６　愛とは身も心を捧げること

　インターホンが鳴った。
　三郎が出てみると、リューイだった。
「どうしたの？」
「ちょっと、おたくのテレビを見せてよ」
「えっ？」
　リューイは部屋に入り込んで、応接のソファに座っていた。
「何か、おもしろいものでもやっているの？」
「今晩の夕食会はね、わたし、ホ・ヨンジュンさんとルナの仲を取り持ってあげるつもりだったわけ」
「８７へぇ〜。君って、意外に世話好きなところもあるんだね」
　三郎はちょっと感心している。
「さぁ、これから、ヨンジュンさんとルナのセックスがはじまるわよ、三郎、一緒に見ましょ」
「それは悪趣味だよ」
「いいのよ、いいのよ、気にしなくても。ヨンジュンさんとルナもわたしたちが見ていることを知っているから。その方がよけいにふたりとも興奮が高まるわ、きっと」
　三郎はがっかりしていた。
　結局、リューイは性の快楽のことしか頭にないんだと思う。
　そういう低次元な女に、『愛とは何か』を教えてあげるなどと約束してしまったことが情けなかった。
「リューイ、ともかく、僕は、バスにつかってくるよ」
「だめだめ、ここにいて。そして、一緒に見ようよ」
　三郎は振り捨てて、バスルームに入った。
「ったく、やってられないよ」
　三郎は、ひとりでぶつくさ、つぶやいていた。
　ぬるま湯にして、三郎はいつまでも、湯をはったバスの中にいた。
　しかし、湯当りをしてもいけないので、バスから上がり、居間に戻る。
　人、いや、ロボットの声がする。それも一人のものではなかった。

　あっ、リューイがいる。その上に、ルイが、ホ・ヨンジュンさんが部屋に来ているではないか。
　三郎は恥ずかしかった。
　バスタオルを腰に巻いているだけの姿だったし。
「長いお風呂ねぇ〜」
　リューイにからかわれているような気がした。
「いや」
　三郎はなんとも、貧弱な肉体を晒していることが、たまらなくいやだった。
　顔を俯かせている。
「ねぇ、三郎、わたし、ヨンジュンさんに抱かれたいの、この部屋で」
　三郎は、顔を上げた。
「……？」
　三郎は、リューイの言っていることの意味がよくわからなかった。湯当たりでもして、頭がボーッとなっているせいだろうか？
「浦島さん、どうでしょうか？。実は、リューイさんにそんなことを頼まれて。それで、僕は言ったのです。浦島さんの目を見ると、とってもリューイさんのことが好きなように見える、だから、浦島さんのご了解なしには、そんなことはできない、と」
「そんなぁ、僕は、リューイの恋人でもないし」
「でも、浦島さんは、リューイさんのことが好きなのでしょ？」
　ヨンジュンさんが、ちょっと、笑いながら言っている。
　男でも見惚れるぐらい、とても素敵なほほえみだった。
　リューイはと見ると、顔を俯けていた。
　ルナが三郎を見つめながら言った。
「三郎さん、リューイの願いを聞いてあげて。リューイは、ホ・ヨンジュンさんのことが好きなのに、あたしとヨンジュンとの仲を取り持ってくれたんだよ。今度は、あたしが、リューイの恩に報いなくっちゃ。リューイがヨンジュンに抱かれているあいだ、あたしが三郎さんにサービスしてあげるわ」
　三郎は、ルナの目から視線をはずすようにして、ヨンジュンさんを見た。ヨンジュンさんは顔にほほえみを浮かべながら、小さく頷いている。
　ヨンジュンさんは、ルナがそんなことをしても焼き餅を焼かないのだろうか？。三郎はロボットたちの神経はどうかしていると思った。
　それに、リューイだって、カマトトだと思った。ルナは知らないのかもしれないが、リューイはヨンジュンさんとセックスをしたことがあるのだ、と三郎は思う。テレビで見たのだから。でも、ルナの前で、そんなことは言えなかった。
　三郎は、リューイに言った。
「ほんとに、君はヨンジュンさんに抱かれたいの？」
「三郎、ごめんね」
　リューイの瞳は濡れていた。
　三郎の胸が疼く。嫉妬がある、しかし、一方では、リューイの願いを、きいてやりたいという気持ちが湧いているのも事実だった。
「ヨンジュンさん、いいのですか？」
「ええ、あなたさえよければ、僕は…」
　三郎は、顔を真っ赤にしていた。まるで自分がリューイの恋人のように振舞っていたからだ。
「リューイ、よかったわね」
　ルイの声がした。
　もうその時、三郎は、まったくリューイの恋人になっていた。
「リューイ、ヨンジュンさんに、あまり迷惑をかけてはいけないよ」
「はい！」
　リューイが素直に答えている。三郎は、リューイがいとおしくてたまらなかった。このまま、リューイを襲いたいぐらい、頭の中が狂っていた。しかし、リューイを愛していた、だから、リューイの前で、リューイの友達を愚弄するなんて、とてもできなかった。三郎はしっかりと理性を働かせていたのだ。
　三郎は、ヨンジュンさんに頭を下げていた。
「ヨンジュンさん、では、リューイのこと、よろしくお願いします」
「はい」
　ヨンジュンさんが小さく、照れたように笑った。

