男女の肉どうしをぶつけ合う情交を、ズームするすべもなく高精細な画面を注視する。

　ぬるみを帯びた女身に打ち込む抽挿に男の押し殺す呻き。
　押し入る男根の抜挿しに緋紗子が上げる悶絶の喘ぎ。
　絶頂に至る息づまる行為中の呼吸音さえ、埋め込まれた集音マイクが拾っていた。

　俺はリモコンのボリュームを＋に押し続けた。

「あっ…ああ…いく…ああっいくぅ…！カズさん、いくぅ…いくよぉ…あうっ…いくうううっ…」
　絶頂を迎え我を忘れた痴態に、幾度と達する感極まる恍惚の連なりに、緋紗子は確かにカズさんと男のファーストネームを呼び声を涸らし喘ぎ続けた。

「アウ、アウッ…緋紗子ぉ…アカン…アカン…！お前のんワシ、たまらんわ…！もう出るぅ…アアッ…もうガマンでけん…アハッ、緋紗子ぉ…緋紗子行くでェ…」
　この場に及んで間の抜けた関西弁だ。

　そうだろう、７６にして絶倫を誇る我が学園理事長が名器と言わしめた緋紗子が女身に、男の物が、まるで生き物のような膣肉襞にカリ首を包まれ擦られる快感に、さすが清河も長く持つはずがなかった。

　ええいくそっ…！どっちなんだ。着けているのか？生なのか？。
　重なり緋紗子に跨がる清河が迎えた射精に至るその瞬間、俺のリモコンを持つ手が焦り震えていた。

　いよいよなのか、画像を詳細に目を凝らすともよく分からないのが実感だった。

「へえ、けっこうわたし、良く映ってるじゃない。ふふっ…さすが社長だわ」
　ギョッとして振り向くと、緋紗子がソファーに座る俺の背越しに立ち、居間に鎮座する超大型の４Ｋテレビが映す画像を覗き込んでいた。

「ふふっ…もうあなたって、そんなに他人に抱かれる妻って魅力的かしら」
　声を涸らしたハスキーボイスが耳そばに。凝視してた俺への面当てか、画面に映る緋紗子が上げる喘ぎ声の中、不覚にも声かけられるまで気づかなかった。

「なんだ、もう風呂から上がったのか…！」
　照れ隠しにリモコンの一時停止を押し、平然を装いそう言ったものの、時間の経過からして、俺の言葉は間抜けそのものだ。

「ううん…停めなくてもいいのに、いいとこだったんでしょ」
　確かにいいところだったのは間違いない。が突然、当事者である女房に後ろに立たれたらドギマギとしてしまって。

「きれい…！迎賓館のこの部屋が宮殿のように映ってる」
　緋紗子は一時停止の画面に見入った。静止画が美術写真のように黄金色に輝く室内を写しだしていた。

　ただし緋紗子の重なる男の尻までが超リアルなのはマイナス点だが。

「社長らしいでしょ。防犯カメラを全部４Ｋに変えたの」
　確かに、あの南野社長ならやりそうなことだった。

　確かに、この迎賓館と呼ばれる施設は異常だ。
　表向きは社員の福祉施設だが、実態は政財界から芸能関係者までの極秘性的接待所として使われていた。

　防音に徹した室内に設置された最新設備。
　集音マイクにモニターの４Ｋ録画といい、施設としての防犯機器とはかけ離れていた。

　(株)リソノ、今をときめく大手派遣企業、その迎賓館の一室で行われた極秘接待の録画だった。
　人材バンクといえば聞こえは良いが、政財界の有力者を取り込み急激にのし上がった企業の秘匿部門の一環だ。
　(株)リソノ社長、南野正道こそ、我が最愛の女房、緋紗子を接待秘書の身に貶めた男だった。

　風呂上がりの緋紗子はバスタオル一枚を巻いただけ、ボリュームのあるＨカップ級の乳房が悩ましげで、タオル地に包まれた臀部の丸っこい双肉の膨らみ、太ももから露出するすらりと伸びる両脚が男心をそそる。

　さすが女に目の肥えた南野一族が羨望し、俺を貶めてまで妻だった緋紗子を調略しただけのいい女だと、あらためて思わせた。

「ふんだぁ…！２０分は経ってるし、ドライヤーの音にも全然気づかなかったの…？」
　緋紗子がソファーの後ろから、俺の首っ玉にドリンク剤を持ったまま両手をまわす。洗い髪の匂いが鼻をくすぐる。

