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　３年越しのセフレ、美椰子に呼び出されて六本木に向かっていた。
　溜池からアークヒルズのＹ字路を右に、四丁目からの上り坂に向かって右手のスロットルを捻り込んだ。
　首都高の支柱を睨み付ける。あの間に入らなければならない。
　軽くブレーキング。右肩から落とし込むように右へ軽くリーン、路面の凹凸に注意しながら最初のコブを超えて直ぐに左へ切り返す。
　二つ目のコブで浮き上がり、下がるところでスロットルを開ける。
　右折車線の分離へ気持ち良くゆるやかなＳ字カーブを描く。
　ほんのちょっとの爽快感！
　これが直後の行動を変えさせる事になるなんて思いもしなかった。
　六本木交差点は、こんなにスムーズに分離路に入れた時は、必ず赤になるんだ。

　承知の上だったが、案の定の赤信号で、横断者が目の前を通り過ぎていく。
　小忠実な親切を重ねる事と、女の小さな変化を必ず誉めるのが、俺が女を切らさないで済む秘訣だった。
　誉められる事の少ない日本の女は、この小さな誉め言葉に弱い。
　時間に多少に余裕はあるものゝ、せっかちなヨーコはもうカフェにいるだろう？
　待ち合わせ時間に遅れる訳にはいかない。
　横断していく人々などに興味も沸かないから、特に注意も払わなかったが、その中の一人がこちらに向かって来る。
　待ち合わせの美椰子はいつものカフェで待っているはずだ。
　・寄って来る女はあまり上背はないが、コート姿はちょっと太めに見える・？
　視線はそれを避ける様に、信号の変わり目に注意していた。
　直ぐ脇に歩き寄って来て、ジェットヘルのシールド越しの俺の顔をニコニコして見ている・。
　・・・何なんだ！？
「わかんないの？・あ・た・し・よっ！」
「ミィコ？！」ショートカットに濃いサングラスをしたその顔は忘れる筈のない顔だった。・１０年以上も顔を合わせた事が無かった、その昔の彼女だ。
　あの頃はロングだった。日本髪を地毛で結えると良く自慢していたものだった。
「ボックスにロゴ入れてるんだもの、直ぐに分かったわよ。アンタは！」

　・・・飽きたと云う訳でもなかったが、後輩が「何が何でも・。」とせがむので、俺自身の面子を保つ為に譲った女だった。
「条件を忘れてるでしょう？」ミィコが口をとんがらせて云った。
「なに？」場違いな処で急な質疑に、頭が回らなくなった。

「ちょっと付き合って！」ハンドルを押されて、仕方ない。３丁目の方へスクーターを押す事になってしまった！
　・横断歩道を走ったりすると、直ぐ傍で交通整理している警官が『何時、笛を吹くか』分からないものなぁ・。
　歩道にまで押し上げると、信号が変わって六本木通りの車が走り出した。
　いつもここではセコセコした走りが多い。・直ぐに渋滞するからなぁ。
　ミィコが前触れの様に路を空けて、その跡を押していく。・ヨーコを待たせている。って云うのに！
「おい、・時間無いんだよ！」
「直ぐだよ。・どうせ女を待たせているんでしょ？」ミィコの口振りは俺の行動なんて良く分かっている。とでも、言いた気に無視だった。
　次の路地まで押さされて、ブロンティーにミィコは入っていった。
　仕方なくガードレールにスクーターを寄せてスタンドを立てて、後を追った。
「久しぶりよね！」セルフカフェのオーダー口から、入り口を見ているミィコがいた。
「・・・。」
「ブレンド？」
「カフェオレが良い。」こんな時のミィコは、勝手に走っていって仕舞うことが多いのだ。なにか、振り回されている気がしながら空いている席に着いた。
「どうせブンに待たせてるんでしょう？・あたしの事なんかとっくに忘れて！」カフェオレとブレンドを慣れた手付きで運んで来て云うミィコは悪戯ッ気たっぷりだった。

　ミィコとは何年か付き合った。・が、俺が紹介した後輩のユースケと結婚した。
　幾ら女好きの俺でも、後輩に譲った女に未練を残す訳にはいかない。
　・こいつはこの街の居付きなんだ。
　３代も前からこの街に住んで、空が見えなくなった街に甘んじている。
　女学校で裏番を張っていた頃に知り合ったんだっけ・・・。
　いわゆる『トランジスター・グラマー』って云うタイプだ。１５０センチチョットの癖に、バストにもヒップにもしっかりしたボリュームがある。

