7　取引

　俺はホッとしていた。
　どのフォルダの録音も最初は同じパターンだった。
　母は初めは男にいつも激しく抵抗して男をてこずらせていた。
　あの男の脅しと酒の酔いに負けて母は淫乱な女に変わっていった。
　幾つかの疑問もあったが俺はそう思いたかった。父の思いも同じだったろう。

「星を楽しむ会」の日のmemo.txtに戻ろう。

　妻が横で寝ている。軽い寝息を立てて。ほんの一時間前の出来事が嘘のようだ。
　なんとしても、この文子を失いたくない。自分でも理解しがたいが正直な気持ちだ。
　私はこれからどの様に行動すべきか必死に考えている。

　男の絶倫さ、テクニックに絶望的に圧倒されていた。
　なすがままに弄ばれる妻。快楽を求めるあの貪欲さ。
　今、妻とあの男との間を無理に引き離すことは、夫婦の崩壊を予感させた。
　もちろん、打算的にあの男のいない山の運営のことも考えた。
　普段の妻は以前とまったく変わりがない。よき妻であり、母であり、家の事も山の事も完璧だ。なのにこの裏切りの仕打ち。何回となく繰り返される不貞。
　そして今夜の有様。あやまちとは言わせない。
　怒れ、怒れ、怒れ、妻を叩き起こせ！
　なのに、心まで裏切られているという感情がどうしても湧いてこない。
　男へのどす黒い怒りに比べ、不思議と妻への憎しみ、恨みは大きくはならなかった。

　正直に言おう、別の訳がある。
　私の中に自分の妻がよその男に抱かれ、喜び悶える姿に興奮する自分がいた。
　興奮しても私の男は固くはならなかったが、かすかな予感があった。
　そして今夜、男と妻の痴態を間近で見ているうちにそれは確信になった。
　妻が潮を吹く頃にはシャッターを押しながら左手はズボンの中に入っていた。
　最後にあの凄い女に男がイカされた時にはついに硬くなり始めた。
　もう一度妻とセックスがしたい。厚い氷に閉ざされていた願いが周りの氷を解かし始めていた。

　そして今夜、あの男も気づいていないだろう妻の性癖を見つけた。
　妻はなんともいえない表情で男を見ていた。
　　　鏡の中の自分をあの男が見ているとき、
　　　男のものを咥えている自分をあの男が見ているとき、
　　　繋がった部分を覗き込むようにあの男が見ているとき、
　　　そして悦び悶え淫らな声を上げる自分をあの男が見ているとき、
　とにかく、見られると益々淫乱になった。そしてこう言いたかったに違いない。
「見て、見て、もっと見て、見られるとたまらないの」
　それをはっきりと確かめたかった。

　これは純粋な願いだった。妻のヌードを撮りたい、最高に美しく撮りたいと。
　妻は普段なるべく体の線が出ない地味な服装をしていた。胸はもちろん、腕や足の露出も極力控えた。顔も整ってはいたが、色っぽいとかではなかった。
　メガネがちょっと冷たいが理知的で上品な印象を与えていた。
　スタイルの良いのは知っていた。めがねを取った顔ももちろん知っている。
　しかし夫の私でもこれほどの素晴らしい肉体を保っていたとは判らなかった。
　あの男に邪魔をされず、妻の納得ずくで心ゆくまで妻の美しさをフィルムに収めたかった。

　そしてこれは親として子供達のことが心配だった。　何よりも、母の秘密を知った時の子供達のことが。
　純一は奥手で年より幼いので心配ないだろうが（悪かったな、俺は苦笑した）、舞は心配だ。マセているし、子供とはいえ女の勘は鋭いだろう。
　それに妻と男の最近のこの頻繁さと行動の大胆さは何とかせねば。いずれ噂になる。

