第五話

　そしてまた日曜日が巡ってきた。
　俊作は小型ＣＣＤカメラの取り付けが完了したバギーを携えて生田の車に乗っていた。
「へっへっへっ楽しみだな。」
「お前も妻子ある身でよくやるなあ。」
「妻子があるからこそ余計にやりたくもなるのさ。」
「だけど、今日もいるとは限らないよ。」

　最近、めっきり暖かくなって外へお出ましになるカップルが増えてきた。
　しかし、例の公園はあまりにもだだっ広くて、めぼしいものはなにもない。
　とても人の寄り付くような公園ではないが、まさにそこが盲点にもなっているのだ。
　きっとこの前と同じカップルが来ているに違いない。
　俊作はそう確信していたが、実際その通りだった。

「ほーら。またあの声が聞こえてくるじゃないか。」
「人間、一度覚えた味はなかなか忘れられないんだよ。」
「くっくっくっ。そのようだね。」
「よーし、モニタの準備をするんだ。おれはラジコンの準備をするから。」
「わかったよ。でも、この駐車場には俺達の車しかないだろ。」
「あいつらどうやってここに来たんだろう。」
「そんなことはどうでもいいじゃないか。はやくしろよ。」

　俊作はバギーを地面に置くとラジコンを操作してゆっくりと走らせた。
　モニターにはくっきりと低いアングルの映像が映し出された。
「よーし。ゆっくりとモーターの音が聞こえないように進めるぞ。」
　モニタの映像は舗装路の細かい振動を拾いながらゆっくりと進んでゆく。
　アベリアの茂みの周りをゆっくり走らせてみると、その茂みが円形だと分かった。
　その円の一部が細く途切れて中は土俵くらいの広さのスペースになっていた。

「くっくっくっ。丸見えだぞ。ゆっくりとカメラを円の中心に向けるんだ。」
「うー。こいつは凄い。二人とも素っ裸みたいだな。」
「あ、頭がむこうを向いてるから顔は分からないね。」
「でも、これ以上突っ込んだらバレちまう。」
「じゃー今日は結合部位をしっかり撮らせてもらうか。くっくっくっ。」

　モニタには男女の恥部がしっかり結合しているのがクローズアップで映し出された。
「うーん。生々しいなあ。出たり入ったりしている。へへっ。」
「まだまだこれから激しくなりそうだな。汁が垂れはじめてるぜ。」
「ああ、クローズアップすると、なんか、海亀の産卵みたいな生々しさだな。」
「うーん。」

　結局この日はクローズアップをじっくりと撮影することができた。
「次回はカメラの角度を上下左右に変えられるようにしよう。頼むぞ。」
「ああ分かったよ。お易い御用さ。」
　二人の好色漢は機材を片付けて静かに立ち去った。


第六話

　生田に頼んだカメラの改造はまだしばらく時間がかかりそうだ。
　その間に、俊作は息子の上達ぶりを一目見てみたいと思った。

「翼、今度の休みにおれが練習を見に行ってやろうか。」

　きょとんとしている翼に横槍を入れたのは咲子だった。

「何言ってんのよ。まだ２、３度通っただけで試合にも出られないのに。」
「練習しているところを見たいんだよ。」
「だめだめ、ちゃんと試合に出られるようになってからお披露目するもんねー、翼。」
「うん。」
「ああそう。でもお前あんまり日焼けしてないな。練習サボっちゃだめだぞ。」
「うん。」
「早くレギュラーとらないと止めさせるぞ。」
「うん。」
「たくさん食べないとサッカーうまくならないぞ。」
「うん。」
「話はそのくらいで、早く食べなさい。」


　夕食の後片付けをする咲子のパンストのふくらはぎが伝線している。
　ごはんを残して箸でつついている翼の頭を小突いて、咲子は食べ終わったおかずの皿を先に片付けた。
　家計が大変だからって、伝線したパンストをこれ見よがしに履いているのか。・・・
　しかし見方によってはなまめかしいパンストの伝線に、俊作は遠のいた夜の記憶を辿った。

　新婚当時は毎日毎晩激しく求め合ったものだ。
　夕食中も我慢できず、お互い向かい合って結合したままご飯を食べたこともあった。
　朝、寝ぼけた咲子に無理やりねじ込もうとして引っかかれたこともあったなあ。
　出勤寸前までまぐわってとうとう果てずに遅刻したことも・・・
　出勤の電車の中でカバンで前をずっと隠していたこともあった。
　翼が生まれてからも１日置きにはしてたっけ。・・・

　年を取ったからって、それでもつい一年前までは週二三度はあった。
　ところが突然、どういうわけだかパタリとあれが止まってしまった。
　今はこの鬱屈した感情をバギーに注ぎ込むしかないのだ。バギーの先にあるものだ。

「あれえ、パパよだれたれてるよ。」
　翼が変な目で見ているのに気づいて、俊作は慌ててよだれをぬぐった。
「早くごはんを食えよ。残すのは許さんからな。」
　気がつくと俊作の股間はすっかり固くなっていた。俊作は椅子から立ち上がると、腰をかがめたままリビングへ小走りに去った。

「ねえママ、パパどこか悪いの。」
「なんでもないの。なんでもないの。」
　咲子は大きな身振りで意味ありげな表情をした。
「翼は余計なこと言っちゃだめよ。」