「携帯番号！」・！・俺が昔を思いだしているウチに、もう自分は携帯を出してインプットの準備をしていた。
「０９０−８８・・ー４１・・。」引き吊ろうとしているのを認識しながら、俺は応え
ていた。
「俺の番号なんて聞いて・。ユースケどうしてる？」
「３年も前に逝っちゃったわよ！」
　これは驚いた！・・・ユースケは、俺より二周りは図体がデッカク、いつもゆったりした感じの奴だった。・アイツが逝った！？
　いつも『良い女がいないよぉ・。』が口癖だった。
「未亡人って事か？！」
　こいつとでは、トンでもない凸凹コンビだ！
　だが、ユースケは此奴が俺の女だったことを承知でプロポーズしやがった！

　当時ミィコと付き合っていた俺は、ミィコをダシに色々自慢話してやった。・・・そして、『女なんて、ノメリ込むものじゃない！』が、いつも俺が最後に言った言葉だった。
　それなのに、話しでしか知らないミィコに血道上げやがって、『分かれる時には俺に譲ってくれ！』が、ユースケの答えだった。
　結局、譲る為に分かれる事にして、俺はユースケをミィコに紹介した。・そのしばらく後に『結婚する。』と、ユースケから聞いた。

　俺の方は相変わらず、相手を年中取り替えていたのだが、ミィコのあのセックスを超える女にはとうとう出会えなかった。
　今の女房だって、逆軟派された感じだったが、俺の尊敬する立志伝中の人物に『いい加減なお付き合いはするなよ！』なんて怖い目で云われなければ、まだまだ独身貴族を気取っている積もりだったのだ。
　この頃の俺は、一人の女と一生付き合わなければならない『結婚』なんて制度に、大いに疑問を持っていたのだ。
　・あの言葉一つで、俺は女房から逃げられなくなった。

　ミィコのセックスを超える女に、どうしても巡り会いたかった。
　しかし、未だにそれは果たされていない・・・。
　と・・・？・今、未亡人って事は・！
　何度かはニンフォマニアではないか？とさえ思ったミィコは・・・。
「あっ。・云って置くけど、今の処、男は間に合っているからね！」だと・・・！
　一瞬で打ち砕かれてしまった。生意気にも、俺の思っている事を先読みしたような言葉だ。

　かつての、あの味をまた味わえるかと期待した俺は、がっかりさせられた。
　こいつのセックスは、締め付けが強くて、騎乗位でのヒップシェイキングは、溜まらなかった。俺が逝こうと思わないのに逝かされたのは、ミィコだけだった。
　女房にも仕込もうとは思ったが、こいつには素質がなかった。
　俺に良いセックスを身に付けるには多少ならず突っ張っていなけりゃ無理だ。
　俺自身にも信じ難かったが、セックスの感覚にはデリケートな俺だった。騎乗位で突き手に体重を掛けられると、俺の感覚が分散して逝けなくなってしまうのだ。
　これもミィコの所為だった。
　体操クラブだった所為か、ミィコのバランス感覚は特に優れていて、騎乗位でも男に手を突く様な事が無かった。
　・男の感覚がフリーになるんだ！
　こんなの誰にでも出来る事じゃない。直立させた身体で思い切り締め付けて置いて、腰だけが前後左右に自由に飛び跳ねた。
　逝く時には余計に腰を圧し付けてくるから、ミィコの子宮口のコリコリに先ッポが翻弄される。
　そして、ミィコが逝きそうになると８ビートになって、腰を振り回すんだ！
　たっぷりの分泌液に浸された中で、あの締め付けとあの８ビート！
　我慢できる男は少ないだろう？

『接して漏らさず。が、武人のたしなみなのよ！・女性だけを逝かせるのが武人なのよ。』
　錦糸町のママに言い付けられた教えは、随分と有閑マダム達を翻弄したったが・、ミィコの騎乗位には我慢できなかった。
　中学から高校時代に錦糸町のバーのママに仕込まれた俺は、自分の意志に反して女に逝かされることは殆ど無い。
　ミィコに逝かされたのを最後に、女に逝かされた記憶は全く無い。
　俺自身の『逝こう！』とする気持ち無しに、おれが
　見掛けは美人という訳ではないが愛嬌があって、チャーミングで可愛い女だ。
　さすがに１０年の歳月は、かつての艶を少しは衰えさせてはいるものゝ、上背が無い所為もあって、１０代と云われて疑える男は少ないだろう？