　リューイが、恥ずかしそうに、でも、とても大胆に、ヨンジュンさんに近づいていく。そして、腕をヨンジュンさんの首にからめ、つま先立ち、背伸びをするように、自分の方からくちびるを寄せていく。
三郎は、思わず目を瞑った。しかし、なぜかはわからないが、自分の股間のジュニアがビックンと勃（お）っ立ったのを感じた。

「三郎さん、ベッドはリューイたちに貸してあげましょうね。あたしたちは、あちらのソファに行きましょう」
　三郎は、リューイたちの方を見ないように、顔を横の壁の方にねじまげるようにして、目を開いた。横目にちらりとルナの顔が見えた。
　ルナに手を取られるようにして、三郎は、歩き、そして、ソファの上に座る。座るとき、ベッドの方が見えないように、ベッドのある方角に背を向けて座る。
　ルナが、三郎を見上げている。ルナの手が三郎の股間に伸びる。三郎のモノをルナがバスタオルの上から、撫でさすっていた。
「うん、ウン、はぁっ、　んっんっんっーーー」
　三郎の耳に、リューイのあえぎ声が届く。三郎のモノが固くなる。
　ルナが、ちょっと笑いながら、股間のモノを、タオル地とともに、しっかりと握る。
「ハァ、ハァ、いいわ、いいわ、気持ちいいわ」
　リューイの声がする。その声が三郎の頭を狂わせる。三郎は、隣に座っているルナの肩を抱き寄せていた。そして、ルナのくちびるを奪っていた。
　三郎は、リューイへの嫉妬心を跳ね飛ばさんばかりに、狂ったように、ルナをソファの上に押し倒している。
　ルナの頭がソファの肘掛けに当たる。そのルナの顔に、自分の顔をぶっつけるようにして、三郎はルナのくちびるに、自分の唇を押し付けている。三郎は股間のモノが猛々しいほど、勃（お）っ立っていることがわかる。
「三郎さん、ちょっと、ちょっと待って」
　ルナがソファの肘掛けから起き上がり、そして、絨毯の上に立っていた。
　ルナがドレスを脱いでいる、真っ白なブラジャーが三郎の目に飛び込んでくる。
　ルナがそのブラジャーを取る。三郎は、ジュニアがビクンと波打つのがわかる。真っ白で、お椀を伏せたような乳房が現われ、そのてっぺんに、ピンクの乳首がはっきりと見てとれた。
　ルナは、草叢が透けて見えるほどの、薄く、真っ白なフリルのついたパンティを穿いていた。そして、ルナは、その真っ白な小さなパンティさえ、自分で脱ぎ取っていた。
「さぁ、三郎さん、ソファの背にもたれて。そして、足を開いてみて。粘薬ローションを塗ってあげるわ」
「えっ？！」
「この薬を塗るとね、敏感なところの皮膚が麻痺して、長持ちするのよ」
「ウン？」
「リューイから聞いているの、あたし」
「あっ、あああ、そうなんですか」
　三郎は、顔を赤くした。
（リューイのやつ、僕が早漏だってこと、ダチにまで、言ってるんだ！）
　ルナは、絨毯の上に膝をついて、立て膝のかっこうをしていたが、手を伸ばして三郎のバスタオルを剥ぎ取っている。
「まぁ、元気のいいこと」
　三郎は恥ずかしかった、ヨンジュンさんのように太くて長くはないから。
　しかし、ルナは、構わず、三郎の亀頭部をつまんで、陰茎の根元から麻痺薬を塗り始める。そして、茎をつかんで、もう一度、チューブから絞り出した粘薬を亀頭部にもていねいに塗っていた。

「あっ、あああっ、アンアン、ア――――ン」
　リューイの声が三郎の耳に届く。嫉妬で胸がちくりと痛い。
　リューイのやつ、何をしているんだろう。三郎の顔がまっ赤になる。
　ルナが、横目でちらりとベッドの方を見た。
「まぁ、リューイったら、ヨンさんにおフェラをしてもらっているわ」
　三郎は、嫉妬の渦がおさまりそうにない。それで、ルナに言った。
「僕も、ヨンジュンさんのように、君におフェラをしたいな」
「いいわよ」

