【２】

（お、おばさん）
　明彦がトイレから出てきてリビングを覗いた時には、彩乃はすでにシャワーを浴び終えて、淡いクリーム色のバスタオルを巻いた姿でソファーに腰掛けていた。
　彼女は、今ここに明彦がいるとは夢にも思っていない。当然、脱衣所からガードルがなくなっていることも、トイレの中でそのガードルをおかずにして自慰にふけっていた明彦の存在など知るよしもなかった。
　そんな彩乃が宅配されてきたばかりのような小包の中から、ビスチェタイプのロングブラと太股を包み込むロングガードル、ボディスーツを取り出す。
（新しい下着、買ったんだ）
　テーブルに広げられた真新しい下着は、どれも固いストレッチレース素材でできたピンク色の補正下着で、仕事柄、体の線が目立ちやすいスーツを着ることが多かった彩乃には必需品だった。アーモンドブラウンのパンストも１足含まれている。
　彩乃はソファーに座ったまま、補正下着の１枚１枚を確かめるようにバスタオルの上からあてがいはじめる。
　その様子を、すっきりした顔で明彦はドア越しから見つめていた。
　夜更けにカーテンの開けられた窓を覗き込んでいるように、外光が差し込むリビングは明るく、扉の真ん中にある素通しガラスから覗けば彩乃の細かい仕草までとらえられた。
　シャワーを浴びた彩乃の黒髪はほんのりと烏の濡れ羽色に光る。
　やや細面だろうか。大きな眼に、玲瓏と輝く物憂げな瞳が印象的で、高い鼻筋は白人女性のようにスッキリとして、マッシブな唇も整っている。
　端麗すぎる面立ちは上品さのあまり、ややもすると近寄りがたい存在になってしまう。だが、温かなぬくもりがあふれる彩乃の美しさには冷たさは微塵も感じられない。
（はぁ、色っぽい……）
　フェロモンに包まれた妖しくも天使のようなその美貌に、少年はため息をついた。それだけ、男好きしそうな濃艶なる杉○彩風の色香もそこはかとなく醸し出しているのだ。
　しばらく様子をうかがっていると、彩乃がおもむろにソファーから腰を上げる。
　胸元から股間すれすれまで淡いクリーム色のバスタオルで覆い、その裾からは、すらっとした、なおかつほどよく肉付きのいい太股があらわになっている。
　そして、いきなり体に巻きつけていたそのバスタオルを取り払う。
「あっ！」
　明彦は思わず感嘆の声をあげる。
（……）
　しばし絶句し、頭の中が真っ白になって驚倒しそうになる。鼓動は早鐘のように高鳴り、金縛りにでもあったように身体が硬直してしまう。
　コットンの白いショーツだけは穿いていたが、熟女の裸体はウブな明彦を釘付けにする。
　果実を思わすほど見事に盛りあがったバスト。形といい、ハリといい申し分なく、桜色の乳首はツンと天を向いている。
　ふくよかなバストの代償のように細くくびれたウエストから、豊満さを惜しげもなく見せつける臀丘にかけてなだらかに広がっていた。中年特有の贅肉のせいで、下腹とヒップに心なしかふくよかさが増してきたとはいえ、かえってそれが大人の女性らしい気品と艶っぽさを強調していた。
　美しく伸びた長いコンパス、ふっくらとした脹脛、キュッと引き締まった脚首に至るまで、誰の目にも、もうすぐ四十路とは思えないプロポーションをしていた。
（おばさんって、いくつなんだ……）
　美樹はもちろん、今までまともに女性の裸体や下着姿を見たことなかった明彦にとって、年齢不詳を思わせる若々しさと、美樹にはない成熟しきった肉感的な色香とが見事にブレンドされた流麗なセクシーボディはセンセーショナルだった。
　その直後、明彦をさらに昂揚させる展開が待っていた。
　彩乃がいくらか膝を折って屈むと、ガラステーブルに置いてあるピンクのロングブラを手にする。
（えっ）
　少年の胸に息苦しいものが急激に込みあがる。
　ザッ、ザッ、ザッ。
　鼓動が耳の奥で激しく鳴り響く。胸のざわめき、呼吸が乱れ、血圧が急上昇したかの火照りが少年を容赦なく襲う。
　明彦の目にさらされていることも知らず、ひとり裸になった彩乃は何のためらいもなく、リビングで新品の補正下着の試着をはじめたのである。