「こんな狭い街に年中いるのに、滅多な事じゃぁ出会わないなぁ！」
「ウチにいるか、ジムにいるか、・お店にいるかだもン。・・・ねぇ、さっき聞いたの覚えてる？」悪戯っぽい目が、カマを掛ける様な言い方をしてくる。
「一生繋がっていたい。って云ってた事だろう？」必死で考えていた答えを口にした。
　『男と女の関係が出来れば。』と、俺は云っていたはずだ・・・。が、そこまでは口にしなかった。
　俺の後輩に譲ったんだぞ！・どんな顔して、その女を抱けるんだっ！
　俺にだって女房以外にも女はいるし、会えば頭の格闘技をしなければならなくなるこの女は、気を休めるところを探すのが大変なんだ。・ベッドセンスを除く事が出来るのなら。

「分かっていて、何の連絡もくれなかったわよね？・ご両親はお元気？」
　こいつの悪戯っぽい眼は何を意味しているんだ？！・俺はサングラスを頭の上に移したミィコの眼の奥を覗き込んだ。
「ま〜たまたぁ、マジになって何よ。」
「相変わらず軽いなぁ！」
「軽くないわよっ！・４０キロもあるんだから・。」
　ちぇっ！・古い駄洒落の侭だよ。・・・肩透かしの積もりかな？

　昔から色合わせのセンスも良いと思うが、付き合った頃は、ニットの上下ばっかり着ていたのに少し興冷めしたんだった。
　今日のライトパープルでジョーゼットのブラウスは良く似合っていた。

「最近は、筋トレに嵌っているんだ！・そこのスポーツジムで毎日トレーニングしているんだから！」方向を指し示しながら、ちょっとシナを作ったポーズに、かつてのミィコのセックス感覚が蘇った。
　３０過ぎて、何が『筋トレに嵌ってる・』だよ！・
「体脂肪率９％よ。ほら、二の腕の筋肉見てよ！」と、力瘤を作って見せていた。
「ウエストだって、昔より細い位よ！」スッとモデル建ちをしたミィコのスタイルは、確かに昔の侭のミィコを思い浮かべさせた。ただ、ヒップ周りの肉が不釣り合いに細いのが気になり、それを言うと、
「そうねぇ、もうちょっと有った方が男を尻に敷きやすいわねぇ。」
　もう、・何をか云わんやだ！

「今でもこの街を好き？」突然の聞き方だった。
　ミィコお得意の不意打ちだ。これを繰り返す感覚に、俺は付いて行けなかったんだ！
「そうでなければ、こんなにもこの街に顔を出す事は無いだろうなぁ・。」
「わたしの・・・事は・？」こういう風に一つの質問の裏が付いて来るんだ！
「俺は昔、云っただろう？『一度好きになった相手は、生涯好きな侭だ！』って！」
「考え方が変わっていないって事ね？」
「そうだよ。・そうコロコロと考え方が変わる奴なんて信用できないだろう？・近頃は、こんな意固地な考え方も流行ってないけど、これは武人に憧れた、俺の信条だ！って、知っているんだろう？」
「じゃぁまだ、わたしの事を好きでは、いてくれてるんだ！」けっ・調子の良い奴だ！
「それで今は・・・・？」俺がそんな聞き方に応える訳が無いじゃないか！
　話し出そうとしていた俺の腰を折る様に、ミィコが言葉を重ねた。
「あっ！・ゆっくりしてられないんだ。・後で電話する！」勝手な言葉だけで店を出て行こうとした。
　昔も、こいつは妙に素直な時と身勝手な行動をする時があった。
　
　思い付いた様に唐突に動き出すから、周りは簡単に振り回されてしまう。
　Ｂ型女の特徴と云ってしまえばそれまでだが、俺には大方は面白さにしか見えていなかった。
　なんと云ってもＢ型乙女座の女は俺には相性が良いらしかった。
　気に入った女達の多くがこの分類では中に入っていた。それに次いだのは、Ｂ型の山羊座・・・。と、今はそんな事はどうでも良い！