　ということは、俺は緋紗子と清河の性行為の録画を延々と、２０分近くは見続けたことになるのか。
　俺なら５分と持たない。
　考えようによってはあの男の持続力は尊敬に値するかと一瞬思ったりして、なにを考えてるんだ。
　バカだろ俺は自虐ネタかよ。

　昨夜からの延々と続いた極秘客の性接待に、緋紗子の帰還は午前３時半過ぎ。
　かなり荒れた接待だったらしく、自慢のドレスの裾は引き裂かれ、髪は行為の後そのままに乱れたまま、長谷川君に送られ帰ってきた。

　サデスティックな態度を取る客も稀にいる。気をつけるに越したことはないが、それが香里奈の言ってた客なのか。

　緋紗子が接待秘書の仕事を初めて１年と少し、収入は俺のバイトの一月分以上を一晩で稼ぎ出す。
　その件に関して文句の付けようがない。
　緋紗子はなにも言わないが南野社長との愛人関係も途切れたようで、俺が少し安堵した矢先だった。

「ご苦労さま、冷たい水でもどうだい」
　俺は冷蔵庫の冷水をコップに入れ、帰宅した女房殿にうやうやしく差し出す。

「もう、気を利かせるんだったら、客先にもらったあのドリンク剤持ってきてよ」

「チェ…ッ、俺、もらい物って嫌いなんだよな」

「ああ…妬かない、妬かない…！男の嫉妬はみっともない」

　俺は仕方なく、また冷蔵庫から冷水の代わりにそのドリンク剤を取ってきた。

「ああっ、疲れた疲れた。夜の９時から６時間に及ぶ接待だもんね」
　緋紗子はスクリューキャップをネジ切り、ゴクゴクと飲む。

「今夜の客って問題の人物だったんだろ」と、カマを掛けてみる。

「そう、年齢は４７歳、あなたより１０近くも上。名前は言えないけどプロレスラーのような巨体で、雑誌で薬物疑惑が報道されてる有名な人っていえば分かるかな」

　緋紗子はあの苦いドリンク剤の残りをさも美味しそうにゴクリと喉に流し、今夜の接待客について、言葉を選んでしゃべっている。
　やはり怪しい。

「俺、あんまり雑誌なんか読んでないからな」
　経験則で、話しに深く関わると、とたんに機嫌が悪くなり必ず絡まれる。

「１年くらい前に雑誌にスクープされたの知らない？政治家にコネがあってもみ消してもらったけど、この世界じゃ常識だって…」

「まあ良いか悪いか別にして、薬物常習者にゃ気をつけるに越したことはないよ」

　薬物常習者か、ちょいと前に判決の出た、俺の青春時代を飾ったディオグループの一人に思い至った。
　世間で言うシャブマンに、はまった芸能人は数知れずか。

「お湯が沸いているから風呂に入ったらどうだい」
　会話をとぎるように言った俺を、緋紗子が不自然に見る。なにが気に障ったのか？。

「もう、食事も満足に取らず働いて帰ってきたというのに、どうしてすぐに風呂に追いやるかな。
　明け２日も休みがあんだから、急がせなくったって、あなたの相手ぐらいしてあげるわよ！」
　と、大凶の当たりくじを引いちまったよ。
　参ったなあこりゃ。

「そんな、こんな遅くに食事を取らずに帰ってきたなんて、誰が分かるかよ」

「あっ…！じゃ、わたしがいない間に誰かさんとお食事って、どういうことなの」
　やばいぞこれ、緋紗子はトゲのある言葉でそう言って、メモリーカードをテーブルの上に放り投げた。

「これ…？なにかな」
　ひょっとしてと思いながら、しらばっくれる。

「そう香里奈から、燃えない旦那様へのプレゼントだって…」
　約束に応じてくれたんだと、俺はそのＳＤメモリーカードを手に取った。

「えっ、香里奈ちゃんから…？」
　内面から湧き出る旺盛な好奇心を押し殺し、俗世間を知らないふりを通した。

「なんだろ３２ギガか、この小さいのにすんげえ時代だよな」

「バ〜カ、香里奈ったら夫婦仲良く見て下さいってさ。どういうこと…！」

　それから夫婦間のひと悶着があって、髪結いの亭主は女房殿へお夜食のお世話と。
　風呂に入った緋紗子を見送ったと思うと、いつもの長湯じゃなくすぐに上がって来たかと思えばだ。

