【６】

　朝から横浜に来ていた彩乃は仕事を終えると、そのまま横浜のホテルにチェック・インする。午後６時をまわっていた。
　予約した部屋に入った彩乃は、手荷物を置いて、まずバスルームへ向かう。
　忙しない日々、いつもはシャワーで済ませるが、明彦が来るまで、まだ時間があった。たまには広々としたバスタブの湯にゆったりと浸かることにした。
（果たして本当に良かったのだろうか、明彦の要求をたやすく呑んでしまって……）
　バスタブに浸かりながら、彩乃は思いめぐらせた。娘の美樹のことを思えば、明彦に抱かれる自分が母親として許されるはずがない。
　しかし、彩乃の肉体はもはや明彦を求めることを禁じ得なかった。久々に男を味わった女の記憶はそう簡単に消えるものではない。お湯の温もりと異なる妖しい火照りが熟れた肉体に忍び寄ってくる。
　バスルームから出ると、彩乃は新しいパンティを穿いてから、スーパーサポートタイプの新しいパンストをたぐり寄せるように丸め、赤いペディキュアが光る爪先を挿し入れた。足首から長くてなよやかな曲線に沿って、伸縮のきついストッキング布の細かい編み目を伸ばしていく。サポート力の強い手応えを感じつつ、肌に馴染ませるように少しずつ引き上げれば、ふくらはぎを、太股を心地よく締めつけ、皮膚にぴったりと吸いついてくる。
　やや太いデニールで編まれたシェイプアップ機能のあるパンティ部分に差しかかるなり、股を広げながら力を込めてヒップ、ウエストまでググッと引きあげて、美しいコンパスラインは肌の透けた光沢のある挑発的なブラックに染め上げる。
（あっ、ほんと……これなら、ガードルも要らないぐらいだわ）
　スーパーサポートの薄皮が彩乃の下半身をぴっちりと強く引き締め、ヒップもしっかりリフトアップされている。鏡の中にいる自身のヒップに見とれながら、彩乃はパンストのきつめの穿き心地を楽しむように、両手で薄ナイロンにメイクされたまろやかなヒップを撫でた。
　これだけでも十分に思えるが、彩乃はボディラインをトータルにより美しく見せるための下着として、シルキーピンクのボディスーツを手に取る。
　ボディスーツの胸元にあるファスナーをウエストまで滑らせた。普通は着脱が楽なように下腹部の方までファスナーが届くものが多いが、ウエストと下腹部を強く締めつけるタイプのためにウエストまでしか下がらないようになっている。上半分を開いたボディスーツの股ぐりに脚を通した。
（ちょっと、きついわ……）
　新品のこのボディスーツは、膝から太股へ引き上げたところで、その窮屈さが実感できるぐらいのハードタイプ。今までのボディスーツとはまったく勝手が違って、膝のあたりから思うように上げられない。
（うっ、きつい……。スーパーシェイプってあったけど、こんなにきついなんて……）
　予想以上のきつさに彩乃は戸惑った。膝から上に上げようとしたでもかなりきつく、脚をすり合わせた体勢で手の位置を何度も換えては、太股、脚の付け根にかけて、ピッチピチに張りつめたボディスーツをゆっくり、ゆっくりと引きあげていく。
　ようやくウエストまで穿きあげると腰を左右に振って、パンストの股間にボディスーツのマチをぴっちりと密着させる。後ろに差し入れた手で、双丘の豊かな肉をギュッとヒップポケットへホールドして、美しいヒップラインに整える。
（あっ、ウエストが……）
　気になりだした腹部のたるみをグッと押しあげるようにして、胸下まで伸ばせば、窮屈なボディスーツにウエストがきつくしっかりと締めあげられた。ウエストの強い締めつけ感に耐えつつ、豊艶な乳房まで包み込んで、ストラップを肩に通す。