「先を急いでいたのは俺の方だぞっ！」
「そうだったわね、じゃぁ丁度良いじゃない！」
　何とも中途半端な思いだけが残ってしまった。

　お陰で、待ち合わせた美椰子に思わぬ後れを取った事を詫びながらの空虚な時間。
　虚ろな思いで口から出る美椰子へのお世辞の羅列は、美椰子の少しすねた心を大きく振るわせても、俺自身には何の意味も無かった。
『・・・あたしの事なんかとっくに忘れて！』あの台詞が妙に耳に残っていた。
　ミィコのセックスを思い出してしまった。
　アイツと比べたら、比べるのも無理な虚ろな美椰子だった。
　見掛けだけなら美椰子の方が優勢だ。頭の回りだって美椰子の方が良いと思う。
　スラッとした１７１センチだと云う背丈も去る事ながら、７５のＧのブラに包まれた二つのマショマルは、いつもの大きな胸繰りのブラウスと相まって周囲の目を必ず釘付けにさせた。
　曇り空だというのに股下数センチのレザーミニ、薄くラメの入ったストッキング、膝下までの紫っぽい黒いブーツもセクシーな感じを高めていた。
　セクシーな装いにも長けているし、殆ど化粧ッ気の無いミィコより、時間、場所、状況などに計算の行き届いたメイクを心得ている美椰子の方が見栄えがするからだった。
　しかし、何処に行ってもチヤホヤされる事に慣れ切った美椰子の魅力はそこまでだった。

　サービスされる事に慣れ切った美椰子は、自分からサービスする術を知らなかった。
『そんな事を考える必要が何処にあるの？』と、ひょっとしたら、美椰子にはサービスは『お互いにしてこそ』と云う意識すら存在しないのかも知れない？
　幾ら思い出とは云え、セックスに懸けては、とてもミィコの内から沸き出して来るような扇情感に太刀打ちの出来る美椰子ではなかった。

　俺の腰一振り、掌の一撫でに鋭い反応はするが、美椰子の方からの俺を悦ばせようとする感じが無かった。
　まぁ、１０人の女がいれば８人はこんなモンだ・。
　それは、俺には驚き以外の何者でもなかった『今の若い子が友達だからさせて上げた。』
　なんて台詞を吐いていた若い娘達でも同じだった。
　それは外見の装いとは何の関わりもなかった。

　俺の若かった頃は、恋人同士だってベッドに乗せるのは一苦労以上に苦労が必要だった。
　そこには不明確な段階があり、毎回毎回、その一段一段をちゃんと踏まえなければ、女性が男とベッドに上がるなんて考えられなかった。
　一人の女性を手に入れるには、今の何倍もの手順を踏み、クリアーしなければならなかった。・・・それだけに、手に入れた女性への思いも軽くはなり得なかった。
　女性に『節操』と云うものがあった時代での話しでしかないが・・・。
　近頃の女性は尻が軽くなった！と云うか？・節操なんて言葉は、今の娘達の頭の中には全く存在していないかのようだ。
　それが年輩の女性であっても、なぜか？かつての様な、重厚な節操感は無くなってしまっているようだ。
　えげつないナンパビデオの話を持ち出すまでもなく、街中を観察しているだけでも、その空気は伝わってくる。
　この街、土日曜日や花金、祝休日には近郊だけではなく、可成りの遠くからも若者達がやって来る。

　それに近頃の娘達は、サービスを求めはするが、自分からのサービスはテンで頭に無い！
　こんな娘達も、いずれか男を捕まえて女房然とするんだろうなぁ・・・。
　捕まった男の方は良い面の皮だなぁ。
　こんな女達は結婚したからって元々節操感が薄いから、ほんのちょっとしたきっかけでもあれば、簡単に浮気に走る。
　女垂らしとしては獲物に事欠かないのだが、どうしても手応えの無い物足りなさを覚えてしまうのは、どうしようもない。

