第１章

「理保ちゃん、和田さん指名で２１時ね」
　携帯電話の向こうで店長の声がする。来週金曜日の誕生日に彼氏がデートに誘ってくれたことでウキウキしていた気分が一気に冷める。和田というのは理保が彼氏に内緒で働いているデリヘル店の常連客で、必ず週に２人、人気嬢を長時間指名することで知られている。それがここ数年間ずっと続いており、歴代の人気嬢はほぼ全員和田の手が付いているらしい。こういった経緯があるからなのか、あるいは店長が弱みでも握られているのか、女の子のシフトに関わらず、和田の指名があると強制的に出勤させられてしまうという迷惑な慣例ができてしまっている。頭が痛いのが、和田が３ヶ月ほど前に入店したばかりの理保をすっかり気に入ってしまったため、最近では毎週のように彼に身体を弄ばれる羽目になったということである。せめて曜日や時間帯が決まっていれば良いのだが、今のところは彼の気まぐれで理保は出勤せざるを得ない。プレイがハードな上に長時間に及ぶため、翌日の出社に支障をきたすこともある。大学を卒業して今年から都内で勤務している彼女は１０月を迎えた今ではようやく自分に要求される仕事を無難にこなすことができるようになったものの、遅刻や欠勤が気軽に許される立場ではない。和田は同じ週に同じ女の子を２回指名することはないため、それだけがせめてもの救いである。
（昨日も出たばかりなのになぁ）
　入店以来、あっという間に店の人気トップに上り詰めた彼女には贔屓の客が多い。昼間の仕事の関係で水曜日と土曜日の週２日、夜１８時〜２４時限定の出勤にもかかわらず、理保は店の売り上げに多大な貢献をしている。出勤日は予約ですべて埋まり、多い日で１日５人を相手にすることもある。ただ、和田からの指名は毎週ランダムに入るので今週のように週３日の出勤となることが多い。ちなみに彼の指名が水、土曜のどちらかに入ってしまった場合、理保は欠勤扱いとなりすべての客の予約がキャンセルされてしまうため、後日理保が客に謝る羽目になる。こうした迷惑千万な客なのだが、店側は貴重な金づるである彼に対してどうしても強い主張ができないようだ。
「１８０分ですか？」
　大抵の客は６０分コースである。昨今の不景気で１２０分コースの客はあまりいない。しかし、和田は必ず１８０分以上のコースで予約する。理保の勤務は２４時までなので２１時予約ということは１８０分だと推測したわけである。
「そうそう。１８０分ね。連日で悪いけど」
　４０代の元気な店長の声を聞いて理保は思わずため息をつく。人当たりもいいし、店の女の子の健康管理もしっかりしているので嫌いではないのだが、和田の指名を伝えてくる時だけはこの店長の声が嫌になる。和田の指名が絡むとこの店長はやや高圧的になるのだ。理保は心の中でため息をついた。
「了解しました」

　乗っていた車が速度を落とす。ウトウトしていた理保はハッと目覚める。今日も朝の通勤電車で痴漢に遭い、日中は勤務先のオフィスでセクハラされて理保は疲れていた。残念なことにそういったことが日常的になってしまっている。
（何が悪いんだろう）
　自覚はまったくない。ただ、女友達に自分は男好きするルックスであると良く言われるし、会社でセクハラされている最中に『君が誘うからだ』とか『エロい身体しているからだ』とか言われることが多いので原因はきっとその辺りなのだろう。
（痴漢やセクハラなんかに負けないんだから）
　送ってくれたドライバーに礼を言って理保は車を降りた。秋も深まり夜は肌寒い。冷たい空気に触れて軽く引き締まった思いで、目の前に高く聳え立つマンションを見上げる。和田はここに女の子と遊ぶためだけの部屋を持っているのだ。彼の言うには、親から莫大な財産を相続したお陰で、３０代後半という若さにも関わらず一生遊び続けても使い切れないほどの財産があるという。こんなご時勢に羨ましい限りである。理保はふと彼氏の言葉を思い出した。
『俺がどうして『富裕層』って奴らを目の敵にするのか分かるか？あいつらは自分の才能で財産を築いたんじゃなくてただ単に親から相続したり、親族の誰かの成功にたかったりしてセレブ気取りなのがむかつくからだ。もちろん、本当に実力で金持ちになった奴もいるけどな、そんなの『富裕層』って奴らのごくごく一部にすぎないんだよ。それにしたってその汗水垂らして死ぬほど頑張って成功した奴自身が凄いだけでさ、そいつの家族や親戚は別に才能があるわけでもないのにあいつら勘違いしまくってるしな。まったく不公平な世の中だよな。相続税なんて100%にして、こいつらが当たり前のようにやってる節税という名の脱税をもっとちゃんと取り締まればいいのにな』
　もちろん彼の言い分にはネガティブな感情が多分に含まれているだろうし、そもそも相続税云々が現実的かどうかはよく分からないが、こうして和田のような人間の生活ぶりを目の当たりにすると、彼氏の意見に同調したくなるときもある。働きもせずに相続した財産だけで贅沢三昧な暮らしを送る男に対して、薄給のＯＬが生活レベルのささやかな向上のために副業で身体を売るのだ。