　パチンッ
　弾ける音とともに、ストラップがややきつく肩に食い込んだ。彩乃は、中央のファスナーをウエストから滑り上げる。ハードメイクのボディスーツによって、メローな女体のバスト、ウエスト、ヒップの起伏はより強調された。
（すごい、これ……。ボディメイクが抜群だわ……）
　半端でないハードさであったため、着込むのにかなりの時間がかかってしまった。しかしハードな締めつけ感のわりに圧迫される息苦しさはなく、心地いいほどだ。彩乃は少々誇らしげに、鏡に映る完璧に整ったボディラインを撫でる。
　ボディスーツの上からタイトな黒いロングドレス、靴もエナメルの黒いハイヒールに履き替えて、彩乃は夜の雰囲気にふさわしい装いに身をやつした｡
　そして、その挑発的な姿の自分を見て、熟肉の芯を熱く疼かせた彩乃は、抑えがたい熱い情欲とともに淫水があふれてきそうな気配を感じた。
　軽く薄化粧をして、最後に魅惑的な唇に色鮮やかな赤いルージュと甘い香りのパヒュームをつける。オールバックにした髪を手際よく後ろで束ねてマダム風のヘアスタイルにして、身支度が済んだ彩乃は身辺の整理もそこそこに、待ち合わせのラウンジに向かった。
　横浜でも瀟洒でアダルトな店として名高い高級ラウンジ。店内は、格調高い調度品が置かれたきわめてオーソドックスで、薄暗い照明がよりいっそうムーディな情緒を醸しだしている。
　フロントで自分の名前を告げて間もなく、凛々しく紳士的なウェイターにリザベーションしてある一番奥の席に通された。
　彩乃のお気に入りのこのラウンジには、大学の頃に知って以来、好んで通っていた。今でも仕事で近くに来たときには、わずかな時間であっても必ず立ち寄って寛いでいる。宿泊客らしき着飾った紳士淑女が多く、高級ラウンジならではの静寂と品格に満ちたところが、彩乃の趣味に合っていたのだ。
　ブランデーを注文し、明彦が来るまでの間、ブランデーを片手にピアノとベースの生演奏に耳を傾けることにした。クリスマスとあって、満席になっている。
（本当に、これで、よかったのかしら……）
　ジャズ風のクリスマス・ソングを聴きつつ、ゆらゆらと琥珀色に輝くブランデーをくゆらせている彩乃の心に、またもやそんな思念がよぎる。美樹を裏切り、明彦と一夜を共にしようとする自分の顔がブランデーグラスに映っている。
　明日からのクリスマス連休は美樹と一緒に過ごしてあげる約束をしていたが、今夜は年末の忙しさで帰れないかも知れないと言ってきた。
（美樹、ごめんね）
　自分に可愛い娘の笑顔とダブらせた。美樹の手前、独り身を隠すためにしていた指輪を左の薬指から静かに外していく。母親から一人の女になる瞬間だ。
　時の流れが止まったように、ブランデーグラスをボーッと見入っていた。

「時間に、間に合った」
　そわそわした面持ちで明彦は腕時計を見た。ロビーには吹き抜けの天井まで届くほど大きなツリーが飾られ、高級なホテルらしいシックなクリスマスを演出していた。
　しかし、明彦にはそんな雰囲気を楽しむ余裕もなく、約束のラウンジに向かった。ホテル内で走るわけにはいかないが、自然と早足になる。
　あの日以来、彩乃の悩殺的な下着の着脱シーンや圧倒的な快感を味わったフェラチオなどが忘れられず、この二週間ほどは妄想とオナニーにふける日々を送った。
　昨夜も今日のことを想像して、何度ティッシュに迸らせたことか分からないが、疲れ果てて微睡みに落ち、気づいた時には夕方近くなっていた。あわてて家を飛び出してきたのだ。
「ここだ」