　まさか香里奈の言った通り、夫婦仲良く並んで他人様と女房自身が主演する本番映像を、俺の側で見る気なのか。

「は〜い、あなたも寝てないんでしょ。これでも飲んで」
　緋紗子は冷蔵庫から例のヒーロー回復ドリンク剤を持ち出してきた。

　どうしてもこのまま寝させてはもらえぬらしい。暁月夜に東の空が白み始めた頃だというのに。

「長谷川君が明後日は午後五時半に迎えに来ますって、念を押すところを見ると大事な接待なんだろ」
　空け２日の長丁場だと睡眠不足を口実にささやかな抵抗を試みる。

「ふん、セックスにお仕事とプライベートは別、あなたとしたいのよ。
　お仕事のセックスなんて、わたしとあなたの愛の営みの前戯みたいな物よ。
　接待明けの連休だから覚悟しといて、若いだけが取り得の女に、わたしの愛するご主人様がちょっかい掛けられたとあっちゃ、沽券にかかわるの」

「それ、香里奈ちゃんのことを言ってんのか…！」

「ふふふふっ…わたしのお仕事、見たいのなら男らしく言えばいいのに。
　ねえ、理事長のじいちゃんに言ってさ、コレクションのビデオん中から、あんときの黒人としてるの借りてきてあげようか？まだ見てないんでしょ。
　社長の自家撮りで、あの頃は中出しだからそりゃぁすごいんだから」

「バ〜カ、今さらそんなこと言うんじゃねえ。
　誰がアフリカの黒人野郎とのなんか…！。
　アイツら南野一族から借りを作る気はないし、緋紗子がその気なら俺が相手してやるよ」
　と、ドリンク剤を一気飲み。確かに元気になる気がする。

「うふふ…わたしの愛する強〜い旦那様ァ。
　このドリンク剤ってさ、こんなに疲れが取れて元気になるって思わなかったでしょ。
　試供品だってまた送ってもらおうかな。いいでしょ」

「スッポンパワーの赤マムシドリンクか、すごいネーミングだよな」
　左手の指先でラベルのとこをクルリと回す。
　成分表などの表示がない。
　試供品ねぇ、前に顧客から緋紗子がもらった物だ。
　顧客の言葉によると１本３千円はするらしい。
　確かに良く効く。

　緋紗子が背越しに俺の手からリモコンを取り上げ再生のボタンを押した。
　一時停止の映像が緋紗子の喘ぎ声の中、再び動き出す。
　これがＡＶなら愚作だろ。斜め上から撮したその場面しかない。

　そのときだ。

「アオウゥ…ウォ…！緋紗子ォ…」
　清河だろう男の寸前の咆哮、思わず力が入る。

「ああっ…カズさん、きて…きてぇ…！はやくぅ…はやくうっ…」
　緋紗子は茶化しては見ていたが、背越しに緊張が伝わる。

「出るぞォ…！緋紗子ォ…出るゥ…ウウッ…ゥウ…！」
　清河の射精の瞬間、緋紗子がいっとき息をするのさえ忘れた。

　生映像の確かな迫力だった。尻の動き、清河が射精に感じ入っていた。

「ああっ…カズさん…！いくぅ…またいくぅ…！ああっ…あうううっ…つ…ううぅ…あっ…あうっ…あうううっ…ううぅ…あうっ…」
　清河の射精に合わさる緋紗子の喘ぐ音声が超リアルだ。
　思わず生ツバをごくり。

「ふううっ…！もうなにこれ、わたしってこんなに」
　吐きだした息に、気まずさに気付いたようだ。アゴを俺の肩に乗せ、照れ隠しに首っ玉に抱きつきやがる。

「プッ…こんなのを見るため、香里奈にたぶらかされたっていうの。バカ…！」
　さすがに緋紗子も、俺の前で黙って見続けるのは気恥ずかしかったようだ。

　テレビの画面にゃ清河だろう刺青男が身をのけ反らし緋紗子の中で放っていた。
　画面の緋紗子は超絶男の清河がもたらす快楽に満ちた苦悶に、逝き声高らかに悶絶していた。

　普通の交わりなら、何かしらの変化がある。
　射精後も固さを保ったまま、もう５分以上と清河は続けている。
　やはり緋紗子も知っている。尋常な顧客との性接待ではないことを。

