５．カメラマン・・・冴子


　立川は近くで開かれている撮影会に参加することにした。
　いつもは風景写真を撮っているので、人物が対象の撮影会には参加しないのだが、知人に頼まれたので仕方なく行くことにした。
　立川 正人、35歳、独身、フリーカメラマン、日本の残したい風景という写真集で、少しばかり業界では名が知れていた。

　会場に入ると、若い女性が中央でライトに照らされていた。
　周囲には10名以上の撮影者がカメラを構えて撮影を始めていた。
　若い女性のヌード撮影だと、スケベ根性丸出しの男たちが似非カメラマンとなって来る。
「まったくぅ〜〜こんなんじゃ、撮影する気分にもなれやしない！」
　正人はブツブツ言いながら準備をしていると、男等に混じって若い女が撮影していた。
「何だ、あれは・・・？場違いな気がするけど・・・やけに夢中で撮っているなぁ・・・」
　正人は脚立の上に三脚を組んでカメラを据え、モデルの女性に焦点を合わせた。
「お〜ぃ！そこの可愛いモデルさ〜ん！！」
　高い位置から声を掛けられ、驚いたように顔を上げた瞬間、連続してシャッターを切った。
「サンキュゥ〜〜」
　それだけで、正人は片付けに入った。
　カメラバッグを肩に会場を出て行った。

　４ＷＤの車に乗り込もうとした時、こっちに向かって走ってくる人間がいた。
「ねぇ〜〜ちょっと待ってよ〜〜」
　無視して車に乗ると、息を切らして駆け寄り、車の窓をドンドンと叩いた。
「何をするんだ！」
「待ってって言ったでしょ！」
　目鼻立ちのくっきりとした女が、大きな瞳をさらに大きくして怒鳴った。
「君は・・・確か、撮影会場に居たんじゃないか？」
「そうよ！鏑木 冴子、カメラマンの卵よ」
「その卵ちゃんが、一体、この僕に何の用があって呼び止めたのかな？」
　正人の子ども扱いした口調にムッとした冴子だが、今はそれどころじゃなかった。
「とにかく乗せてよ〜中で話すわ〜あなただって急いでるんでしょ！」
「フッ・・・ハハハハ〜〜」
　正人は卵の冴子を助手席に乗せ、スタジオに向かった。
「それで〜何の用かな？」
「あなたって、いつもあんな調子で撮影するの？」
「あぁ、あれかぁ〜あれは・・・普通に撮ったんじゃ、あのモデルの真の姿が映らない。
じっくり彼女を引き出すことも出来ない状況なら、ああいう手段も仕方がないだろ？」
「ふぅ〜ん・・・一応、考えた行動だったんだ〜」
「何だ？茶化したとでも思ったのか？僕も、これでもカメラマンの端くれだからね」
「君は何なんだ？あんな場所で・・・女性のヌードなんて、男ばかりだろ」
「だから・・・女じゃなきゃ撮れない女性の美しさや姿態、新しい姿を出したくて・・・」
「ふぅ〜ん・・・一応、考えた行動だったんだ〜」
「あぁ〜〜！真似したぁ〜〜」
「ハハハハハ〜〜〜」

