３　藤乃との初体験

　慎一郎は藤乃のくちびるに、唇を当てていた。
　藤乃のくちびるがうごめく。
　慎一郎は、その蠢きに刺激されたかのように、藤乃のくちびるを吸った。
　甘い接吻に、慎一郎は脳みそが蕩けそうになった。
　でも、その甘いキスもそう長くは続けられなかった。
　慎一郎は、胸の動悸の激しさに耐えられなかったからだ。
　藤乃も慎一郎の激しさに耐えられないように肩で深く息をしている。
　慎一郎は恥かしかった。
　もしかしたら、自分は藤乃のことが好きではないかと思った。
　そして、そんな接吻をしたことで、自分の藤乃が好きという想いが、藤乃にわかってしまったのではないかと思った。
　藤乃は、自分のような何もない男が惚れていいような女ではないと慎一郎は思う。
「ごめんね」
「何が？」
「いや、そのぉ……」
「ねぇっ、行こうか？」
「えっ、どこへ？」
「わたしのところへ、よ」
「でも…」

「わたしの部屋に行くと、ここにいるよりも安上がりなのよ」
　藤乃にそう言われても、慎一郎は困っている。
　そんな女の人の部屋に行ってもいいのだろうかと迷っているのだ。
　藤乃はじれったい気がした。
「あなたは遊ばないの？」
「なに？」
「お酒を飲んだり、女の人を抱い……」
　慎一郎は、女の方を見た。女は顔を俯かせていた。
「お金がないんだ、僕は…」
「あらっ、じゃ、あなたはお金があったら遊びたいわけね」
「そんな…」
「でも、男の人って、そういうことをしたがるものなのよね」
「ああ、そうかもしれないね。ただ僕は、お金もないし、その上、そんな度胸もないから…」
「あらっ、じゃあ、あなた、はじめてなの？」
　藤乃の声がして、慎一郎は、現実に呼び戻された。
「なにが？」
「う〜ん、そのぉ、こういうところに来て、遊ぶの」
「はじめてのような、そうでもないような」
「なに、それって？」
「つまり、僕は、ここの料亭というのは、２回目なんですよ」
「あらっ、そうなの？」
　藤乃は、ずっと前、ここの望江楼で、ばったり廊下で会ったことは覚えていないらしい。
　そのことが、慎一郎にはちょっぴり残念に思えた。

「ここへ来て。お酒を飲んで。で、それからはないの？」
「えっ！？」
「馬鹿ねぇ〜、女の人のからだを抱くってことよ」
「自分の手で慰めたことはある」
「な〜んだ、あなた、それじゃ、女の人と実際には、やったことないってことよ」
「そうかなぁ？」
「ばかねぇ〜」
　藤乃が赤い顔をして、慎一郎を見つめる。
「ともかく、ここは出ましょう。そして、わたしの部屋に行ってみようね」

　慎一郎は、藤乃に手を引かれて、道を歩いて行く。恥ずかしいような…。しかし、それでいて、うれしい気持ちがあるのも事実だった。
　まるで恋人同士みたいだなと、慎一郎は照れていた。
　しかし、空を見上げると、星がいっぱい出ていて、体がその星空に吸い込まれ、地面ではなく、地面の上を歩いているような気がした。