　ラウンジのフロントで彩乃のことを尋ねると、すぐに席まで案内してくれた。明彦の姿に気づいた彩乃が手を上げる。
「寒かったでしょう」
　立ち上がって言葉をかけてきた彩乃を見るなり、立ちすくんでしまった。
「あ、はい……、雪が降ってきそうで……」
　言葉を詰まらせながら、明彦は彩乃の立ち姿に目を奪われる。
　ボディラインにぴったりフィットするドレッシーなロングドレス。しかも、彩乃の婀娜めくプロポーションを強調するデザインで、今まで見た彩乃の姿でとびきりセクシーなのだ。
「何、びっくりしてるのよ」
「あ、はい」
　豆鉄砲を食らったような目でソファに腰掛ける明彦に、彩乃は苦笑する。
「温かい紅茶でも、飲む……？」
　程なく運ばれてきた紅茶にゆっくりと口をつけていく。
「あ、あったかい……」
　クラシカルな雰囲気にぴったりなジャズの生演奏に包まれて、冷えた体は薪をくべられた感じに、芯からぽかぽかと温まる気がした。
「でも、夢のようです」
「どうして？」
「え？　だって……」
　改まると気恥ずかしさが込み上げてきて俯いてしまう。
「わたしからの、クリスマス・プレゼントよ。受け取ってくれる……？」
　もちろんと言うばかりに、明彦の目は輝いた。
「でも、二人だけのヒミツよ……ヒ、ミ、ツ」
　光沢のある真っ赤なルージュのせいか、ヒミツと発した彩乃の口元がひときわ艶めかしい。
「ここで話すより、お部屋に行きましょ……」
　彩乃が席を立つ。
「……」
　官能的で美しい彩乃の立ち姿に視線を注ぐや、明彦の心は急に穏やかでなくなり、猛烈な勢いで海綿体に血流が輻輳してくるのを感じた。
　スラッとした気品あるタイトなロングドレスに、美しくくびれたウエストとは対照的な、適度に脂の乗った量感あるまろやかなヒップにかけてのライン、裾からしなやかに伸びるまばゆい光沢を放つ黒のストッキングに覆われた美脚。
「お、おばさん」
　彩乃に目を奪って立ちすくんでいるところに、彼女の方からやにわに腕を組んできた。思いがけない行動にいささか戸惑うが、とてもうれしい。
　そもそも、彩乃はよそ目も羨む容姿艶絶なる美人で、見る者を思わず振り返らさずにはおかないほどのとびきりの美貌と抜群のスタイルを誇っているのは明白な事実。それだけに、起伏に富んだ女としてのなまめかしいプロポーションには、ロングドレスがよく似合っていた。
　歩くたびに小気味よくクリックリッと左右に踊る、ドレスの下に潜むボリュームのある実りは、まだ２０代の若妻のような造りのよいフォルムで生々しい。
　シュッ、シュッと、太腿あたりでストッキングのナイロン生地のすれ合う妖しい音が、美脚をたおやかに運ぶ彩乃の艶姿をさらに際立たせ、深く切れ込んだスリットから黒のストッキング脚が太股の奥までチラチラと見え隠れする、
　そうでなくても周囲の目を惹きつける彩乃なのに、男たちの前立腺を容易に刺激するロングドレスとなれば、いやらしい視線を集めても不思議はない。
　ラウンジを出た二人は、ちょうど扉が開いた向かいのエレベーターに乗り込む。行き先は最上階の６８階。エレベーターの扉が閉じると、妖しいアウラが二人を包み込んだ。
「明彦くん、わたしを見て……」
　明彦の方を振り向いた彩乃の眼差しはさっきまでのものとはガラッと変わって、何やらにわかに妖艶さを帯びていた。
「あっ」
　宝石のように玲瓏として輝く瞳をほんの少し揺らして、妖しい微笑を投げがけてくる彩乃に、明彦の心はいっぺんに吸い寄せられてしまう。それほど色っぽさが横溢していた。
　彼女の予期せぬ振る舞いは、明彦に困惑と恥じらいをもたらした。動揺を隠しきれずに、ただ赤面して俯くしかない。