　車がコンクリートの無機質な白い建物の前で停まった。
「MASATO 撮 TACHIKAWA・・・立川 正人・・・立川、って、あの風景写真家の立川さん？」
「そうだよ〜何だ？知ってたんじゃないのか・・・まぁ、いい。せっかくだ、中に入りな〜」
　冴子は恥ずかしそうな顔をして、正人の後ろについて中に入った。
「わたし、鏑木 冴子、・・・」
「卵、だろ〜？さっき、聞いたよ」
「22歳、早慶大学写真同好会、女性ヌード写真家を志向中〜」
「まぁ、その辺でコーヒーでも飲んでろよ！ちょっと現像してくる」
　冴子は言われた通りにコーヒーを飲みながら、正人の写真集を見ていた。
「はぁ〜〜ぁ、やっぱ、違うなぁ〜プロは・・・」
　どのくらい時間が経ったのか・・・冴子はウトウトしてしまった。
「お〜ぃ、起きてるか〜〜？」
　肩を揺すられ目を開けると、正人が現像したばかりの写真を持って立っていた。
「あっ〜！す、すみませ〜ん・・・つい、・・・」
「いいよ、疲れてるみたいだなぁ〜あまり根を詰めると身体が持たないぞ〜」
　そう言いながらテーブルの上に写真を広げた。
「えっ・・・あっ・・・・・すっ、ごぉ〜〜ぃ・・・どうして・・・こんな写真が撮れるの？」
　正人はモデルの左斜め上から声を掛けたので、モデルは腰だけを捻って半回転し、声の方を見上げた。
　髪を下に垂らし、口を少し開けて瞳を見開き、乳房はツンと上を向いて張り、踏ん張って引き締まった両脚の上に、ヒップアップしたお尻が形を創っていた。
　スタイルや構図も良く見えるのだが、それ以上に顔が、表情が、生きていた。
「思いつきで仕掛けた割には、まぁまぁの出来だったね」
「でも・・・立川さんは、人物を撮らないんじゃ・・・なのに・・・どうして〜？」
「すべて、同じだと思うよ〜今回は、頼まれて撮ったんだけど・・・
どういう仕上がりになるか・・・それをイメージして撮ったんだけど、人物も風景も見る人の目を考えれば・・・同じかな？」
「・・・・・わたし、どうしても、女性の美しさを引き出せないの！妙に固くなったり、イヤらしくなったり・・・、どうすればいいんですか？」
「そうだなぁ・・・それじゃあ、そこにある大きな鏡の前で、君自身の裸を映して、何が美・・・なのか？何が見る人の心を捉えるのか？研究してみたらどうだ・・・？鏡をあと２枚立てて、３角形の中でいろんな角度から・・・先ずは、自分を知る。そこに映る姿をカメラに収めるのも、いいけど・・・」
「えぇ〜〜っ！・・・・・女性の身体は、自分が女だから知ってる。そう思ってた・・・」
「ふぅ〜ん・・・そうだね〜本当に知っているのかな？知っていれば、分かるはず〜」
　少し考えていた冴子は、立ち上がって大きな鏡の前に歩いていった。

　Ｔシャツにジーンズという服装のまま、自分の全身を鏡に映して眺めた。
　少し横を向いたり、後ろを向いたりして、冴子は正人の言葉を頭の中で呟いていた。
　正人は、そんな冴子を遠目で見ながら、インスタントカメラを構えフラッシュを焚いた。
　冴子は驚いて正人に近づいていった。
「何なんです・・・そんなカメラで・・・？」
　印画紙を振りながら写真が焼きつくのを待った正人は、撮った写真を剥がして見せた。
「これは・・・わたし・・・」
「ヌードじゃないけど・・・卵の女が、ちょっと惹かれる女性になっているだろう？」
　鏡を背に身体をしなり、伏せ目がちに振り向く冴子の姿態は、確かに魅力があった。
「君だって、モデルじゃないけど、写され方ではモデル以上の魅力が出る。欧米の女性の凸凹だけが女性の美しさじゃない。スタイルでは問題にならないが、日本の女性だって、欧米人以上の美を出せる。そうは思わないか？」
　自分の写った写真を見ながら、冴子は黙ってしまった。
「僕は、もう、何も言わない。君だって、プロの卵だろ？好きにしろ〜」
　スタジオの中は静まりかえって・・・物音ひとつ、無かった。
　冴子はジーンズのジッパーを下げ、角度のある小さなパンティ姿になった。
　Ｔシャツの裾からチラチラとワレメの膨らみと、お尻のふたつの丘が盛り上がって見えた。
　その姿を鏡で見ながら写真を写す格好を時折見せた。
　若い張りのある太股とパンティからはみ出たような尻の肉が、艶かしく動いていた。
　Ｔシャツの中に手を入れ、ブラを外して床に捨てた。
　抑えつけられていた乳房がＴシャツの下で揺れ、胸元から見え隠れしていた。
　衝立のような鏡を２枚引っぱってきて、自分を囲むように配置して、見始めた。
「うぅ〜〜ん・・・あぁ〜〜あ！分かんないよ〜！」
　イライラが爆発するように冴子の声が深閑としたスタジオに響いた。
　正人は少し覗くような格好をして本を読んでいた。
　Ｔシャツを捲り上げ、パンティだけの下半身を眺め、乳房を少し鏡に映して溜息をついた。
「はぁ〜〜ぁ・・・立川さんとわたしの違いは、何だろう？ちょっと見ただけのわたしを写し、わたし以上のわたしを見せ付けて・・・」
　冴子は決断してＴシャツとパンティを脱ぎ、全裸の自分を３枚の鏡に映した。
「えっ？わたしのお尻の上って・・・ちょっと前かがみになるとお尻の奥まで見えるわ・・・恥ずかしくて、何が美なのか、分かんないわ〜〜」
　それでも、何とかきっかけを掴もうと、冴子は３枚の鏡で自分の裸体を観察していた。