　置屋に着いた。
　藤乃の部屋には、鏡台があった。藤乃はここで化粧をしたり、お座敷用の和服に着替えたりするのだろうかと慎一郎は思った。
「お酒、飲む？」
「いや、もういいよ」
　慎一郎はなかなか口に出せない。望んでいるのは、藤乃が注いでくれるお酒ではなかった。望んでいるのは、藤乃の紅色をしたくちびるのような気がした。
　しかし、今、藤乃は、ちゃぶ台（食卓用テーブル）を挟んで、向こうに顔を俯かせて座っていた。
　慎一郎は何をしていいのか、迷っている。
「ねぇ、あなた、何か、お話をして」
　そんな、話なんてあるわけがないと慎一郎は思っている。
　目の前のちゃぶ台が邪魔なのだ。
　それをどかしたいのだ。しかし、それができない。
　藤乃を見た。藤乃の顔が見えない。顔を伏せているから。藤乃の肩を見た。とてもその肩がひ弱そうに見えた。そして、その肩が、自分の手を待っているように慎一郎には思えるのだった。
　慎一郎は戦っていた。
『きらわれるなら、きらわれてもいい』
　そうつぶやく。そして勇気を奮い起こした。
　ちゃぶ台のそばを回る。
　藤乃の肩を抱きに行った。
　右手を背中の方から藤乃の右肩に置いた。その手が震えているのがわかる。
　島田髷が、後ろから見ても美しかった。
　うなじの髪の生え際を見ていると、指が自然と伸びていく。藤乃の首すじの血管がビクリと動く。そして、和服の襟首あたりから、女のとてもいい匂いが立ち込めてきた。
　慎一郎は背中から藤乃の両肩を抱く。
　両肩を抱き寄せながら、白い襟足に唇をつけた。
「あっーん！」
　藤乃の肩に置いた手に力を込め、藤乃の肩をまわす。藤乃の顔が目の前にやってくる。
　藤乃は顔をうつむかせていた。眉毛が小さくふるえている。
　慎一郎は、藤乃のおとがい（下あご）に手をやって、藤乃の顔を挙げさせた。そのくちびるが半開きになって濡れている。そのくちびるに、自分の唇を押し当てる。藤乃のくちびるを吸う。頭の中がジーンと痺れた。
　長い接吻で慎一郎は息が苦しくなる。唇を相手のくちびるからはずし、あえぐように言った。
「君が欲しい」
「いやっ！」
　藤乃が目を開けた。
　ひとみが濡れている。
「どうして？。僕は、君のこと好きなのに」
「いやっ！」
「どうして！」
「じゃ、特攻志願、やめてくれる？」
「えっ！」
　慎一郎は、青くなっていた。
　どうしようかと考えていた。
　やめられるわけがないと思った。
　これまで、ずっと飛行訓練をやってきた。
　昭和１２（１９３７）年７月に、日中戦争が起こる。
　昭和１３（１９３８）年２月には、南昌空襲で日本空軍は、中国空軍のＩ−１５戦闘機をやっつけた。それは慎一郎が１６歳のときだった。慎一郎は飛行機乗りをめざした。
　そして、昭和１６（１９４１）年１２月８日、日本軍は真珠湾を攻撃、アメリカ、イギリスに宣戦布告をしたのだ。空軍は真珠湾攻撃で見事な成果を挙げた。そのとき、慎一郎は１９歳、すでに海軍兵学校に入学しており、航空訓練に入る前の地上訓練に取り組んでいた。

