第七話

「さあて、今日もやってるかなあ、へっへっ。」
　小型カメラを改造し終えてバギーへの取り付けも完了した翌日曜日の正午。
　俊作は生田の車でまた例の堤防道路を走っていた。

「ところで、おまえ、奥さん一人に翼君を任せきりなんだな。」
「なーに、おれよりあいつの言うことをよく聞くんだだよ。」
「へえ。」
「サッカースクールだって咲子が勧めたんだよ。」
「そうか。」
「おれが買ってやったラジコンはお気に召さなかったみたいでな。」
「それでおまえが代わりに遊んでるわけか、ははははははははっ。」

　車が例の駐車場にすべりこんだ。駐車場には相変わらず車は一台もない。
　この河川敷の公園はただ広いだけで取り分け何も無かった。トイレさえ無いのだ。
　少し下流に橋が架かっていたが、車もそれほど走ってはいない。
　俊作は車のトランクをそっと開けてわななく手でラジコンを取り出した。

「おお、うまくできてるようだな。ちゃんと動くんだろうな。」
「当たり前だよ。それより、肝心のカップルがいなきゃ骨折り損だぜ。」
「おう、それじゃー、早速準備にかかろう。」

　まだ３月だというのに太陽の光がじりじりと顔に照りつける。
　水辺の草花の匂いが鼻を突いて俊作の額に玉のような汗が浮かんできた。

「よし。さあ走らせるぞ。モニタの準備はいいか。」
「ああ、いいぜ。」

　俊作の走らせるバギーは震える手のせいで蛇行して、散歩道を外したり戻ったりしながらゆっくりと進んでゆく。

「おいおい、落着いてちょっとカメラの角度を操作してみてくれ。」
「ああ。」
　モニタの画像が青空を映した。
「大丈夫みたいだな。いいぞ。」
「例のアベリアの園はあれだったかな。」

　俊作はバギーを円の切れ目の細い入口の前に止めた。

「うっしっしっし。やってるやってる。」
「的中だな。くっくっくっくっ。」
「ちぇっ、また頭が向こうになってるな。この前と同じだ。」
「野郎、むしゃぶりついてやがるな。たっぷりと気分出してるじゃないか。」
「はやく脱がせちまえよ、野郎。」

　その時、男が突然後ろを振り返った。
　右へ左へ体全体をくの字に曲げて用心深く回りをうかがった。
　そして、先ず自分の着ているシャツとズボンを素早く脱ぎ去ると、わきへ放り投げて、それから女のパンツに手をかけた。
　そしてパンツを剥ぎ取るといきなり女の茂みに顔を近づけた。

「うひゃっ。見つかるかと思ったぜ。」
「危なかったなあ。バギーをもう少し下げよう。」
「見つかったらどうする。一目散に逃げるか。」
「ばか言え。こっちは男二人じゃないか。相手はどうも若僧のようだが。」
「それもそうだな。」

　男は女の股間から顔を上げると、はあはあと肩で息をしながらながら女の服を脱がせにかかった。
　よほど興奮していると見える。一物は既にきんきんに立っているようだ。
　ケツの下からぶるんぶるんとサオが揺れるのが見える。
　そして女の上半身をすっかり剥ぎ取ると、再び女にのしかかっていった。

「さあ、いよいよ本番でござい・・・。」
「もうすこし、体の向きを変えてくれないかな。」

　若僧の背中が波打ち、汗がにじんで日の光を反射させている。
　肩甲骨がまとわりついた筋肉をふりほどくように回転運動するのを、二人のおやじは思わず口を開けて見入った。


