たけろう 作
| １、再会 前編 年に何度か出張で来るこの町は高校時代を過ごした町であった。 必ず一泊している。あれから１０年が過ぎている。 町並みは当時とは変わり、通った店はもうほとんど無かった。 １１月に入った金曜日、昼間は晴れていたせいで夕方日が落ちてくる頃から気温はぐっと下がり、得意先との飲みは八時過ぎにお開きとなった。 いつもは二次会へと流れるのだが、相手が風邪気味とのことでやめたのだ。 店を出ると雪でも落ちてくるのではと思える冷え込みだった。 ホテル泊まりだが、眠るには早い。 キャバクラとかは好きじゃないし、ホテルに向かう途中のスナックに入った。 初めて入る店だ。 地元のオヤジ達が二組、ボックスでホステス相手に飲んでいた。 ふと一人のホステスと目が合ったがホステスはすっと目をそらし客の相手に戻った。一瞬表情が強張った様に思えたのは気のせいか・・ カウンターに座ると愛想のいい、まだ若いママがさっとおしぼりを出した。 「初めての方ね、地元の方かしら？」 「出張です、ホテルに帰るのはまだ早いからね・・」 「あら、じゃあ偶然入ったのね」 「何となくね・・」 「何を御飲みになります？」 そう聞かれバックバーを見ると案外スピリッツがそろっている。 どうやらカクテルも作るようだが、客は皆焼酎のボトルを飲んでいた。 考える間ママはさっきのホステスのボックスの方を見ていた。 少ししか減っていないラムが見えたのでそのソーダ割りを頼む。 「この店じゃ珍しい注文だわ・・」 笑いながら少しうれしそうにママは手際よくマドラーを回すと俺の前にグラスを置いた。 「ハイどうぞ、今日はきっといい夜になりますよ・・」 常連の客たちはホステスをからかいながらたまにカラオケを歌い、その間ママはオレの相手をしてくれた。 一時間もすると客は引け、客はオレだけになった。 若いホステスは一人がカウンターの中に入り、店に入った時に目の合ったホステスがオレの隣にきて、ボックスへ移りませんかと言ったので移動した。 彼女は向かいではなく、隣へ並んで座った。 細めだが痩せぎすではなく、均整がとれたスタイルで短めのスカートからふくらはぎへの曲線がきれいだったが、水商売にしてはおとなしい服装だ。 どちらも二十台後半と思えたが、オレの隣に来たホステスは水商売に染まっては見えなかった。 最近、女性の年齢が予想つかなくなってきた。 オレの表情を見てママが言った。 「こっちの子はゆうちゃん、いつもはこの子と二人だけ。お客さんの隣は週末だけのアルバイト、さっちゃんよ」 「やっぱりそうか、道理で・・プロっぽくないわけだ」 さっちゃんははにかんで笑うと 「武さんは何をお飲みですか？」 と聞く。ラムのソーダ割りと答えると 「美味しいですか？」 と聞く。飲んでみるかと言うとうなずいた。 オレはママに同じものを頼んだ。 さっちゃんは一口飲むと少し笑って言った。 「飲みやすいわ・・」 ゆうちゃんとママは間もなく奥へ引っ込んで、さっちゃんと二人だけの店内になった。 話してみるとさっちゃんは聞き上手で頭の回転が速く、合いの手も心地いいタイミングだ。 おれの眼を見て話を聞く姿勢が良く、安心感を与えてくれる。 気がつくと１１時を回っていて、そろそろ帰ると告げるとママが奥から出てきた。 「いい子でしょ？話が弾んでいたもの・・」 「ああ、気持ち良く飲めたよ」 帰り際ママがドアの外まで見送りに出てきた。 「これからホテルに真っ直ぐですか？」 「ああ、駅前のホテルだよ」 その時さっちゃんがコートを着て奥から出てきた。 「ママ、お先します」 「今日はありがとう、またお願いね」 「はい」 「ああ、お客さん、駅前なら途中までさっちゃんを送ってくださるかしら」 「いいですよ」 「またいらして下さいね」 オレは一緒に店を出た。 「アルバイトだからこの時間で終わりなんです」 「そうなんだ、真っ直ぐ帰るの？」 「武さんは？」 「ホテルに帰るだけだけど・・」 「良かったらもう一軒行きません？もう少し飲みたいの・・」 意外なお誘いだったがもう少し話していたい気持ちがあった。 「ホント？オレもそう思っていたんだ」 二人でショットバーに入り、さっきより高いラムを飲んだ。 「わたしラムが好きになったわ、何だか幸せな気分になるお酒ね」 「さっちゃんはサチコ？」 「そう、さっちゃんはねサチコっていうんだ・・・なの」 そう言って笑った。 「しかも幸福の幸子・・・平凡でしょ・・・？」 幸子はじっとおれの眼を覗き込んで言った。 おれの中にふっと何かが横切ったような気がしておれも彼女を見つめ返した。 心地いい時間が過ぎ、それぞれ2杯づつ重ね気持ち良く酔った。 店を出るとさっ幸子は少しふらついた。 「大丈夫？」 「こんなに酔ったのは久しぶりなの、ごめんなさい」 そう言って幸子はオレの腕に手を回した。 やわらかい感触が寄り添っている。腕を借りるというより恋人のような気がした。 「タクシーを止めようか？」 「ううん、もう少し歩かせて。駅から乗るわ」 ホテルは駅前なので二人でゆっくりと歩いた。 途中から幸子は腰に手を回してきた。酔いが回ったのだろう。 足がたどたどしい・・・ 「ああ、いい気持ち・・・」 幸せそうな顔で言う幸子の肩を抱いて支えて歩いた。 セミロングの髪からフワッとシャンプーの香りがした。 ホテルの前に着いた。 幸子を見ると彼女もじっとオレを見つめる。 帰したくないというオレの気持ちがそう見せるのか、幸子の顔が切なそうに思えた。 「もう少し話したいな・・・部屋で少し休んでいく？」 幸子は少し間を置いて小さくうなずいた。 （何だか出来すぎな夜だな・・） こんなに簡単に事が運ぶなんて今まで無かった。 後編へ続く |
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| 2013.7.27掲載 |
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