　彩乃が堅くなった明彦の手をそっと取る。彩乃の体温が伝わってくる。
「明彦くん、震えてるのね。怖がらないで、いいのよ……、誰もいないから、じっと、してて」
　耳打ちする彩乃のやさしい声が、美しき魔性の眼差しがヒタヒタと忍び寄るように明彦を誘惑してくる。
　心なしか怯えているその手をふくよかなヒップに誘導し、腰を自ら密着させる。彼女は穏やかながら大胆にして、蜜のごとく甘く危険な世界に明彦をいざなおうとする。
「あっ、おばさん……」
　先日のことはあっても、免疫がないに等しい明彦にとっては、女性のぬくもりがとても耐えがたく、体を密着してきただけで、どうしようもなくなる。事実、無垢な股間は少年らしくビンビンに硬質を満たしていった。
　ただ軽く抱き寄せられただけなのに、愛の表白が体の変化となって、ストレートに反応してくる少年を下腹にとらえられた時、彩乃は、苦笑したくなるほど明彦のことが可愛く思えた。
「明彦くん、わたしのこと……」
「おばさん……ぼ、ぼ、ぼく……」
　色香を漂わす化粧と彼女の穏やかなトーンが、明彦の欲望をやさしく萌えさせてくる。唾液が大量に分泌し、未知の世界に心拍数が急上昇していくのがわかった。明彦は、もう何も言えない。
（可愛いわ……）
　恥ずかしがる彼を見て、彼女は優艶なる顔を近づけ、魅惑的なほど真紅のルージュに彩られた唇を差し出す。明彦の震える唇にふれるかふれないか程度の軽いタッチでかすかに合わせた。
　とっさに眼をつむる明彦。身体が感電するような快美感に蕩けていく。
途中で扉が開きはしないかと気にしながら、彩乃の柔らかな抱擁に酔いしれたが、幸い最後まで開くことはなかった。
　穏やかにして彩乃の臆面もない行動に、最初は面食らったけれど、たちどころに女の馥郁たる色香に羽化登仙の境に溺れた明彦だ。たった１分足らずの出来事なのに、明彦には途方もなく長い時間のように感じられた。
　エレベーターを先に降りた彩乃は言葉交わすことなく、まっすぐ予約した部屋に向かった。２、３歩後から明彦がついていく。
　改めて見る彩乃の後ろ姿に、少年の心はまたもやにわかに騒がしくなる。
　太股が見えそうで見えない際どさ、透けるほど極薄の黒いストッキングの妖しいテカリ、シルキーな光沢のあるシルク地のロングドレスをまとった妖艶なる姿は、生唾も音を立てて呑み込まずにはいられない。
「ここが、お部屋よ」
　案内されて入室したところは、豪華な家具やソファが置かれ、高級感の漂う２０畳はあるかと思われる広いリビングだ。
「すっごーいぃ……」
「こっちよ」
　明彦が歓声を上げていると、奥のベッドルームの方へと手招きされた。
　側灯の淡い光りがムーディな雰囲気を醸し出すベッドルームは広々とし、中央にはヨーロッパ風のレースの笠で囲まれた三人は寝られそうなキングサイズのベッドが、二人を出迎えるように据えられ、そのほかはドレッサーだけの落ち着いたシンプルな部屋だ。
　静かな佇まいのベッドを目の前にした瞬間、明彦はとうとうこの日が来てしまったと実感し、それをしみじみとかみ締める。
　何気なく目線を窓辺に移せば、ベイブリッジと横浜の夜景が、宝石箱をひっくり返したような煌めきに満ちた筆舌に尽くしがたい美しさをもって広がっている。
　埠頭の明かりや繁華街の輝きが港の水面に浮かび、光と闇のハーモニーで情緒を演出する。クリスマスのこの時期の夜景は空気が澄んでいて、殊のほか美しく煌めく。