　わたしはあの男と取引をした。

　私は妻が出かけているとき”頭”を呼び妻とのことを聞き質した。
　”頭”は悪びれなかった。開き直りもしなかった。
「いつかこうなると判ってやした。こんな半端モンを拾って一人前にして頂いた先代の恩、良くしてくれる旦那への恩はあっしの一生かけても返せねーと思ってやした。一方で何の苦労もなくいい生活を送っている旦那がなんちゅかうまく言えんが、面白くなかった。ほんのはずみで、文（あや）、いえ奥さまを…。そうしたらもう虜になっちゃいやした。
　申し訳ない。やめるんだ。何度も自分を叱りました。駄目でやした。あっしの中にこんな下衆野郎がいたかと、正直、旦那の上に立ったと勘違いいたしやした。覚悟は出来ておりやすんで、いかようにも」

　しばらくの沈黙のあと私は言った。
「いつからだ」
「昨年の五月でやす」
「どこでだ」
「そこの山小屋でやす」
　文子は山小屋へは一人では近付かない。自分から行ったのだろうか。男はその表情を読み取り、
「日曜の昼間でして、奥様は花を取りに山小屋の近くを通ったようで、あっしもちょうど月曜の段取りで・・」
　日曜日なら普段山小屋には男達はいない。
「なぜそうなった。妻は抵抗しなかったのか」重要な点だ。
「花を摘む奥様がたまんなくきれいでやしたもんで、つい。いえ、ものすごい抵抗でやした」
　男は半分は嘘を半分は自分の立場の悪くなることを正直に言った。去年の五月だ、思い出そうとしたが、文子の様子がおかしかったという記憶はない。
「それがなぜ今まで続いた」
「その、奥様は酒が入りやすと…、変わりやした」
　男は言いにくそうに言った。
　私には男の話に腑に落ちない点があったが先に進んだ。

「さっき、"いかようにも"と言ったな」
「へぇ」
　私は主人の立場を取り戻していた。落ち着いた声で言った。
「私の前で妻を抱くように」
　男は私を見上げた。この男の間抜け面をはじめて見たような気がする。間があって、
「しかしそれは…。でーいち奥さまが承知を」
　遮って言った。
「そっちは俺がちゃんとやる」
　”俺”という言葉が久しぶりに私の口から出た。畳み掛けるように言った。
「ただし、俺のいない所では駄目だ」
　”頭”の目に「そういうことかー」という色が浮かんだ。
「それでいいなら、これまで通りだ。嫌なら首だ。お前が決めろ」
　男は前者をとった。明後日は締め日だ。

　追ってわかる事件のあらましはこうだ。
　男は前から妻の裸を風呂で覗いていた。
　風呂は母屋の東側の納屋にあった。その頃の田舎の家の台所は母屋の東北の下屋にあった。
　風呂、便所は母屋でなく納屋にあるのが普通だった。水を使う場所はすぐ痛む。痛みが母屋に及ばないための知恵である。母は風呂も便所も母屋の北側の下屋に持ってきたかったが、スペース的に無理だった。とりあえず、便所だけを水洗にして母屋の北西にこしらえてあった。
　風呂は納屋の一番北側にある。西側、つまり母屋側には風呂の燃し口がある。南側は脱衣所があり、東側には鍵の掛かった倉庫があり肥料や危険な農薬、測量機器など高価なもも保管してあった。
　北側に曇りガラスの窓がある。窓の外は一段下がり田が広がっている。離れているが田を挟んで隣家がある。納屋の東側には道が南北に通っている。この風呂を覗くのは難しい。よって、妻は安心して風呂に入れた。

　男は知っていた。”あや”は地味な服装で隠しているがいい身体をしているだろうことを。
　男は以前倉庫に入った時、風呂との壁に節穴が丁度いい位置にあるのに気づいた。男は誘惑に勝てず倉庫の合鍵を作った。覗く側にとって、倉庫は最高の条件を提供した。
　”あや”は鍵の掛かった倉庫に人がいるとは夢にも思わない。鍵は主人が持っている。倉庫と脱衣所の南に鍵のない部屋があり、いつも使う道具類が置かれていた。倉庫にはこの部屋から入る。
　その部屋のさらに南が通路になっていて、納屋の東側の道と家の庭をつないでいた。その南には便所、車庫がありそちらへの通路もあった。つまり、納屋の中でそれらの通路が交差していて普段鍵は掛かっていない。誰かが納屋に入り、入った入り口から出なくても不自然ではなかった。別の出口から出たと思うだけだ。事実そのほうが多かった。