　三郎は、絨毯のところに降りる。今度はルナをソファに座らせる。ルナには、ソファの背もたれに、しっかりと背中をあずけさせ、おなかを前に突き出すように、深々と座ってもらう。
　三郎は、床の絨毯の上に立ち膝をついていた。
　ルナに、床からソファの上に足を持ち上げさせる。そして、その折れ曲がった足を９０度以上に開かせる。
　ルナの股間が大きく開かれ、女陰部が一層露（あら）わになる。
　三郎は、ルナのヘアを両手の指先で、丁寧に掻き分けていた。
　そもそも女が好きなのか、リューイの友達だから大事にするのか、三郎には、よくわからなかった。
　大陰唇、小陰唇と、膣口を中心として、丸く円を描くように、ルナ自身を指先で優しく愛撫していく。
　卑猥な、しかしそれでいて♂（オス）としての本能を刺激する、ルナの股間のお○ンコに、三郎は顔を押し込んでいた。
　ルナを愛しているわけではない。しかし、確実に、ホ・ヨンジュンさんに負けたくないという、雄としての本能が、三郎の脳を支配していた。
「ハァハァハァ、ウッ、ンッ ンッ ンッ ンッ―――ン」
　ルナの声ではない。リューイのものだ。
　リューイへの怒りが込み上げる。
　しかし、ベッドのリューイを襲うわけには行かなかった。
　その鬱屈した矛先を、ルナの股間のモノに向かわせるしかなかった。
　三郎は、唇をべとべとにしながら、ルナの膣前庭を舐めまくっていた。と、鼻先が硬いモノに当たる。ルナのクリトリスだった。
　その硬いものも、くちびるで挟み、舌先で舐める。
　そして、ルナの中心部に顔をつけ、唇を寄せていった。
「あっ、ああああーーーーっ」
　それは、リューイの声ではなく、まぎれもなく、頭上のルナの声だった。
「もっと、もっと、奥までよ、奥までよ」
　ルナの声がした。
　三郎は、舌を丸めるようにして、ルナの中へ舌を差し込む。そして、その舌を出し入れする。
　唇は、ルナの愛液でべとべとに濡れてくる。
　三郎は、顔を上下させながら、鼻先で、クリトリスを愛撫しつつ、開いたくちびるで、膣前提をあさり、舌先で、ルナの蜜壷の中を愛撫していた。
　と、三郎の肩先に、誰かの手がかかる。少し顔を上げると、ルナの手だった。
「おっぱいも、揉んで」
　三郎は、両手を上に伸ばす。手の平で、ルナの乳房を揉む。そして、顔をまた、ルナの股間につけていく。股間に口をつけながら、上に伸ばした手では、親指とひとさし指で、ルナの乳首をつまみ、愛撫する。
「んっんっんっ、いいーーっ」
　ルナのクリトリスと、乳首は、神経がつながっているみたいだった。
　三郎は、左手で乳首を、唇でクリトリスを、右手でヴァギナの中を愛撫していた。
「あああっ、いいわ、いいわ、もういいーっ、入れて入れて、早く！」
　三郎は、ルナの腰を抱えるようにして、ソファの上からルナを降ろさせる。そして、絨毯の上にクッションのひとつを置き、それを枕代わりにして、ルナを絨毯の上に寝かせつけた。
　ルナの膝を立てさせ、Ｍの字型に両足を開かせた。
　クリトリスを揉み、クレバァス（裂け目）を指で押し開く。中を抉（えぐ）ると、ジクジクとルナの中から蜜汁が溢れ出た。
　三郎は、腰を近づけつつ、ペ○スの先をクレバァスに当てると、一気にルナを貫く。
「ハァ、ヒィーッ、んんんんっ、ああっーーー」
　三郎は、腰を使っている。
　長く持っていることが不思議だった。
　たぶん、ルナが陰茎に遅漏用の麻痺薬を塗ってくれたせいなのだろう。
　腰を立てるようにして、ルナの蜜壷の下側を抉る。そして、腰を一端落とし、腰を突き上げるようにして、ペ○スの先で、ルナの蜜壷の上側をえぐった。
「ハァ、グゥーッ、ハン、アッ、ア−ンッ」
　両方の手で、ルナの乳房を押しつぶすように揉む。そして、腰を前後に動かした。
「ウッ、ウッウッー、ハァ、ウゥッー、いっ、いいわ、いいわ」
　三郎は額に汗を掻いていた。
　学習能力を発揮し、インターネットで読んだ官能小説の主人公になったみたいに、懸命に上下左右に腰を動かしながら、蜜壷の中の襞肉をえぐっていく。
　しかし、どうしたことなのだろう？、ジュニアの芯が、いっこうに固くならないのだ。
　ある程度の固さは保持していた。しかし、陰茎の中に強い芯が通らないのだ。それに、海綿体が、氷のようにカチカチに固まっていかないのだ。
「アアア、イイーッ、もっともっと、イイイーッ」
　ルナは、からだを震わせていた。しかし、ルナと一緒にイこうとするのに、ジュニアに芯が入らないのだ。芯は入らないのだが、動きは止められない、ルナのためにも。
「もぉっ、アアアッ、イイーッ、イイイ――――ッ！」
　三郎は、イけない。そのとき、胸から何か、こみ上げるようなものが。
　気分が悪くなった。固いモノをルナから引き抜く。
　三郎は、あわてて腰にバスタオルを巻き、トイレに飛び込んだ。
　便器を抱え込むようにして、三郎は吐いた。
　大して飲んでいないはずだった。しかも飲んだのはアルコール度の低いビールだ。酒に酔ったわけではない。
　すると、悔恨のせいなのか？。
　三郎は呆けたような顔をして、トイレの中で蹲っていた。
　その時、トイレの戸を叩く音がした。ドアを開けるとリューイがいた。
　リューイは、ブラジャーとパンティだけの姿だった。
「どうしたの？」
「急に、気持ちがわるくなって」
「どうして？」
「よくわからない。ルナとやっているときに急に…」
「ともかく、こんなところじゃ、なんだから、居間に戻りましょ」
「でも、ヨンジュンさんたちが…」
「あっ、ルナとヨンジュンは、わたしの部屋に行ったわ」
「えっ！」
　そう言いながら、三郎はなぜか、ほっとしたような。
　ふたりで居間に戻り、リューイとソファに腰掛けた。