　街はクリスマス・イルミネーションが華やかで、ホテルやレストランでたくさんの恋人たちが、自分たちのように二人だけの時間を仲睦まじく過ごしているに違いない。
　ここは、街の喧噪など一切聞こえない、高層ホテルの静寂なるペントハウス。エレガントにしてシックなスイートルームとともに窓辺から一望できる横浜の夜景は、男女が愛を交わすには申し分ないシチュエーションだ。
　明彦の記念になるこの日のためにと奮発して予約を入れていたもので、明彦のすべてを受け容れようと決めた彩乃の計らいだった。
「きれいでしょう……、明彦くんの見てもらいたくて、この部屋をとったのよ……」
　甘い空気に呑まれ、その夜景の素晴らしさに目を奪われていた明彦は、しばし時を忘れた。その様子を見て、彩乃がベッドサイドにある備え付けのＣＤのスイッチを入れる。
　数秒後、嫋々たるマーラーの「第５交響曲」のアダージョが、部屋の静寂をきわめた空間にスーッと融け込むかのように流れ、二人をやさしく包む。
「明彦くん、わたしのこと、好き……」
　愛の序奏にはぴったりな旋律にのって、彩乃は艶冶に満ちた柔らかな表情で、豊かな曲線を描いた腰をしとやかに振りながら、窓辺に立たずむ明彦にゆっくりと歩み寄る。
「あっ……」
　あでやかな彩乃にインティメイトに問いかけられて、明彦は気恥ずかしさのあまり、緊張してうつむく。
「教えてあげる……、わたしの、すべてを……」
　彩乃のチャーミングで色っぽい言葉が彼の耳もとをくすぐった。
　芳しい化粧の香りとともに大人の危険なフェロモンが明彦の身体の芯まで入り込み、にわかにウブな身体が狂おしく熱くなって、明彦の脳裏は彩乃で充満した。
　ここ半年も忘れかけていたあの女のときめきを想い出すように、彼女の心の奥底に明彦を独占したいという、女の浅ましい欲求がフツフツと湧きはじめていた。
　今宵、明彦に禁忌の扉が開かれようとしている。彩乃による愛のレッスン、官能的な愛のセレモニーのはじまりだ。
　明彦は、知り合ってからずっとオナペットにしていた彩乃についに抱かれ、童貞を失うという喜びに駆られた。けれども、それと同じたけの未知の世界に踏み込む恐怖感のような不安もあって、ある種の矛盾した不思議な精神状態が明彦の心に生じていた。それが堅さとなって身体に表われている。
　そんな明彦の動揺をよそに、彩乃はダウンジャケットを脱がせると彼を抱き寄せ、蠱惑に満ちた眼差しであでやかな紅唇を満遍なくソフトタッチしたあと、彩乃は腰のあるマッシヴな舌で明彦の唇をこじ開け、侵入してきた。
「う、むぐっ……」
　明彦の頭に愛おしげに彩乃の腕がまわされた。抱えられる形になって、豊麗なバストに押しつけられる。そして、少年をやさしく襲う牝獣のように、生温かくマシュマロのように柔らかで潤んだ舌が、明彦の口内を一気に占領し、舐め尽くす。
　一挙に、緊張した体の千尋の底から喜びと昂奮、そして恐怖が入り混ざった不思議な灼熱の感情が打ち寄せてきた。胸は張り裂けそうにバクンバクンと鼓動が鳴り響き、喉が詰まり、息もできなくなる。
（夢じゃないか……）
　夢の中にいるような、自分の身に起こっていることが現実か夢かわからなくなっていた。雲の上で浮いているかの感覚に溺れていても、好きで好きでたまらない彩乃に口づけされているという意識だけははっきりしていた。
　彩乃の唇、彩乃の首筋、彩乃の胸、彩乃の脚、彩乃の匂い、明彦の頭の中は彼女の存在であふれ返った。
　唾液を伴って怒涛のように流れ込んでくる凄艶なる彩乃のフェロモンに、明彦は圧倒される。第２の性器と称される成熟した女の舌との絡み合いは、まさに性交そのもので、少年の欲望をジリジリと奮い立たせていく。