　ロングブラを持ったまま、一度セミロングの髪を掻き上げる仕草をしたあと、ベストを羽織るようにビスチェタイプのブラの肩紐に両腕を通し、やや前屈みに腰を曲げてレースがふんだんに施されたカップを豊かな乳房に合わせた。
　前開きを締める要領で、ウエストまで続いているフロントホックを下から留めていく。豊かな胸に近づくにつれて窮屈そうになったが、最後に、ファスナーで閉じるようにウエストをキュッと絞り上げると、バストのボリュームがさらにアップした。
　コルセットを思わせるレース使いのロングブラは、胸の双丘をより扇情的なフォルムにさせ、ウエストもひときわ細く引き締めた。それはセクシーな女性美を売り物にしているポップス歌手がステージに立つ時のコスチュームのようだった。
　ブラを着け終えた彩乃はロングガードルに手を近づける。
（次は、ガードルだ）
　明彦は喉を鳴らした。
　しかし期待に反して、ガードルの上でためらいがちに静止した彩乃の手はそのまま素通りし、パンストを拾い上げた。
　折りたたまれたアーモンドブラウンのナイロン生地が細長く広がる。
　ちょうどレースクィーンが水着の下に着用しているような、やや厚手のデニールでできたシェイプアップ効果の高いパンスト。
　彩乃はやおらソファに腰掛けるなり、片側のストッキングをたぐり寄せ、差し出した右脚の爪先にパンストを被せる。
　足首から長くてなよやかな美しい脚線に沿って、強いゴムでも伸ばす感じでハードサポートストッキングを引き上げていく。真紅のマニキュアが明彦の目を惹きつける。
（おっ、おばさん）
　ストッキングに熱い視線を注いでいる明彦の存在に気づくこともなく、彩乃は左の脚も、同様にそっと通して、ナイロン生地のゲージを膝上まで伸ばしていく。
　膝まで通したパンストを持ち、おもむろに彩乃が脚を揃えて立ち上がる。
「あぁっ……」
　彼女がパンストを膝から引き上げる姿勢をとるや、明彦に昂揚感が一挙に押し寄せ、欲望のシンボルは猛然と硬化してピクピクと跳ね上がる。
　パンストを穿いているだけなのに、ナイロンの横皺が少しずつ伸びて長い美脚を包んでいく何気ない仕草がたまらない。息継ぎもせわしなくなってくる。
　素肌に馴染ませるように、彩乃がゆったりとした運びで大きく脚踏みしながらサポート力の強い細密なデニールを付け根まで引き伸ばしていけば、悩ましいほどに美しいコンパスが日焼けした色っぽい小麦色に彩られていく。
　パンティ部に差しかかると、膝を大きく割り、ヒップを包み込むようにググッと引きずりあげてクロッチ部分を股間に密着させた。
　美しく曲線を描いているコンパスはメタリックに光り、あたかもオイルでも塗られたブロンズ像のようでもあった。ヘソまで包んだハードサポートの薄皮が彩乃のグラマラスな下半身をぴっちりと引き締め、ヒップは補正下着をつけたように見事にアップしている。
「おばさん……」
　ドア越しから覗いているのも忘れ、明彦はフェティッシュな視線で彩乃の豊艶なヒップを舐めまわしながら呟く。その時にはすでに勃起しきった股間をさすっていた。
　ところが、官能的なフェチシズムにいつまでも浸らせてはくれなかった。
「たたいま〜。あら、明彦くん、待ったぁ……寒かったわね」
　突然、明彦の背後から声がした。美樹だ。少年は瞬時に肝を冷やし、体が凝固する。
　トイレで一度ヌイておいたせいか、ジーンズを突き上げていた発情物は急速に縮み上がっていく。
「そんなところで、何やっての。部屋に、ママがいるでしょう」
「あっ……」
　驚きを隠せないぐらい狼狽し、一瞬、美樹の方にふり向くことすらできなかった。
　いま、美樹に近寄られたらと思うだけで、血の気が引き、背中にジワッと冷や汗が噴き出てくる。
「明彦くん、ごめんねぇ……。これから急に、友達のところへ行かなきゃいけないの……、話は後でするね」
　しかし、美樹は素っ気なく自分の部屋へ向かってしまった。明彦の素振りをいささかも不審に思っている様子はまったくない。
　美樹が部屋に入る姿を見て、ホッと胸を撫で下ろす。