　”あや”は大抵、舞と一緒だった。舞のおしゃべりを聞いたり、一緒に歌を唄ったりしていた。
　”あや”の裸は思ったとおり素晴らしかった。メガネをかけたあの奥様からは想像できなかった。
　山小屋で事件の起きる二ヶ月ほど前だった。舞が先に出ると”あや”は脱衣所からコップを持ってきた。それをいっきに飲んで湯船につかった。しばらくすると湯船から出てこちらを向いて座った。座った前に鏡があるはずだ。
　両手で乳房を揉んだ。揉みながら親指と人差し指で乳首をつまんだ。そのまま、両の乳房を体の中心にに近づけるようにした。いつもの”あや”の顔ではない。あの時の女の顔になっていた、息も荒い。足の間を開き左足を立てた。丸見えになった。”あや”の右手がそこに行った。立ち姿でも毛深いことは判っていたが、初めて見る秘部の回りもすべて毛が濃く生えていた。その土手を中指と薬指がなぞる。時々その指が割れ目に入り襞に触るか触らないかでゆっくり上に上がる。そして中指と薬指を左右に動かしクリトリスをこする。それを繰り返した。左手は乳房を揉んでいる。
　腰が動き出した。顔が左右に揺れる。目は閉じている。手の動きが激しくなってきた。声が出て終わった。男は確かに聞いた”あや”が「オトコ〜」と叫んだのを。

　以後”あや”のオナニーを二回見た。旦那が残業で遅くなる日だった。コップの中身はワインだと後から判った。こうして男は”あや”の秘密を知った。旦那に隠しているが酒が飲める。そして好きだ。酒が入るとスケベになる。
　男は確信した。”あや”は欲求不満だと。”あや”の肉体はオトコを欲しがっていると。
　”あや”はこれまで通り、男達の前ではそんな素振りは勿論見せなかった。
　それがかえってこの男の欲情をむらむらと沸かせたのだった。

　その日は日曜で夫と子供達は町に行った。
　文子も一緒に行くつもりだったが村の共同作業が急にこの日に変更になりそちらに参加した。共同作業は午前中で終わった。皆と別れ帰りは山小屋の脇を通る道を歩いた。いま、山小屋のそばに文子の好きな花が咲いている。日曜は山小屋には誰もいないはずだ。休みの日は主人の許可がなければ小屋は使えない。
　しかし、小屋には男がひとりでいた。明日の仕事に必要な道具を持ちに来ていた。
　窓から坂を下ってくる”あや”が見えた。男は挨拶をするつもりで戸に手を掛けた。
　小屋の手前で”あや”が止まりしゃがんで花を摘んでいる。鼻歌が聞こえる。いい姿だ。
　”あや”は回りを見回してからメガネを外し摘んだ花の上に置いた。片膝立ちになり、胸のボタンを外した。首の手ぬぐいをとり首筋から胸、脇の下へと汗を拭った。胸の谷間が見えた。その日は夏を思わせるような暑さだった。目をつむった”あや”の顔が男には風呂場で見せた女の顔に見えた。その顔と胸の白さが男を狼に変えた。

　男は飛び出し”あや”を小屋に引きずり込んだ。激しく揉み合い、二人とも床に倒れこんだ。男が誰か判っても”あや”は声を出さない。出しても無駄であったが。声や悲鳴は出さないが激しく抵抗した。男にとっても予想外の力だった。しかし所詮女の力だ。やがて”あや”は男に組み敷かれた。”あや”の目が男を睨む。目だけは”あや”が勝っていた。男は一瞬ひるみ躊躇したがもう引き下がれない。