「どうしたの？」
　藤乃の声が耳に入ってきた。
「僕は、僕は…。それでもお国のためにと思って、勉強もし、訓練もやってきて…」
「……」
「だから、僕は、特攻志願を、やめるわけには……」
「いいわ。しかたないわ」
　藤乃が、がっくりと肩を落としたような。
　慎一郎には、藤乃が本当にがっかりしたように思えた。
「ごめんね。僕は、飛行機に乗るだけしか芸がなくて…」
　慎一郎は、藤乃をこれで抱けなくなることが残念だった。そして、藤乃の心を少しでも慰めることができなくて悲しかった。
「僕は、男の子に生まれてきたんだ、せめて、お国のために働かなくては。ほんのちっぽけないのちだけど、このいのち、君のためにじゃなくて、お国のために使わせてください」
　慎一郎は、藤乃を見た。藤乃はうつぶせになりながら、肩を震わせていた。
　泣いているのだろうかと、慎一郎は心配になった。もし、泣かせているのなら、わるいことをしてしまったと思った。実際、こんなところまでやってきたのは、ひょっとしたら藤乃のからだを抱けるかもしれないという、浅はかな思いがあってのことだったから。
　でも、こればかりはどうしようもない。
　もう、特攻の志願は自分から上官に口にしたのだ。
　少尉への昇進も、近々、特攻志願の承認で、鹿児島県の鹿屋（かのや）基地行きを命じられる前触れなのだから。
「じゃぁ、僕は、これで」
「ちょっと、待って、あなた」
　藤乃が止める。
　慎一郎も切なくなって、腰を上げるのを止めてしまっていた。
　藤乃の濡れた瞳が迫ってくる。それに、くちびるを突き出すようにして。
　接吻だけならいいのかもしれない、慎一郎はそう思って、また、唇を相手のくちびるに合わせていく。
「ねぇ、わたしのこと、好き？」
　藤乃がくちびるを離し、顔を挙げながら聞いてくる。
「う……ン？」
　そうだ、こうしているときの藤乃より、ああしてモンペを穿いて孤児院の台所で立ち働きをしている藤乃のことが好きかもしれない…。
「僕は、人を好きになる資格なんか…」
「いやいや、正直に言って」
「正直にも何も、僕は飛行訓練のことしかないし。それにまだ君には、５、６回しか会っていないんだし」
「何とも思わなかったのね？」
「そんな風に言われても…。ただ、孤児院に伸作を送って行ってね、そのとき、食堂で立ち働いている君を見たときは、いいなぁと思ったよ」
「何が？」
「う〜ん、家庭的な人かな？、と」
「あなたは家庭的な人がいいの？」
「ああ、そうみたいだね」
「じゃぁ、わたしは失格ね」
「……」
「わたしはきれいな着物が着たいし、お酒もきらいじゃないし…」
「……」
「そんなわたしだから、あなたは、わたしの言うことなんか、聞いてくれないわよね」
「それとこれとは違うんだけどなぁ」
「どういうこと？」
「うーん、つまり、君が好きだということと、特攻として飛び立つこととは…」
「仮に、わたしのこと、好きだとしても、やめないのね」
「ごめんね、やめられないよ。もう志願したんだ」
「いやいや、途中からでも辞退できるわよ」
「だめだよ、それは」
「わたしのことなんか、どうでもいいのね」
「そんなことはない。飛行機で飛び立つとき、きっときっと君のことを思い出していると思うよ。そして、きっと君の幻にさようならを言っていると思う…」
「いやいや、そんなことじゃ、いやよ」
　藤乃は泣いていた。
　慎一郎は、それでも慰めてやらなくてはと思った。
　しかし、一方では、こんな芸者の涙なんか、とも思っている。
　頭の中が混乱していた。
「さぁ、泣かないで。僕はもう決めた道を行くしかないんだから」
　藤乃がしがみついてきた。
　芸者なんだ、色々な男に抱かれ、色々な男に媚を売って生きてきたんだ、そう思っても、いとしさが込み上げて来る。
「好きだよ、きっときっと青い空の上から、君が元気に生きてくれるように祈っているから」
「いやいや、そんなことじゃ、いや」
　藤乃が接吻をしてくる。
　藤乃が舌を差し入れてきた。
　それがいとおしくて、慎一郎は、藤乃の舌をちゅうちゅうと吸った。
「ハァッ、ウッーーーッ」
　慎一郎が唇を離したら、藤乃が肩を動かしながら大きな息をついた。
　うなじに舌を置く。
　うなじが熱い。そして耳たぶにキッスをした。
「ねぇ、ちょっと待って」
「えっ？！」
「お布団を敷くわ」
　慎一郎が畳の上で呆けたように座っていると、藤乃は襖を開け、もう床を敷こうとしているのだ。藤乃の立ち振る舞いを呆然と眺めながらも、慎一郎の胸は、ドクドクと高鳴っていた。
　見ると、もう、藤乃は、肌襦袢だけになっていた。それは薄いピンク色で悩ましく、慎一郎の胸がうずいている。藤乃は着物をていねいにたたんでいる。
　慎一郎は、座っているにもかかわらず、両足の膝のあたりが、ガクガクと震えているのがわかった。
「どうしたの？」
「僕は、特攻に行くのに。いいお客さんには成れないよ」
「いいの」
「僕は、君のこと、好きかどうかもわからないのに」
「いいの、わたしは好きだから。わたしはもう女学生じゃないわ。でも、マスコット人形をつくりたい。そして、それをあなたにあげるわ。持って行ってくれるわよね」
「ああ」