　女垂らしの意地に掛けても美椰子を満足させるために抱いたものゝ、「いぃ！」を連発して最後には、失神までした美椰子だけが満ち足りた顔にして、俺は得られない満足に無駄な体力を使ってしまった虚しさに打ち拉がれ、アイツへの想いがグツグツと音を立てようとしていた！
　美椰子が恍惚の表情を見せる度に、俺の頭にはミィコが浮かんで来てしまう。
　ミィコなら、それ程嬉しかったら全身で俺へのサービスが返って来ていたんだ。
　女王様の様に扱われ続けた美椰子には、他人が自分に一生懸命してくれるのは、当たり前の事でしかない。それが自分自身の性的昂奮であっても、他人が高めてくれるのが当然の様に思っている節がある。
「せんせい・？・何かあったの？」
　恍惚の余韻を残した美椰子の不思議そうな顔があった。全てが他人任せなのに、何故か細かい違いに鋭い感を働かせるのが得意だった。
「ん・・。なにが？」ここはスラッと惚けるに限る！
「いつもより随分ダイナミックだったじゃない！・気になる事があるんでしょう？・・仕事？・それともぉ、おんな・？」
　女の直感は鋭い！・俺はいつもと違える積もりはなかった。・それでもミィコが頭に浮かんでしまった事があっただけに、何処かが違ったのだろう？

「今日はちょっと遅れちゃったからね、・心ばかりのサービスだよ。」
「でも、わたしを見ながら他のことを考えていたでしょ？・・・分からないと思っているの？・新しいターゲットでしょ。」
『新しくはないよ。むしろ古〜いターゲットだ。』
『なに、それ？・やっぱり女が関わっているんだ！』思った事を口に出していたら、美椰子は直ぐにそう応えただろう。
　余計な詮索をされたくなかったので、前の言葉は唇を震わせたところで呑み込んだ。

　応えようとした処で口を噤んでしまった俺に、突き刺さる美椰子の疑惑の眼差し。
「な、何を考えているんだよぉ・。」俺はわざとドギマギした態度で、美椰子の心に火を付けようと考えた。
　美椰子は男に裏切られた事が無いそうだ。・こんな女に、平身低頭以外の態度を示せなかった美椰子を囲う男達を見下していた俺だったが、美椰子が裏切られたらどう云う態度を示すのかも知りたい気持ちがあった。
「先生・？図星だったみたいだわねぇ・？・ねぇ、先生が興味を示す人ってどんな人？」
　これは想像外だ！・意外と冷静と云うより、俺を自分の恋とは違う処に置いている様だ！」
　俺の方が自意識が強かったのかも知れないが、もうちょっと嫉妬の混じった言葉が返って来ると思っていたのだった。
　そうか、俺とは実際に歳も可成り離れているからなぁ・。ただの『セックスを楽しませてくれるおじさん。』としか、思っていないのかも知れない？
　俺は憑き物が取れた様に、心が軽くなるのを感じた。
　どうせ、女房とは別れる積もりが無いし、３年もサービスして遣ったんだ。俺もそろそろ手の内が詰まりそうだし、美椰子の心の負担が少ないのなら、もう別れても良いかも知れない。
　美椰子はアチコチ連れて歩くには、俺の男心を満足させる申し分ないアイテムだが、夜がなぁ・・・。
　・男と女は一方通行だと、そうそうは長続き出来無いモノだ。美椰子の紹介するクライアントには魅力があるので、何となく今まで付き合ってきていた。
　

　千駄ヶ谷のホテルを走り出たフュージョンのダンデムには、遣り切れなさだけが残される事になった。
　何とは無しに頭に浮かんで来たのは、六本木道路の登りで、あのＳ字を気持ち良く抜けた事だった。

　交差点での出会いなんて、そうそうは無いものだ。
　あのＳ字をもうチョット落ち着いて回ったら、もしその後に、アクセルを戻さずに加速し続けていたら・。あの交差点での出合いは無くなっていた筈だ。
　それを、家を出てからの色々なタイミングに着いて考えてみれば、あそこで出会う確率が如何に低いかが分る。
　人の出合いの妙を感じないで入られない。
　だいたいミィコなんて、表を歩くのは好きでは無い方だったし・、家の中の方が好みだ。
　もっとも家業の商売が大好きだから、家の中と云うよりは、店と云った方が良いかも知れない？
　こんな事を考えていたら、あの交差点での出合いが、単なる偶然ではなく、何かの必然があったかの様にさえ思えてきた。だが、２０年以上も逢わなかったミィコに、何の必然があるだろう？

　そんな必然が存在する筈はない。・俺の懐古願望かも知れないなぁ？