「あの娘、どうかしてるって…」
　肩から伸びた緋紗子の手に決まり悪く見るのに集中なんて出来なかった。

　突然映像が変わった。ん、なんだ、モロに抽挿される結合部が映った。
　下手からのドアップだった。
　無毛の陰唇に肉柱を突き込む白髪交じりの丸まった睾丸がボコボコと動き、無修正ＡＶと一瞬迷ったが、そんなことあるはずなかった。
　中出しを捏ねた生クリーム状の精液に、白く汚れた男の物を突き込まれる特徴的な永久脱毛の陰部。
　淫茎上に小さな三角にトリミングされた濡れた恥毛、違和感があるが確かに緋紗子だ。

「清河…！」
　上手からの映像に、清河の射精中な間抜けなドアップ顔。

「アアッ…まだ出よる。ウッ…ツツゥ…ウウッ…」
　呻く清河がシャクリ上げる。
　緋紗子の膣肉に出入りする肉棒にコンドームの輪端さえ見えなかった。
　どう見ても清河の生挿入だ。

　黒靴下の太ももに挟まれ清河のもこりとした尻が動く、
　その間に垣間見える丸まった睾丸から、抜かず２回目の射精だというのに、いきり立つ肉柱は固さを保ち抽挿を終えることはなかった。

「一緒に見て下さいって言ってたけど、こんなのふざけてる！。こんなの主人に見せるなんてあの娘って、どうかしてるわ…！」
　清河の射精に、画面に映る自身の我を忘れた逝き声に逆らう、怒りをおびた緋紗子の不機嫌な声だ。

　俺だって興奮に爆発しそうな動悸に、清河が女房に中出しを続ける場面のどアップなんて胸くそ悪くって、つい見入ってしまった。

「あの娘、顔射に精液ゴックンとか刺激的なとこカットしたと言ってたのに…」

「緋紗子…お前、客にそんなのことまでさせてるのか？」
　確かにそんなのは映ってなかったが。

「衛生上精液飲み禁止なんて立て前よ。コンドーム着用って言われたら、生フェラから顔射、精液ゴックンの方を悦ぶ顧客も多いのよ！」

「じゃあ、なぜ清河はコンドームを着けてないんだよ」

「それは〜なんでなのかな」

「ふざけやがって、なにがコンドームの着用だよ。南野社長は知ってるのかよ？」
　俺は緋紗子にも腹を立てた。

「もう、あの娘ったら、ゆとり世代ってホントなに考えてんだろね」
　俺の顔色を見るようにして、緋紗子が話をそらせる。

　それは天井設置の固定カメラでは得られないアングルだった。
　ローアングルに仕掛けられた盗撮カメラだ。
　丁度ソファーに座る顧客の表情を捉える位置に前後して２台のカメラが追加され、緋紗子には知らされていなかったようだ。
　私的に撮られたのか緋紗子と清河のただならぬ関係を語るため、香里奈の手で意図的に挿入された映像だった。

「なによ、確かにコンドームなんか着けちゃいないわ。
　カズさんと情を交わしあう生出しの性行為よ。
　それがどうしたって言うのよ。
　そりゃ約束はしたわよ。
　あれから１年も経ってんのよ。
　お互いプライベートで好きなセックスしたって、もう構わないんじゃない」
　開き直った勝手な屁理屈だ。

　１年前、接待秘書を仕事と続ける緋紗子との暮らしを始めるに当たって、リソノ社長南野正道の仲介もあった。
　俺という男を尊重して、理事長を始め南野一族は承諾なしに緋紗子を抱かないと約束し、緋紗子には接待秘書の仕事を続けるにおいてコンドームの着用を条件としたはずだ。
　男として俺は言う。

「だったら清河とは仕事じゃないとでも」

「そうよ思ってないわ。
　清河さんとは３回目、これで最後にしよって、だから本気に望まれるまましちゃったの。
　あなただって香里奈としたんでしょ。
　そう、お相子よ。
　うふっ…あなたぁ…見てて、清河さんのセックスって本当に凄いんだから」

　なんと言うことだ。
　お相子だと、その言葉が嫉妬心に震える心にまた突き刺さった。
　香里奈の告発…？確かにどうかしていた。
　緋紗子には何も言わず会うなんて。

『ねえ〜せんせぇ、先輩っ、せんせぇの奥様のことですけど、どうかしてると思いません。
　いくら社長から高額の報奨金をせしめてからって、コンドームなしだなんて。
　接待秘書の常軌を逸しているって思いませんか？。
　せんせぇみたいな、とっても良いご主人がいらっしゃるというのにねぇ…』