第八話

「んんんっ、あうん」

　初めて、女がため息をもらした。

「ちゅばっ、ちゅばっ、ちゅばっ、ちゅばっ」

　男は執拗に女の唇から乳首に吸い付いている。吸い付きながらくさいせりふを言った。

「はあっ、はあっ、あそびじゃない。あそびじゃないよ。さきちゃん、好きだよっ。」

「くっくっくっ。き、聞いたか。健気な奴じゃないか。くっくっくっ。」
「うん。」
「おらっおらっ、もっと何か言ってみろ。くっくっくっ。」

「いやあああーん。そこそこ。もっとぉ。」
「ここかい。はあっ、はあっ。」
「んんっ、いやああ、はあああっ、んんんああ、いやあああああん。」

「さあ、そろそろドッキングしてみろい。くっくっくっ。」
「うん。」
「どうしたんだよ。さっきから黙り込んで。」
「いやあ、なんでもない。」
「もっと楽しめよ。」
「うん。」

　若僧の背中の動きが止まった。
　いよいよ狙いを定めて突入する気配がする。
　お尻に力を込めてサオを繰り出すような動作をしたなと思った次の瞬間、「あひいっ」という女のひきつけたような悲鳴が聞こえて来た。

「よーし、よーし。それでいいのだよ。くっくっ。」

　男の尻がピンポン玉のように跳ねだした。
　尻の筋肉がぶるんぶるんと躍動している。
　二人のおやじはまた口を開けて見入ってしまった。

「ああ、んんんんっ、だめぇ、お願い、このまま」
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、げほっ、はあっ、はあっ」
「んんあああんん、いやああんん、あああああっ」
「ああああああ、いっちゃうぅぅ」

「くっくっくっ。まだまだいくのははやいぞ。もっと見せてくれや。」

「もう少しカメラを上に向けてくれ。」
「あ、ああ。」

　はたして生田のこの言葉が通じたのか、男は結合したまま脚を前に投げ出して女の体を引き起こした。
　女は髪を振り乱して男の腹の上でのけぞる恰好になった。
　太陽を浴びてまぶしく輝く顔から乳房が、起き上がる反動で前のめりになる瞬間、女の体がカメラに正面を向けて、二人のおやじは女の顔をはっきりと拝んだ。

「おおおっ。きれいな女だ。」
「・・・・」

　女はさらに若僧の腹の上でくねくねとなまめかしく腰を使った。

「くっくっ。こ、こ、こたえられんな、これは。いい画がとれるで。」
「・・・・」
「お、おい、俊作、どこへ行くんだよ。」
「俊作っ。」



　つかつかとアベックに走り寄った俊作は、女を突き飛ばすと男に馬乗りになっていきなり二発三発とパンチを見舞った。
　男は鼻血を吹かせてそのままでかいのをおっ立てたまま気絶してしまった。
　女は怯えきった様子でその場に崩れ落ち、アベリアの垣根の根元に放り出してあった衣類に跳び付いて慌てて前を隠した。そして、俊作の顔を一目見て凍りついた。


　少しの沈黙の後、俊作が口火を切った。

「これは一体どういうことだ。」


「おいおい、一体どうしたっていうんだ。・・・あっ、咲子さんか。」

　後から来た生田が女の顔を見て絶句した。俊作は凄い剣幕になっている。

「あ、あ、あ、あんた、ど、ど、ど、どうして・・・」
「なにをっ。こいつは誰だっ。」
「さ、サッカースクールの指導員。」
「なんだと。翼はどうしたんだよ、翼は。」
「おばあちゃんちに預けてあるの。スクールには初日しか行っていないわ。」
「あきれたもんだ、お前たちは初日で意気投合ってわけか。」
「ちがうわよ。翼がスクールに馴染めないようだから、おばあちゃんちに行って、」
「翼は関係ないっ。」
「車はどこだ。」
「向こう岸のサッカーグラウンドよ。」
「向こう岸から歩いて来たってか。人目につかないようにってか。・・・」

「ごめんなさい。」
「もういい。言うな。分かれよう。」

　きょとんとしている生田を置き去りにして話は一気についた。

「話は以上だっ。ちっくしょうー。」

　金切り声でそう言い放つと俊作はポケットからホールディングナイフを取り出した。

「おいっ、なにするんだ。」
　と止めに入る生田を振り切ると、俊作は、むんずとつかんだ若僧のサオを根元からスパッと切り取った。
　血しぶきが生田の足元まで飛んで、血まみれの男が目を覚ました。

−　完　−