「あなた、その堅苦しい軍服、お脱ぎになったら」
　下の方から、藤乃の声がしている。藤乃はふとんの中に入っていた。
「ああ、そうだね」
　慎一郎は軍服の上着を脱ぎ、ズボンを取った。
　どうしようかと迷ったが、下から女が見ているのだ、裸になるわけにも行かず、下着をつけたまま、布団の中にもぐりこんだ。
　慎一郎は、天井を見ていた。
「震えているじゃない？」
　耳元で、藤乃の声がした。
　藤乃の熱気が伝わってくるのか、耳がこそぼったい。
「そんなことはないと思うけど…」
「そうよね、そんな風だと、ほんとに、あなた、飛行機を操縦できるかどうか、心配してしまうわ」
　
　慎一郎は手を腰に添えた仰向けの姿勢が崩せない。
　そのとき、布団の中で、慎一郎は女に、手をにぎられた。
　慎一郎は、なつかしかった。昔むかし、幼い頃、祖母と同じ布団で寝たことがあるのだ。やはり、そのとき祖母が、布団の中で自分の手をにぎってくれたことがあったのだ。
　藤乃の手のぬくもりが、慎一郎の心を落ち着かせている。しかし、恥ずかしくて、横に寝ている藤乃の方に、慎一郎は目をやることができなかった。
　慎一郎は、まだ、昔、祖母と一緒に寝たときのことを思い出している。祖母が言ったのだ、『慎坊や、嘘をつくと、地獄に行くことになってな、地獄の閻魔さまに、舌を抜かれたり、針の山に座らされたり、熱い湯の煮えたぎった竈の中に入れられたりするんじゃぞ』
　慎一郎は、こわくなって、祖母の胸にすがりついていったものだった。
　慎一郎は、早く、隣に寝ている藤乃の胸にすがりついていきたかった。

「ねぇ、あなた、何を考えているの？」
　藤乃の声が耳元でした。そして、藤乃の顔が、自分の肩にくっつけられたのを慎一郎は知った。しかし、慎一郎は、体がまるで凍ったようで、身動きできなかった。
　しかし、そばにいる藤乃の体温が、慎一郎にも伝わってくる。そして、藤乃の化粧の匂いが慎一郎の鼻孔を刺激してくるのだ。
　薄暗い、部屋の天井を見上げながら、慎一郎はなおも、体を固くしていた。
　自分の胸の上に、やわらかな手が置かれてくる。
　暖かい手だった。
　うつむき加減に見ると、その手は、確かに藤乃のものだった。
　うれしかった。
『藤乃は僕のこと、きらいじゃないんだ』
　慎一郎は、下半身の真ん中のものが勃起してくるのを感じた。やがて、心臓の音が聞こえてくるようになり、それを藤乃に悟られないよう、身を縮めるようにして息を殺そうとしている。しかし、鼓動がなかなか静まらない。顔がほてってくる。
　ゴクリッと慎一郎は息を呑んだ、その息を呑む音が、自分の耳に届き、慎一郎はうろたえた。
「ねぇ、あなた、緊張しているの？」
「ああ、どうも、そうらしい」
「なぜ？」
「わからない」
　藤乃が、クスッと笑ったような気がした。

「あのぉー、女の人とやるのは、はじめてなんだ」
「……」
「だから、おしえてくれないか」
　慎一郎は、天井を向いたままで、藤乃に話しかけていた。
「僕は心配なんだ。僕は、これから死んでいく。子供は作られない。でも、こんなことをしたら、君は妊娠してしまうんじゃないの？」
「大丈夫よ」
「えっ？」
「女のからだはね、妊娠しやすい時期と妊娠しにくい時期とがあってね。今、わたしは妊娠しくにい時期だから、あなたは余計な心配はしなくていいのよ」
「ああ、わかった」
「ねぇ、それより、あなた、やさしくして」
　藤乃の声が、慎一郎の耳に入った。
　慎一郎には、胸に置かれた藤乃の手が妙に熱く感じられた。
『どうすればいいのだろう？』
　慎一郎は悩んだ。しかし、仰向けにしていた身体を横向きにした。
　藤乃の目がそばにあった。やさしい目だった。
　慎一郎は、右手を伸ばしていた。その手が、藤乃の胸元に伸びていくのがわかる。
　肌襦袢の胸襟を広げる。白い、藤乃の乳房が目に入った。その上に手を置いてみる。とても柔らかかった。藤乃が、モジモジッとからだを動かし、目をつむった。
　慎一郎は、その白い乳房に自分の唇を当てていいものかどうか迷っている。でも、慎一郎は、胸の鼓動が激しく、その胸に突き動かされていた。そして、目をつむっている藤乃には見られていないと思って、そっと、自分の唇を乳房に近づけていく。唇、乳首が当たる。
　ああ、ここを吸えばいいのだと思った。
　はじめは、唇の先で触れるだけであったが、気持ちが高ぶってきて、慎一郎は、ほおばるように乳首にしゃぶりついた。藤乃の化粧の匂い、胸の皮膚の匂いがしてきて、慎一郎は夢中になって、乳首を吸った。
「アン、痛いわ。ばかばか、そんなに強く吸っちゃって！」
　慎一郎は、はっとなって、顔を上げた。
「あっ、ごめんなさい。痛かった？」
「馬鹿、ばか、もっと、やさしく吸ってよ」
　慎一郎が今度はやさしく乳首を吸おうと顔を下げようとしたとき、藤乃の手が慎一郎のあごの下に当てられて、慎一郎は顔を上げさせられた。
　藤乃の目が濡れている。その目が近づいてくる。と、自分の唇に、藤乃のくちびるが重ねられていくのが慎一郎にはわかるのだ。
　藤乃のくちびるは柔らかかった。慎一郎も、目を閉じ、夢中で藤乃のくちびるを吸っていった。