　緊張する中で、明彦も自らこわごわと舌を絡ませた。生暖かな息づかいと舌がお互いの口内で行き交い、どちらのものかわからないほど唾液が混じり合う。
　少年と交わす快美な口づけに、彩乃も徐々に息づまるような昂揚感にうっとりとしてくる。第２の性交は、二人を確実に禁断の世界へといざなう。
　大人の濃厚な接吻に到って、明彦はまだセーターとスラックスを着ていることに悔やんだ。それでも期待に胸を弾ませていた明彦は、ちょっと男らしく勇気を出して、自分の方からロングドレスの中に手を忍び込ませようとする。
「ああっ、ダメ……」
　彼女はピクッと反応させた。背けるように離した唇から桃色の吐息を洩らし、反射的に腰を少し引いて、彼の手を拒む。予期しながらも、明彦から股間に入れられ、ドレスの中にその気配を感じた途端、いまの自分にハッとして、不倫の罪の意識にさいなまれたのだ。
　互いの唇を結んだ唾液の糸が、ヌラヌラとした淫靡な光を放っていた。
「あっ、ごめん……」
　彩乃の思わぬ反応に、明彦は戸惑った。うろたえぎみに止めた手をすごすごと淋しげに引っ込めていく。
「ごめんなさい、そんなつもりで……。わたしが、してあげる……」
　言葉の後ろめたさに反して、いじらしい明彦の態度に、相手が一途な明彦なら、娘の美樹もきっと分かってくれるはずという……、開き直りにも似た感情に彩乃は変わりはじめていた。そして、彼女をより大胆にする。
　また唇を重ねてきた彩乃が、今度は視線を悩ましく下へ向ける。その方向へ胸から這うようにして右の手をずらしていき、スラックスの股間をまさぐりはじめる。明彦も彩乃のヒップにあった左手を背にまわしていく。
　器用に彼のスラックスのホックをはずして、ジッパーを下へ滑らせ、いとも簡単に全開にしていく。その中に指を忍び込ませて、さっきからブリーフを突き上げている熱い高まりにふれる。
（あっ、大っきい……）
　明彦の股間は、すでに大きく脈を打っていた。少年の若々しい息吹きを上げ、彩乃の心に熱く訴えかけているようだ。
　それは、明彦の発情した若いイチモツを早く握りしめたいという欲求を助長した。その切なげに巣くってくる欲望を自覚しながら、彼女はブリーフの合わせ布をかきわけ、さらに奥へ指を侵入させていく。
　横浜港の美しい夜景をバックにして、彩乃は明彦に愛の手ほどきをはじめる。
　彼女と身体が絡まり合っている……そんな現実を実感すればするほど、昂奮が昂奮を呼び、その現実離れしたような昂揚感に、明彦は上気していく。女の危ない魔性が、やさしくも妖しげに清純で繊細な心のヒダにふれると、身体から力が抜けて、意識もさらわれそうな感覚が生じた。
　ブリーフから出されたいきり勃つモノを、どこにどうすればよいか、まったくわからない。明彦は成すがまま我が身を彼女に委ねた。
　黒い繊毛の中心から大きく突き出た、彼女へ向けて激しく発憤する明彦の情熱の高まりに、彩乃がこわごわと手を近づけた。
「あっ」
　彼にふれた瞬間、彩乃は小さく声をあげて目を細める。感嘆とも悲鳴ともつかなかった。おそらくその両方だろう。
「すごいわ、明彦くんの……。すっごく、大きくて、手が火傷しちゃうぐらい、熱い」
　恥じらいつつも軽く目を閉じた表情で、彩乃はドクドクと力強く脈動する熱い高まりの中ほどにたおやかな指を絡ませていく。
「あ〜っ……おばさんっ」
　彩乃の体温に柔らかく包まれるなり、明彦もかすかに声を洩らして腰を引きかける。
　オナニーを覚えたての少年が、悩乱してやまない憧れの彩乃に再びペニスを握られたのだ。耐えられるはずもない。