　男は部屋の隅にある口は開いているがほとんど減っていない一升瓶が目に入った。瓶のふたを口で取ると”あや”の顔を見た。”あや”は口を固く結んでいる。男は”あや”の鼻をつまんだ。”あや”は歯を食い縛っていたが苦しくなり口を開けた。それを待っていた男は”あや”の口に酒をつぎ込んだ。”あや”は激しくむせながら首を振った。何回か繰り返した。ほとんどはこぼれたがそれでも一合以上は飲まされたろう。
　”あや”は組み敷かれながらも全身で抵抗した。自由な右手で男の頬を殴った。男は中身が半分以下になった酒瓶を置き、その手を掴み下に降ろした。その時”あや”の手が男の硬いものに当たった。”あや”の身体がピクンとした。
　男はそれを見逃さなかった。男はズボンを下げ”あや”の手を持っていった。”あや”は激しく抵抗したが、手が男のものに触るたびに手の力が落ちるのが男には判った。ついに”あや”の手は男のものを掴んだ形で抵抗しなくなった。

　”あや”は一瞬うつろな表情になりつぶやくように口が動いた。そして動かなくなった。”あや”はもんぺをはいていた。男がもんぺの紐をほどき、パンツも脱がせた。”あや”は両手で顔を覆い「イヤ、イヤ」といったがそれは覚悟した女が出す声だった。
　男は”あや”の上に乗った。きつかった。男は自分の唾を手に出しあやのあそこに塗ると男は再び乗った。きついが徐々に入っていく。”あや”の顔が大きくのけぞり口が開いた。その”あや”の口から悦びの声が漏れるのにいくらも時間はかからなかった。
　男は久しぶりに女を手篭にした。結婚してからはやってない。女は人妻であり、雇い主の奥さんだ。そして”あや”の抵抗から悦びへの思いもよらぬ変化に男も興奮しすぐに果てた。

　男は”あや”を裸にした。胸が激しく上下している。汗と酒まみれの”あや”の身体を男は亀の水で濡らした手拭できれいに拭いた。男は自分も裸になり身体を拭いた。男は茶碗に酒を入れ、”あや”に飲ませた。抵抗しなかった。そして男達が酔った時に寝る粗末な布団を敷き、抱いて”あや”を運んだ。男は”あや”を寝かせると、足を大きく広げ顔を埋めた。男は舌で風呂で見た”あや”のオナニーを真似た。土手を舐めあげ、割れ目に舌を入れ、襞に軽く舌の先をあてながら上に運びクリトリスを舌で転がした。時に強く吸った。それを繰り返した。男の両手は”あや”の乳房を揉んでいる。見たとおりに。
　やがて、”あや”は目を押さえていた両手を自分の頭に持ってゆき頭が痛いというようなしぐさをした。腰が悶え歓喜の声がほとばしり出た。その乱れ様が今度は男に余裕を与えた。男は”あや”の足の裏を持って大きく足を広げ秘部をむき出しにし、その上に脈打つ棒を乗せた。”あや”は目を閉じ男が入ってくるのを覚悟したが来ない。荒い息遣いだけが聞こえていたが”あや”は目を開け、自分の頭にあった両手を男のほうに伸ばし、男の顔を見て言った。
「入れて」
　涙が頬を伝わった

　男は入れた。
　”あや”はもう男のなすがままだった。両足を広げられ散々突かれた。男は入れたまま胡坐をかいた。”あや”を起こし胡坐の上に座らせた。口を吸われた。胸を揉まれ舐められ吸われた。荒々しかった。
　男は”あや”の頭を押さえ「見ろ」と言い”あや”の濃い茂みを掻き分けた。自分の中に男のものが出入りするのが見えた。この時”あや”は男のものを初めて見た。手につかまされたとき、入れられたとき大きさは感じたがそれにしても太い。一度男が全部出すとそれは「ブン」と跳ね上がった。長い、そして猛々しく反っている。
　男は”あや”の身体を持ち上げゆっくりとまた”あや”の中に収めていった。”あや”は生まれて初めて自分の中に男のモノが入るのを見た。”あや”は「壊れる」と思った。全部収まると子宮がケイレンした。クリトリスが男の硬さと恥骨に挟まれ悦びの悲鳴を上げている。

