％　『SM stories on the desk』eConomy 作
【前】/【次】
幸は電話Boxにうずくまっていた。 　誰もが携帯を持っている中で、電話Boxは利用されない。とは言えず、2回場所を譲った。 　一人目はその携帯を忘れた若い女性。不審げに幸を見つめている。受話器を取っていないので当然である。 　「会話」が終わり、中で身づくろいをしBoxを離れた。 　2回目はホームレスぽい男。料金の返還忘れを拾う順路にでも入っていたのだろう。 　幸の少し落ち着かない状況に「何かを期待」したのか、しばらくBoxの前に立っていたが、幸がBoxを出た瞬時に返還口と床の周辺を確認し、収穫がないのを落胆し足速に「次」に向かった。 　幸の体内にある「時限爆弾」は後1時間と少しで溶解するはずである。 　「俺」は3時間と言った。今が1時間45分。 　「俺」は約4時間とふんでいる。 　体内に「それ」を残す事は2つの死体をそれぞれ行方不明にしなければならない。 　できれば、幸のものは取り除き、例の手術後、他人に始末させたかった。 　幸はもしかしたら、予想額を超えた金額で売却できるかもしれない。 　その確信はあった。買い手も幾人か思い浮かぶ。 　殺人者となった幸は余命をまさしく「豚」で過ごすだろう事は明らかで、もしかしたらちょっとした病院の土地くらいの金額に化けるかもしれない。 　「俺」は当然、金を求めている。今やっていることは一石二鳥のビジネスなのだ。 「豚女、薬の効き目とは言え、良く長時間立っていられる。・・・その特質が希少なんだがな。ふっ、ふっ。」 　手には即効性のある猛毒を入れた注射器がある。 　幸の結果に問わず、その注射は「男」に打たれる予定だった。 　時間は「俺」に教えられた。たぶん、間違いないであろう。 　赤のスポティーな車に乗り換えたらしい事も幸は聞いていた。 　それに合った車が来るたび、緊張する。 「少なくとも後45分。」 　それまでに男の車が幸の目の前を横切り、駐車場に入線するに違いない。 　幸も考えていた。 　男は自分がどうであろうと死ぬ。ただし、少なくても一刺し、いや、それが無理でも殺人未遂を行う事が絶対必要。 　それがなければ、「俺」は幸を「回収」し、この場を立ち去るかもしれない。 （だったら、心臓を私の手で・・・。できれば・・・。） 　1分が長い。何故か身体は軽く感じられる。薬の効き目以外の何かの期待・・・。 　 　目の前を横切った車があった。あれだけ神経を集中していたのに赤のスポーツカーは最後の左折後に幸の目に入った。 「間違いない。あの男。」声に出た。 　車は駐車場で旋回し、巣に戻ろうとしている。 　幸は小走りで車に近づく。 　正面から幸を見ていた「俺」の車も駐車場にゆっくりと入っていく。 　幸と車の位置は10ｍ、5ｍ。 　2ｍで赤い車は停止し、運転席で手荷物を集めている男が見えた。なお、ゆっくりと運転席側に近づく。男の顔が鮮明に見えた。 　同時に幾つかの甘い思い出が蘇る。 （男の舌がゆっくりと幸の腕を舐めた瞬間、幸が男をほお張り、上目遣いで聞いた優しい命令。） 　時間が幸のこの10日と現実を結んだ時、男は運転席を開けた。 　既に幸の両手が包丁をまっすぐ男の方向に向けている。 　ドアが閉められ、男の目に小さな車間をふさぐ女が目に入った。 「お前・・・。」 　包丁の刃は3分の1程度、男の胸にめり込んだ後だったか、それとも同時か。 　男の渇いた声が聞こえた。 　幸はなおも自分の体重全てで男の命を終わらせようとする。 「死んでるよ。」幸を我に返らせた声は「俺」のものであった。 　仰向けに倒れこんだ男の目蓋は開きっぱなしで、口も同様に開いている。 （殺せた。・・・私の手で・・・。） 　包丁を握った手が動かない。「俺」は幸をどかし、一応、前もって用意していた注射を行う。 　「俺」は自車に戻り、男を包む寝袋を持ってこようとした。 　 　幸の意識が覚醒する。 （もう一人。）包丁を掴んだがそれは男の死体に深く進入し、若干死体を揺らすための取っ手でしかなかった。 　「俺」を殺す手段。 （ない。何もない。）と思った時、「俺」が男に打った注射器が目に入る。 　それを握り、ポケットに隠した。 　「俺」は段取り良く死体を寝袋に押し込みつつ、幸に言った。 「復讐を遂げて満足か。この時間、ここには人は来ない。目撃者のない殺人現場が残る。」
【前】/【次】
あなたの一言が作者の励みになります！感想宜しくお願いします！
eConomyさんの作品群→
小説提供サイト
『SM stories on the desk』
2015年1月24日掲載
Copyright (c) 2013-2015 eConomy All rights reserved.

▲