　その温かさと柔らかい感触は、自分で握るオナニーとはぜんぜん違う。前に綾乃の手にしごかれ、射精に導かれた時と同じように、明彦の心拍数は最大限になり、むず痒くも鋭い疼きが下腹にひしめき、少年の肉茎は大きくわななぐ。
「す、すごい……」
　手のひらに納めきった彩乃も、あの日に感じた逞しい手応えと、自分への情熱が弾ける若々しさに総毛立って身を震わせた。思わず手を放しそうになる。まだ女を知らない少年の男根とはおよそ想えないほど一人前の隆々たる形状を呈していたのだ。
　その若さみなぎるエネルギーが清新な生きのいいものであればあるほど未知の刺激の期待に、子宮の深部にズーンと鈍い官能的な疼きを覚えずにはいられなかった彩乃は、張りつめた尖端に視線を向けた。強張りの窪みにはすでに愉悦へ先走った真珠のように輝く透明な雫が満々とたくわえられていた。
「明彦くんのって、逞しくて、とっても硬いし、熱いわ。もう、立派な大人よ……」
　彩乃の熱い吐息とともに呟きに、いきり勃ったそれは彩乃の手中で熱き恋情を伴って、さらなる熱と硬度を帯びながらメキメキと肉感を強め、反り返っていく。
「はぁ、はぁ」
　先日も味わった忘れることのできない快感が、また下腹から肉茎に押し寄せてきた。
　何とも言えない彩乃の手の感触に、いつもより２倍も３倍も硬く膨れあがり、亀頭全体が爆裂するのではないかというほどエラを張って努張していく。額に汗が滲み、鼻息も色めいてくる。
　その硬直ぶりから、彩乃にも自分を欲しがっているのが手に取るようにわかった。
「あぁ、こんなに熱く大きくしちゃって……、したいんでしょう……わたしと」
　彩乃はそっと囁いた。
　セックスを匂わせる甘美な響きに、明彦は陶酔した。股間をいっそう疼かせる。
「ねェ、明彦くん……、したいの……わたしと」
　さらに、そこまで言われてしまっては、明彦も小さくうなずくしかない。
　しっかり包皮がめくれ、亀頭が完全に露出していることに彩乃を安心させた。
（明彦くんの悩みを解消してあげられるのは、やっぱり、わたししか……）
　純情な明彦に切ない心情を抱くうちに、彩乃の心の中から不思議と一抹の不安が消えて温かなものが込みあがってきた。少年の発情物が自分に向けられた情熱だと思えば、いつかはどうせ、ほかの女性から男にされるのだから、いっそうのこと、自分の体で明彦を男にしてやりたいという独占欲がより強く渦巻いてくる。
　すると、握っている手に自然と力がこもる。握りしめているだけで、少年はいまにもイキそうだ。
　けれども、彩乃はあなたの女になってあげるとは言えなかった。明彦の性器挿入を覚悟して臨んだつもりなのに、後に引けないところまできてしまったのに、その場になると恐怖心が募って、決心がつかない。
　女としての肉体は明彦を求めていたが、どうしても、最後の一線を越えることのためらいが払拭しきれなかったのだ。
（ごめんなさい……、あとで、必ずセックスさせてあげるから、いまは我慢してね）
　彩乃は胸のうちでそう呟いて、コチンコチンになった明彦の手ざわりを味わうかのように、握りしめた手をそろりそろりと上下に動かしはじめた。
「は、はぁ……、おばさん……ぼっ、ぼく、もう〜……」
　明彦はその快楽に向かって鼻息を熱くし、額には汗が滲んできた。それに伴って、彼女を慄然とさせた若い果実も根元がジンジンと痺れだすぐらいギンギンに反り返る。信じられないくらいに硬く、熱くなっていた。
　手のひらに伝わる、その硬さと熱さが、自分に向けて奔流する烈々たる愛の熱射だと想えば想うほど、彩乃は突き上がってくる狂おしいものに魂が激しく揺さぶられる。