「三郎、どうしたの？」
「ごめんね、ルナとしているとき、急に、気分がわるくなったんだ」
「どうしたのかしらね」
「酔いのせいじゃないよ」
「なら、どうして？」
「僕にも、よくわからないが、あえて言えば、罪悪感かな？」
「なに、それっ？」
「僕はね、高校のときから、マスを掻いていたんだよ」
「マス？」
「マスターベーションさ。数�Vで、定積分の置換積分法・部分積分法の問題を解いている、でも解けない。イライラしてきて。つい、手が股間に伸びて。勉強もせずに、マスにのめりこんでしまって。射精したあと、ひどく罪悪感にさいなまされてしまってね」
「ハァ、あ〜ん、よくわからないな。でも、そのあと、勉強を続ければいいじゃん！」
「そうもいかないよ、そのまま、勉強は放っておいて、寝る」
「で、ベッドに入って２回戦突入、でしょ？」
「バカバカ、そんな本当のこと、言うんじゃないの！」

「マスって、じゃ、ひとりでやるのね」
「まぁ、そういうことかな」
「かわいそぉっ」
「でもないよ、オナペットというグラビア写真の中に、かわいい女の子はいるからね」
「はぁっ、そういうもんですか。でも、さっきは、マスじゃないのに、なんで、三郎は罪悪感を感じたのかな？」
「高校時代のソレは、勉強をサボったという罪悪感。さっきのソレは、あるいは、好きな人を裏切っているという罪悪感かもしれない…」
「好きな人？、裏切っている？、よくわからないよ」

　三郎は、顔を赤くしていた。
　リューイがすぐそばにいる。
　ふたりきりなのだ。告白しているようなものではないか？。
　しかし、三郎は居直っていた。
「たぶん、僕は、リューイが好きなのだ。それなのに、他の女の人と、堂々とセックスしている。僕は、リューイに対して申し訳ないと思ったにちがいない」
「そんなことぉー、信じないよ」
「信じなくてもいい。それは、そう僕が思っただけなんだから」
「三郎は、わたしのことが好きなのね」
「うん」
「ルナのことは？」
「好きではない。ただ、リューイの友達だし、いい人だとは思っているよ」
「わたしのこと、好きなんだ。でも、愛してはいないのね？」
「ああ、まだ、たぶん。君のために、すべてを捧げられる、というところまでは、行っていないと思うよ」
「何の、すべてを？」
「からだも、こころも、すべてをさ」
「からだのすべてって？」
「いつも、君のそばにいること」
「こころのすべてって？」
「いつも、心の中で、君のことを想っていること」
「そんな馬鹿な。そんなこと、ロボットにもできっこないよ」
「だろう？。でも、愛とは、自分のからだも、心も、すべて、恋する人に捧げるってことじゃないのかな？」
「わぁっ、むずかしい！」
「むずかしいだろ？、だから、そんなこと、僕にはできない。でも、愛とは何か、言葉では、僕は、君に教えてあげたからね。それで、勘弁してよね」
「かんべんしてあげると、どうなるの？」
「つまり、君への宿題は終わったから、僕は、このムマンションを出て、ブラック先生の病院に住み込みして、働くことにする。これ以上、君のキャッシュ・カードを当てにして暮らしてはいけないと思うから」
「だめだめ、それは、だめよ」
「どうして？。宿題は終わっていないもの」
「えっ！？」
「三郎の答えは、答えになっていないよ。わたしは納得していないよ。愛とは、言葉だけじゃない、愛とは実践の中にあるのよ。好きな人をからだで愛する、好きな人をこころでも愛する。愛するというのは、言葉だけじゃだめよ、実践の中で証明してくれなくっちゃ」
「おいおい、ちょっと、待ってくれよ。そりゃ、約束がちがうよ。そんなことまで、僕は約束していないよ」
「だめよ、あなたのからだで、愛とは何かをわたしに教えて。そして、あなたの心で、愛とは何かをわたしに教えて。言葉だけの説明じゃ、絶対に許さないから」

