龍 晃一 作
| 第1章 誘い 私と瑠璃子が結婚してすでに６年になる。瑠璃子はすでに二人の娘の母親である。私の名前は、村口健二、35歳になる。妻は、村口瑠璃子で31歳になる。 私の会社に栗田と言う者から電話があった。それも会ったこともないＴ市の○○商工リサーチの支社長からであった。面識もなく断ろうかとも思ったが会う約束をした。 私の住んでいるО市まで面会に来ていた。電車で2時間もかかるこの地まで何の用があるのかと不安と懐疑心を抱いて会社の応接間で初めて会った。 「あなたの奥様の瑠璃子さんのことでご相談したいことがあります」 と言われた。 「ここでお話できる内容ではないので、○○ホテルのロビーでお待ちしています」 言葉は丁寧であるが反論を許さない低音で張りのある声で言われた。 「分かりました。６時半までにホテルのロビーに行きます」 と答えると笑みを浮かべて帰って行った。 「○○商工リサーチ、支社長 栗田健二」 と名刺には書かれていた。身なりと言葉づかいから役員である察しは感じていた。 ○○商工リサーチは、妻の瑠璃子が3年間通っていた会社である。そこの上司と不倫していたことは知っていた。 「今更-----」 と怒りが込上げ、胸騒ぎがするがそんなことは顔に出さないようにして行った。 ホテルに到着すると広いロビーの豪華な椅子に座って待っていてくれた。 「村口さん、こちらに-----」 栗田支社長は、私を37階のクリスタルラウンジの個室に案内してくれた。 そこには海鮮の造りが並べられていた。 ビールで乾杯した。 「私は、瑠璃子の旦那さんに瑠璃子のことをお話ししたいと思っていまして、あなたも瑠璃子が不倫していたことは知っていると思います。私が瑠璃子を女にした初めての男です。誤解しないでください。瑠璃子を奪う気も瑠璃子との関係を戻すことも考えていません」 「---------------------」 「瑠璃子と関係を続けていて、瑠璃子がセックスで逝くことを知り、男の良さを感じて私が呼ばなくても毎日私のマンションに来るようになりました。男の味を覚えたのです。 その時、京都の宇治に住んでいる財界の黒幕に会わせました。名前を言えばあなたも知っている方です。命が後半年しか持たないと聞いています。そのご老公が瑠璃子にもう一度会いたいとおしっているのです。どうかその老人のために週に1泊させてくれませんか。 ご老公が他界するまでの期間、この世の見納めに会って欲しいのです」 「お断りします。私共には迷惑な話です。平和な家庭を乱すようなことを言わないでください」 私は、そのまま席を立とうとした。 「あなたのお気持ちは、察しています。あなたの家庭を壊すことが目的でこんなことを言ってないのです。どうか--どうか--ご老公に最後の夢を観させてあげたいのです」 「そんなこと、私には一切関係ありません」 「解っています」 支社長はフロアーに下座してしまった。 「どうか--どうか---ご老公の最後を-----」 沈黙の時間が静かに流れていた。 「その老人は、何歳なのですか----」 「今年で８８歳です」 「生命も残り少ないですね。エッチも出来る訳がないのに----」 「おそらく-----」 「解りました。帰って瑠璃子と相談してみます」 「ありがとうございます。私の携帯は、名刺に書いています」 「結果は、携帯で連絡します」 「お願いします。京都までの交通費と支度金と言うことで500万円預かってきています。それと、折角なので食べていってください」 それからは酒を飲みながら男との雑談が始まった。 「支社長は、瑠璃子は理想の女であると話してくれ、あなたより前に瑠璃子を愛してしまったことを詫びてくれた。今でも愛している」 と聞いた。怒りもあるが私が瑠璃子を知るよりまだ昔のことであり、嫉妬心が湧くが諦めと瑠璃子を称賛してくれたことで矛を収めていた。 話の内容は、余生の少なくなったご老公と言われている老人を毎週一泊2日、身の回りの世話をする為に京都に行ってくれないかという話であった。食事や下の世話をしている者がいるので散歩したり、入浴をさせてくれないかという話であった。 当面の交通費と言った500万円を置いて行こうとしたが、その時に返してくれたらいいと言って持って帰らされた。このときは８８歳になる老人に何ができるかと安堵感とお金の為ならばと言う賤しい気持ちが駆け巡っていた。この老人の怪物振りは、老人が亡くなってから知ることになった。 瑠璃子が拒否してくれることを願っていた。 |
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| 2013.5.18掲載 |
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