　男が寝て”あや”が上になった。男が腰を下から突き上げると脳天まで突かれた気がした。
　そして男は腰を廻した。その突きと回転に合わせ”あや”は踊り、言葉にならない唄を歌った。
　男が突然”あや”を持ち上げ腕の力だけで回し半分回したところで下ろした。
　男は下から”あや”の尻を掴み蜜を舐めた。
　”あや”の頭を押さえ”あや”の汁が滴る棒を”あや”の口に押し込んだ。やっと口に入れたが男のものは半分も入らなかった。”あや”は必死で吸った。
　両方の口から「ズルズルズバズバ」と音がした。
　男は”あや”を四つんばいにしたまま起き上がり後に回った。獣が繋がる形になった。突かれるたび”あや”は尻を振り吠えた。そして”あや”は仰向けに寝かされ最初の形に戻った。そのサイクルが何回も繰り返しさせられた。回を追うごとに、”あや”の反応が激しい体位、行為がより長くなって”あや”は益々狂った。
　実際、最初から最後まで”あや”の声は凄かった。時として悲鳴のような声だった。男は何回も”あや”の口を押さえ、隙間から小屋の外を見回した。

　静けさが戻った。何時間経ったろうか。日は西に傾いている。
　”あや”が家の方にふらふらと帰っていく。手には摘んだ花を持っていた。
　男は小屋の後片付けをしなければならなかった。
　興奮が冷め現実に戻った。
「俺のしたことはどう見ても犯罪だ。とんでもない事をしでかした」
　明日からのことが急に心配になった。”あや”は旦那に言うだろうか。言って当然だ。あれだけ抵抗したのに強姦されたのだから。しかも使用人に。しかし、その後の自分の乱れ方を思うと言えないかもしれない。
　言わなくても”あや”の動揺した態度に旦那は気づくだろう。”あや”の手や足には抵抗した時の傷や打ち身の跡が残っているはずだ。そして、あの白い身体中に俺に吸われた跡が赤くいくつも残っている。乳房や尻には俺の歯形も残っているはずだ。そのうちの幾つかは何日も黒く残る。
　男は絶望的になり、酔えない酒に溺れた。

　男は拍子抜けした。何も変わらなかった。
　”あや”は何もなかったように振舞った。まったく無理なく自然に。
　身体の証拠も服や髪でうまく隠していた。夫婦生活がないから裸も旦那に見せる必要がないんだ。あの乱れようが物語っている。世間で言われていることを思った。
「女は魔物だ」
「いざとなったら女のほうが度胸が座る」
「男の浮気はすぐばれるが、女の浮気はばれない」

　旦那の残業のパターンも調べた。２回目のチャンスを伺った。
　女はもう自分にぞっこんだと男は思っていた。玄関で”あや”を抱きしめようとした。男がもんどり打って倒れ、呻き声を上げた。”あや”は思いっきり男の股間を膝で蹴って台所に消えていった。男は一週間使い物にならなかった。
　男は学習した。手続きを踏めば何の問題もないと。
　　身体を強く抱きしめ、身体の自由を奪う。
　　酒を飲ませる。
　　何とかあそこに触らせる。
　　酒の量が多くなればどんどん乱れる。特にワインで。
　　その後は、強く出れば出るほど、嬲れば嬲るほど女は淫らに激しく燃えた。

　どこに出しても自分の立場をわきまえ、控えめながら誰からも一目置かれる賢い女。その貞淑な人妻が俺の腕の中で夫も知らない淫らな女に変身する。名家の誉れ高いこの家の中で使用人の身体を求めのた打ち回る。その成熟したあくまで白く透き通った肉体は興奮するとピンクに染まる。
　仕事で旦那に呼ばれ、”あや”がその場にいるときの旦那への優越感は男を有頂天にさせた。
　回を重ねるごとに淫らさが増し、”あや”は新しい女を見せた。
　　旦那の不甲斐なさを話させる時。
　　初めて俺のものを全部飲み込ませたとき。
　　はじめて潮を吹いたとき。
　　夫婦の寝室で犯されたとき。
　　そしてあの女が出たとき。
　男はこれまでの女性経験に照らし”あや”は十分「名器」だと判っていた。
　しかし、”あや”が失神した跡で変身するあの女の器はけた外れだった。
　”あや”に新しい発見をするたびに男は征服感に浸った。
　しかし男は同時に感じた。暗い底なし沼に落ちていくスピードが増すのを。
「もう自分では止められない」
　旦那との”取引”で、男は覚悟した。

つづく