　三郎は困った。しかし、すでに三郎はリューイを好きになっているのだ。
　リューイを突き放す勇気がなかった。
「リューイ、実践というけど、それは大変なことなんだよ」
「それって、どういう意味？」
「つまり、実践となると、たとえば、君は僕とセックスをするはめになる、それはからだを通しての実践となるからだ。そして、君は僕とメール交換してデイトの約束をし、コンサートに行ったり、美術館に行ったり、テニスに行ったりしなくっちゃならなくなるんだよ、それは心のふれあいという実践活動として、必要になるからだよ。そんなことになってもいいの？」
「いいよ。それは実践してみないとわからないもの。からだで愛してもらっている、心で愛してもらっている、といっても、どんなことか、わたしにはまったくわからないもの」
「……」
　三郎は困った。
　どんなセックスをすればいいのだろう？
　どんなデイトをして、リューイの心を満たせばいいのだろう？

「三郎、しっかりして。君の目、うつろになっているよ」
「ああ…」
　実際、困っていた、三郎は。
　セックスもうまくないのに。リューイと結婚しても子どもができるわけでもないのに。
　子どもでもできれば、その子どもを介して、お互いに愛を育むことだって、できるだろうに。しかし、そんなことは夢のまた夢だ。どうしてこれからのふたりの生活に未来の展望が開けるのだろうか？。
「三郎、しっかりしてよ。言葉じゃなくて、実践よ。これからは、実践あるのみ。わたしは、あなたとセックスをしてみるわ、そして、デイトとやらに付き合って、どこへでも付いて行ってみるわ」
「すごいね、君って。すごく気の強いロボットなんだね」
「でも、三郎が、英数国理社の秀才でなくてよかった！」
「なんだい、そりゃ」
「だって、リューイはね、音楽、美術、体育、家庭科のできる男の子が好きなの」
「言っておくけど、料理も出前ばかりじゃ、いけないからね」
「えっ、そんなぁー！」
「たまには僕と、レシピを見ながら、料理も作ってみようよ」
「やだやだ、わたしが得意なのは、セックス体操だけなのにぃー」
「じゃ、得意のセックス体操をしてみようか？」
「えっ、そんな！」
　実際、リューイをベッドに誘うなんて、三郎には、そんな勇気はなかったのだが。たぶん、ルナの塗薬のせいなのだろう。それで早漏の解消はできる。短小の解消も、ブラック先生の手術を受ければいいのだ。

　三郎は、実践することにした。セックスも結局、実践の中で、上手になっていくしかないと思うのだ。
　もっとも、身体以上に、リューイの心を奪うのは困難に思えた。からだなら、媚薬や淫具を使えば何とか満足させられるだろう。心を奪うことは、大変なことだと思う。人間的な優しさだとか包容力がないと。しかし、それも努力で勝ち取っていくしかないのではなかろうか？。
　三郎は、リューイをベッドにいざなった。
　リューイの首筋に甘いキッスを捧げる。
「リューイ、愛しているよ」
「ほんと？」
「ああ」
「目を見せて、三郎」
　食い入るように、リューイが三郎の目を見ている。
（見てもわかるものじゃない、しかし、僕は、リューイを愛している。リューイが僕の胸を切り開けばわかるかもしれない、真っ赤な血が流れているからだ。しかし、そうしたとしても、わからないだろう、赤い血の中に、『愛している』という文字が浮かび上がるはずもないからだ。しかし、そういう文字がなくても、リューイを愛しているかどうかは、僕自身が一番わかっている、僕にしかわからないんだ）
　三郎は自信に満ちていた。
　愛とは、まず、自分が相手に捧げるものなのだ。それを相手が受け止めるかどうかはどうでもいいことなのだ。人間の男とは、愛する女を抱きたいのだ。その女が自分のことをどう思っているかなんて、二の次の問題なのだから。
　三郎は、ベッドにリューイを寝かせつける。
　リューイにキスをした。
　キスをしながら、ブラジャーを取る。そして、リューイの乳房を柔らかく揉みほぐしていく。
　リューイが舌をかませてくる。三郎は、それを吸う。
　手を伸ばして、リューイのパンティに手を掛ける。
　パンティの上から、リューイの股間を揉みしだいていく。
　時間はたっぷりとある。
　三郎は時間をかけて、リューイのくちびるや、舌を丁寧に愛撫していった。
　手は、また、胸元へ。乳房を揉み、乳首を指先で摘んだ。
　わき腹をなで、おなかを撫で、パンティの上からクレバァスの裂け目に沿って、指先を擦りつける。
　指先に力を込める。パンティの布地が湿り気を帯びてくる。
　三郎が唇を離す。
「はぁ、はぁ〜ん、いやいや、いや〜ん」
　三郎は、パンティの股の方の隙間から、指を入れる。そして、その指をクレバァスの裂け目に這わせる。リューイのものはすでに濡れている。さらに指を食い込ませ、進め、裂け目の谷間に辿り着くと、ねっとりとした蜜液が指先にからみついてきた。
「アンアン、三郎、頭が変になりそうよ」
　三郎は、パンティを取る。
　リューイの股間から、何か、発情したメスの匂いが湧き立っているような気がした。リューイは、ロボットなのだ、そんなはずはなかった。リューイの股間に顔をつけていく。
　左右対称となった、形のよいクレバァスがそこにはあった。匂いはやはりしなかった。やはり、リューイはロボットなのだ、人間の女性ではなかった。いくら自分が愛を注いでも、愛の結晶がリューイの子宮の中で実を結ぶことはないのだと三郎は思った。
　三郎は悲しかった。１回のセックスで３億匹に近い精子群がリューイの膣の中に注ぎ込まれる。しかし、彼らに向かうべき目的地はないのだ。３億に近い仲間が、みんなリューイの卵子の中にもぐりこみたいのに。
　しかし、リューイのクレバァスを唇で愛撫していると、ジュクジュクとまるで音でも立てながら、透明な甘い蜜が湧き出てくる。それが三郎には、いくら２２世紀のＳＥたちのプログラミングのせいだとわかっていても、リューイそのものがいとおしかった。
（人間の世の中だって、子宝に恵まれない夫婦もあるのだ。夫婦の仲がよければ、子どもなんてなくてもいいじゃないか）
「ハァ、グゥー、んっぐぅ　んぐぅ　んぐ、ンッン、ンッン、ン―――ッ」
　リューイがしきりに腰を揺らしている。
　三郎は、内腿を抱きながら、リューイの淫核をくちびるで、まさぐっている。
　舌の先で、やや包皮になった淫核を剥く。
　包皮を剥くと、それは同時に硬さを増してきた。２２世紀のＳＥたちの技術力の高さに三郎は舌を巻いていた。
　こんな技術力があれば、２３，２４世紀のＳＥたちは、見事に、高齢者用介護のロボットたちを創造していけるだろう。少子・高齢化社会、それこそ、高齢者の心を理解し、心の篭った介護サービスをするロボットたちが望まれるのだ。そして、そのロボットたちにも、性を楽しませてやらなくてはならない。人間が性の快楽を得ているなら、人間のために働くロボットたちにも、性の快楽を与えてやらねば、神の意志に背くことになる。
　人間は睡眠によってまた、元気を回復して気持ちよくなれる。食事をしておいしいと感じ、活力をみなぎらせることができる。セックスをしてめくるめくような快感を感じることができる。眠る、食べる、セックスをする、それにはみんな楽しみが伴う。人間のためにロボットは働くのだ。奴隷のように働かせてはいけない。働く喜び、そして生きる喜びをロボットたちにもプログラミングしてやらないと、ロボットたちがかわいそうだ。