「きゃぁ〜〜っ！」
「何やってんだ！ただ裸を見てればいい、ってもんじゃないだろ？」
　正人は冴子の腋の下から胸に手を回し、下から持ち上げて身体を振らせた。
「ほら、どっちの乳房の方が大きいか？形はどっちのほうがきれいか・・・？」
　冴子の身体を動かしながら、鏡の中の冴子を指差し、指摘していた。
「どういう状況を想定してポーズを作ってるんだ？身体と心がバラバラじゃないか！さらに、最悪なのが、表情・・・まったく訳が分からない！」
　続けざまに指摘され、反論どころか反応も出来ずに立ち尽くしていた。
　正人に裸の自分を抱えられていることさえ、忘れてしまっているようだった。
「どうせ裸を見て研究するんだったら、もっと、ちゃんとやれ！何の為に裸になって鏡の前にいるのか？意味が無いじゃないか！
それに、全裸にならなくても、ヌード写真は成り立つ。だからこそ、全裸の魅力を把握することが、基本だけどな・・・」
「・・・・・・・・・」
「君が撮りたい・・・撮って見てもらいたいヌードは、どういう写真なんだ？
何がテーマで、どういう風に感じさせたいのか・・・？」
「身体と表情が一体となって、その時の心を語らせるような・・・そんな写真が〜」
「じゃぁ、それを想定して、自分でポーズをとってみたらどうだ？表情も含めて・・・」
「・・・・・・・・・」
「ったくぅ〜〜！じゃあ、簡単なところで・・・君が彼氏とセックスしてて幸せな時は？」
「えぇ〜〜っ？いきなり言われても・・・」
「それじゃあ、今、僕に全裸姿を見られている気分は、どんな感じなのかな？」
「えっ？あぁ〜〜っ・・・うわぁ〜〜急に恥ずかしくなっちゃった〜」
「ハハハハ・・・面白いなぁ〜君は・・・いっそのこと、そこでオナニーでもしたら？僕はどこかに行っているから・・・悶えて気分が昂った表情を撮ったら？」
「うぅ〜〜ん・・・」
「じゃあ、とにかく僕は、現像室にいるから・・・」
　正人は、そう言うと、すぐに現像室に入ってしまった。