「ああ〜、ぼく、もうダメ。ダメだぁ……で、出ちゃう……」
　柔らかく温かい感触に、パニックを起こしたように、熱くたぎらせた精液が一挙に尖端のギリギリのところまでひしめき合ってくると、脈を立てて、限界を彩乃の手のひらに訴えた。ウプな明彦に駆け抜ける性感を鎮める術など知るはずもない。
　危機的な状況に差し迫った明彦の声がなにを意味するのか、女の彩乃は熟知していた。
「いいわよ、明彦くん。我慢することないのよ……溜まってたモノを、わたしの手の中に出しなさい……、思いっきり出して」
　昇りつめていく明彦をやさしく見やりながら、口もとを綻ばせた美しい美樹の母親は手を速め、微妙なリズムで肉棒の先端を責め立てた。
　恋着してやまない彩乃の手にかかっただけでも耐えられないのに、彩乃に穏やかに促されれば、あとは爆発するしかない。腰にあどけない震えが走る。
「はあっ、おばさ〜んっ……」
　彩乃が言い終わらないうちに、耐えきれなくなった明彦の鈴口が開いてブァッと膨らむのがはっきり伝わった。その途端、目の前で、禁断の果実が彩乃に向かって勢いよく炸裂し、若いエネルギーをはらんだ白濁のマグマを噴き上げてきた。
　噴射した瞬間、彩乃はテカテカに光る亀頭の角度を下げて手の中に向けた。
（あっ、す、すごい……）
　音が聞こえんばかりの激しい射精が手の皮膚にありありと伝わると、彩乃の奥底から動揺を隠せなかった。
　これまでに、こんな刺激的で、若い精の生々しい放出を目の当たりにしたことがなかったのだ。軽くめまいが起こしそうになるほど体がジーンと灼かれ、渇き飢えていた女陰の深部に熱い疼きが走る。
「いっぱい、出して……」
　しかし、彩乃はまだまだ脈を打っているペニスに添えた手をゆっくりしごきがてら、指の間を粘るようにゆったりと流れていく、ホットでこってりとした濃厚な一番搾りを受け止めていた。
　快美な絶頂感に打ちひしがれ、全身を震わしている明彦が、どこまでも愛くるしかった。
「す、すみません。おばさんが、あんまり気持ちよくしてくれるもんだから……」
　ようやく明彦の体から昂奮と緊張が遠のき、息づかいもひとしきり落ち着くなり、明彦はあまりの面はゆさに目もとをポッと紅くした。
「初めは、みんなそうなんだから、気にしないで……」
　彩乃は彼の気持ちにやさしく答えた。
「で、でも……」
「ううん、そんなことないわ……」
　自分だけと申し訳なく思った明彦の心中をおもんばかって、どこまでもやさしい微笑みを投げかけるかの慰め顔をして、彩乃は恥ずかしげに軽くかぶりを振った。
　目尻が、良かったわよと言わんばかりに柔らかく下がり、いつにもまして平和なひとときを得たかの穏和に笑む美貌は、明彦に地上に舞いおりた天使のように思わせた。
「ああっ、おばさん……」
　明彦は握られたまま、照れ臭そうに頭をかく。
　彼女は明彦の心づかいがうれしかった。とはいっても、眼もと静かで落ち着いた表情の裏では、この場ですぐ、明彦の鮮烈な射精で濡れはじまっている淫裂に、硬くて蒼い少年の巨大な欲棒を導き入れ、身悶えるような快美感に貫かれたいという衝動が渦巻いていた。平常心を装っていても、肉体の方は女の本性を隠しきれなかった。
（あっ、いけないわ。あどけない少年に、淫らな女を見せちゃ）
　自分も気持ちよくなりたいという卑猥なる衝動をグッと押し殺した彩乃は、あらかた出つくしてもなお脈動しつづけているペニスに手を添えたまま、唇を合わせた。明彦には、そのやさしさが無限のものに思えた。