　宇宙はつながっているのだ。
　地球人は、確かにこの銀河系、太陽系第３惑星の地球を捨てて、銀河系のどこかの惑星にいるはずだ。２３世紀のＳＥたちに、ロボットを単なる労働者にしてはならないというメッセージを届けなくては。そんなことを考えながら、三郎は、リューイのヴァギナに執拗なクンニリングスを施している…。
「んっ、んっ、…、…、ウン、んっ――――っ」
　リューイの腰が痙攣しているような。
　しかも、リューイの襞肉の入り口がヒクヒクとして、何かを求めているようだった。
　三郎は、収斂を繰り返しているリューイの蜜壷の中に、長い中指を入れ込む。その指に、まるで意思でもあるかのようにリューイの秘唇が食らいつく。構わず、中指を入れ込む。中指の関節を折り曲げながら、襞肉の左右をえぐる。下の襞肉を、そして、上のＧスポットに当たる天井部の襞肉を。
「ハァ、ハァ、ハァア〜ン、アッ、アァッ―――ッ」
　ロボットにも、やはり、ＳＥたちは膣内上部にＧスポットなるものを用意していたらしい。未来のＳＥたちは、やはり性心理学者、性医学者たちの協力を得ていたのにちがいない。人間ひとりの能力には限界がある。やはり人間のすばらしいところは、協力し合うというところなのだろう。
　三郎は、人間としての誇りを持った。
　ジュニアが天を仰いでいた。短小であろうと、早漏であろうと構わない。今は、男として、リューイの女のモノを貫くしかない。
　三郎は身を起こした。リューイの腰を寄せる。そして、天を仰いでいるモノを上から押さえつけ、リューイの濡れそぼった膣の中に、突き刺した。
「アッ、アアアアアアア―――――――！」
　三郎の♂に貫かれ、リューイはワナワナとからだを震わせていた。
　三郎のモノは１８センチも２０センチもない。しかし、腕立て伏せの格好をしながら、腕を突っぱね、上体を反らせながら、奥の奥まで、怒号したモノを押し込んだ。
　リューイが弓なりに背をのけぞらせ、腰を持ち上げる。
　その時、三郎は、♂と♀との戦いを感じていた。♂はさらに猛々しくなり、♀はさらにその猛々しいものにからみついて行った。
　と、三郎は、リューイの顔を見てしまった。リューイの顔を、美しくも悩ましい顔を。
「あっ、あああっ！」
　三郎は思わず、声を上げていた。　
　三郎は、未熟にも、リューイの悶える顔に、思わず、吐いてしまったのだった。
（人間の弱さ！）
　三郎は、気をやってしまい、ガックリと上体をリューイの胸の上に重ねてしまっていた。
「リューイ、ごめん、イッてしまった…」
　三郎は、涙声で、リューイの耳元に囁いていた。
「いいよ、三郎、気にしなくても」
「ほんと、ごめん」
　三郎は、リューイの肩口に顔をこすりつけるように、あやまっていた…。
「三郎、愛しているって、言って！」
　リューイの声がした。
「ああ、愛しているよ」
　三郎は、少し笑った。そのとき、三郎は、股間のモノが締め付けられるのを感じた。
　リューイのあそこが蠢いている。
　蜜壷の中の襞肉が、差し込まれたままの三郎のモノを押し包んでいる。押し包みながら、襞肉が収斂を繰り返しているのだ。
　波のようなうねりに、三郎のジュニアが翻弄されている。と、ジュニアがそのうねりに逆らうように意思を持ち始めた。
　陰茎がしぼられ、硬くなる。そして、しぼられるうちに、硬くなった肉棒に芯が通りはじめた。
「アンアン、いいよ、いいよ」
　リューイが喘ぐ。その声に、陰茎に、一気に気合いが入り、ビクンという音とともに、リューイの中で、ジュニアが再生していた。
「リューイ、ありがとう」
　三郎は、再生させてくれたリューイに感謝した。
「三郎、愛しているって言って！」
「愛しているよ、リューイ！」
「今度は、がんばってね」
「ああ」
　三郎は、両腕を突っ張り、リューイの胸から上体を起こしはじめていた。
　三郎は、ふたたび、律動を開始する。
「アアッ、アアー、イイー、アッ、イイッ―――ッ」
　三郎は、歯を食いしばって動いていた。
　それは、リューイを喜ばしたいという一心からだけだった。

