由紀子は夕食の準備をしていた。このマンションに越してきて３ヶ月。
　結婚一年目ようやくここでの生活にもなれてきた。サラリーマンの夫もようやく仕事が落ち着いてきたようだ。
「ピンポーン」不意に玄関のチャイムが鳴る。
「あら？誰かしら・・・？」
　夫が帰ってくるにはまだ早い。時間は五時半を回ったばかりだった。
　塗れた手をふき、エプロンを取って扉をを開けた。
　そこに立っていたのはまさに自分の夫、正夫だった。なぜか正気を失ったような顔をしている。
「あら、おかえりなさい。早いのね。」
　疲れているだろうと思い、由紀子は精一杯の笑顔で夫を迎えた。
「由紀子…話があるんだ…ちょっといいかな」
　正夫は玄関からリビングのソファに移動しながらつぶやいた。
「実は…今日人事部長に呼ばれてね…来期から係長にと言う話をもらったんだ…」
　入社五年目、まだ由紀子と同じ28歳の正夫にとっては異例のスピード出世と言える。
「すごいじゃない！よかったわね！」
　由紀子は正夫が何故か沈んでいるのも忘れて喜んだ。
「ああ…それは…そうなんだけど…」
　由紀子の笑顔にも正夫の顔は沈んだままだった。
「ねえ…どうしたのよ…よかったじゃない…」
　由紀子ははじめて正夫の沈んでいる理由について触れた。
　正夫は由紀子の目を見て語り出した。
「由紀子…オレが入社した時…先輩から聞いたっていって話した…うちの会社の噂…覚えてるか？」
「え？噂…？どんなのだっけ…？」
「ほら…人事部長…変態で…奥さんが気に入られないと…うまく昇進できないって…あの時はまだ結婚もしてなくてさ…笑い話で話したことがあっただろ？」
「ああ…あったわね。そんな話…」
　当時は二人とも同時に社会人となり、お互い自分の会社について話すことも少なくなかった。
「でも…噂でしょ？そんな事…あるわけないじゃない…」
「ああ…でも…今日な…人事部長…うちに来るって言うんだよ」
「きょ、今日…？来るの…」
　はやして噂は本当なのか…？不意をつかれた由紀子は急に不安になった。
「ねえ…変態って…どんな感じの人なの…？人事部長さんって…」
「うん…見かけはただの中年オヤジなんだけど…SM好きらしい…」
「S…M…」
「ああ…女性を恥辱的に苛めるのが好きらしい…」
　由紀子は一生自分に縁のない行為だと思っていた。どんなことをされるのか想像もつかない。
「どんなこと…されるのかしら…」
「わからないよ…そんなこと…。でも由紀子が…部長となんて…考えられない」
「私だって…嫌よ！…」
　しばらく二人の間に沈黙が続いた。意を決したように正夫が口を開いた。
「断ろう…この話…オレ…部長の携帯に電話するよ」
　正夫は立ちあがり、電話の方に向かおうとした。
「あなた！…待って！私達…結婚したばかりだし…このマンションのローンだって残ってるわ…あなたがここで出世を断ったら…困るわ…」
「で、でも…由紀子…」
　正夫は電話の前で立ち止まった。
「そ、それにほら…噂だって…本当かどうか分からないじゃない…」
　由紀子は夫を安心させるため精一杯の作り笑顔を見せた。
「ま、まあ…そうだが…」
　由紀子は夫を何とか説得し、再び台所に立ち、一人分の料理を追加して夕食の準備を続けた。
　しかし説得した由紀子も不安でいっぱいだった。
　もし、噂が本当なら、初めて会う男性に、しかも夫の上司に…何をされるか分からない…高鳴る心臓、不安な気持ちを押し殺しながら3人分の料理を作り終えたとき、待っていたかのように玄関のチャイムが鳴った。
「来たみたいだ…由紀子…出てくれ…」
　由紀子は黙ってうなづき、玄関に向かった。
「はい…どちらさまでしょうか…？」
「人事の鈴木ですが…」
　由紀子は一呼吸おき、意を決して玄関の扉を開けた。
「お、お待ちしていました…妻の由紀子です。主人がいつもお世話になっております…」
「ほう…奥さんですか。いやあ、おきれいな方だ。ご主人が羨ましい」
　立っていたのはバーコード頭で小太りの中年オヤジだった。
　顔は脂ぎり、いやらしい笑みを浮かべ、最も女性から嫌われるタイプの男だった。
　部長は玄関にしゃがみこんで靴紐を解き始めた。
　由紀子はこの男がいったい何を考えているのか、不安で仕方がなかった。
　その時、由紀子は自分に注がれる熱い祖先を感じた。
　部長だった。
　部長は靴紐をゆっくりと解きながら、前に立つ由紀子のスカートの中を覗いていた。
（ああ…覗いてるわ…どうしよう…）
　今すぐにこの視線から逃れたい。
　しかし逃れて、部長の機嫌を損ねれば夫の出世に影響しかねない。
「ご主人から話は聞きましたか…？」
　視線をあからさまに由紀子のスカートの中に送りながら部長が尋ねてくる。
「え、ええ…先程…聞きました…」
　由紀子は視線から逃れることも出来ずに答えた。
　靴を脱ぎ終わり、玄関へと上がりこんでくる部長。
「私は会社の人事権を全て任されておりましてね…。ご主人は成績も人間的にも問題はない…。後は奥さん次第ということになりますかね…」
　由紀子を玄関に引きとめたまま部長は耳元で囁いた。
「奥さん…パンティは…白ですか…？」
　突然の異常な質問に由紀子は驚いた。
「え…あ、あの…は,はい…そうです…」
　答えなければ夫の出世がだめになる…由紀子は顔を赤らめ、うつむきながら答えた。
「いい身体をしている…。ご主人がうらやましいですな…」
　そういいながら部長は由紀子の後ろに手を回して、スカートの上から美尻をなでまわし始めた。
「あ、ぶ、部長さん…あ…あの…」
　由紀子は夫のいるリビングの方を気にしながら、必死に屈辱に耐えた。
「奥さんの写真を一目見たときからね…奥さんの身体を私のものにしたいと思っていたんですよ…」
　部長の手はスカートの中から伸びた太ももに移っていく。
「そんな…こ、困ります…」
　由紀子は腰を引いて部長の手に抵抗を示すが部長の手は由紀子の下半身から離れようとしない。
「奥さん・・・パンティを見せてもらえますか？・・・」
「え！？・・・あ、あの・・・部長さん・・・奥に夫がいるんです・・・こんなところでは・・・」
「その大切なご主人のためですよ・・・さぁ・・・奥さん・・・」
　由紀子はチラッと夫のいるリビングのほうを見た。
（あなた・・・ごめんなさい・・・仕方がないの・・・）
　由紀子はスカートのすそに手をかけて部長の目の前でするすると捲り上げていった。