季節は秋、目にする木々は、赤く色づいている。
　何を食べても美味しい季節。
「いってきま〜す」
　機嫌よく、驚くほど多くの朝食を済ませた真二が、出勤する。
「いってらしゃい」
　優しい返事を返す、由香。
　館石家の変わらない一日が、始まる。
　由香は、真二と社内結婚をして半年、今までにない幸福感にあふれた日々を送っていた。
　洗濯に掃除と、いつもの家事を済ませ一息ついた頃。
　プルルルル、プルルルル、プルルルル
　規則正しい電話の音が鳴る。
「はい、もしもし、館石です」
　明るい、弾んだ声で答える由香。
「もしもし、中西商事の唐田です」
　奥歯に物が挟まったような、重い声が返ってくる。
　真二の勤める中西商亊の上司である。
「奥さん、よく聞いて下さい、旦那さんが事故に合われました、会社から１００ｍも離れていない交差点だったようですが、左折トラックに巻き込まれたようです、今、第一病院に運ばれいてます」
　状況がよく理解しきれない由香、返事がない。
「私も、これから行きますが、奥さんも第一病院にすぐ行ってください」
　唐田が続ける。
「それで、怪我の程度は」
　少し状況を理解して質問する由香。
「病院からは、重症とだけしか聴いていませんので何とも・・・よろしく」
　これだけ言うと、電話は切れた。
　手早く、着替えと身づくろいを済ませ、玄関を出る由香。
・・・・
・・・・
　病院のＩＣＵ室に入った真二は、意識もないまま、２日後、帰らぬ人となった。
　半年が過ぎた頃、真二の両親が由香を訪ねて来た。
　最愛の夫、真二を失い失意の日々を送る由香は、いまだ新居を離れる気になれないでいた。
　真二の両親は、今後の由香の身の振り方を心配し、真二と２才上の兄、真一との再婚を勧めてきた。
　館石家には、二人の息子が居たが、弟の真二は家を離れ由香と恋愛結婚したが、兄の真一は長男として地元の農協勤めをしており、独身だった。
　由香に真一と共に、家を継いで欲しいというのである。
　真二のことが、吹っ切れないでいる由香にとって、再婚話など考える余裕もなかったが、知らない相手からの話でもなく、邪険にできないでいたが、まだまだ時間が欲しいと断りを入れていた。
・・・・
・・・・
　２年が過ぎた頃、由香は小さなアパート暮らしで、就職先を探していた。
　真二の死亡保険金で、お金に困ることはなかったが、何時までも遊んでいられない、と考えるようになっていた。
　そんな時、どうやって調べたのか真一が訪ねて来た。
　由香への思いを告げる真一。
　真二の面影を持つ真一に、その日、身を任せてしまう由香だった。
・・・・
・・・・
　半年後、由香は真一との披露宴の主役となっていた。
　館石家の広い敷地には、真一と由香のために新居が建てられた。
　真二以上の優しさと思いやりを持つ真一。
　農協勤めの真一は、軽トラックを駆り地域の農家のために活躍する毎日。
　義理の父母の、勇雄と淑子は農作業に明け暮れている。
　由香にとっては、義父母への負担も少なく、平穏な日々が続いた。