「わたしって・・・魅力ないのかなぁ〜？立川さん・・・わたしの全裸を見ても、何の反応もないんだもん・・・わたしに、女性の心をヌードを通して映し出すなんて、所詮、無理だったのかもしれない・・・あぁ〜〜ぁ、カメラマン失格ね〜」
　冴子は鏡に囲まれた中で胡坐をかいて座った。
「でも、３枚も大きな鏡があるといいよねぇ・・・見えない角度が見えて・・・前からだけでいいと思っても、角度を変えるとイメージ違うし・・・」
　冴子はもう一度、自分の裸を鏡で見ていた。
　顔には自信があったが、表情表現は立川に言われて、初めて下手だと感じた。
　全体的には中肉中背のごく普通のサイズで、あまりこだわりを持っていなかった。
　ただ、こうして鏡に映してみて、太股からヒップのラインがいいなぁ〜と思っていた。
「気づかなかった・・・左右斜め後ろからの姿が、目の前の鏡で分かるんだもん。裸になったかいがあったかな〜？・・・・・・あぁ〜〜っ、そうか！そうなんだ・・・・・・。見えない部分まで想像させる写真・・・それには・・・・・・」
　冴子の中で、少しだけ光りが見えた気がした。
　三脚を組んで自分の全身がフレームに納まるように焦点を合わせ、
　リモートレリーズの長いものをセットして、すぐにシャッターが切れるようにした。
　冴子はセックスには執着心が無かったので、オナニーをすることも無かった。
　それでも、立川の言葉を思い出して、自分なりに試してみようと思った。
　大きな瞳を閉じ、片手で乳房を擦りながら、もう一方でワレメを擦り始めた。
「はぁ、はぁ、はぁ〜〜・・・少しはいいけど、あまり感じないわ〜」
　指を折り曲げてワレメの中に入れ、中を弄ってみた。
「あっうっっ・・・あぁ〜〜はぁ〜っ・・・あぅ・・っ・・ぁぁあああ〜〜〜」
　太股を伸ばして自分の手を強く挟み、感覚を集中させて淫壷の中を弄くっていた。
　次第に感じるようになってくると、カメラのことなど忘れ感じようと夢中になっていた。
　カシャ〜ン・・・
　シャッターを切る音が響いて聞こえた。
「何・・・？はぁ〜〜はぁ〜はぁ〜ぁ・・・・・あぁ〜〜っ！立川さん〜」
　立川が全裸になって冴子の姿を撮っていた。
「どうした・・・？続けろよ〜」
「でも・・・立川さん・・・裸・・・」
「気になるのか？コレがかぁ〜〜？」
　正人はわざと大きくなっている肉棒に力を入れて上下に動かした。
「わぁ〜元気がいいんだ・・・」
　正人は冴子の座っている後ろの座って、冴子の身体を抱え上げ、肉棒を下から挿入した。
「あぁぁ・・ぁぁあああああっ・・・ぁっ・・・ぁうっ・・・はぁぅっ・・・ぁああぁあ〜〜〜」
　冴子は身体を上下させながら悶え嬌声をあげていた。
　その冴子の手にレリーズのスィッチを持たせた。
「ほら、自分がいいと思うところでシャッターを切るんだ！」
「はぁ〜？・・・はい・・・はぁ〜〜ぁ、ぁぁ〜〜ん・・・」
「ほら、その大きな目を開けて見るんだ！鏡に映っている自分の姿態を・・・僕のオチ××ンが君のオマ×コを出たり入ったりしてるのが、よく見えるぞ〜それに併せて、冴子、君の悶える顔が・・・きれいな顔が淫らな欲情した表情に・・・」
「あぁ〜〜ぁ、いやぁ〜〜〜っ・・・はぁ〜〜ぁ〜〜ん・・・すご〜〜ぃ・・・」
「乳首が大きくなって、乳房も赤く燃え上がって・・・艶っぽい表情だよ〜」
「あぁ〜〜ホント・・・だわぁ〜〜〜あぁ〜いぃ〜〜」
「シャッターを切るんだ・・・君はプロになるんだろ！さぁ〜君の中の君を映し出せ〜！」
　冴子は正人の言葉に反応して、シャッターを切った。
「今度は、四つん這いになるんだ！・・・・・・そう・・・さぁ、いくぞぉ〜〜」
　正人は四つん這いの冴子を後ろから激しく突き始めた。
「あうっ・・・っ・・・ぁぁああああ〜〜〜っ、あぅっ、っ・・・ぅっ、ぁああああぁぁ〜〜〜」
　頭を後ろに反らして悶える冴子に正人はシャッターを切らせた。
　身体の位置を鏡と併行にして責め、その姿態も全て冴子は撮り続けた。
　最後は立ち上がって爪先が床に着かないような体勢で肉棒で突き上げられ、冴子は大きな声をあげて身体を目一杯反らせて悶えた。
「さぁ、最後の一枚を撮るんだ！」

　冴子が我にかえった時、正人の姿は無く、正人に犯されて悦び悶えている自分が、何枚も写真となって蘇っていた。
「うわぁ・・・・・・・・これ・・・わたし・・・これも・・・これも、あれも〜〜」
『僕の姿を消して見てごらん！』
　メモには正人の言葉が書いてあった。
　冴子は一枚一枚、写真に写っている正人を消して自分の姿だけを見た。
「きれい・・・すごい！すごいわぁ〜〜これよ！これなのよ！わたしが目指したものは！」
　冴子の姿態と表情は、見事に冴子の中の冴子を表現していた。

『写真は・・・そのひとの本質を・・・語る』

　冴子が爪先立ちで仰け反って悶えていた最後に撮った写真の裏に書かれていた・・・。