「ねぇ、あなた、おちちを揉んで、そして、おちちを吸って」
　慎一郎は、やわらかい、それこそ、お餅のような乳房を指で揉み上げ、その先端のピンク色に尖っている乳首に口を当てた。そして、吸った。
　と、慎一郎は、自分の下半身の中心部のところが硬くなっていくのを感じ、思わず、おっぱいを吸いながらも、腰をうしろに引いた。
　しかし、藤乃が、手を伸ばし、慎一郎の逃げようとする腰を引いている。
「そんなこと、したら…」
　慎一郎の抗議に、藤乃が答えている。
「いいのよ、遠慮しなくても」
　藤乃に腰を抱えられている。すると、下半身の中心部が藤乃のやわらかい下半身にくっつけられて、何とも気持ちいいのだ。
　それで、ますます、慎一郎は首を左右に振りながら、おっぱいを吸う。
「フンフン、いっイィーッ、あなた、上手よ」

　慎一郎は、おっぱいを揉み、乳房の下のやわらかい筋肉も揉んでみた。そして、藤乃のわき腹もなでてみる。
（なんて、女の人のからだって、こんなにやわらかいのだろう）
「ウン、もーっ、そんなにしないでぇー」
　慎一郎は、揉み手を、藤乃によって止められていた。
　自分の手が藤乃の手に取られているのだ。
　手が藤乃の湯文字（腰巻）に導かれる。緋色の湯文字（ゆもじ）をめくると、真っ白な藤乃の下半身が現れた。
　その美しい下肢に見惚れていると、藤乃が言った。
「いやいや、そんなに見つめちゃ」
　慎一郎は、腰巻（女性用下着）の紐を解いて、藤乃を丸裸にした。
　藤乃は、猿股（男性用下着）の上から、指で慎一郎のお○ん○んを撫でた。
「ねぇ〜、あなたも、これを取ってね」
　藤乃は、猿股（褌）の紐を解き、慎一郎を丸はだかにしてしまった。
「まぁっ、元気がいいこと！」
　慎一郎は真っ赤になった。
　で、慎一郎は、顔を見られないよう、顔を藤乃の顔にくっつけて、くちびるを塞ぐ。
　と、手が藤乃の手によって取られ、その手が、下へ下へと導かれていくのだ。
　手が何か、髪の毛のようなものに触れられる。そして、指がその毛にからみとられていく。そして、中指の先が、コリッとしたものに触れた。ビクッとして、手を引こうとした。
「いや〜ん、バカバカ、そこをさすって欲しいのに」
「えっ、ここ？」
「そうよ、そこよ、そこよ」
　慎一郎は、コリコリッとしたものを、中指の腹のところで、なでさすってみた。
「ねぇ、やさしくね、やさしくね」
「うん、わかっているよ」
「フンフン、いい気持ちよ、ああっ、そんなに強くしないで」
　藤乃が、身をよじるようにして、からだを上の方にずらしていく。
　ここが、そんなに気持ちいいのだろうか、慎一郎には不思議だった。
　でも、藤乃が気持ちいいと言うなら、と思って、こすり続けた。何か、そのコリッとしたものが、湿り気を帯びてくるように思われた。
「ウーン、いいわ、いいわ、ねぇ、あなた、おっぱいも吸って」
　慎一郎はあわてて、上にも注意を払い、唇を乳首に戻す。
　乳首を吸い、コリッとした、下の方の、硬いオサネのようなものも、指でなでた。
　そして、その指が、摘ままれた。指は何か、ぬるりとしたものに触れていく。そして、指先にお湯がかかったように感じた。驚いて、慎一郎は指を上げようとした。しかし、藤乃に押さえられている。その指はさらに引っ張られ、濡れて、しかし、あったかい沼のようなところへ導かれていった。