　高桑香里奈、米国人の母を持ち、デビューの頃のちょっと野暮ったい滝川クリ○テルに感じが似ている緋紗子の後輩だ。
　秘書歴１年もない新卒の２３歳、これぞ肉食系という好奇心旺盛で、４０を前にする俺になにかと絡んできた。

『ねえ〜せんせぇ、気になりませんかぁ…？
　中出しのセックスなんて先生への裏切りですよねえ。
　もう先輩ったら、あの人と尋常な関係じゃないみたいで〜す。
　社長から録画するようにって指示されたんだけどぉ、せんせぇは奥様の秘密の録画映像、見たく有りませんかぁ…？』
　と、電話での誘いがあったのは先週のこと。

『教えて欲しい。あの人って誰なんだ。
　尋常な関係じゃないってどういうことだ』
　心当たり、最近、緋紗子の仕事っぷりに少し気になっていたことがあったから、そう口に出た。

『ウフフフフ…もうせんせったら可笑しい。
　接待秘書として奥様の中出しセックスより相手の方が気になるんですね。
　まだ先輩のこと愛されてんだ。
　誰が相手だってそんなの録画を見りゃ分かることじゃありません』
　確かにそうだ。
　誰が相手というよりそっちが問題だよな。

　性接待の秘密録画映像の提供、それも当事者である緋紗子の夫である俺に。
　この香里奈という娘の言うこと信用に値するのだろうか。
　いくら社長でも、約束を反故にして緋紗子にコンドームも使わない中出しの性接待を迎賓館でさせるのか。

『緋紗子は承知しているのか…？』そう聞いたことは覚えている。

『さあ、それは先輩のことですから、うふふ…それよりせんせぇ…！私のこと、もっと知りたくありません？』
　香里奈か、食事の後、酔った振りに送らされ絶って帰れず彼女の部屋だった。
　先生と呼ばれるのはつらい。

『お願いだから、先生と呼ぶの止めてくれないか』

『だってぇ、せんせえはせんせぇでしょ。うふぅ…っ』
　と、甘えるように肩を寄せられた。
　思わせぶりな振る舞い。
　薫る髪、ハーフ美女の濃厚な女の匂いが鼻をくすぐる。

　酒の酔いだけではなかったはずだ。
　それでなきゃ品行方正を絵に描いた元教師の俺が手を出すはずがないだろうに、ただ緊張のあまりかすぐに役立たなかったが、香里奈は辛抱強く口でしてくれた。

『せんせぇがＥＤだったってこと、私、知ってるんです。
　微妙なんですね。
　先輩の所為でせんせぇが苦しんだこと、もう大丈夫です。
　せんせ…！私、姉とは違うんです。だからもう逃げないで下さいね』

　会って初めて知った。
　因縁か、彼女が米国で療養中にお世話になった高桑教授の娘で教員時代の教え子、芹香の異母妹だなんて。
　緋紗子に絶対悟られてはならない。

「言いなさいよ…！香里奈としたんでしょ…？」

　風呂上がりの緋紗子の女香に、記憶に甦る若きハーフ美女の肉身の芳香。
　背に当たるボリューム満点の乳房の感触、肩にかかる緋紗子の腕から組まれた両手首は俺の胸の前、このまま絞め殺されそうな気配に身を固くした。

「み、見るなら横に座って見ろよ。せっかくの録画なのに気が散るじゃないか」
　そんな言葉が口から出てきたのは、見透かされた香里奈との関係か…。

　我ながら恐れと、自身の弱さを照れ隠しに言ったとしか思えない言葉だった。
　なのに緋紗子は素直にもその通りのことを実行した。
　香里奈が撮した秘匿映像を並んで見る。

「ねえホントに香里奈とは何もなかったのかしら？」

「だ、だから、なにもなかったと言ってるだろ」

「うふふふふっ…あなたってウソがへたねぇ…」
　そう言って俺の横で足を組み上半身を密着させる。
　白い太ももが目にちらついて、しっとりとした胸間に差し込んだバスタオルが解けそうだ。

　俺のスエットパンツの前がかつてＥＤを煩ったがウソの如く膨れ湿っていた。
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あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2015年8月12日掲載
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