　いつか、リューイにも、自分の心がわかるようになるかもしれない。いや、わからないかもしれないが、がんばらねばと三郎は、動きながら考えていた。
　しかし、人間は神ではない、先のことがわからない。しかし、人間とは先のことがわからなくても、努力をする存在なのだ。
　神は、死ぬまで働きつづけるように、そして虚しい所業だとわかっていても、努力するように、人間を創造されたのだ。なぜなら、人間は永遠の存在ではないからだ、永遠に虚しい作業をするわけではないのだ。人間には等しく死というものが与えられているからだ。
　死はすべての苦楽から、人間を解放する。
　しかし、神は自殺をする人間を決してお許しにはならない。せっかく与えた大切な命だからである。１／３００，０００，０００の確率で命を与えた人間に、勝手な死はお許しにならないのだ。
　人は、おろかにも、男性の精子が女性の卵子の中に突入して受精卵になったときに、生命が誕生するのだ、などと表面的なことしか見ていない。精子も卵子も生命体なのだ。その生命体同士の結合が生命の誕生だとする論理はあまりにも単純きわまりないことだ。神の意思はそんなところに働いてはいないのだ、もっと深いところで働いている。
　生についての解明も、死についての解明も、人間はほとんど成し遂げてはいない。
　神は、努力をした者にこそ、安らかな死を与えたまうのだ。寿命をまっとうして、死んでこそ、神は慈愛を人間にお与えになる。
『ああ、よくこの天国に来たね。現世ではよく働いたね。ここでしばらく、ゆっくりと休むのだよ。そして、また、おまえの出番が来たら、起こしてあげるからね』
　神の愛を信ずるのだ。
　神の愛を信ずるがゆえに、自分はロボットであるリューイを愛せるのだ。自分が神の許に召されるとき、リューイの一筋の涙を見ればそれでいい。
　年を取り、臨終の床で、リューイの涙を見るまで、自分は、リューイを愛していこうと三郎は思った。