「おう、いらっしゃい」
　和田は愛想だけはいつも良い。やや肥満気味で外見は冴えない男だが、絶倫であり巨根の持ち主でもある。
「ご指名ありがとうございます」
　理保が丁寧に頭をさげると和田はいきなり抱きついてキスをした。つけすぎのブルガリと中年男の口臭が入り混じった匂いに不快な気分になる。
「そんな挨拶いいよ。もう何度も遊んでるんだしさ」
　そう言いながら待ちきれないとばかりに理保のスカートをズリ上げ、理保の尻の感触を確かめる。
「このお尻の感触、たまんないよ」
「あんっ･･･そんな、いきなり･･･」
　和田の指が理保の柔肌に食い込む。そして尻を撫で回していた手が今度は太ももの内側あたりを這い回り、さりげなく敏感な部分にも触れる。
「理保ちゃんの太もも、スベスベでトロトロだー」
「･･･和田さん、お店に電話させてくださいね」
　彼の愛撫に悶えながら、理保はバッグの中の携帯電話を手探りで探す。すると和田は『ちょっと待ってて』と言って奥へ引っ込んだ。彼が何をしようとしているのか分かっている理保は毎度のことにうんざりした気持ちで肩を落とした。
（あーあ、またやるんだ･･･）
　店のルールでは、客の家、あるいは待ち合わせのホテルに着いた女の子が店に連絡を入れてからプレイ開始となる。が、和田はいつもここで困ったことをする。案の定、戻ってきた和田の手には電気マッサージ器が握られていた。そしていつものようにその先端でスカートを捲り上げて理保の股間に押しつける。パンティ越しに固く冷たい無機質の感触。
「スイッチ入れちゃうよー」
　和田は怯える理保を眺めて意地悪そうな笑みを浮かべる。無意味と知りつつも理保は抵抗する。
「困ります、和田さん。そういうことはお店に電話してからでないと･･･」
　遠慮なくスイッチが入り、ブーンという音と同時に股間に刺激が走る。
「あんっ！」
　なんとか逃れようとしても、下から押し上げるように当てられると逃れようもない。こういう類の刺激に弱い理保はとても電話どころではなくなってしまい、彼の思い通りに犯されてしまう。
「だめっ、あんっ、こんな･･･」
　膝をガクガクさせながら、理保はマッサージ器を払いのけようとするが、いつものように巧みに押さえ込まれる。そうしているうちに容赦なく振動の強度が上がってゆく。
「あんっ！あっ！･･･激しすぎ･･･ます！」
　理保はもう堪えきれなくなる。一気に感度が増してしまい、身体中が痙攣を始める。
「和田さん！下着脱がせてください！汚れちゃう！いやぁぁ！！！」
「おお、いい声になってきたねー」
　和田はにやにやするだけで理保の要求は無視する。マッサージ器をパンティの上から押し当てたまま、理保が乱れる姿を堪能するのだ。
「いやっ！イクっ！イクッ！！！」
　あっという間に絶頂を迎える。理保は立っていられなくなりガクガクと震えながらその場に崩れ落ちる。マッサージ器がゴトンと大きな音を立てて床に落ち、和田はすぐにそれを取り上げてスイッチを切った。青息吐息で蹲る理保の髪を撫でながら、和田が彼女の耳元で囁く。
「気持ちよかった？」
「はぁ･･･はぁ･･･はい」
「理保ちゃん、エッチだよねー、すぐイッちゃうもん」
「･･･ごめんなさい」
「今日もいっぱいエッチなことしちゃうからね」
　そう言って和田は蹲っている理保の背後に回り、今度は彼女の尻の割れ目あたりにマッサージ器を当てる。ゾッとして理保は反射的に立ち上がる。その様子を見て和田が嬉しそうに笑う。理保は恥辱を堪えてようやくバッグから携帯電話を取り出す。
「お店に連絡しますね」
「いいよ。ねえ、これ当ててもいい？」
「それされちゃうと電話できません」
　毎度のやり取りが続き、和田が折れて今度は服の上から理保のたわわなＥカップの胸を揉み始めた。彼の希望でここに来るときはいつもノーブラである。
「あぁ･･･もっと優しく･･･」
「ほら、早く電話しないとどんどんエッチなことしちゃうぞ」
　和田の指が服の上から理保の乳首を擦り始めた。乳首は特に弱いので服の上からでも感じてしまうが、これならなんとか電話はできる。すぐに店長が出た。
「理保です。入りました」
　毎回和田の悪戯があるので大抵は予約時間から１０分ほど遅れての連絡となるが、店長は気にしていない様子だ。
「はいよ。頑張ってねー」
　店長の他人事のような軽い調子に恨めしい気持ちになりながら理保が携帯電話をバッグにしまうと、和田が理保の服を捲り上げて直に胸を愛撫し始めた。色白の豊満な乳房が和田の醜い両手で蹂躙される。
「あんっ、和田さん、あっ･･･あぅ」
　乳首を指の腹でこねられると理保は感じすぎてうまくしゃべることができなくなる。
「どうしたの？気持ちいい？」
「はい。あんっ･･･んっ･･･先にシャワー･･･浴びませんか、はぅ！」
　乳首を強くつねられて理保の全身を刺激が貫く。この３ヶ月で和田の指名は１０回を越え、理保の敏感な部分は知り尽くされている。乳首を強めにいじるのが効果的であることももちろん和田の頭にあるだろう。理保の抵抗も空しくＥカップの美乳は和田によって散々に犯された。すでに乳首は恥ずかしいくらいに硬くなり、色白の柔肌は火照りを帯びて淡い朱色に染まる。片方ずつ念入りに吸い付きながら乳首を舌で転がし、最後に名残惜しそうにキスをして、ようやく和田が顔を上げた。
「よし、じゃあ、シャワーにしようか」