「何、これ？」
「ばかね」
　慎一郎の指が、先から関節のあたりまで濡れていく。何か、油の入った、細い壷の中に指を突っ込まされたような感じがした。
「ねぇ、ねぇ、あなた、自分で、そこをかきまぜてみて」
　藤乃に言われ、慎一郎は、おそるおそる、指をつぼの中で、ま〜ぁるく、輪を描くように回してみた。
「フンフン、いいわ、いいわ」
　中指がびっしょりとぬれてくる。藤乃は腰を動かしつづけ、上体を上へ上へと押し上げている。
「アンアン、いいわいいわ、欲しいわ　欲しいわ、あなたのものが」

　慎一郎は、どうしたものかと思った。
「ねぇ、どうしたらいい？」
「馬鹿ねぇ〜」
　藤乃の顔を見た。とても恥ずかしそうな顔をしている。なぜだろうと思っていると、藤乃が手でお○ん○んを握っていた。
　で、慎一郎もお返しとばかり、手の平で、藤乃のお○んこ全体を撫でさする。
「ウッ」
　慎一郎がうめく。
　固くなって、おなかの肉に、ぴったりとくっついている自分のモノが、藤乃の指でからみとられ、あまりの気持ちの良さに声が出てしまったらしい。
「ねぇ、これを、入れて」
「どんな風に？」
　藤乃は、自分のからだを上によじあげ、股を開いたようだった。そして、両方の膝を立てている。
「さぁ、来て」
　藤乃が首を挙げながら言った。
　慎一郎は、上半身を起こし、藤乃の股のあいだに入ろうとした。
　藤乃のからだが視界に入った。白い、とてもきれいなからだだった。目をおろすと、藤乃の下半身が見えた。藤乃の、下の毛の生えているところが見えて、慎一郎はハッとなる。
　下を覗くように見ていると、藤乃の手が伸びてくる。そして、自分のモノの先っぽがつままれた。自分のおっ立ったものが下の方に押し曲げられ、藤乃が腰を寄せながら、それをどこかに、納めようとしている。慎一郎は、恥ずかしくて思わず目をつむった。
　ヌルっと、自分のモノが、藤乃の中に納められたようだった。
　ウッっ、とうめき声が出るほど、気持ちがよかった。チ○ポの先が熱いくらいだった。藤乃が腰を持ち上げたようだった。と、チ○ポの根元まで熱くなった。
「ウーン、いいわ、あなた、いいわ、もっと、もっと入れていいよ」
　慎一郎は、ずっと、奥まで入りたくて、腰を入れ、両腕を突っ張って、上半身を後ろに反らすようにした。
「気持ち、いいーっ、おなかの中があついわ、あついわ、あなたが入っているわ」
　慎一郎は、身体を反らながら、ずっと、自分のものを、藤乃の奥まで突っ込んだままにしておいた。頭の中がしびれるほどに、気持ちがよくなった。藤乃の中に入っている自分のものが、むずがゆいほどになる。で、ちょっと、腰を引いた。
「ウン、あなた、ちょっと、動いていいよ」
「動く？」
「ウン、ばかばか。少し、抜き差ししてみて」

　慎一郎は、体育訓練の腕立て伏せでもしているかのように、腰を動かしてみた。自分のものが、ヌルッと入り、スポッと抜ける。でも、その抜き差しのとき、藤乃のもので、自分のものがこすれて、気持ちがよかった。
「ウウウッ　ハァハァ、ハンハン、イイわ　イイわ」