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　平成１６（２００４）年８月３１日、台風１６号も去って、残暑の厳しい日のことであった。
　大町市警察署の刑事課の一室である。
「警部補、市内マンションで変死体が見つかりました」
　大町市警察署の刑事課である。
「そうか」
「現場検証にお付き合いをお願いします」
「しようがない、付き合うか。何しろ、生命保険会社の外交員がうるさいからな。俺も現場ぐらい見ておかんとな」
　小川警部補は、荒川刑事とパトカーに乗り込む。
「暑いな。しかしそれにしても、このクーラー、効きがわるいぞ」
「施設整備課に、取り替えをお願いしたんですが。庶務課であっさり断られたそうです、予算がないから、って」
「ああ、今はどこも経費節減ってやつだからなぁ。ちょっと前までは、『予算が余ってますから、使い切ってください』なんて、庶務課の連中に返って、頭を下げられたもんだが…」
　ふたりは現場に着く。
　マンションの一室に入り込む。
「なんだ、なんだ、部屋はエロ本ばかりじゃねぇか。死亡者の職業は？」
「ＳＥだそうです」
「なんだ？」
「システム・エンジニアですよ」
「最初から、そう言えよ」
「あっ、警部補、こんなものが」
　荒川刑事が、押し入れを開けると、そこには、ゴム人形のようなものがあった。
「なんだ、こりゃ。南極の越冬隊員が使う、ダッチ・ワイフじゃねぇかよ」
「うん？」
　警部補は、若い刑事に、うんちくを傾けるつもりらしい。
「おまえら、若いもんにゃ、わからねぇだろぉが、要するに、これは海遊びに使う浮き輪みたいに、ここから空気を入れて膨らませる、人間大をしたゴム人形にするもんさ。あっ、ここに女性用のカツラもあるな。これを人形の頭にかぶせる、すると女の人形になる。それにな、ここに穴があるだろぉ、これが、その、女のアレってわけさ。今どきゃ、越冬隊員として女だって南極にも行く時代なんだぜ、こんなのを持っていきゃ、それこそセクハラもんだ。で、死亡者の氏名、年齢は？」
「浦島三郎、年齢は２９歳」
「ふ〜ん、それにしちゃ、古臭せぇ、シロモノを持っていやぁーがるな」
「警部補、関係者の話だと、この男、大学付属病院の精神科に通っていたそうです」
「病名は？」
「抑うつ病」
「なるほど」
「そのほか、近所の人たちに聞くと、『車が空を飛んでいる』とか『僕の口座には自動的に日本銀行から振込みがあり、いくらカードを使っても自己破産することがない』とか、おかしなことをつぶやいていたらしいですよ」
「そうか、気でも触れていたのかな」
「どうも、このところ、会社もずっと休んでいたそうです」
「気を病んで、飯も食わず、ずっとこの部屋に閉じこもっていたんだろうか？。それにしても、セフレのひとりもいないで、空気枕でも抱いて寝るように、このダッチ・ワイフとやらを抱いて寝ていたんだろぉなぁ〜。ったく、だらしない男だ」
「でも、警部補、僕は、何か、同情しちゃいますね」
「どうしてよ？」
「だって、おそらく、彼は、現実の世界では、女の子を口説けなかったんじゃないんでしょうか。僕だって、合コンに行っても、ちっとも面白くないですからね。だから、彼だって、人形の女の子と会話をし、人形の女の子を相手にセンズリをするしかなかったんじゃないでしょうか？」
「ったく、世の中、どうかしちゃってるんだなぁ〜」
「警部補、どういう意味ですか、それは？」
「考えてもみろよ。システム・エンジニアといやぁー、まぁ、それこそ今はやりの仕事だろぉ？。やっこさん、それなりに大学を出て、仕事もそこそこにはできただろうよ。しかし、いったん仕事を離れ、私生活となりゃ、女の子ひとりも口説けなくって、この有様だ。援助交際で、からだを売ることに何の抵抗も感じねぇ女子高校生もいるかと思えば、出会い系サイトで知り合った男性とセックスし、はした金をもらって何の罪の意識を感じねぇ人妻もいる。かと思えば、性のはけ口の仕方もわからず、神経をわずらうリーマンがいたり、若い女性の股間をデジカメでねらう男子教員なんかがいる。まぁっ、あえて言えば、これらはチョー・ネアカ現象とチョー・ネクラ現象の二極分化といえなくもねぇ。こんな両極端な現象が起こるのは、この世の中、どこか狂っているとしか、いいようがねぇじゃねぇかよ」
「へぇ〜、警部補も、たまにはいいこと、言いますねぇ。早いとこ、警部だの、警視だの、昇任試験を受けて、えらくなってくださいよ」
「けぇっ、今時の若（わ）けぇやつは、刑法だの刑事訴訟法だの、知識は確かにある。しかし、生きる力というやつがない」
「しかたがないでしょ、僕なんか、高校の特進クラスでセンター試験用の受験勉強をさせられ、大学に入ったら、国家公務員�T種試験受験用の勉強をさせられ、警察に入ってからも昇進試験。詰め込みだろうとなんだろうと、知識がなくては上には上がれない…」
「あのなぁー、てめぇは、まだ修行が足りねぇ〜んだよ。役職なんかで仕事をするんじゃねぇって、いつも言ってるだろぉーが。警察というのはな、市民の皆さんの安全を守るってことなんだよ。上を向いて仕事をするんじゃねぇよ。俺たちの給料は、誰によって支払われているんだ？、そりゃ、署長でもない、県警本部長でもないんだぜ」
「ったく、先輩は！。だから、僕は、この署から抜け出せないんですよ！」

（おわり）

（注）参考図書
　　　「宇宙から見る生命と文明」　松井孝典　著　ＮＨＫ出版
　　　「真理への旅人たち−物理学の２０世紀」　米沢富美子　著　ＮＨＫ出版
　　　「張形と江戸をんな」　田中優子　著　洋泉社　（新書У）
　　　「おとことおんなの生物学」　田部　　著　早世社　刊
　　　「『気』の不思議」　　池上正治　著　（講談社現代新書）　講談社　刊