　藤乃が胸を左右に揺らしながら、あばれている。
　藤乃の苦しそうな、それでいて悩ましげそうな顔に、慎一郎は胸がしめつけられる。
　藤乃がいとおしくて、慎一郎は、腕を曲げながら、上体を藤乃にあずけていく。胸が藤乃の豊かなふくらみに触れて、気持ちがいい。
「藤乃、とっても素敵だよ」
「アンアン、あなた、もう、ダメよ、アンアン、イッちゃう、イッちゃうわ」
　慎一郎は、藤乃の悩ましい声に、たまらず、しっかりと藤乃に抱きつき、下半身を思い切り深く、藤乃に押しつけた。
　ドクドク、ドクッドクッ　ドクッー、慎一郎は、藤乃の中で、はじけた。
「アッアッアッ、アッー、イクッー　イクッウゥゥー」
　藤乃のからだが、上向きに反り返る、慎一郎は振り落とされないように、しっかりと藤乃の胸の辺りをかき抱いた。藤乃のからだのふるえが自分にも伝わってくる。
　いとおしくて、いとおしくて、慎一郎はしっかりと、藤乃の頭を自分の胸に抱きとめていた。

「ねぇ、ねぇ、あなた、起きて」
　慎一郎は目を覚ました。
　目の上に、藤乃の顔があった。
　照れたように、それでも、上半身を起こし、よく見ると、藤乃は、割烹前掛けをしている。
「ねぇ、起きて。朝ごはん、一緒に食べよっ！」
　
　慎一郎は、手洗いに立ち、用を足し、そして、洗面台の前に立った。
　洗面台に、手ぬぐいが置いてあり、そばには、石鹸と髭剃りが置いてあった。
　慎一郎は、自分の顔がほころんでいくのがわかる。何か、藤乃と世帯を持ったような気がしたのだ。
　手をあごにやる。髭が生えて、ゴリゴリしている。慎一郎は、顔を水でぬらし、石鹸をつけた。鏡に向かい、ていねいに、剃刀の歯で、ひげを剃っていった。
　藤乃の部屋に戻ると、ふたつの膳が並べられていた。慎一郎は顔を赤くしていた。
　ぼーっとしたまま、座布団にすわった。ごはんがよそわれ、そして、味噌汁の匂いがした。
　慎一郎は、ごはんを口に運んでいた。
　しかし、急に目の前がかすんで来た。目から熱いものがこみ上げてくる。藤乃の顔を見ることができなかった。
　恥ずかしげもなく、慎一郎は、ダラダラと涙を流しながら、頬に伝わる涙をぬぐうこともせず、箸を持ちながら、ごはんを口にし、味噌汁を飲んだ。おしんこを噛みくだくのも、弱々しい力しか出なかった。それでも、わずかに、ぼりっぼりっと、音を立てながら、噛んでいた。
『必ず、必ず、僕は、特攻に成功してみせるからね』
　慎一郎は、心の中で藤乃に誓っていた。

　目の前はかすんでいる。
　と、何かが、唇に触れた。
　目を見張る。かすかに、藤乃が指を引っ込めながら、その指先を口に持っていき、指先をなめているように見えた。
「まぁっ、あなたって、まるで子どもみたい。ごはん粒、お口にくっつけたままで…」

　慎一郎と藤乃は、置屋の玄関先にいた。
「ありがとう」
「もう、行くの」
「あぁぁ……」
「そうよね、あなたには、大事な飛行訓練があるものね」
「……」
「また、来てくれるわよね」
「……」

　慎一郎は、黙ったまま、深々と、藤乃におじぎをした。
　そして、クルリッと、身を反転させた。
『ごめんなさい、僕には、お金がなくて。さようなら、藤乃さん。ありがとう、ごめんなさい』
　特攻隊として鹿児島県の鹿屋基地に出撃していくまでには、まだ間がある。伯父に言えば、何とか、少しばかりのお金なら、送金してもらえるかもしれない、と思った。いや、そんなことは、できない。海軍兵学校の学資まで出してもらったのだ…。
　慎一郎は、うつむきながら、急ぎ足で歩いている。藤乃が、自分をまだ見送っているように思えた。後ろを振り返りたいような気がした。
　しかし、振り返ってはいけない、と思った。
　目に涙があふれてきた。慎一郎はさらに足を速めた。
　必ず、必ず、立派に死んでみせるからね、そう誓いながらも、藤乃がいとおしく、自分が無力で情けなくて、慎一郎は、涙を流しながら、寮に向かって歩き続けていた。

（つづく）

（注）この作品の創作にあたっては、下記の図書を参考にしました。
「特攻へのレクイエム」　　（工藤雪枝著　中央公論新社刊）
「ゼロ戦２０番勝負」　　　（秦　郁彦編　ＰＨＰ文庫）